繁花 (はんか) Blossoms Shanghai 2023年 全30話 原題:繁花 / 原作は金宇澄の同名小説『繁花』(浦元里花訳、早川書房)
第1話 あらすじ
物語の舞台は1992年の上海。改革開放の波が一気に押し寄せ、株式投資が全国的な熱狂を生み出していた時代だ。街は活気に満ち、人々は一攫千金を夢見て株に群がっていた。主人公の**阿宝(アーバオ)**もまた、その渦中にいる一人である。彼は野心に満ち、繁華な上海で成功する未来を信じて疑わなかった。
ある日、阿宝が飯店を出たその瞬間、何者かに悪意をもって突き飛ばされ、路上に倒れ込む。持っていた現金は宙を舞い、現場は騒然となる。事件はすぐに周囲の注目を集め、メディアや友人たちも駆けつける事態に発展する。阿宝は緊急搬送され、命が危ぶまれる重傷を負った。
混乱の現場を鎮めたのは、**爷叔(イエシュ)**と呼ばれる年配の男だった。阿宝は手術を終えるものの昏睡状態に陥る。病室で爷叔が彼の耳元で静かに語りかけたその瞬間、阿宝は目を覚ます。ここで物語は過去へと遡る。
1987年。刑務所を出たばかりの爷叔のもとを、若き日の阿宝は訪ねていた。爷叔は阿宝にとって最初の「貴人」となる人物だが、この時はまだ彼を突き放す。商売の世界を甘く見ている阿宝に、爷叔はたった100元の元手でも、利益と損失を徹底的に計算する厳しさを叩き込む。夢や勢いだけでは生き残れない――それが最初の教えだった。
阿宝は外貿(貿易)で成功したいと考えるが、資金はゼロ。爷叔は彼の欠点を指摘しつつ、「ある場所で部屋を借りられたら、面倒を見てやる」と条件を出す。翌日、阿宝は和平飯店の英国套房を借り、爷叔を連れてくる。しかし今度は「6000元を借りてこい。できなければ縁は切る」という新たな試練を課される。
追い詰められた阿宝は奔走し、親友の陶陶から金を借りる。陶陶は自分の全財産を盗み出してまで阿宝を助けた。期限ぎりぎりで金を用意した阿宝は、爷叔の指示通り、当時まだ未成熟だった株式市場で電真空株を購入する。正式な取引所もなく、発行量も少ない時代、彼は黄牛(闇ブローカー)を通じて株を手に入れた。
途中で株価は下落し、阿宝は動揺するが、爷叔は逆に「売るな、もっと借りて買え」と命じる。言われるままに従い、二週間後――株価は一気に高騰。阿宝は麻袋いっぱいの現金を抱えて爷叔のもとへ向かう。報亭で夜まで待ち続け、ようやく現れた爷叔は、阿宝が金を持ち逃げせず戻ってきたことを見て、正式に手を組むことを決意する。
ここから阿宝は徹底的に「作り替えられる」。一流の服、生地、流行の髪型、立ち居振る舞いまで矯正され、**上海の成功者としての“型”**を身につけていく。鏡に映る自分に、阿宝自身も驚き、爷叔も「見込んだ通りだ」と確信する。爷叔は会社の印章を阿宝に託し、表に立つのは阿宝、裏で支えるのが爷叔という関係が成立した。
時は流れ1993年。警察の事情聴取で、株の大口投資家・蔡司令の存在が語られる。彼は阿宝を“大户室”に導いた人物で、上海派と深圳派の暗闘の中、阿宝の後ろについて利益を得ていたと明かす。阿宝は株だけでなく、玲子と共同で飯店経営も行っていたが、二人はあくまでビジネスパートナーで、男女関係ではなかった。
一方、汪小姐(唐嫣)との関係は周囲で噂されるが、本人たちは仕事上の関係だと否定する。阿宝が事故当日に持っていた30万元も「自分の金だ」と全員が口を揃える。不審が渦巻く中、見舞いに来た人々は、阿宝がすでに病院を去っていることを知る。
爷叔は阿宝を部屋に匿い、「一か月外に出るな。この期間で誰が敵か分かる」と告げる。阿宝は姿を消し、体を鍛えながら静かに嵐を待つ。その裏で、阿宝の事故と時を同じくして、飯店「金凤凰」の女主人が失踪していたことが浮かび上がる。
やがて、金凤凰を引き継いだ新たな女主人、李李(リーリー)が登場する。彼女は上海に来てわずか三か月で店を繁盛させ、名を広めるため阿宝を“看板”として利用しようと動き出す。阿宝の事故、金凤凰の失踪、そして414という株――すべてが一本の線で繋がり始める。
実は阿宝は414株に手を出していなかったが、金凤凰に裏切られ、思わぬ敵を作っていた。麒麟会を含め、阿宝が敵に回した勢力は一つではない。そして一か月の沈黙を終えた阿宝は、身なりを整え、玲子の店へと姿を現す。ここから本格的な攻防が始まろうとしていた。
第2話 あらすじ
姿を消していた阿宝は、身なりを整え、まず玲子のもとを訪れる。玲子は彼の不在中に動いていた株の損益状況を詳細に報告し、阿宝の資産が依然として安定していることを伝える。二人の関係は恋愛ではなく、互いを深く理解するビジネスパートナーだが、玲子の言葉や視線には、どこか個人的な感情がにじんでいた。
玲子は阿宝に、ある不審な人物について打ち明ける。かつて蟋蟀(コオロギ)賭博の資金を貸した男・陈梁が、阿宝の事故後に限って頻繁に電話をかけてきたという。しかも会話の中で、過去の出来事に食い違いがあることに気づき、本人ではなく“なりすまし”ではないかと疑念を抱いていた。今夜、その人物と会う約束がある――玲子の話を聞いた阿宝は、窓の外に停まるタクシーの中に“偽の陈梁”を見つけ、自分を轢いた犯人が誰なのかを悟る。
一方、爷叔は和平飯店に戻り、阿宝がすでに姿を消していることを知る。状況を察した爷叔は、すぐに汪小姐へ連絡を入れ、夜の面会を取り付ける。同時に玲子にも「今夜集まる」という知らせが届き、点と点が再びつながり始める。
物語はここで、阿宝が成功へと駆け上がった株の黎明期へと遡る。1990年、上海と深圳で株式市場が正式に始動すると、株は文字通り“奪い合い”となった。取引所が閉まる寸前、阿宝は蔡司令に引き上げられる形で大户室へ入る。そこからわずか四か月で資産は160倍に膨れ上がり、阿宝は一気に“名のある投資家”となる。
その才覚に目をつけたのが、裏の力を持つ投資集団麒麟会だった。彼らは阿宝に接触し、同時に414株の話題を持ち出す。阿宝は公の場で「414以外は優良株だ」と冷静に分析するが、麒麟会はあえて414の上場価格を口にし、蔡司令と阿宝の口の堅さを試す。表向きは穏やかでも、裏では疑心暗鬼が渦巻いていた。
ほどなく、内部情報を信じて低値で414を仕込んだ者が大儲けしたという情報が流れる。市場では、その情報源は「金凤凰だ」と噂され始める。金凤凰は阿宝の“恋人”と見られていた存在で、歌女として阿宝と酒を共にすることも多かった。蔡司令は「414には絶対に手を出すな」と釘を刺すが、金凤凰は周囲に「まだ買い続ける」と吹聴する。
結果、414株は36元まで急騰した後に暴落。金凤凰と、彼女の言葉を信じた親族・知人は全員破産し、彼女は一夜にして元凶となる。さらに、蔡司令の部下・发根が密かに414を買っていたことが発覚し、暴落のショックで心筋梗塞により死亡。犠牲者は現実のものとなった。
爷叔は冷静に状況を分析する。414は最初から誰かが一儲けするための罠であり、阿宝と蔡司令は“橋”として使われただけ。損をした者たちは、その怒りを必ず阿宝に向ける――だからこそ、爷叔は阿宝に「金凤凰と一刻も早く関係を断て」と忠告する。
金凤凰は小さな宿に身を潜めていた。だが、すべての黒幕は蔡司令だった。彼は发根の死を阿宝に被せるため、金凤凰に小切手を渡して上海から追い出す。阿宝を轢いた犯人も、发根の息子ではないかと疑われるが、爷叔は事実確認を急ぐよう指示する。
阿宝は一人で玲子の酒場を訪れ、蔡司令と向き合う。食事をしながら真相が明かされ、犯人はやはり发根の息子だったことが分かる。株で家族を失い、追い詰められた末の行動だった。老いた父を背負い、故郷に葬ったという話に、阿宝は深い同情を覚える。
阿宝は、事故当日に持っていた30万元を蔡司令に渡し、「本来は发根の家族に渡すつもりだった金だ」と告げる。蔡司令はそれを持って立ち去るが、阿宝は悟る――彼は決して引き際を知らない男であり、最後の言葉は麒麟会からの警告なのだと。
実際、麒麟会では内部会議が開かれ、414の価格を知っていた13人の中で「新人」である阿宝と蔡司令が疑われる。金凤凰との関係が決定打となり、阿宝は麒麟会から除名される。
夜、玲子は店で客をもてなし、阿宝の気を引くために新しい手链を身につける。阿宝が去った後、彼の飲み残したビールをそっと口にし、胸に秘めた想いを噛みしめる。彼女はずっと阿宝を想っていたが、その気持ちを言葉にすることはなかった。
その頃、至真园からは毎日一枚ずつ阿宝への招待状が届き、彼と組みたい者たちが水面下で動き出す。汪小姐は范总に「阿宝が会いたがっている」と伝え、その情報は瞬く間に李李の耳に入る。李李は先手を打ち、范总を至真园の開業式へ招待する。
阿宝は、すべての裏に蔡司令がいることを理解していた。それでも彼は、かつて自分を大户室へ導いた恩を思い、あえて黒鍋(濡れ衣)を背負う道を選ぶのだった。
第3話 あらすじ
旧正月の大年初四、「迎財神(財神を迎える日)」という縁起の良い日に、黄河路で話題の高級レストラン至真园が華々しく開業する。政財界の有力者、投資家、芸能人、メディアが集結し、まさに“上海の顔”を競う場となった。一方その頃、阿宝はその喧騒から距離を置き、友人たちと静かに自宅で過ごしていた。表舞台に立たず、あえて姿を見せない――それ自体が、彼の意思表示だった。
この日、阿宝にとって一つの区切りも訪れる。发根の息子は、弁護士の尽力と阿宝の理解により、故意ではなく酒気帯び運転として扱われ、刑期は10年減刑される。阿宝は復讐ではなく「終わらせる」道を選んだのだ。爷叔はここで阿宝に忠告する。「株の流れがいい今のうちに整理しろ。人情と女に縛られると、必ず足を取られる」。その言葉の裏には、玲子の存在も含まれていた。実は阿宝が玲子の店で食事をするたび、彼女は密かに値段を上げていた――それは好意でもあり、依存でもあった。
至真园の開業には、阿宝と縁のある人物たちも顔を揃える。范总も招かれ、李李の計らいで豪華な個室へ通される。しかし范总自身は分かっていた。自分がここまで厚遇されるのは、すべて阿宝の存在があるからだ。面子を保つため、范总は汪小姐に頼み込み、阿宝へ連絡を取らせる。
阿宝は汪小姐の顔を立て、食事の誘いを受けることにするが、会う場所として指定したのは至真园ではなく、向かいの红鹭饭店だった。爷叔はその裏に李李の思惑があることを見抜き、阿宝のために手土産まで用意する。李李は青島出身で、3000万の資金力を背景に至真园を一気に押さえ、黄河路という立地を最大限に生かして、わずかで“商談の中心地”を作り上げていた。爷叔は地勢と人の流れを分析し、「李李は最初から阿宝を“看板”にするつもりだ」と断言する。
案の定、香港スター温兆伦が来店し、至真园は一気にメディアの注目を集める。陶陶は「宝总の友人」を名乗り歩き、場の熱をさらに煽る。そんな中、汪小姐は陶陶を通じて范总を呼び出そうとするが、范总は至真园を離れようとしない。
阿宝が红鹭饭店に姿を現すと、周囲は一瞬でざわめく。向かいの至真园では、魏总が祝いの牌匾を持って現れ、李李はすぐさま阿宝用に空けていた個室を魏总に譲る。潘经理は「宝总と魏总では格が違う」と戸惑うが、李李は意に介さない。彼女はすでに力の天秤を別の場所に置いていた。
范总は李李に引き留められ、阿宝との約束を果たせない。阿宝は「約束した場所で会うのが信用だ」と一歩も譲らない。汪小姐と阿宝は30分だけ待つと決めるが、李李は阿宝が“范总に用がある”心理を逆手に取り、范总を離さない。やがて陶陶、魏总の助手までが現れ、阿宝を至真园へ連れて行こうとするが、阿宝は「陶陶は俺の友達。彼の言葉は俺の言葉だ」と言い切り、しつこい勧誘に怒りを爆発させて立ち去る。
汪小姐は、今日の范总の態度に強い違和感を覚える。阿宝は冷静に分析する。范总は至真园の力を借りて自分の価値を吊り上げようとしている。だが、そういう男はいずれ足元をすくわれる――阿宝はそう予見する。爷叔も同意見だった。范总が本来自分から阿宝を求めていたのに、李李側に寄ったということは、至真园が必ず取り分を要求するということ。そして魏总もまた李李と同じ側の人間だ。
翌日、汪小姐は「行っても行かなくても、李李は両方に恩を売る」と整理する。阿宝の中ではすでに次の一手が決まっていた。彼は再び、李李の招待をはっきりと断る。
一方、李李はすぐに動く。阿宝が来ないと知るや、魏总に「第九人になるか、それとも唯一になるか」と選択を迫り、唯一を選ぶなら友人を呼ばず、メディアだけを招くよう条件を出す。さらに李李は、奔放な接客で問題視されていた敏敏に目をつけ、彼女を重用。領班を即座に解雇し、敏敏を昇格させ、「黄河路の情報を集めろ」と命じる。至真园は、完全に情報の集積地になろうとしていた。
范总は、李李が「魏总と范总が組む」という噂を意図的に流したことで、後に引けなくなり、派手に至真园へ乗り込む。汪小姐は阿宝の商売を奪われることを危惧し、得た情報を阿宝に伝えるが、阿宝は動じない。彼はすでに、夜东京で別の“切り札”となる人物と会っていた。
魏总は范总の持つ貨物を狙い、范总もまた時間を引き延ばして阿宝を引きずり出そうとする。李李は「まず商売、次に友情」と言葉巧みに魏总を後押しし、場を動かす。だが阿宝は逆に范总を焦らす戦術を取る。
ついに汪小姐は至真园に乗り込み、范总を信用違反だと面と向かって非難する。口論の中で、彼女は重要な情報を掴む。それは、范总がこの機に乗じて条件を吊り上げようとしているという事実だった――そしてそれは、すべて阿宝の読み通りだった。
第4話 あらすじ
至真园の裏側では、商談が進んでいるようで、実は誰も全体像を掴めていなかった。魏总は電話口で部下の小六子を激しく叱責し、范总は場を取り繕うように謝罪する。先ほどの汪小姐の一件も「彼女に悪気はない」と釈明されるが、空気はすでに張り詰めていた。
汪小姐はその場を離れる際、あえて范总を連れて退席する。これを見送った李李は意味深な言葉を口にする。「至真园が黄河路で根を張るには、名のある人物が必要」。彼女は最初から、范总の商売が阿宝を必ず引き寄せると見抜いており、阿宝を至真园に引きずり込むことを最大の目的にしていた。
范总はこの流れに乗じ、扱っている商品の単価を1元上げる。しかしこの動きは、即座に阿宝の逆鱗に触れる。阿宝は迷いなく価格を引き下げ、それが同時に至真园への“無言の説教”となる。「ここは黄河路だ。黄河路には黄河路の規矩(ルール)がある」――力を誇示するより、筋を通すことが優先される場所なのだ。
実は魏总自身、何の商売をするのかすら知らされていなかった。すべては李李が間に立ち、客足を逃さぬために意図的に情報を伏せていたのだ。その裏で李李は、周到な布石も打っていた。十二時間前、彼女は清掃員を使って范总に**“贈り物”を届けさせ、多額のチップで懐柔。その清掃員が部屋の掃除中に得た情報を、今度は魏总に“偶然”伝える。至真园は、すでに情報操作の装置**として機能していた。
一方、玲子の周辺では別の時間が流れている。友人が家賃の期限に追われ、商品を安く手放そうとしていたが、玲子はすでに黙って家賃を立て替えていた。何気ない会話の中で、玲子は阿宝への複雑な想いをこぼす。愛情、誇り、不安――どれも本音だった。
翌朝、阿宝は早くから株主会議に向かう。雨の中、玲子と遠回りして臭豆腐を食べに行くが、阿宝が提案した会議の時間と場所に、玲子は激しく反対する。ついに彼女は胸の内を吐き出す。
「あなたが病院にいた時、後始末を全部やったのは誰?」
阿宝が落ちぶれていた頃、彼を匿い、保険までかけていたのは玲子だった。阿宝は反論できず、言葉を失う。
陶陶は朝から飯をたかりに来るが、なぜか近所の引っ越しを手伝わされる。実は彼は、葛老师の縁談を取り持つために動いていた。人情と下心が入り混じるのも、この街の日常だ。
阿宝は玲子の部屋まで荷物を運ぶが、近所の人間から「宝总を大事にしない」と叱られ、玲子は不満げながらも内心は満たされていた。彼女は昼食も夕食も阿宝のために用意するが、阿宝から「夜は范总と会い、銀行から金を引き出す」と告げられる。
阿宝は玲子の性格をよく分かっていた。わざと彼女の柜子から鉄盒を取り出すと、中には宝石や貴重品がぎっしり。さらに、阿宝が出かける前に渡した50万元の通帳について、玲子は「他の人にも渡したのか」と詰め寄る。阿宝は面倒くさそうに言い切る。「お前一人で十分手がかかる。他に誰がいる」。その一言で、玲子の機嫌は一転する。
玲子は店を総出で大掃除させ、范总と阿宝の商談に備える。さらに自ら銀行へ走り、阿宝のために現金を用意する。阿宝はそれを見越していた。50万で、彼女の全力を引き出せることを、彼は誰よりも理解していた。
同じ頃、汪小姐から阿宝に電話が入る。「范总との約束、早めた方がいい」。しかし李李もすでに察知しており、范总を先に至真园へ呼び出し、魏总と会わせる。完全な“横取り”だった。
范总は至真园で箱を開ける。中身は火烧丝光棉――燃えにくく、国内で引く手あまたの商品。興味津々の視線が集まる中、李李はふと窓の外を見る。そこには、红鹭饭店に入る阿宝の姿があった。阿宝もまた、窓辺の李李を視界に入れていた。
だが阿宝は范总には会わず、以前から約束していた神秘的な商人と席に着く。その様子は、范总と李李の両方にしっかり見られていた。
李李が席を外すと、魏总は范总に直接取引を持ちかけ、中間を省いて単価を1.5元上げると迫る。范总はなお阿宝との交渉を諦めきれず席を立とうとするが、魏总は「今出たら取引は白紙」と脅す。
一方の阿宝は、神秘商人とあえて雑談を続け、時間を引き延ばす。すべては范总を焦らせ、向こうから来させるためだった。
最終的に、魏总と范总は取引成立。魏总は気前よく、店中の客に**「霸王别姬」**を振る舞い、その噂は瞬く間に上海中へ広がる。至真园はメディアを呼び、成功を大々的に演出する。
しかし汪小姐は、この光景に怒りを抑えきれない。彼女は「霸王别姬」をそのまま阿宝の席へ運び、阿宝と神秘商人は悠々と食事を始める。彼らは一切慌てていなかった。むしろ、ここからが本番だった。
阿宝は神秘商人と工場との直接提携を決め、汪小姐に范总への伝言を託す。
「単価は1.5元下げる。数量は80万件、1件も欠けない」
この条件を聞き、魏总は青ざめる。彼が捌けるのはせいぜい5万件。だが生産はすでに始まっており、後戻りはできない。范总は完全に罠に落ちたことを悟る。
李李は、阿宝が最初から別の出口を用意していたことを知り、歯噛みする。至真园が演出したはずの勝利は、結果的に阿宝が最も安い価格で実を取るための舞台になっていたのだった。
第5話 あらすじ
第5集では、外貿(貿易)をめぐる一つの取引を軸に、宝総の商人としての矜持、汪小姐の出世、そして黄河路という“裏の世界”の輪郭がはっきりと浮かび上がってくる。
物語の発端は、范総の誤算である。
彼は当初、宝総との取引を断り、より高い条件を提示した魏総と手を組んだ。しかし、いざ蓋を開けてみると、魏総の発注量は当初予定の十分の一にも満たず、すでに稼働している工場は赤字必至の状況に陥る。追い込まれた范総は、ついにプライドを捨て、宝総のもとへ戻ろうとする。
汪小姐は宝総の指示通り、彼の言葉をそのまま范総に伝える。そこには一切の情けはなく、「一度裏切った取引先には相応の代償がある」という宝総の姿勢がにじんでいた。
一方、至真園では李李が初の大きな商談を仕切っていた。しかし宝総が現れないと知った瞬間、彼女はこの取引が失敗に終わる可能性を即座に見抜く。李李は助理に命じ、重要人物である徐総を急遽招こうとする。范総が帰ろうとしたその時、李李は「徐総」の名前を出して引き止め、場の空気をつなぎ止めた。
だが実際には、徐総は至真園には来ない。
彼は宝総と、道路を挟んだ向かい側の紅鷺ホテルで密かに商談を進めていたのである。
魏総は自尊心が高く、汪小姐と口論になり場を荒らす。その直後、李李のもとに「徐総は来られないどころか、宝総と会っている」という知らせが届く。これにより、李李はこの取引が完全に崩れたことを悟るが、彼女自身は動じない。彼女にとって飯店とは、勝ち負け以上に“人を集め、関係を結ぶ場所”だからである。
汪小姐は事実を知り、安堵と同時に宝総への不満を爆発させる。重要人物の正体を事前に知らされていなかったことで、無用な心労を重ねたと感じたのだ。
最終的に范総は宝総の前で深々と頭を下げ、魏総に引き留められていたと釈明する。しかし宝総は甘くない。過去に一度、約束を反故にされた代償として、今回は単価を1.5元引き下げる条件を突きつける。范総は損を承知で受け入れるしかなかった。
取引成立後、皆で祝杯をあげる。
汪小姐は宝総に不満を抱いていたものの、自身が科長に昇進する見込みだと知り、気持ちは一転する。玲子は今回の成功が汪小姐の奔走によるものだと理解し、彼女への贈り物としてイヤリングを用意する。実際の価格は2600元だが、宝総には「2万6000元」と伝え、帳簿上の処理をしたうえで、彼から汪小姐へ贈らせるという、したたかな計らいだった。
その頃、魏総は商談に失敗したにもかかわらず、至真園で88卓の「覇王別姫」を振る舞い、3万元以上を使う。負けたはずの彼が一夜で名を売ったことに、李李はむしろ満足していた。
夜、宝総は汪小姐を家まで送るが、彼女は「隠し事をされた」と感じ、彼を責めて車を降りてしまう。宝総は追いかけて謝罪し、イヤリングを手渡す。汪小姐は「趣味が古い」と言いながらも身につけ、黄河路へと歩いていく。
そこで宝総は李李と再会する。魏総の件を詫びる宝総に対し、李李は「影響はない」と笑う。二人は短い会話を交わし、宝総は彼女の名刺を受け取り、タクシーを手配する。この瞬間、宝総は初めて本格的に黄河路という世界に足を踏み入れる入口に立つ。
翌日、汪小姐がもらったイヤリングは職場中の話題になるが、昇進のため、彼女は規則に従い上司へ提出する。
中国では外貿が本格的に解禁され、三羊Tシャツが第一号案件として大々的に契約される。金科長は去り際に宝総へ、「汪小姐を守りすぎるな。君がいなければ彼女は何もできなくなる」と忠告する。
范総は梅萍に謝罪するが、彼女の胸には嫉妬と憎しみが静かに積もっていく。
やがて、爷叔と金科長の意外な血縁関係、李李が至真園を守るため裏社会と手を組んでいる事実も明かされる。
宝総は表からではなく、裏口から至真園へ向かう。
こうして第5集は、商売の成功の裏にある危険と、黄河路の深い闇を予感させながら幕を閉じる。
















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