大唐狄公案 神探、王朝の謎を斬る 2024年 全32話 原題:大唐狄公案
第1話あらすじ
長年にわたり西域を遊歴していた狄仁傑は、正式な通行証である過所文碟をようやく手にし、久しぶりに都・長安へ戻ってくる。しかし彼は実家に帰ることなく、庶民が集う聚興客栈に身を寄せる。名門の出でありながら、出世や名誉に執着しない狄仁傑の姿勢は、どこか世俗と距離を置いたものだった。
同行者の洪亮は、狄仁傑の才を惜しみ、なんとか科挙を受けさせようと画策する。洪亮が密かに魏無疾を訪ねたことを、狄仁傑は洪亮の髪についた槐の花から即座に見抜き、国子監近くの務本坊へ行ったことまで推理してしまう。観念した洪亮は本音を打ち明けるが、狄仁傑の志は官途には向いていなかった。
一方で狄仁傑は、過所文碟取得のため多額の借金を抱えているにもかかわらず、飄々と食事を楽しむ。店主が水だけで空腹をしのぐ若者を叱りつけているのを見て、狄仁傑は胡餅を与え、さらに宿泊客たちのツケを洪亮の勘定に回してしまう。その行動には、人の尊厳を軽んじない彼の価値観がはっきりと表れていた。
そんな折、客栈に官差が踏み込み、夜明珠盗難事件の容疑者捜索が始まる。狄仁傑は官差に胡餅を差し出し、争わず騒がずの態度を貫くことで警戒を解く。全員を連行しようとする官差に対し、洪亮が「明日は科挙だ」と声を上げると、受験生たちも一斉に反発し、場は混乱する。
その最中、二階から密かに逃げようとする男が現れる。武芸に秀でたその男を、狄仁傑は素早く制圧するが、彼は盗人ではなく、西域に長年駐屯していた唐軍の兵士であり、逃兵として追われていたことを見抜く。男は病重の母に会うため戻ったと涙ながらに語り、狄仁傑の人情味が強く印象づけられる場面となる。
狄仁傑は宿の宿帳をもとに、宿泊客一人ひとりの行動と立場を冷静に分析し、真犯人が「名簿にない新入りの帳房」と店主である可能性を突き止める。巧妙に装った帳房の動きから、夜明珠が算盤に隠されていると推理し、最終的に水を使った検証で真の持ち主を暴く。十年以上盗みを続けてきた犯人も、ついに狄仁傑の前では逃げ切れなかった。
事件後、狄仁傑は逃兵への情状酌量を官差に願い出る。その姿勢は「法」と「情」の間で常に人を見ようとする、彼の信念を象徴している。
さらに物語は広がりを見せる。狄仁傑は幼なじみの賀大荊と再会するが、彼は権力者の息子に追われる立場にあった。助けに入ったことで狄仁傑自身も捕らえられるが、魏無疾の取りなしにより無事に解放される。魏無疾は二人に大きな期待を寄せ、科挙への参加を強く促す。
その後、馬栄と喬泰という荒っぽい人物たちも登場し、狄仁傑は彼らの何気ない会話から、過去の罪まで見抜いて忠告する。二人は狄仁傑の借金を返そうと賭博に手を出していたことを告白し、改心を誓う。
物語の終盤、賀大荊と酒を酌み交わす中で、狄仁傑は試験会場で見かけた「妙に印象的な馬」に再び遭遇し、不穏な予感を覚える。立ち寄った鞠水楼では、彼が暗門の存在に気づくが、その夜、楼は突然炎に包まれる――。こうして、狄仁傑が関わることになるより大きな陰謀の始まりを暗示して、第1話は幕を閉じる。
第2話あらすじ
狄仁傑が意識を取り戻したとき、全身は煤で真っ黒に汚れ、周囲には焼け焦げた匂いが立ち込めていた。鞠水楼の火災現場では九人中八人が焼死し、生き残ったのは狄仁傑ただ一人。県令は即座に彼を容疑者として拘束し、天火による失火として事件を処理しようとする。しかし狄仁傑は、火は天から落ちたものではなく、楼内から人為的に放たれたと断言する。これに激怒した県令は、「唯一の生存者」という理由だけで狄仁傑に罪を着せようとし、拷問すら辞さぬ構えを見せる。
その場に駆けつけた洪亮が魏無疾を呼び寄せ、事態は一転する。魏無疾は狄仁傑の才覚と人格を誰よりも理解しており、彼が亡き賀大荊の死の真相を必ず突き止めると信じていた。県令の顔を立てるため、魏無疾は狄仁傑に玄鉄の足枷をはめ、さらに毎日捜査状況を報告することを条件に、正式に身柄を預かる。こうして狄仁傑は“囚人のまま捜査官”という立場で、火災事件の真相解明に乗り出す。
まず狄仁傑は検死所へ向かい、八体の遺体を詳しく調べる。七体は全身が黒く焼けているのに対し、一体の女性の遺体だけが不自然なほど綺麗であることに気づく。さらに、その遺体が持っていた香嚢は非常に高価なもので、内部には宮中でのみ使われる特別な香が入っていた。加えて、身に着けていた鍵は明らかに宮廷関係者のものだった。狄仁傑は、この女性がただの歌伎ではなく、宮中に関係する人物だと即断する。
狄仁傑は喬泰と馬栄に命じ、香嚢の流通先を探らせる一方、自らは密かに鞠水楼へ戻り現場検証を行う。建物の扉が外側から施錠されていたこと、さらに以前気づいた暗門の奥の部屋が火災の被害をほとんど受けていないことから、事件が計画的であることは明白だった。喬泰の調査により、その香が「皇后が愛用する香」であると判明し、狄仁傑は被害者が皇后付きの司宝宮女・雅馨であると推理する。
狄仁傑は金吾衛の門前で太鼓を打ち鳴らし、強引ともいえる方法で事実確認を迫る。結果、雅馨は金吾衛が行方を追っていた人物であり、この事件が平康坊一帯、さらには宮廷内部を巻き込む大事であることが浮かび上がる。
一方、馬栄と喬泰は街で雑報を集めるが、馬栄は相変わらずの癖で、屋台から物をくすねてしまう。集めた点心を狄仁傑に差し入れしようとするものの、彼の不在を知り洪亮の元を訪ね、狄仁傑の人となりを聞く。両親を早くに亡くした独り身だと知り、馬栄は密かに共感を抱くが、洪亮自身もまた、主の本心までは掴みきれていなかった。
その頃、宮廷では別の嵐が吹き荒れていた。長孫大尉ら重臣たちは、皇后の鳳印紛失を理由に皇帝へ圧力をかけ、皇后を厳罰に処すべきだと迫る。鳳印を使った偽の勅命により陳褚良が殺されたという疑惑があり、皇帝は板挟みとなり苦悩する。一方、皇后は沈黙を守り、木魚を叩きながら心を鎮めていた。
魏無疾は狄仁傑に、長安の雑報や噂を鵜呑みにするなと諭す。皇后の新政は民にとって有益であり、だからこそ多くの利権を奪われた者たちから狙われているのだと指摘し、「自分たちはこの都の主人ではない」と現実を突きつける。その言葉に、狄仁傑は重いものを胸に抱えながら帰宅する。
さらに長安城外で、四人が焼死した新たな事件が発生する。天火によるものだという噂が流れる中、狄仁傑は自ら検分を申し出る。仵作不在という状況下で、彼は遺体の口腔に煤がないこと、手の老繭から農民であることを見抜き、再び人為的放火の可能性を疑う。火場に踏み込んだ狄仁傑は、焦げた蚕や流蘇、そして決定的な令牌を発見する。馬栄の機転によってそれを密かに回収し、県令の目を欺くことに成功する。
県令は狄仁傑に「この件は上の者同士の争いで、調べれば命が危ない」と忠告し、深入りをやめるよう示唆する。しかし、狄仁傑はすでに引き返せない地点に立っていた。長安へ戻る途中、彼は路傍に繋がれた四頭の馬を目にし、その中の一頭から羽林軍の関与を直感する。
こうして第2話は、鞠水楼の火災が単なる事故ではなく、
宮廷・軍・権力闘争へと連なる巨大な陰謀の一端であることを鮮明に示しながら幕を閉じる。
第3話あらすじ
狄仁傑は、鞠水楼事件と城外放火事件の背後に羽林軍の関与があると確信し、決定的な証拠を掴むため動き出す。狙いは「五月初十の日に長安を離れた羽林軍兵士」の記録である。狄仁傑は馬栄、喬泰とともに工人に変装し、瓦を積んだ車を押して軍の档案室へ潜入するという大胆な策を講じる。
顔見知りでない三人は兵に怪しまれるが、馬栄が暗器で別の工人を負傷させ、荷車を転倒させることで注意を逸らす。その隙に档案室へ入り込むことに成功し、狄仁傑と喬泰は手分けして文書を探す。一方、字が読めない馬栄は役に立たず、退屈しのぎに引き出しの中から一枚の玉佩をくすねてしまう。三人が立ち去った直後、異変に気づいた康執宜が兵を率いて捜索に入るが、すでに彼らの姿はなかった。
この潜入により、五月初十に長安を離れた羽林軍が四人いたことが判明する。狄仁傑は、この四人こそが偽の勅命で陳諸良を殺し、さらに口封じのために消された存在だと推理する。事件の輪郭は、ますます明確になっていく。
狄仁傑は、火場で拾った「海獣葡萄文様の牌」の正体を確かめるため、異国の商人が集まる市へ足を運ぶ。そこで一人の商人がその牌を見て驚き、玄甲軍のものであり極めて貴重だと語る。羽林軍、玄甲軍、そして宮廷――事件は、軍と権力の深部へと繋がり始めていた。
一方、屋敷に戻った馬栄は必死に字の練習を始めるが、その出来は散々なものだった。喬泰は、彼女が使っている紙に違和感を覚え調べてみると、それが偶然くすねてきた康執宜の案牍であることに気づく。運命的な偶然から得たその書類には、康執宜の父が過去に罪を犯し、長孫卿の庇護によって一族処罰を免れた経緯、さらに康執宜自身も長孫卿の後押しで宮中入りした事実が記されていた。
狄仁傑はこれらの情報を繋ぎ合わせ、衝撃的な結論に辿り着く。皇后に長年仕え、誰からも疑われていなかった康執宜こそが、鳳印を盗み、真相を知る者を次々と殺した黒幕であり、その背後には皇后最大の政敵・長孫卿がいるという構図だった。
狄仁傑は真相を魏無疾に告げるが、魏無疾は長孫卿の勢力があまりにも巨大で、正面から挑めば返り討ちに遭うと警告する。それでも狄仁傑は、「大木も内側から腐れば倒れる」と語り、好機を待つ覚悟を示す。しかしその道は、洪亮や馬栄、喬泰をも危険に巻き込む可能性があり、彼の心は大きく揺れる。
思い悩む狄仁傑は湖畔に佇み、長孫卿と康執宜が並ぶ姿を目にする。康執宜が慌てて視線を逸らす様子に、疑念はいよいよ確信へと変わる。そこへ並州小調が流れ、狄仁傑は父・狄知逊の最期を思い出す。自ら湖に身を投げ、救おうとする息子の腕の中で沈んでいった父。その記憶は、狄仁傑の胸に深い傷として残っていた。
その夜、狄仁傑は馬栄と喬泰と酒を酌み交わし、二人に長安を離れるよう命じる。自分が大きな危険に足を踏み入れたことを悟った馬栄は、表向きは従いながらも、陰で狄仁傑を見守る決意を固める。
数日後、長孫卿は国柏の祭祀を終えた後、馬にも乗らず徒歩で帰路につく。同行の官員たちは、天火は武后の失徳によるものだと訴えるが、長孫卿はそれを叱責し、「太尉である自分が禍の元を討てなかったから天罰が下った」として、街中で跪き、自責の念を示す。さらに皇帝に国柏を献じ、祈祷と多額の寄進を行うと宣言し、民心を掌握していく。
そこへ狄仁傑が現れ、「それでは何も解決しない」と公然と反論する。そして天火は再び起こり、次は**《姓氏録》が焼かれる**と予言する。その言葉は、長孫卿の根幹を揺さぶる挑発だった。
狄仁傑は国子監の学生たちと魏無疾に退避を勧めるが、魏無疾はあえて残ることを選ぶ。狄仁傑は自ら囮となって追っ手を引き離すが、乗っていた馬は薬を盛られ暴走し、足は鐙に絡め取られて逃げられない。
真相へあと一歩というところで、狄仁傑は命の危機に追い込まれ、第3話は緊迫の場面で幕を閉じる。
第4話あらすじ
暴走する馬に引きずられ、狄仁傑は鐙に足を取られたまま断崖へと追い込まれていく。必死に抜け出そうとするが、脚は完全に絡め取られ、もはや自力では下馬できない。死が目前に迫る中、駆けつけたのは馬栄と喬泰だった。二人は命がけで馬を制止しようとするが、狄仁傑は無理に引き上げれば共倒れになると判断し、あえて手を放すよう命じる。原因が脚の拘束にあると見抜いた馬栄は、迷いなく剣を振るい、縄を断ち切る。間一髪で狄仁傑は救い出され、三人は辛くも死地を脱する。
一方、洪亮は狄府を整え、国子監の学生たちを密かに匿っていた。狄仁傑は夜間の灯火や物音を厳禁とし、府内に人がいることを悟られぬよう厳命する。そして自らは喬泰とともに魏府へ向かい、魏無疾の身を守ることを選ぶ。賀大荊の位牌の前で、狄仁傑は酒を供えようとするが、そこで思いがけない違和感に気づく。酒瓮の中身は美酒ではなく、焱石を含んだ液体だったのだ。
さらに、かつて賀大荊が携えていた酒壺の中身も同じものであったことが判明する。これまでの捜査で見つけてきた案牍や海獣牌が、あまりに都合よく自分の目に触れるよう仕組まれていたことを思い出し、狄仁傑は背筋に冷たいものを覚える。――これらは康執宜や長孫卿を疑わせるために、誰かが意図的に用意した道筋ではないのか。狄仁傑は急ぎ魏無疾を問い詰める。
狄仁傑が最初に指摘したのは、「鞠水楼の火災で自分だけが生き残った」不自然さだった。追及の末、魏無疾はついに真相を語り出す。賀大荊が酒好きであることを知る魏无疾は、科挙を妨害する目的で、あらかじめ酒に焱石を仕込んでいた。しかし今回の科挙では酒壺の持ち込みが禁じられ、壺に細工した酒はほとんど流れ出てしまった。焱石が誤って早く燃えないよう、魏無疾は壺口に黄連を塗り、飲みづらくする工夫まで施していたという。
つまり、鞠水楼の火は天火ではなく、魏無疾が自ら仕組んだものだったのだ。
狄仁傑の追及を前に、魏無疾はすべてを認める。そして彼は、自らの身体に火を放つことで「天火」の伝説を完成させ、女子である武后を政権の座から引きずり下ろそうとしたのだと告白する。新政と女子執政に反対する強烈な信念が、彼をそこまで追い詰めていた。目の前で自焚する魏無疾を、狄仁傑は止めることができず、慟哭の叫びを上げるしかなかった。
その頃、狄府では洪亮が用意した精巧な機関が発動する。夜陰に紛れて侵入した黒衣の一団を迎え撃ち、数名を捕縛するが、敵は多勢だった。そこへ喬泰が駆けつけ、二人は共闘する。だが、その最中、一人の黒衣人が突如として洪亮側に加わり、狄仁傑が「生け捕りにせよ」と命じたにもかかわらず、捕らえた男を斬り殺す。明らかな挑発だった。その黒衣人は狄仁傑を誘い、長安の奥深くへと導く。
連れて行かれた先で、狄仁傑はついに皇后本人と対面する。狄仁傑が即座に剣を捨てる姿を見て、皇后は思わず笑みをこぼす。新政を進める中で受ける激しい反発、命を狙われる現実――それでも彼女は、運命が狄仁傑をここへ導いたのだと語り、真相解明を託す。
一方、朝廷では長孫卿派の官僚たちが皇帝に迫り、廃后を要求していた。天火事件の疑いは長孫卿に集中し、長安は一触即発の空気に包まれる。しかし長孫卿は青龍寺から動かず、皇后と皇帝は自ら寺へ赴き、正面から対峙する。長孫卿は皇后を「妖后」と断じ、新政を強く否定するが、その最中、寺に供えられていた巨大な蝋燭が裂け、中から鳳印が現れる。鳳印は失われてなどいなかった。その光景は、長孫卿にとって致命的な一撃となる。
狄仁傑は、長安の権力構造をすべて見通す。鳳印は最初から皇后の掌中にあり、天火騒動もまた、新政を守るための一種の防衛策だった。康執宜や司宝宮女を切り捨てる覚悟で長孫卿を追い詰めるはずが、魏無疾の暴走によって事態はより苛烈になり、結果として皇后は「借力打力」で政敵を失脚させることに成功したのだ。
しかし、その代償はあまりにも重い。十数人もの無辜の命が失われた事実に、狄仁傑は深い痛みを覚える。皇后は「その犠牲が報われるかどうかは、天下の百姓が決めること」と語り、新政がもたらす未来を見据える。
その後、狄仁傑は明経科で科挙を受け、殿試では「新」を題に策論を書く。その内容は皇后の心を捉えたが、彼自身はいまだ己の進むべき道を見定めきれずにいた。皇后は彼を蓬莱県令に任じ、「現場で真実を見つけよ」と命じる。
榜を見に行った馬栄と喬泰は、狄仁傑の名がないことに落胆するが、実はすでに官に任じられていたことを知る。こうして洪亮、馬栄、喬泰は狄仁傑の随行として旅立ち、
神探・狄仁傑の本当の物語は、ここから始まる――第4話はその出発点として幕を下ろす。
















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