七夜雪 2024年 全32話 原題:七夜雪
第29話あらすじ
妙风は夜更けに薛紫夜の部屋を訪れるが、彼女の姿が見当たらない。不審に思い問いただすと、現れた薛紫夜は、かつて雪懐の体に刺さっていた飛鏢を差し出し、自分と雪懐を氷河へ突き落とした真犯人が妙風であることを突き止めたと告げる。紫夜はなぜそんな非道な行いをしたのか問い詰めるが、妙風は明確な答えを返さない。
言い争う最中、紫夜は妙風の体に残る金杖の打撲痕に気づき、敵であるにもかかわらず治療を施す。その最中、紫夜は再び「人としての道へ戻ってほしい」と諭すが、妙風はそれを受け流し、心を明かそうとしなかった。
一方、霍展白率いる七剣は昆仑へ向かう途中、道端に転がる多数の死体を目にする。それは、瞳が妙風を守るために差し向け、返り討ちにした元一宮の刺客たちだった。七剣は、元一宮内部にこれほどの実力者が潜んでいることに戦慄を覚える。
その頃、妙水は紫夜の身の安全を盾に、瞳から蔵兵閣の入口を聞き出す。彼女の狙いは、龍血珠の力に染められた沥血剣を手に入れ、再び教王を討つことだった。妙水は剣を手にすると、紫夜を連れて雪獄へ向かい、囚われて衰弱しきった瞳を紫夜の前に引きずり出す。瞳の無残な姿を見せつけることで、紫夜に教王の治療を放棄させようとしたのだ。
しかし紫夜は、妙水の思惑を即座に見抜く。彼女は冷静に、「協力する代わりに、瞳の枷を外せ」と条件を提示し、刺殺計画への参加を申し出る。
紫夜はさらに、瞳がすでに噬魂散という天下第一の奇毒に侵され、もはや解毒不可能な状態であることを悟る。弟を救うため、紫夜は医師として、そして姉として究極の選択をする――自らを媒介とし、瞳の体内の毒を自分に移すという禁じ手だった。
紫夜は平静を装い、瞳には「大丈夫だ」と微笑むが、実際には噬魂散の苦しみを一身に引き受けていた。別れの時、二人は固く抱き合い、声を上げて泣き崩れる。紫夜は最後に、
「もう元一宮を離れて。これ以上、血に染まった道を歩かないで」
と切実に訴える。
こうして第29話は、姉が命を削って弟を救うという、取り返しのつかない献身と、元一宮崩壊へ向かう陰謀が交錯する、痛切な局面を迎える。
第30話あらすじ
夜。
噬魂散の毒を体内に抱えた薛紫夜は、元一宮の客房へと戻る。毒の症状はすでに表れ始めており、彼女は悟っていた――夜が明け、たとえ教王を討てたとしても、自分の命は長くない。
紫夜は一人酒を注ぎ、かつて霍展白と「笑紅塵を共に飲もう」と約束した夜を思い出す。涙をこぼしながら、
「霍展白……ごめんなさい。私は約束を守れそうにない」
と呟く。
同じ頃、遠く離れた場所で霍展白もまた一人で酒を飲んでいた。元一宮を滅ぼした後、薬師谷へ戻り、紫夜と再会して酒を酌み交わす――彼はまだ、その未来を疑っていなかった。
夜明け。
紫夜は診療用の医具を整え、噬魂散の毒を一時的に抑えるための薬を飲み干す。そして覚悟を決め、教王の診療へと向かう。
診療が始まると、紫夜は冷静に金針を操り、教王の全身の経脈と要穴をすべて打通する。次の瞬間、彼女は掌で一気に金針を体内へ打ち込み、さらに髪に挿していた簪を抜いて教王へ突き立てた。
教王は激痛に絶叫し、怒りの掌を紫夜へ放つ。その瞬間、妙风が咄嗟に飛び出し、紫夜を庇って一掌を受ける。
教王は信じられない表情を浮かべる。長年仕えてきた妙風が、命を懸けて紫夜を守ったのだ。
三者が膠着する刹那、事態は急変する。
妙水が突然前に出て、龍血珠の力を帯びた短剣を教王の心臓へ深く突き刺したのだ。
刺殺は成功し、妙水は長年積もり積もった怨恨をぶつけるかのように、狂気じみた勢いで教王を痛めつけながら、自らの真の出自を叫ぶ。
その告白に、妙風は言葉を失う。
――妙水こそが、かつて生き別れになった王姐・善蜜だったのだ。
同じ元一宮に長年身を置きながら、姉弟は互いの存在に気づかず、憎しみと復讐の中で生きてきた。そして、そのすべてを歪め、引き裂いた元凶が、今まさに倒れゆく教王だった。
第31話あらすじ
元一宮からの脱出。
妙风は、毒に侵された薛紫夜を外套で幾重にも包み、馬を駆って雪原を疾走する。その前に立ちはだかったのは、元一宮討伐に乗り込んできた七剣だった。
妙風は「急いで救わねばならぬ者がいる。ここで止めるなら、少なくとも半分は命を落とす」と冷静に告げ、凄まじい覚悟を見せる。
霍展白は、妙風が深手を負っていること、そして腕の中から覗く“女の手”に毒の痕があることに気づく。彼は直感的に「妙風は本当に人命を救おうとしている」と感じ、追撃を止めて道を譲る。しかし――
霍展白は知らなかった。
妙風が抱いていたのが、噬魂散に蝕まれ、命尽きかけている薛紫夜その人であることを。
二人は、雪原の只中ですれ違い、二度と戻らぬ距離を隔ててしまう。
七剣は元一宮へ突入するが、意外にも抵抗はほとんどない。やがて彼らの前に現れたのは、仮面をつけた男。霍展白は愕然とする――その正体は、八年前に消息を絶った六哥、徐重华だった。
徐重華は、南宮閣主の密命を受け、八年間元一宮に潜伏してきたことを明かす。すべては今日、鼎剣閣を内側から導くためだと。
だが真実は、そこで終わらなかった。
七剣が人質救出のため散開した隙を突き、徐重華は霍展白と衛風行を修羅場へ誘い込む。彼はすでに「潜伏者」であることに満足していなかったのだ。
八年の歳月の中で、徐重華は瞳と手を組み、七剣を排除し、自ら鼎剣閣主の座を奪う野心を抱いていた。
兄弟の裏切りに、霍展白は激しく動揺する。しかし最終的に剣を取り、涙を飲んで徐重華を討つ。
その間、瞳は一切手を出さず、ただ静かに兄弟が殺し合う姿を見つめていた。
霍展白が理由を問うと、瞳は短く答える。
「……お前は、小夜姐姐が大切にしている人だ。だから、俺はお前には刃を向けない。」
第31話は、
雪原ですれ違った紫夜と展白、崩れ落ちた兄弟の信義、そして瞳に残された唯一の良心が交錯し、物語が“取り返しのつかない終局”へ踏み込んだことを強く印象づける一話となっている。
第32話(最終回)あらすじ
元一宮を後にした霍展白は、休む間もなく薬師谷へと馬を走らせる。しかし彼を待っていたのは、再会ではなく別れだった。
谷に辿り着いた霍展白が目にしたのは、白梅の木の下に建てられた薛紫夜の衣冠冢と、深い悲しみに沈む谷の人々の姿だった。雪原で妙風とすれ違ったあの瞬間が、紫夜との永別だったと悟った霍展白は、墓前で力尽きるように倒れてしまう。
目を覚ました霍展白に、廖青染は真実を語る。
薛紫夜は噬魂散によって命を落としたのではない。毒が回り、正気を失い、醜い最期を迎えることを拒んだ彼女は、残された最後の清明の中で、自ら金針を喉に打ち込み、医師として、人としての尊厳を守る死を選んだのだった。
夜更け、霍展白は紫夜の墓前で酒を供え、八年にわたる日々を思い返す。命を救われ続けたこと、言葉にできなかった想い、果たせなかった約束──そのすべてが胸を締めつけ、涙は尽きない。遠くから見守る侍女たちも、静かに涙を流す。
鼎剣閣からは、霍展白に次期閣主就任の要請が届くが、彼はそれを辞退する。剣の頂に立つよりも、失われたものの重さが、彼を別の場所へと留めていた。
時は流れ、数年後。
薬師谷は新たな姿へと生まれ変わっていた。妙风は谷に残り、医を学び、やがて新たな谷主となる。彼は「回天令」を廃し、より多くの命を分け隔てなく救う道を選び、薬師谷は再び生気に満ちていく。
白梅が再び咲く季節、霍展白は谷を訪れ、梅の木の下で妙風と酒を酌み交わす。そこへ現れた瞳は、まず紫夜の墓に静かに手を合わせ、その後二人の傍に座る。三人は言葉少なに酒を飲み、薛紫夜という一人の女性を偲ぶ。
やがて瞳は谷を去り、寺へ入って僧となる。
それは逃避ではなく、かつて自らが重ねた殺戮の罪と向き合い、生涯をかけて償うための道だった。
こうして物語は終わる。
愛は形を失い、志は人から人へと受け継がれ、
薛紫夜という名は、白梅のように静かに、しかし永く、人々の心に咲き続けるのだった。
















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