度華年 The Princess Royal 2024年 全39話 原題:度华年
第6話あらすじ
第6集 李蓉と文宣が夫婦を装い帳簿を盗む
朝議の場で、裴文宣は毅然と立ち上がり、楊家に反逆の意図があるという民の噂を指摘した。理路整然とした彼の弁舌に、重臣たちは次々と口を閉ざし、誰一人として反論できなかった。やがて裴文宣は、楊家の実態を公に調査すると宣言。廷内が凍りつく中、それがすべて芝居であることを知るのは、ごくわずかな者のみだった。陛下の真意、太子の保護、そして李蓉との密約――すべてが裏で交錯していた。
そこへ蘇容卿が姿を現す。李蓉が帳簿の提出を求めると、彼は微笑みながら「喜んでお渡しします」と答えた。しかしその笑顔の裏に何を秘めているのか、誰にもわからない。李蓉が去った後、裴文宣と蘇容卿は再び火花を散らした。互いを挑発し、譲らぬ視線を交わす二人。――愛も憎しみも、李蓉をめぐって絡み合っていた。
帳簿の調査を最優先とする李蓉は、裴文宣と共に馬車に乗り込み、密談を続ける。今や二人は真の盟友であり、かつて敵対した日々が嘘のようだった。裴文宣はぽつりと呟く。「もし最初から争っていなければ、俺たちは親友になっていたかもしれない」――李蓉は静かに微笑み、「あなたがいなければ、夫婦でいられたかもしれない」と応じた。互いに胸の奥を隠しながらも、二人の距離は再び近づいていく。
やがて、鳳鳴が現れ李蓉に地図を手渡す。これで弟・李川を救えるかもしれない。裴文宣は馬車の中で眠り込み、李蓉はかつての彼を思い出す。――昔、朝寝坊する裴文宣を起こすために、彼女は唇で優しく触れた。懐かしい記憶に微笑む李蓉。そして偶然にも、裴文宣もその記憶を思い出し、赤面しながら目を覚ます。言葉にできぬ想いが、車内に静かに流れていた。
夜、二人は「六爺」の屋敷へ潜入する。豪奢な宴が開かれる中、裴文宣は他の女たちの視線を避けるため、さりげなく李蓉の肩を抱き寄せた。その仕草に李蓉の頬がわずかに染まる。二人は正体を隠したまま情報を探り、六爺の裏庭へ。李蓉は体調が悪いと嘘をつき、裏で密室の捜索を開始する。静蘭の助けを得て、ついに帳簿を発見。しかし脱出の矢先、警備兵に見つかってしまう。
混乱の中、李蓉は突然部屋に引き込まれる。現れたのは――蘇容卿。彼は李蓉の危機を察して駆けつけたのだという。彼は舞女の衣を差し出し、「これを着て逃げろ」と促す。李蓉は戸惑いながらも着替え、再び姿を隠した。屏風の陰、二人の距離は息がかかるほど近い。蘇容卿の耳は赤く染まり、李蓉の胸にも複雑な想いが去来していた。
一方その頃、裴文宣は李蓉を探し出すため、わざと六爺を湖に突き落とすという無茶な策に出る。酔いを装いながら館内を捜索し、ようやく李蓉を見つけたとき――彼女は蘇容卿と親しげに歩いていた。その光景に、裴文宣の胸に言葉にならない焦りが生まれる。
酒の勢いも手伝い、裴文宣は李蓉を前に宣言した。「俺がいる限り、蘇容卿には好き勝手はさせない」――嫉妬か、忠誠か、自分でもわからなかった。彼女を連れ出し、ふらつきながらも水を求める裴文宣。李蓉が差し出した杯を受け取ると、彼女の舞姫姿に気づき、慌てて布で身体を覆った。
「お前の美しさは、俺だけが知っていればいい」――昔、彼がそう囁いた記憶が蘇る。
その夜、裴文宣は「お前が兵権を望むなら、与えてやる」と告げ、命さえ捧げる覚悟を示した。だが、李蓉はまだ信じきれない。蘇容卿の影、そして朝廷の陰謀が、二人の絆を再び試そうとしていた。
一方、宮中では寧妃が密かに跪き、侍女から届いた手紙を握り締める。そこには――帳簿盗難の報が。筆跡を見た寧妃は悟る。「犯人は……李蓉と裴文宣。」
密やかな夜の誓いは、やがて新たな嵐を呼び起こす――。
第7話あらすじ
第7集 李蓉と裴文宣が共に投獄される
李蓉は静かに問いかけた。
「もしやり直せるなら、秦真真を宮中に入れる?」
裴文宣は答えを濁し、ただ沈黙で応えた。二人の間に流れるのは、かつてより深い絆と、決して口にできぬ過去の痛みだった。
二人はまず秦家を訪ね、秦公子に拝帖を届けた。目的はただ一つ――彼を皇太子の側近に迎え入れ、太子の勢力を固めること。しかし秦公子は面会を拒み、門は固く閉ざされたままだった。裴文宣は李蓉に囁く。「心配するな。必ず道は見つける」――その声に、李蓉はふと微笑む。けれど歩き疲れた彼女は、帰り道で裴文宣に背負われ、馬車の中で眠りに落ちた。
だが、穏やかな時間は長くは続かない。屋敷に戻るや否や、裴文宣は六爺殺害の容疑で兵士たちに捕らえられる。李蓉は必死に弁明し、「彼は私の配下です」と訴えるが、無情にも裴文宣は宮中へ連行された。彼の罪は重く、処刑の噂さえ流れ始める。
李蓉はすぐに弟・李川に手紙を書き、裴文宣救出の策を練る。自らも牢獄へ赴き、鉄格子越しに「心配しないで。必ず助ける」と約束した。柵一枚隔てた距離で、二人の視線が交わる――かつての誓いのように。
その頃、李川は秦公子を訪ね続けていた。門前で何日も待ち続け、諦めぬ姿勢に侍女たちは驚く。そんな時、滝のほとりで一人の少女・秦真真と出会う。最初は衝突から始まった。彼女の無邪気な一撃を避けようとした拍子に、真真が足を滑らせ、李川が咄嗟に抱き寄せる――それが二人の出会いだった。短いひとときの中で、まだ名も知らぬ恋が芽吹き始める。
一方、李蓉のもとを訪れた蘇容卿は、彼女に茶を注ぎながら柔らかく微笑む。その優しさの裏に恋慕があることを李蓉も感じ取っていたが、ふと裴文宣の言葉が脳裏をよぎる。「蘇容卿こそ、俺を殺そうとした男だ」――その記憶に、李蓉は思わず手を震わせた。蘇容卿はそんな彼女の心を見透かすように微笑み、屏風の陰から灯火越しに李蓉を見つめ続けた。
夜更け、密かに逃亡を試みた六爺は、李蓉の配下に捕らえられる。すでに李蓉の正体を知った六爺は命乞いをするが、李蓉は静かに言い放つ。「あまり執着しすぎると、命を落とすことになりますわ」――その冷たい微笑みに、六爺は戦慄した。
牢獄では、裴文宣と李蓉が再び言葉を交わす。李蓉は進捗を報告し、「今は二割が片付いた」と小声で告げた。裴文宣は「お前を守るためなら、どんな苦しみも受け入れる」と言い、笑みを見せる。その手には、彼が密かに描いた李蓉の肖像が握られていた。――愛と忠誠の形見のように。
そこへ李川が戻り、傍らには秦真真の姿があった。李蓉は驚き、裴文宣も思わず目を見張る。かつての想い人との再会。四年の時を経た再会は、どこかぎこちなかったが、秦真真は礼を尽くし、「久しぶりです」と微笑んだ。その姿を見つめる李蓉の胸に、わずかな嫉妬が芽生える。だが盗み聞いた会話の中で、秦真真が「裴文宣は兄のような人」と語るのを耳にし、李蓉は安堵の笑みを浮かべた。
一方、秦公子が姿を見せなかったのは、太子の誠意を試していたからだった。彼はついに協力を約束し、太子陣営は再び動き出す。だが李蓉と裴文宣の投獄により、宮中の権力図は再び揺らぎ始める。
そして語られる未来――太子と秦真真の運命。
彼女は後に、宮中の争いの中で命を落とし、臨終の間際、裴文宣に助けを求めたという。裴文宣は涙をこらえ、皇帝のもとへ直訴するために歩き出す。
それは、彼の人生を変える最後の選択だった。
第8話あらすじ
第8集 李川が戦場に赴き楊家を捕らえる計画を立てる
病に伏した秦真真のもとへ、李川は迷わず駆けつけた。
彼の懸命な看病によって真真の病状は快方に向かい、二人の間にはようやく穏やかな日々が訪れたかに見えた。しかし翌年、彼女は出産の後、静かに息を引き取る。残された幼子の泣き声を聞きながら、李川は世界の色を失った。
食事も取らず、心を閉ざした彼は、真真を皇陵に葬ることさえ考えた――愛する者を皇族の名の下に永遠へ封じ込めるために。
この悲劇を繰り返さぬために、李蓉と裴文宣は決意する。
「宮中に、もう二度と秦真真のような者を入れてはならない」
彼らは協力関係を深め、裴文宣はこれからも李蓉の指示に従うことを誓った。
ふと、裴文宣は問う。「当時、俺のことをどう見ていた?」
李蓉は静かに微笑む。「……好きだったわ。でも、すべてを秦真真に捧げた後では、もう誰も愛せなかったの」
裴文宣もまた本心を隠し、「嫌いではなかった」とだけ答えた。二人の心は近くにありながら、もう決して触れ合うことはなかった。
皇族として生きる李蓉にとって、感情とは最も無価値なもの――それを誰よりも理解していた。
その頃、陛下の怒りが宮廷を震わせる。楊家が提出した奏章は、太子への疑義を装いながらも皇帝の逆鱗に触れ、廷臣たちは次々と叱責された。
李川は失意を振り切り、戦場へ出る覚悟を固める。出征前夜、彼は秦家を訪れ、秦公子の支援を求めた。
見送りに現れた秦真真は、自らの剣を李川に手渡し、「必ず帰ってきて」と微笑んだ。二人は互いの心を知りながらも、想いを言葉にはしなかった――それが二人の選んだ“穏やかな愛”だった。
翌朝、李蓉は拳法の鍛錬を終え、弟の決意を受け止めた。
「身分を明かさず、帳簿を探し出しなさい」
別れ際、李川は姉を強く抱きしめ、「必ず勝って帰る」と誓う。その胸の中で、李蓉はただ祈った。
「どうか、生きて戻ってきて――」
李川の初陣は見事な勝利に終わった。戦場から届いた報告に、獄中の李蓉は微笑む。太子の勝利に沸く宮廷で、李川は楊家が敵軍と内通していた証拠を掴み、ついに彼らの罪を白日の下にさらした。
この報告により、李蓉と裴文宣もついに釈放される。だが裴文宣はなお忠告した。
「蘇容卿には近づくな。あの男は、お前の弱点を知っている」
その後、朝議の場で真相が明かされ、裴文宣と李蓉は共に褒賞を受ける。
一方で楊家の罪状は確定し、もはや反論の余地もなかった。
寧妃は狂気のように笑いながら叫ぶ。
「楊家の今日が、お前たちの明日だ!」
陛下の怒りが宮廷を震わせ、兵たちが寧妃を引きずり出す。
最後の力を振り絞り、寧妃は李蓉に刃を向けるが、裴文宣が身を挺して彼女を庇った。
その刹那、寧妃の命は絶たれる。
李蓉は震える手でマントを外し、寧妃の遺体を静かに覆った。
「せめて、女としての尊厳だけは守ってあげたい」――その言葉に誰もが息をのむ。
目の前で娘を失った楊父は、涙に崩れ落ち、「すべて我らの罪だ」と自ら認めた。
こうして、長く続いた楊家の陰謀は終焉を迎える。
だが、勝利の光の中で、李蓉と裴文宣の心には消えない傷が残っていた。
――権力の頂に立つ者は、愛を失わずして王にはなれない。
第9話あらすじ
第9集 李蓉と裴文宣の豪華な結婚式
裴文宣は李蓉に、再び「暗網」を再建したいと切り出した。
皇宮を揺るがす陰謀が再び動き出す中で、裏の情報網を整えることこそ、太平を守る唯一の道だと信じていたのだ。李蓉は迷うことなく懐から金袋を取り出し、わずかな私財を裴文宣に託す。二人の間にあるのは、愛か義か――もはや誰にも分からなかった。
「次があるなら、必ず君の前に立つ」
裴文宣のその一言に、李蓉の胸は熱く震えた。
彼がいなければ、あの牢で心が砕けていた。李蓉は皇帝の前に進み出て、裴文宣の忠誠を訴えた。
陛下もその働きを賞し、来月三日、二人の婚礼を執り行うと命じる。
だが、裴家ではまだ現実が追いついていなかった。
裴文宣が帰宅すると、金貸しが借金の取り立てに押しかけ、家中が騒然となる。
その最中、宦官が到着し、勅命を高らかに読み上げた――裴文宣、長公主・李蓉の駙馬に封ず。
借金取りも母も驚愕する中、裴文宣は穏やかに微笑み、
「心配はいりません。長公主は、私が命を懸けて取り戻した人です」と告げた。
一方、宮中では李蓉の嫁入り支度が進む。裴文宣に婚礼衣装を選ばせたものの、彼の選んだ装いとは正反対のものを選ぶ彼女――その強さも、彼女らしさだった。
皇后は新たに、太子・李川に側妃を三人迎えさせると決め、政略の風は止むことを知らない。
裴文宣は婚礼前日、蘇容卿に祝儀を届けた。
「もし立場が違えば、どちらを選ぶ?」
裴文宣の問いに、蘇容卿はためらわず「正しい側に立つ」と答える。
だがその瞳の奥には、誰にも言えぬ想いが沈んでいた。
翌朝、婚礼の日。
李川は遠征から駆け戻り、姉の晴れ姿を目にして微笑んだ。
「姉上を守るのは、今度こそ俺の役目だ」
彼は先導役を務め、紅包を配りながら祝福の列を導いた。
迎えの馬車が到着し、李蓉の前に立ったのは――まさかの蘇容卿。
それは裴文宣が贈った“最後の贈り物”だった。兄として、友として、彼は彼女を裴家へと送り届ける役を引き受けたのだ。
裴家の門前。
李蓉は慎重に馬車を降り、裴文宣のもとへと歩み寄る。
二人は視線を交わす――誰も知らない、二度目の結婚。
裴文宣が「贈り物は気に入ったか」と問うと、李蓉は静かに微笑んで答えなかった。
その沈黙が、すべての言葉に勝る答えだった。
婚礼は盛大に執り行われ、裴文宣と李蓉は母の前で礼を交わす。
裴文宣は髪飾りに注意を払いながら、彼女の手を取った。
――今度こそ、失わないために。
その夜、蘇容卿は酒蔵で一人、杯を傾けていた。
兄の蘇容華が心配して声をかけるも、弟はただ「今夜は眠れそうにない」とだけ答える。
李蓉を想いながら、彼は知っていた。粛王の教師となることは、李蓉と敵対する未来を意味する。
それでも彼は、彼女の選んだ道を尊重することを選んだ。
夜風が吹き抜け、紅い灯が揺れる。
李蓉の髪飾りは、まだ外されていなかった。
侍女たちが去った後、裴文宣がそっとその飾りを外し、微笑む。
「これで、やっと君は自由だ」
戦乱も陰謀も、愛の痛みも越えて――
長公主・李蓉と駙馬・裴文宣の物語は、静かに幕を下ろした。
それは、権力の頂に咲いた“最後の恋”だった。
第10話あらすじ
第10集 李蓉、上官雅の結婚を妨害しようとする
婚礼から幾日も経たぬ夜。
李川が外へ出ると、秦真真が待っていた。再会の瞬間、緊張にこわばっていた彼女の表情がようやく和らぐ。李川が戦場から持ち帰った贈り物を差し出すと、秦真真は子供のように微笑んだ。長く続いた戦の影に、ようやく一筋の安らぎが差し込む。
一方、裴家では李蓉と裴文宣が静かに夜を迎えていた。
裴文宣は休む場所もなく、気分がすぐれなかったが、李蓉は彼に寝台を譲る。新婚初夜に外出すれば噂の種になる――裴文宣もそれを理解していた。
李蓉が問いかける。「なぜ、迎賓に蘇容卿を選んだの?」
裴文宣は正直に答えた。ただ彼女を失望させたくなかったからだ。蘇容卿がまだ李蓉を想っていることも知っていたが、彼は「結婚は取引にすぎない」と言い聞かせていた。李蓉はその真実にかえって安堵の笑みを浮かべる。
裴文宣はさらに語った。
「今、我々が成すべきは、蘇容卿を李川の側へ引き入れることだ。そうすれば、誰も血を流さずに済む」
李蓉は、彼の真意が秦真真との再会にあるのではと疑うが、裴文宣は慌てて否定した。
二人は長い年月を越えて、愛より深い信頼で結ばれていた。
「私を兄と思ってくれ」と言う裴文宣に、李蓉は微笑みながら「むしろ親友と呼ぶ方が似合うわ」と応じた。
その頃、李川と秦真真は戦場での記憶を語り合い、夜明けまで語り続けていた。
互いの心の距離は、すでに言葉を超えていた。だが夜明けとともに、秦真真は名残惜しそうに去っていく。
翌日、李蓉は上官雅を訪ねるが、書斎はもぬけの殻だった。侍女が口を濁す中、裴文宣が金を渡して情報を引き出すと、上官雅はなんと賭博場にいるという。
李蓉は半信半疑のまま裴文宣とともにその地へ赴く。場末の喧騒、酒と煙に満ちた空気――そこは、長公主には似つかわしくない世界だった。酔客が李蓉に手を伸ばした瞬間、裴文宣は彼女を抱き寄せ、「この方は私の妻だ」と毅然と告げる。その姿にざわめきが広がる。
そして中央の卓上、上官雅の姿があった。
李蓉が呼び止めると、上官雅は慌てて金をばらまき、逃げ出す。追う李蓉と裴文宣。だが彼女は窓から飛び降り、偶然にも蘇容華の上に落ちてしまう。
李蓉が駆けつけ、男装の女を見なかったかと尋ねると、蘇容華は何食わぬ顔で庇った。だが裴文宣は籠の中のわずかな動きに気づく。李蓉が蓋を開けると――そこに隠れていたのは、上官雅だった。
再会の瞬間、上官雅の瞳にかつての輝きが戻る。
蘇容華を見つめるその視線には、長く封じ込めてきた想いが宿っていた。
一度は引き裂かれた二人の縁。今、運命が静かにその糸を結び直そうとしていた。
だが、皇室の思惑は冷酷だ。
皇帝は上官家との縁組に断固反対し、権力の均衡を守ろうとする。
李川はそんな父の策謀と名門の争いにうんざりしていた。彼の胸の奥には、抑えきれぬ怒りと孤独が渦巻く。いつの日か、それが牙を剥くだろう。
裴文宣は密かに李蓉の身を案じ、侍女・静蘭を通じてその日々を見守っていた。
李蓉は知る由もないまま、囲碁盤の前で思索を巡らせる。
弟・李川の苦悩、秦真真への想い、そして北方を巡る宿命――すべてが再び一つの道へと収束していく。
「戦も愛も、終わりはまだ遠い」
裴文宣の呟きが、夜の静寂に消えていった。
















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