錦嚢風月譚(きんのうふうげつたん) 清光が照らす真実 2025年 全36話 原題:錦囊妙錄
目次
第15話 あらすじ「血と火の誓い」
暗闇の中で、名を呼ばれ、喉を締め上げられた羅疏。
その命は、奇跡のように繋ぎ止められていた。
どれほどの時が過ぎたのか――
意識を取り戻した羅疏の前に、拝月の姿はない。
床には血痕だけが残されている。
不吉な予感に導かれるように、羅疏は血の跡を辿って廃坑へと足を踏み入れる。
そこで彼女が目にしたのは、無惨に横たわる拝月の遺体だった。
敵でありながらも、鉱山を支配する“闇の顔役”であった拝月の死。
それは、この地で何かが静かに崩れ始めていることを意味していた。
一方、県丞は銭大有を食事に招き、張公公失脚の噂を突きつける。
そして本音を明かす。
「私はただ、婚約者を救いたいだけだ」と。
銭大有はその覚悟を聞き、態度を翻し始める。
だが、鉱山の奥では別の憎悪が燃えていた。
拝月の側についた王茂は、実は羅疏と斉夢麟が県衙の密偵であること、そして“密告の手紙”が自分の仕組んだ罠であることを知っていた。
妻を失った彼の胸には、復讐の炎が燻っていたのである。
曹公公が鉱山を訪れ、銭大有に帳簿の提出を迫る。
銭大有は「全て偽物だ」と答えるが、曹公公は廃坑の奥へと彼を導く。
そこに縛られていたのは――羅疏だった。
王茂は、張公公への“献上品”として羅疏を差し出そうとしていたのだ。
だが羅疏は、怒りと悲嘆に暮れる王茂に対し、真実を語り、そして情に訴える。
県丞の行動は、便宜上の策に過ぎなかったこと。
今この鉱山に必要なのは、内側から変えられる“内応者”であること。
羅疏は、自らその役を引き受けると志願する。
「私は、必ず戻る」
その言葉に、王茂はついに心を揺さぶられる。
斉夢麟も捕らえられるが、羅疏は彼の存在を“希望”として信じ続けた。
曹公公もまた、羅疏の胆力を認め、彼女を“使える駒”と判断する。
だが、銭大有は最終的に張公公側に立つ決断を下す。
「ここは廃坑だ。爆破して事故に見せれば、誰にも分からない」
曹公公の言葉と共に、羅疏と斉夢麟の“処分”は決定された。
外へ出た彼らの背後で、死の歯車が回り始める。
その時――
羅疏の機転で、斉夢麟の頭上のランプが外され、王茂はその火で縄を焼き切る。
裏切りと憎しみの男は、最後に“救う側”となった。
同じ頃、鉱山の外では暴徒化した鉱山労働者たちが県丞に詰め寄る。
「この鉱山は銭家のものだ」
刃と怒号の中、棗花が県丞を庇い、深手を負う。
「寒い……もう少し、そばにいて」県丞は涙を堪えながら彼女を抱き、必ずそばにいると誓う。
そこへ駆けつけた韓慕之は、その惨状を目の当たりにする。
そして――
坑道ではすでに爆薬が仕掛けられ、爆破の刻限は迫っていた。
羅疏と斉夢麟は必死に奥へと逃げる。
その瞬間、王茂は燃え上がる導火線へと飛び込み、自らの身体で爆薬を押さえつける。
彼は、罪と憎しみを抱えたまま、最後に“人を救う者”として、火と闇の中へ消えていった。
逃げ惑う羅疏と斉夢麟の背後で鉱山は轟音と炎に包まれる。
この地に巣食っていた“白蟻”は、いま、確かに焼き払われようとしていた。
第16話 あらすじ「金風玉露、命を越えて」
轟音と炎に包まれた鉱山――
崩れ落ちた坑道の奥には、羅疏と斉夢麟の命が閉じ込められていた。
知らせを受けた韓慕之は、血相を変えて現場へ駆けつける。
「生きている限り、必ず連れ戻す」
その一心で、部下たちに崩落現場の掘削を命じた。
銭大有を連れて来させ、他に出口はないのかと問い詰めるが、「ここには一つの出口しかない。これ以上掘れば、さらに崩れる」
という答えが返るだけだった。
一方、暗く湿った地下では、空気も尽きかけ、羅疏と斉夢麟は衰弱していく。
羅疏は気丈にも皆を励まし、「必ず助けが来る」と信じ続ける。
斉夢麟は彼女を眠らせまいと語りかけ、「どんな人が好きなんだ?」と尋ねる。
羅疏の口から語られた特徴は、すべて韓慕之と重なっていた。
だが斉夢麟は、それが自分に似ていると思い込み、羅疏の心が自分にあると信じて疑わなかった。
掘削は難航し、外では次第に希望が失われていく。
「ここは違うのではないか」
「もう無理だ」
そんな声が上がる中、斉夢麟の側近が銀票を差し出し、「人の命が懸かっている」と訴える。
韓慕之もまた、救出に成功した暁には皆に賞金を出すと約束し、人々は再び鍬を手に取った。
その時――
地下から微かな音が響いた。
斉夢麟が石で壁を叩いた音だった。
耳を澄ませた韓慕之は、思わず叫ぶ。
「まだ生きているぞ!」
人々は一斉に掘削を再開し、ついに坑道は貫通する。
光の中へ引き上げられた羅疏。
その姿を見た瞬間、韓慕之は彼女を強く抱きしめた。
命を繋いだ安堵と、抑えきれぬ想いが溢れ出した瞬間だった。
その様子を遠くから見つめる斉夢麟は、ようやく悟る。
羅疏の心が向いているのは、自分ではなかったという現実を。
その後、県丞は傷ついた棗花のそばを離れず、飲まず食わずで看病を続けていた。
韓慕之は、彼に「もう限界だ。棗花を連れて帰り、休むべきだ」と諭す。
県丞は静かに語る。
「これまで男は何かを成すべきだと思っていた。
だが今は、守るべき人がいることの方が、何より大切だと分かった」と。
そして県丞は、羅疏と韓慕之の想いを見抜き、二人を幸せにしてやりたいと告げる。
韓慕之は羅疏のもとを訪れ、ついに胸の内を明かす。
「劉巡撫に婚約破棄を願い出る。君と共に生きたい」
羅疏もまた、以前から彼を慕っていたことを打ち明け、運命に試された末に、二人は結ばれる決意を固める。
やがて訪れる穏やかな日々。
食卓で料理を勧め合う二人の姿は、ささやかな幸福に満ちていた。
一方、川辺では斉夢麟が石を投げ続け、酒に溺れながら「羅疏が恋しい」と名を呟く。
彼を想う者は多くとも、その心は届かない。
やがて羅疏は、学堂で生徒たちに教える韓慕之の姿を目にし、胸の奥が静かに高鳴るのを感じる。
湖畔で寄り添う二人。「愛が永遠なら、朝夕を共にせずともよい」
と語る韓慕之に、羅疏は微笑んで答える。
「それより、『金風玉露の邂逅は、この世の何ものにも勝る』の方が好き」
命を越えて結ばれた想いは、ついに、静かで確かな幸福へとたどり着いた。
第17話 あらすじ「伯楽を求めぬ千里の心」
「千里の馬は伯楽に出会ってこそ、その力を発揮する」――
羅疏は、才能ある者が世に認められるには、見抜く者の存在が必要だと静かに語る。だが韓慕之は微笑みながら首を振った。
「私は千里の馬になるつもりもなければ、伯楽を必要とするつもりもない。たとえ一生この臨汾の県令のままであっても、民のために実のある政を行えるなら、それで十分だ。君がそばにいてくれれば、他に何も望まない」
権勢や出世よりも、目の前の民と羅疏を選ぶ韓慕之の言葉は、静かだが揺るぎない決意に満ちていた。
包子屋ではその噂が広まり、包子たちや蔡捕頭、仵作、検死官らは、二人の関係を我が事のように喜ぶ。特に包子たちは、羅疏がようやく幸せをつかんだことを心から祝福し、韓慕之こそが彼女にふさわしい相手だと口々に語る。しかし検死官だけは不安を隠せない。韓慕之はすでに劉巡撫の娘・劉婉と婚約しているのだ。蔡捕頭は「まだ婚約の段階なのだから、解消すればよい」と楽観的だが、仵作は事がそう簡単ではないと感じていた。
やがて県丞が戻り、棗花を家まで送り届けたことを告げる。今回の騒動を経て、県丞は「男は何かを成さねばならない」というこれまでの価値観を改め、守るべきものの大切さを学んだと語る。そして羅疏が韓慕之を想いながらも、彼の前途を案じて距離を置いていたことを明かし、「今度こそ二人を幸せにしてやりたい」と語るのだった。
そんな中、斉夢麟は周囲が韓慕之ばかりを称賛する様子に苛立ちを募らせ、書物を大量に買い込む。自分もまた学問を修めれば、韓慕之に劣らぬ存在になれるのだと、空回りする思いを抱えながら夜更けまで本をめくるのだった。
そこへ劉巡撫からの書簡が届く。劉巡撫は娘の劉婉を伴い、臨汾に視察に来るという。突然の来訪に韓慕之は動揺を隠せない。劉巡撫は韓慕之を高く評価しつつも、臨汾での在任は彼の官途の第一歩に過ぎず、いずれはさらに高い地位に就くべき人物だと断言する。そして、前任の県令・段の事件を掘り起こした件についても、出世の道を考えるならば不必要な行動だと暗に批判する。
さらに劉巡撫は斉夢麟の名を挙げ、彼を「ただの放蕩息子」と評しながらも、斉総督の子息である以上、縁を切る必要はないと語る。これに対し、娘の劉婉はむしろ斉夢麟と親しくすることが、韓慕之の将来に有利になると主張し、父もそれを認める。
一方、羅疏は人混みの中で劉婉を目にした瞬間、胸の奥に言いようのない不安を覚える。やがて劉婉は羅疏と韓慕之の間に漂う微妙な空気を察し、侍女に羅疏の素性を探らせる。そして翌日、内庭で詩会を開くという名目で羅疏を招待する。
詩会の場で劉婉は、羅疏がかつて鳴柯版の名妓として琵琶の名手であったことを公然と口にし、皆の前で一曲披露するよう求める。侍女に琵琶を手渡された羅疏は断ることもできず、幼い頃の記憶、芸に縛られて生きてきた過去、そしてこの数年の出来事を胸に巡らせながら、静かに弦をつまびく。澄んだ音色が庭に広がる中、集まった者たちは感嘆の声を上げ、さらに次々と曲のリクエストを口にする。
その知らせを聞き、韓慕之は胸騒ぎを覚えて庭へと急ぐ。しかし、羅疏と劉婉が向き合うその光景を前に、彼は一歩踏み出すことをためらってしまう。
羅疏の過去と、劉婉という“婚約者”の存在――。
二人の前に、新たな試練の影が静かに忍び寄り始めていた。
第18話 あらすじ「血の渡し、守れぬ約束」
詩会の内庭に張りつめた空気が漂う中、羅疏は劉婉の求めに応じ、琵琶を抱えさせられたまま衆人の視線に晒されていた。かつて鳴柯坊で名を馳せた“看板娘”という過去は、今なお彼女を縛りつけ、望まぬ形で人々の好奇心と優越感の対象にしていた。誰もが彼女の指先に注目し、演奏が始まるのを待ち構える中、突然庭に荒々しい足音が響く。
駆けつけたのは斉夢麟だった。彼は何の躊躇もなく羅疏の手から琵琶を奪い取り、劉婉たちに向かって鋭く言い放つ。「ただの遊びだと思っているのか。彼女をここに呼びつけ、見世物のように扱う資格がお前たちにあるのか」と。劉婉は慌てて「私たちは姉妹で話していただけ。少し弾いてもらおうと思っただけ」と取り繕うが、斉夢麟の怒りは収まらない。「誰かの権威に寄りかかり、尻馬に乗れば出世できると思うな。もしお前たちが鳴柯坊に落ちぶれたなら、琴を弾く場所すら与えられないだろう」と、彼は彼女たちの虚飾を容赦なく暴く。
やがて斉夢麟は羅疏を連れ出し、韓慕之に対しても厳しい言葉を投げかける。「守れぬ約束を軽々しくするな。未来を与えられぬなら、最初から手を出すべきではない」。その言葉は、羅疏への想いを胸に秘めながらも、彼女の幸福を案じる斉夢麟の複雑な心情を映し出していた。河辺へと場所を移した斉夢麟は、傷ついた羅疏を慰め、彼女の尊厳を守ることこそが自分の役目だと静かに誓う。
その頃、県衙には新たな訴えが持ち込まれていた。呂万昌の息子が父の冤罪を訴えに来たのだ。馬天錦殺害事件はすでに決着したとされていたが、河津県が掲げた告示には「強盗団による犯行」「二人の証人が馬天錦を傷つけたと指認した」との記載があり、従来の裁きと食い違いが生じていた。韓慕之はこれを見て、事件の再調査が必要だと考えるが、劉巡撫は「すでに解決済みの案件を蒸し返す必要はない」と強く反対する。だが羅疏は、たとえ立場の差があろうとも、真実を明らかにすることこそが官としての務めだと信じ、河津県へ赴く決意を固める。
県丞は彼女の覚悟を認め、自由に行動することを許可する。斉夢麟もまた同行を申し出、羅疏はそれを受け入れた。翌朝、密かに出立しようとする羅疏の前に、すでに旅支度を整えた斉夢麟が現れる。「君があまりにあっさり承諾したから、何かあると思った」。こうして二人は、危うい旅路へと足を踏み出す。
渡し場で船に乗り込んだ斉夢麟は、対岸の船で二人の子供が籠の饅頭を奪い合う姿に違和感を覚える。饅頭を交換してもらい船上の荷を調べると、そこには血痕が残されていた。異変に気づいた斉夢麟は船頭たちに突き落とされそうになるが、羅疏の機転で事なきを得る。二人は、ここが単独行動の旅人、とりわけ女性を狙う強盗の待ち伏せ場所であることを察する。
羅疏は女装して囮となり、斉夢麟とともに犯人たちをおびき寄せる作戦を立てる。船が戻ったところへ、蔡捕頭が現れ、自らを羅疏の夫と偽って船頭を牽制。さらに地元の捕頭・楊捕頭が部下を連れて駆けつけ、船頭たちを一斉に取り押さえる。師弟関係である二人の捕頭は再会を喜びつつも、すぐさま捜査に移る。
しかし捕えられた二人は頑なに「すべて自分たちの犯行だ」と言い張り、背後関係を語ろうとしない。宋老人という謎めいた人物が親切に彼らをもてなす姿に、羅疏はさらなる違和感を覚える。彼女は密かに尾行を開始し、この事件が単なる強盗ではなく、より深い闇と結びついている可能性を確信するのだった。
第19話 あらすじ「偽りの恋、箱に秘められた闇」
渡し場での一件の後、羅疏、斉夢麟、蔡捕頭たちは再び集まり、捕えた二人の強盗がなおも口を割らない理由について協議を重ねていた。彼らが背負っているのは単なる私欲の罪ではなく、背後に“誰か”が存在し、その人物を庇うことで利益を得ている可能性が高いと考えられた。中でも、金老六の供述の不自然さが際立っており、羅疏は彼の家庭環境に突破口があると見抜く。金老六の妻は常に夫に冷淡で、夫婦の情はすでに形骸化している。もし彼女が別の男と関係を持っていると金老六が知れば、自ら罪をかぶる理由は消え去る――羅疏はそう推理し、まずは金老六の妻に揺さぶりをかける策を立てる。
しかし問題は、誰が彼女に近づくかだった。蔡捕頭たちは皆、斉夢麟に視線を向けるが、彼自身は羅疏への未練と心の傷を抱え、この役を引き受ける自信を失っていた。羅疏は「無理にやらなくていい」と優しく告げるが、翌日、蔡捕頭たちが不慣れな身なりで彼女に近づこうとする様子を見て、「どうしても無理なら私が行くしかない」と言い出す。その一言に斉夢麟は慌て、羅疏を危険な役に就かせるわけにはいかないと、ついに自ら志願するのだった。
羅疏に身なりを整えられた斉夢麟は、太原から遊びに来た若者を装い、金老六の妻の家を訪れる。「道に迷ってしまって、水を一杯いただけませんか」。柔らかな言葉に金老六の妻はすぐ心を許し、家に招き入れる。会話の中で彼女は、夫が商人ではなく山賊であり、まもなく処刑される身であることを打ち明ける。斉夢麟は同情と慰めの言葉をかけ、感謝の印として銀塊を一つ差し出す。そして「夜にまた来るから、ニラ料理を用意してほしい」と頼み、彼女の心に期待を芽生えさせる。
夜、斉夢麟が再び訪れると、金老六の妻は酒肴を用意し、明らかな好意を示す。しかし斉夢麟は一線を越えることを拒み、「太原に戻って両親に報告し、正式に話を進めたい」と真剣な態度を見せる。彼の誠実な言葉は、金老六の妻の心に深く刻まれていく。翌日、斉夢麟は人目のある場所で、わざと自分の髪飾りを彼女に贈り、周囲に“密通”の噂が立つよう仕向けた。
一方、羅疏は鄭老三の妻を訪ね、金老六の妻が“高官と通じており、夫の処刑後に一緒に逃げるつもりだ”という噂を意図的に流す。そして、真実を話してくれれば報酬は倍額で支払うと持ちかける。やがてこの話は、食事を届ける鄭老三の妻の口から金老六の耳へと届く。
金老六は、妻が見慣れぬ髪飾りを身につけているのを思い出し、怒りと屈辱に打ち震える。「自分はまだ生きているのに、すでに浮気された!」と激昂した彼は、これまでの供述をすべて翻すと宣言する。しかし、それを止めるべく老宋が彼を牢へ連れ込み、口封じのために殺そうとする。蔡捕頭たちはすでにこの動きを予測しており、間一髪で金老六を救出する。
尋問の末、金老六はついに口を開く。だが黒幕の正体は分からず、「小さな箱を持った人物」から指示を受けていたことだけを明かす。その箱に斉夢麟は見覚えがあった。蔡捕頭もまた、臨汾で有名な訴訟屋・呉状元が、同じ箱を持っていることを思い出す。
物語はここで、新たな黒幕の影へと一歩踏み込む。
偽りの恋が暴いたのは、一人の男の心だけではなく、臨汾を覆うより深い闇の存在だった――。
錦嚢風月譚(きんのうふうげつたん) 20話・21話・22話・23話・24話 あらすじ
錦嚢風月譚(きんのうふうげつたん) 清光が照らす真実 全話あらすじとキャスト・相関図

















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