相思令(そうしれい)~君綺羅(くんきら)と玄烈(げんれつ)~2025年 全30話原題:相思令
第6話あらすじ
第6集 崖上の策、北泫の影 ― 揺らぐ信義と新たな邂逅 ―
命綱のように繋がれた二人の運命は、崖の淵で再び交錯する。玄参を求めて山中に入った君綺羅(くんきら)と玄烈(げんれつ)は、何者かの襲撃を受けて崖下へ転落。奇跡的に洞窟を見つけ、そこに避難することとなった。玄烈は洞窟の奥を君綺羅に譲り、自らは外で見張りにつく。その夜、風が唸り、炎がわずかに揺れる中、互いの沈黙にかすかな信頼が灯った。
翌朝、彼らは無事に戻るが、玄参を見つけられなかったと報告する。奚長昆(けいちょうこん)は勝ち誇ったように笑い、箱いっぱいの玄参を運ばせた。「我々が代わりに問題を解決した。市場で買い取ってきたのだ」と誇示する。だが、それこそが君綺羅の仕掛けた逆転の罠だった。彼女は事前に孫昭敏(そんしょうびん)へ「玄参と人参は酷似しており、素人には見分けがつかない」と伝えていたのだ。そして一見玄参に見える人参を崖の向こうに埋めさせ、敵がそれを奪うよう誘導していた。
「では聞こう。もしこれらが本物の玄参なら、なぜ昨日、彼らが奪った“人参”がここにあるのか」――君綺羅の一言に場が凍りつく。呼び出された薬屋の店主たちは口々に証言した。「これらの玄参を買ったのは奚長昆の者たちだ」と。さらに証人たちの供述で、奚長昆が商人を買収し、病原を仕込んだ布を銀繍坊に流入させたことが明らかになった。
真実を突きつけられた奚長昆は顔色を失い、激怒した孫大人によって涼州から追放される。事件の収束後、孫大人は玄烈を呼び、礼を述べた。「そなたの父母が亡くなった夜、私は現場にいた。ひとつ、不思議な紋様を見つけたのだが、当時は言えなかった」と語り、封じていた図案を取り出す。それは、玄烈の過去と“狼主”の座を繋ぐ鍵――。孫大人は「狼主となる日が来たら、真実を明らかにせよ」と支援を約束した。
北泫へ戻った玄烈は羅奇(らき)にその模様を見せる。羅奇は驚き、「当時、自決した男の体にもこれがあった。だが半分だけだった」と語る。やがて玄烈は君綺羅のもとを訪れ、この模様をもとに刺繍を依頼する。「羅奇の誕生日祝いに使いたい」との名目だった。君綺羅は快く引き受けたが、玄烈は彼女がこの紋様の意味を知らないことを悟り、胸の奥で静かに何かが動いた。
一方その頃、祁民(しょうきみん)は玄青蔻(げんせいこう)を賭博場へと連れ出す。豪奢な場に戸惑いながらも勝負に挑んだ玄青蔻は連敗し、怒りに任せて賭場を荒らす。奪い返した金を外の乞食たちに投げ与え、「これが人の痛みよ」と呟く姿に、祁民は複雑な表情を浮かべた。しかし騒ぎを聞きつけた賭場の者たちが迫り、二人は闇夜に紛れて逃走する。
一方、君家でも新たな火種が生まれていた。次男・君钰珏(くんぎょくかく)は宰相との会食を画策するが、現れたのは側近だった。彼に媚びを売り、「君非凡(くんひはん)の地位を奪いたい」と野心を漏らす。その陰謀の種は静かに芽吹き始める。
やがて旅立ちの時が訪れる。事件の後始末を終えた君綺羅と玄烈は、孫昭敏の制止を受ける。「ここに留まってほしい。あなたのような人材を失いたくない」。しかし玄烈が傍にいる以上、彼女の願いは叶わなかった。孫昭敏はそれでも真っ直ぐに言う。「私はいずれこの地を治める身。だからこそ、志ある者を迎えたいのです」。
こうして一行は北泫へ到着。玄烈は君綺羅を自邸に案内し、侍女たちを呼んで彼女の身の回りを整えさせた。その中に、戸口で静かに立つ娘・冬銀(とうぎん)がいた。君綺羅は彼女の穏やかな気配を感じ取り、「この娘を私の侍女に」と告げる。すると女官が慌てて言った。「冬銀は北泫と焱南の混血ゆえ、夜香婦(やこうふ)しか務められません」。君綺羅はきっぱりと返した。「焱南の娘が夜香婦しかなれぬなど、そんな理が通るものか」。その場にいた者たちを下がらせ、冬銀を正式に侍女に迎える。
炎南の布衣をまとった冬銀に君綺羅が問うと、彼女は静かに微笑んだ。「これは母の形見です」。君綺羅はその刺繍に目を細め、「美しい布ね。炎南・君家の織物は本来、簡単には手に入らない。あなたが身に着けてくれるなら、それでいい」と優しく告げた。
北泫の冷たい風の中、再び焱南の香が漂う――
それは新たな絆の始まりを告げる風でもあった。
第7話あらすじ
第7集 告白と約束 ― 北泫に芽吹く想い、宮廷に蠢く影 ―
玄烈(げんれつ)は豪勢な膳を整え、君綺羅(くんきら)を静かに呼び寄せた。
「今日は何かの日なの?」と首をかしげる彼女に、玄烈は笑って答える。「ただ、君をもてなしたいだけだ。深く考えるな」。
穏やかな灯りの中、二人の距離は少しずつ近づいていく。
後日、玄烈は羅奇(らき)と共に外出し、王城の闇市場の場所を尋ねる。普段は賑わうその市場も、彼の姿を見た途端、商人たちは一斉に逃げ散った。羅奇が宥め、玄烈を先に外へ出すと、店主は恐る恐る小豆を取り出した。
やがて玄烈は君綺羅のもとを訪ね、黒玉と小豆を連ねた首飾りを差し出す。北泫の漆黒と焱南の紅――二つの地を繋ぐ絆の象徴だった。彼はその首飾りを自らの手で彼女の首にかけ、静かに微笑んだ。
その頃、王宮では不穏な空気が漂っていた。煜世子(いくせいし)と懿世子(いせいし)が戯れの末に争いとなり、煜世子が激昂して弟を打ち据えた。懿世子の母・李側妃(りそくひ)が駆けつけ二人を止めるも、王妃が現れて煜世子を庇う。李側妃は屈辱を噛みしめながら、息子に謝罪させるしかなかった。
やがて羅執舟(らしつしゅう)が李側妃を訪れ、西鑲の菓子を差し出す。「ここなら人目を気にせずに済みます」と優しく告げる彼の目には、かつての想いがわずかに宿っていた。かつて互いに惹かれ合いながらも、李側妃が王宮に入ったことで二人の道は分かたれたのだ。羅執舟は「狩猟大会が近い。玄烈は狼王候補の筆頭であり、王は彼を重用している。だが、私は必ずあなたと懿世子を守る」と誓う。胸の奥に沈めた過去が、再び静かに疼いていた。
一方その夜、玄烈は高台の亭で酒を傾けていた。そこへ君綺羅が現れる。
玄烈はかつて父が好んでこの地を訪れ、「高き所ほど風は冷たい」と語っていたことを思い出す。権勢を持ちながらも己を戒める父の姿。その父が遺した金糸の軟甲――幼い自分が欲しがり、譲らせたその鎧が、後に父の死を招いたのではないか。玄烈は自責の念に沈み、「もしあの時、俺が欲を出さなければ……」と呟いた。
君綺羅は静かに言葉を返す。「お父上はあなたを責めてなどいません。きっと、あなたに生きてほしかったのです」。
玄烈は目を伏せ、「秘密を打ち明けた。今度は君の番だ」と促した。
君綺羅は少しの沈黙ののち、真実を語った。「実は私は君家の侍女ではなく、君家の令嬢――君綺羅です」。
玄烈は穏やかに微笑んだ。「知っていた」。驚きも怒りもなく、ただ優しく受け止めた。
やがて玄烈は君綺羅に酒を注がせ、彼女の膝に頭を預けて目を閉じた。「疲れた……少し、こうしていたい」。
その姿に、君綺羅もまたそっと手を伸ばす。長く張りつめた時間が、ようやく緩やかにほどけていった。
翌朝、冬銀(とうぎん)たちが部屋を訪れると、玄烈の胸に寄り添う君綺羅の姿があった。慌てて目を覚ました彼女は、「寄りかかって寝ただけよ」と顔を赤らめる。玄烈は彼女にマントをかけ、「風邪をひくな」と一言だけ残した。
その様子を見た冬銀は心の中で呟く。「きっと、いつかこの方を“夫人”と呼ぶ日が来る」。だが君綺羅は微笑み、「私と彼とは考え方が違うの。そう呼ばないで」と静かに制した。
一方、焱南では西鑲(せいしょう)の使節団が到着し、君絳綢(くんこうちゅう)は君綺羅の帰還が遅れていることに焦る。商機を逃すまいと、彼女は男装して兄・君非凡(くんひはん)を装い、見事に商談をまとめ上げた。西鑲の商人たちはその才を称賛し、君家の名は再び都に鳴り響いた。
王宮では太后が李側妃を呼び、先日の騒動を諭した。「王妃もすでに煜世子を叱った。気を病むことはない」。西鑲の菓子を口にしながら、太后は柔らかくも鋭い視線で続けた。「狩猟大会では気を配りなさい」。李側妃はその言葉に隠された警告を悟り、心中で呟く。「度を越した嫌がらせを受けねば、誰が陰謀など望むものか」。
その頃、君綺羅は焱南の種をいくつか買い求め、北泫の地で新たな命を育てようとしていた。「水の湧く場所を探して植えたいの」と語る彼女に、玄烈は微笑む。「今日は用もない。俺も一緒に行こう」。
冷たい風が吹く北泫の大地に、焱南の小さな芽が息づき始める。
それは、二つの国と二人の心を繋ぐ――静かな約束の象徴だった。
第8話あらすじ
第8集 結晶石の光 ― 隠された真実、揺らぐ信頼 ―
焱南の種を植える場所を探していた君綺羅(くんきら)は、いくつもの土地を見て回ったが、どこも条件に合わないと断られ続けた。玄烈(げんれつ)が理由を問うと、彼女は静かに答える。「この土地は冷たすぎるの。温もりが足りない」。
すると玄烈は少し考え、「温泉水の湧く地を知っている。君の求める条件に近いはずだ」と言い、彼女を馬に乗せて北泫の奥地へと向かった。
その地では、屈強な男たちが採掘作業をしていた。指揮を執るのは賀渥山(ががくさん)。険しい岩肌の中を進んでいた君綺羅の目が、ある瞬間、鋭く輝いた。「……これは、結晶石!」
手のひらほどの光を放つ鉱石に、彼女は息を呑む。長年探し求めていた素材が、ついにこの地で姿を現したのだ。
玄烈は訝しげに眉を寄せる。「ただの石に見えるが?」
君綺羅は微笑み、「では賭けをしましょう。この石が価値あるものなら、あなたは私と協力してこの採掘を進めるのよ」。
玄烈はその挑発を受け入れた。
その時、君綺羅は賀渥山の顔を見て思わず息を呑む。「……賀機遥(がきよう)?」
羅奇(らき)が静かに訂正する。「彼は賀機遥ではない。双子の兄、賀渥山だ」。
安堵と戸惑いが交錯する中、羅奇は冗談めかして言う。「賀機遥の知る君綺羅は女性で、玄烈の知る君綺羅は男性……つまり、君綺羅の性別は謎そのものだな」。その言葉に玄烈の表情が一瞬曇った。
一方、王宮では王が玄烈と奚長昆(けいちょうこん)を呼び出していた。王は鉱脈の権利を奚長昆に与える意向を示すが、玄烈は一歩も引かない。「安全の確認が先です。まず賀渥山に調査をさせ、問題がなければ譲渡すべきです」。
その冷静な進言に王はうなずき、奚長昆は苦々しい顔でその場を去った。
だが王は去り際に鋭い眼差しを玄烈へ向ける。「あの炎南の女――何者だ?」
玄烈はわずかに口を引き結び、「君非凡(くんひはん)を探すための手がかりです。信頼できる人物です」と答えた。
しかし内心では、羅奇の言葉が重くのしかかっていた。――もしや、君綺羅こそが君非凡なのではないか。
その頃、玄青蔻姫(げんせいこう)を追っていた賀機遥は、ようやく彼女の居場所を突き止める。だが姫は邵祁民(しょうきみん)に「青鳴(せいめい)」の名を与え、自身の令牌(通行証)を渡した。「彼を守ってあげて」と。賀機遥が止めるも、玄青蔻は冷然と言い放つ。「彼は私を殺しはしない。守るべきものを知っている」。
その一方で、君綺羅は冬銀(とうぎん)に織物の新しい技法を教えていた。彼女は結晶石を用いて特別な部品を作ろうとしていたが、素材が足りず困っていた。手元の設計図を広げながら、ふと玄烈に語る。「この図案、以前街で見かけた老人の刺青に似ているの。気づいたのは帰ってからだったわ」。
その言葉に、玄烈の胸がざわつく。彼女がこの話を持ち出したのは、自分を遠ざけようとしているのではないか――。
そのころ、王と王妃、世子たちは狩猟場にいた。煜世子(いくせいし)と懿世子(いせいし)が馬で駆ける中、王妃は長子を賞賛し続ける。だが次の瞬間、煜世子が馬から投げ出された。群衆が悲鳴を上げる中、羅執舟(らしつしゅう)が駆け寄り、身を挺して彼を救い出す。
実はこの一件――李側妃(りそくひ)と羅執舟による綿密な計画だった。事故を装い、懿世子への風当たりを弱めるための策略である。
その頃、賀渥山は玄烈に密かに告げた。「この結晶石……文献にはないが、武器として鍛えることができる」。
玄烈と君綺羅は再び鉱脈へ向かい、労働者たちと共に試験を行った。だが結晶石は思うように精製できず、玄烈は眉をひそめる。「これでは役に立たん。むしろ君綺羅の望む香石を探した方がましだ」。
君綺羅は首を振る。「問題は道具。結晶石はまだ眠っているだけ」。
そう言って、彼女は石を研磨させ、異なる方法で抽出を試みた。
玄烈が問いかける。「どうして分かる?」
君綺羅は微笑みながら短く答えた。「試してみるだけよ」。
その直後――地鳴りのような音が響き、坑道全体が激しく揺れ始めた。
岩壁が崩れ、粉塵が舞い上がる。叫び声がこだまする中、玄烈は君綺羅の腕を掴み、必死に彼女を庇った。
果たして、彼らが目にした“結晶石の真の姿”とは――。
運命の地が鳴動し、隠された真実がいま、光を放とうとしていた。
第9話あらすじ
第9集 崩落の果て ― 森に潜む罠、試される絆 ―
轟音とともに鉱山の坑道が崩れ落ちた。土煙の中、玄烈(げんれつ)は咄嗟に君綺羅(くんきら)を抱き寄せ、その身を覆った。岩が砕け、瓦礫が落ちるなか、彼女は奇跡的に無事だったが、玄烈の背中には深い傷が走っていた。
「大丈夫か」と彼女が問うと、玄烈は血を滲ませながらも、「問題ない。ここを出る」と短く答え、しゃがみ込んで君綺羅を背に乗せた。暗闇の坑道を必死に進み、ようやく別の出口を見つけ、二人は外の光へと飛び出した。
地上では羅奇(らき)たちが焦りと恐怖に駆られ、崩れた坑道を必死に掘り返していた。だが、塵の向こうから現れた玄烈の背には君綺羅の姿があり、皆は胸を撫で下ろした。
怪我の手当てを受けながらも、玄烈の胸中には一つの疑念が消えなかった――君綺羅は本当に“君非凡(くんひはん)”ではないのか。
その時、羅奇が一枚の絵を携えて現れる。「炎南からの報せです。君非凡が西鑲の商隊と取引を行い、今は銭都へ向かっているとか」
絵に描かれた人物は確かに君綺羅に酷似していた。だが、現地に姿を現したという事実は、彼女が君非凡でない証でもあった。玄烈は安堵と戸惑いの入り混じった表情を浮かべる。
一方、王宮では煜世子(いくせいし)が落馬の衝撃から病に倒れていた。王は「煜世子は狩猟会を休ませ、王妃は付き添いとして宮に残れ。李側妃(りそくひ)と懿世子(いせいし)は同行せよ」と命じる。王妃は不満を漏らすが、太后の一言で逆らうことはできなかった。
その頃、玄青蔻姫(げんせいこう)は邵祁民(しょうきみん)を伴って北泫に戻る。君綺羅は祁民の無事を喜ぶが、玄青蔻は二人の親しげな様子に苛立ちを隠せない。祁民は「彼女は自分の奴隷だ」と言い張り、場は一触即発となる。君綺羅は「彼は商隊の者」と説明し、玄青蔻に彼を解放する条件を問う。
玄青蔻は唇を吊り上げ、「ならば勝負を。森で狩りをし、より多く獲物を仕留めた方が勝ち。負けたら、そなたの願いは聞かぬ」と告げる。君綺羅は迷わず承諾するが、玄烈は顔を曇らせた。「無茶だ。お前の足はまだ治っていない」
しかし玄青蔻は「これは娘同士の約束。男の口を挟むことではない」と言い放ち、玄烈も渋々退いた。勝負は翌日に持ち越される。
夜、冬銀(とうぎん)は君綺羅に助言した。「玄青蔻は玄烈の言葉には逆らえないの。助けを求めればいいわ」
さらに彼女は打ち明ける。「玄烈様は、君が北泫の食事に慣れないだろうと、わざわざ焱南の料理人を呼んだの。あの方が人をここまで気にかけるなんて、初めて見たわ」。
翌朝、玄烈は君綺羅のもとを訪れ、一振りの刀を差し出す。「この刀は、かつて賊を討つために使うはずだった。だが商隊は既に滅んでいた。責任は私にある。復讐したければ、これで私を斬れ。ただ――これが私たちの間を隔てることは望まない」
君綺羅は静かに刀を構えたが、玄烈の瞳を見据え、「あなたを信じている」と呟き、刃を収めた。
一方で、玄青蔻は祁民が自分を利用して君綺羅を探していたと知り激怒。祁民を縄で縛り上げた。しかし夜半、祁民は縄を解き、君綺羅のもとへ駆けつける。「今すぐここを出よう!」
君綺羅は首を振った。「私は晶石を見つけなければならない。ここを離れるわけにはいかないの」
祁民は苛立ち、「“三不管”を忘れたのか!」と叫ぶ。だが君綺羅は冷静に、「玄烈から聞いた。あれは彼のせいではない」と返す。二人の思いはすれ違ったまま、夜が明けた。
翌日、森での狩りが始まる。足を負傷した君綺羅に対し、玄青蔻は容赦ない手を見せるが、決定的な瞬間――玄烈が現れ、彼女を援護した。結果、勝負は君綺羅の勝利。
玄青蔻は悔しさに震えるが、玄烈は静かに告げる。「勝負は勝負。約束を違えるな」。羅執舟(らしつしゅう)はそっと彼女に耳打ちした。「これ以上は騒ぐな。太后の耳に入れば、祁民が殺されるぞ」。玄青蔻は唇を噛み、怒りを飲み込むしかなかった。
その頃、祁民は「君綺羅が森に入った」という書き置きを見つけ、急ぎ彼女を探しに走る。
同じ頃、君綺羅もまた「祁民が森に入った」との報せを受け、冬銀に言づけた。「もし私が戻らなければ、玄烈に伝えて」
宮中では王が玄烈を呼び戻そうとしていたが、冬銀の報告を聞くや否や、玄烈は羅奇に代わりを命じ、自ら森へと向かう。
その動きを察知した羅執舟は、冷たく命じた。「日暮れまでに玄烈を森に追い込め」。
こうして、森は再び血の予感に包まれる――
それぞれの想いと陰謀が交錯する中、運命の歯車が静かに音を立てて回り始めた。
第10話あらすじ
第10集 偽りの安息 ― 森に潜む真実、揺らぐ絆 ―
森に響く怒声と蹄の音。君綺羅(くんきら)を探して森へ向かう玄烈(げんれつ)の後を、玄青蔻姫(げんせいこう)も追っていた。「私も行くわ。あなた一人で行かせない!」と訴える彼女に、玄烈は首を振る。「危険だ。すぐに戻れ」。だが玄青蔻は命令に背き、そのまま森の奥へと駆け込んでいった。玄烈は援軍を呼ぶよう指示を出すと、自ら彼女の後を追う。
一方、森の奥で再会した君綺羅と祁民(きみん)。君綺羅は、今回の襲撃や混乱の背後に玄烈の影があるとは思えなかった。彼にはその必要がない――むしろ、彼らを知り尽くす別の人物の仕業だと確信する。やがて、玄烈と玄青蔻は黒衣の集団に包囲される。罠が仕掛けられ、玄青蔻が踏み抜いた瞬間、矢が雨のように降り注いだ。祁民が現れ、彼女を間一髪で救い出す。
一行は逃走の末、山麓の小さな集落に辿り着く。そこに暮らす人々の体には、不気味にも同じ刺青が刻まれていた。警戒心をあらわにする首領に、君綺羅は静かに頭を下げる。「我々は商人です。道中で賊に襲われ負傷しました。数日だけ滞在させていただけませんか」。首領が証を求めると、君綺羅は簪を差し出した。「これは我々の商号が製作したもの。確かめてくださればわかります」。首領はうなずき、一行の滞在を許した。
だが、玄青蔻は納得できずに声を荒げる。「なぜ商人のふりなどするの?」
玄烈は冷静に答える。「我々の衣装は豪奢すぎる。貴族を名乗れば追い出されるだけだ」。その夜、首領の計らいで宿が用意され、玄烈と君綺羅は“夫婦”を装って同室に泊まることになった。ぎこちない空気の中、二人の距離は少しずつ近づいていく。
翌日、首領は彼らに退去を求めるが、玄烈は「傷が癒えていない。薬草に詳しいので、この地の採取を手伝いたい」と申し出た。狩猟しか知らぬ村人たちにとって、その提案は魅力的だった。首領は少し考え、滞在を許可する。
その頃、太后は玄青蔻たちが消息を絶ったと聞き、激しく動揺していた。王は「既に捜索隊を出した。案ずるな」と皇后をなだめるが、王宮の緊張は高まるばかり。一方、奚長昆(けいちょうこん)は密かに「玄烈を抹殺せよ」と命を下していた。玄烈を狙う影は一つではなかった。
村での平穏は長くは続かなかった。首領が玄烈たちを酒宴に招き、盃を重ねながら語り出す。「我らはかつて命を賭けて仕えた。だが報酬どころか裏切られ、命からがらこの地に逃げ延びたのだ」。玄烈はすぐに見抜いた。「ここは玄部と奚部の境界地。どちらにも属さぬということは……あなた方は旧兵か?」
場が凍りつく。部下が首領に目配せをすると、首領は杯を置き、「酒の席で話すことではない」と打ち切った。
その頃、祁民は密かに君綺羅を訪ね、「玄烈は晶石をすでに奚長昆に渡していた。ずっとお前を利用していたのだ」と囁く。「今が離れる好機だ」。衝撃を受けた君綺羅は玄烈を問い詰める。「どういうこと?」
玄烈は苦しげに答えた。「晶石の件は自分で処理している。まだ君に話す時ではなかった」。
「それなら契約は破棄よ。商人令を返して」――君綺羅の声には怒りと悲しみが混じっていた。
その場に祁民が現れ、剣を抜いて玄烈に迫る。「出せ。今すぐ商人令を渡せ!」
だが玄烈は一歩も退かず、「君綺羅が北泫に来たのは晶石のためではない。なぜ今になってそのことに執着する? お前たちは何を隠している?」と問い返す。
そして次の瞬間、自ら祁民の剣を胸に受けた。「これで“三不管”の件は清算だ」。
血が流れ落ちる中、君綺羅は慌てて彼の傷を押さえ、薬を煎じる。玄烈の沈黙と痛みに満ちた眼差しに、彼女の心は揺れていた。
一方、首領は彼らを追い出そうとするが、玄烈は静かに口を開く。「私の正体を明かそう。あの時の件を説明してもらえれば、あなたたちを安全にこの地から逃がしてやる」。
首領は迷った末に語り出した。「あの貨物はただの運搬だった。証拠もない。だからこそ、我々はこの地に隠れるしかなかった」。
玄烈は頷き、「貨物を運ぶなら、通行の証明書があるはずだ。それを見せてほしい」と告げる。首領は懐から古びた書状を取り出し、「これがすべてだ。ただし証拠にはならぬ」と差し出す。
玄烈はそれを受け取り、低く呟いた。「十分だ。これを最大限に活かしてみせる――真実を暴くために」。
夜の帳が降りる。焚火の光に照らされる玄烈の横顔には、痛みと決意が交錯していた。
君綺羅は静かにその背を見つめながら、まだ知らぬ“真の敵”の影を感じ取っていた。
相思令~君綺羅と玄烈~ 11話・12話・13話・14話・15話 あらすじ
















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