蜀紅錦~紡がれる夢~ 2024年 全40話 原題:蜀锦人家
1話 あらすじ
益州城では毎年十月九日になると、蜀錦の出来を競う「闘錦会」が開かれていた。蜀錦は当時もっとも高価で名誉ある織物であり、その中でも季英英(き・えいえい)の父・季帰南(き・きなん)は、“錦王”と称されるほどの名匠だった。彼は染料の研究から配合、染めの工程まですべて自ら行い、蜀地で最も美しい赤――「蜀紅絲」を生み出した。その赤は、英英にとっても「張りつめるほど鮮烈で、光をまとうような色」だった。
しかし、その美しさは同時に災いを招く。闘錦会の献上品として納められるはずだった蜀紅錦が、突然「偽物」だと糾弾される。錦官の劉錦官は、季帰南が偽物を献上したと断罪し、季帰南は「すべて自分で検品した。驛館に一晩置いた後に偽物になるはずがない」と反論、刺史への直訴を求める。だがその場で督運官が剣を抜き、季帰南は無惨にも喉を切られて殺されてしまう。最期に彼は、怯える娘・季安安(英英)に「怖がるな」と視線を向けた。
「以次充好、欺君の罪」として季家は断罪され、財産はすべて没収される。父の形見である蜀紅絲の衣すら奪われ、幼い安安はただ泣き叫ぶしかなかった。その口を塞ぎながら寄り添ったのが、後に重要な存在となる楊静澜(よう・せいらん)である。彼は「兎は一口では虎を倒せないが、生きて噛み続ければいつか倒せる」と、幼い安安に静かな復讐の意志を植え付けた。
季帰南の死後、母・季徐氏、兄・季耀庭とともに季家は没落する。趙修縁(ちょう・しゅうえん)の助けで仮の住まいを得るものの、すぐに借金取りが押しかけ、母は身売りか死かを迫られる。季徐氏は自害をほのめかして抵抗し、ひとまず猶予を勝ち取るが、生活は極限まで追い詰められていった。
――それから八年後。
成長した季英英は、浣花渓で近隣の人々とともに生糸を洗い、生計を立てていた。花商人・花掌柜が来ると聞けば仲間を逃がし、自分が囮になってやり過ごすなど、機転と胆力を身につけている。ある日、川に馬で乗り入れてきた桑十四郎(そう・じゅうしろう)と衝突し、あわや事故になるが、楊静澜が駆けつけ事なきを得る。桑十四郎の横柄な態度に英英は毅然と立ち向かい、因縁が生まれる。
家に戻ると、今度は花商人・花容が買い叩きに現れる。五割での買い取りを迫られるが、英英は家の番犬・鍋盔(なべかい)を使って逆に主導権を握り、交渉の末に七割での取引を勝ち取る。その聡明さと度胸は、かつての“錦王の娘”であることをはっきりと示していた。
しかし翌日、桑十四郎との確執が原因で、花掌柜は英英に浣花渓での洗糸を禁じる。こうして、ようやく立ち上がり始めた季英英の前に、再び大きな試練が立ちはだかるのだった。
――名匠の血を引く娘は、この逆境の中で、再び「蜀紅」を蘇らせることができるのか。
復讐と再生の物語が、ここから静かに動き出す。
2話 あらすじ
花想容は、「昼夜を問わず、季英英は浣花渓で糸を洗ってはならない」と一方的に言い渡す。英英は、浣花渓で洗わなければ絹の色艶が出ないことを承知の上での仕打ちだと憤り、自分が何をしたのかと問い詰める。花想容は、英英が怒らせた相手は自分ではなく、国舅に連なる桑十四郎だと明かし、彼女と関われば自分たちまで巻き添えにされると警戒していたのだった。
陳三郎が英英をかばい、「この糸は自分が買う。ここで洗おうと関係ないだろう」と反論するが、花想容は「季姓の者は一切ここで洗わせない」と冷酷に言い放つ。助けに入った仲間たちもまとめて追い出され、英英は彼らに謝罪する。すべては自分のせいだと責任を感じながらも、英英は「一度、賭けに出ないか」と仲間たちに提案する。
英英の策は、花家に依存しない道を作ることだった。花家が強気に出られるのは、注文量と販路を握っているからだが、実際には糸の供給は彼女たち職人に頼っている。そこで数軒が手を組み、大きな染房を作り、名声を打ち立てて直接大口の注文を取ろうというのだ。理屈は通っていたが、仲間たちは花家の報復を恐れ、踏み切れずにいた。
その時、空に凧が上がっているのを見つけ、英英は糸を陳三郎に預け、「こんな時に凧を揚げている物好きは誰か」と様子を見に行く。そこにいたのは趙修縁だった。彼はすでに桑十四郎との一件を聞きつけており、自分には取り柄はないが、唯一「葉子牌(ようしはい)」だけは誰にも負けないと打ち明ける。
場面は玉玲瓏の酒楼へ移る。客の一人が出された生魚の料理に難癖をつけ、玉玲瓏に無礼な要求をするが、英英が現れ「王相も絶賛した料理だ。役所へ行けば、どちらが咎められるか分かる」と切り返すと、男は慌てて金を払って逃げ出す。英英は玉玲瓏に店を一時借り、さらに資金も貸してほしいと頼む。
こうして英英は酒楼で葉子牌の勝負を開き、次々と勝ち続けて人を集める。その噂を聞きつけ、桑十四郎も姿を現す。英英は「あなたに恨まれたせいで花家に締め出された」と賭けを拒むが、桑十四郎はそれを否定し、「一局勝負で君が勝ったら、花家に口を利いてやる」と約束する。勝負の結果、英英は見事に勝利を収める。
そこへ桑十四郎の父・桑長史が現れ、息子を叱ろうとするが、英英は機転を利かせ「彼は私たちの手助けをしている」と庇う。そして葉子牌を模した香袋を取り出し、吉兆の意味を持つ縁起物として売り出す構想を語る。その巧みな口上に人々は興味を示し、桑十四郎は“会長”という名目で彼女たちの表看板に据えられる。
この一件によって、季英英たちは桑家の名を借り、堂々と浣花渓で糸を洗える立場を手に入れるのだった。
しかし物語の最後、趙修縁の母・趙申氏が季家を訪れ、二人の縁談を口にしながらも、言葉の端々で季英英を「釣り合わない」と見下す態度を示す。
英英の前には、商いの壁だけでなく、身分と縁談という新たな試練が立ちはだかろうとしていた。
3話 あらすじ
楊静澜は、蜀地では赤い絹――とりわけ季帰南が生み出した紅絲が最高とされてきたことを語り、なぜ英英が赤ではなく別の色を染めているのかと問う。英英は「何を染めるかは自分で決める」と突き放し、二人は軽く言い合いになる。そこへ趙修縁の母・趙申氏が現れ、英英に対し「大した家柄でもないのに、女が外で男と商いをするとははしたない」と皮肉を浴びせる。季母は慌てて詫び、英英を叱るが、楊静澜は静かに挨拶をして立ち去った。
その後、英英は浣花渓の件を確かめるため桑長史を訪ねるが、「新しい錦官が着任したので、自分の管轄ではない」と突き放される。英英が理由を探ろうとすると、「自分で身の振り方を考えろ」と冷たく言い残される。諦めきれない英英は、陳三郎たちとともに錦官府の門前に跪いて面会を求めるが、中では新任の錦官が配下を厳しく取り締まっており、「前任者たちの不正はすべて吐き出せ」と命じていた。結局、英英たちは会うこともできず引き返す。
家に戻ると、花容が借金のかたに季家の織機を持ち去ろうとしていた。英英は必死に止めるが、金を出せず言葉に詰まる。すると兄・季耀庭が現れ、「今は持って行ってもいい。必ず取り戻す」と静かに告げ、家族は悔しさを噛みしめる。
英英は策を巡らせ、桑家の名を騙って錦官に近づこうとするが失敗。裏口から忍び込もうとしたところ、桑十四郎が火を放ち「煙で錦官を炙り出す」と騒いでいるのを見つけ、英英は呆れつつも火を消させる。その最中、新任の錦官が輿で到着し、英英は咄嗟に「消火していた」と弁明する。輿の中から彼女を引き入れた人物――それは、楊静澜だった。
思いがけない再会に戸惑う英英に、楊静澜は木を割り、厨房で働くよう命じる。英英は陰で「狗官」と悪態をつき、楊静澜に聞き咎められると「あなたのこととは言っていない」と言い返す。二人は季家が冤罪で滅ぼされた過去を巡って激しく対立し、英英は「前の錦官ですら助けなかったのに、あなたに何ができるのか」と突き放す。
しかし英英は悩んだ末、再び楊静澜を訪ね、浣花渓の件で公正な裁きを求める。交換条件として前任錦官の内幕を語ろうとするが、楊静澜はすでにすべてを見越しており、公告を用意していた。その内容は――浣花渓は特定の商家のものではなく、誰でも利用できるというものだった。
公告が貼り出され、英英たちは再び浣花渓で糸を洗うことができるようになる。そこへ花想容が果物や茶を並べて居座るが、現れた楊静澜は「無関係な者は立ち去れ」と一喝。言い逃れする花想容を、あっさりと水の中へ放り込む。
こうして浣花渓は本来の姿を取り戻し、季英英の商いにも再び光が差し始める。一方で、楊静澜との因縁と、季家の冤罪という重い課題は、まだ解かれていなかった。
4話 あらすじ
季英英は酒杯を掲げ、陳三郎たち仲間に感謝を伝える。浣花渓を取り戻せたのは皆の助けがあったからこそであり、これからは誰かに頼らず「自分たちで道を切り開くしかない」と語る。そして彼女は、染糸会の面々を率いて**「斗芳菲」**に参加する決意を明かす。斗芳菲に出られれば各地の絹商や糸戸と直接会え、安定した注文を得られる――それが英英の狙いだった。
しかし仲間の中には不安を隠せない者もいた。今回の勝利は紙一重で、家計に余裕もない。花掌柜は「染糸会を抜ければ不問にする」と持ちかけており、それに応じて二人が脱退を表明する。陳三郎は憤るが、英英は「人それぞれの選択だ」と引き止めず、「戻りたくなったらいつでも歓迎する」と送り出す。その度量に心を打たれ、残った仲間たちは次々と忠誠を誓う。病弱な者は茶で杯を交わし、颦児も「家の名ではなく個人として」染糸会に加わることを申し出る。
一方、錦官府では楊静澜と諸葛鴻が、前任の錦官たちの不正記録を精査していた。そこから浮かび上がったのは、沈錦官が頻繁に青城山を訪れていた事実。楊静澜は暗衛を山へ向かわせ、裏を探らせることにする。その折、楊家から「近々戻れ」という伝言が届くが、使者が小間使いだと知り、楊静澜は不穏な気配を感じ取る。さらに諸葛鴻は、間もなく行われる嫘祖祭には錦官も出席せねばならず、避けては通れないと告げる。
季家では、斗芳菲に参加するための資金問題が浮上する。兄・季耀庭は「金のことは自分が何とかする」と英英を安心させる。一方、花容は主人の牛五娘を訪ね、英英の動きを警戒する。牛五娘は目的はただ一つ――蜀紅絲を手に入れることだと言い切り、「一方は季英英を、もう一方は嫘祖祭を押さえなさい」と冷酷に命じる。
英英は斗芳菲に出るための推薦人を探し、于殊を訪ねるが断られてしまう。そこへ趙修縁が手を差し伸べ、英英を趙家へ連れて行く。趙老太爺は「廃糸を提供する。それをすべて売り切れたら、推薦人になろう」と条件を出し、英英に試練を与える。
その頃、楊静澜は母の命日に合わせ、派手に太鼓を鳴らして楊家へ向かう。玉玲瓏は英英に「彼は悲しみを隠すため、あえて大げさに振る舞う人だ」と語り、自身が元・義姉であること、そして幼い頃の楊静澜が家の規律に反発し続けていたことを明かす。酒が進み、玉玲瓏は酔い、季耀庭が迎えに来るが、彼は彼女の前でぎこちなくなる。
嫘祖祭当日、楊静澜は最後に姿を現し、兄に小言を言われながらも錦官として参加する。一方、季英英は糸の準備を始めようとした矢先、一通の紙切れを受け取る。そこには――
「季耀庭を牢に入れたくなければ、すぐ戻れ」
と、不吉な言葉が記されていた。
英英の前に、再び大きな闇が迫ろうとしていた。
















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