太平年~乱世の夜明け~2026年 全48話 原題:太平年
第25話 豪族を味方に変える策と、迫る王の最期
章安港の上元節の宴で、銭弘俶は台州の窮状を打開するための策を示す。豪族から財産を奪って民に分け与えるのではなく、彼らの利益を合法的なものへ転換させるというのだ。営田司を通じて民に穀物を貸し付けていた一族は、貸借契約を提出して正式な手続きを取れば、元本と利息に相当する穀物を回収できる。さらに、税率の低い博易務を通じた海上貿易の特許を得られる仕組みだった。
雷氏や甘氏をはじめとする豪族たちは、この提案を受け入れ始める。民は失っていた土地の権利を取り戻し、台州の暮らしと商業にも希望が差し込む。銭弘俶は先に葛言平と魏倫を処刑して威信を示したうえで、今度は利益を提示して豪族を取り込むことに成功する。宴に参加しなかった一族まで特許を求めるようになり、沈寅も落ち着いて対応を進めていた。
その頃、呉越の都・杭州では、国の行く末を左右する事態が起きていた。銭弘佐は病状が悪化し、死期が迫るなか、弟の銭弘倧を水丘昭券と元徳昭に託す。しかし、銭弘倧は権臣の胡進思をあえて呼び寄せなかった。銭弘佐は、優柔不断な弟が政局を乗り切れるのかと案じていた。
銭弘佐は遺策のなかで、政務を元徳昭に委ね、軍権は分散させて互いに牽制させるよう指示する。さらに、九郎こと銭弘俶を都へ呼び戻し、政務を補佐させる方針を定めた。台州で改革を進める弟に期待を寄せながら、銭弘佐は自らの死後に訪れる権力争いを見据え、呉越の安定を守るため最後の布石を打つのだった。
第26話 新王即位と、台州に咲く婚礼
銭弘倧が呉越王の座を継ぐ。老臣の胡進思は表向き恭順な態度を示すが、朝廷で率先して即位を勧める儀礼を行ったことには、政治的な思惑が潜んでいた。一方、台州では銭弘俶が改革を成功させ、民の暮らしを立て直しつつあった。しかし、兄・銭弘佐の死によって、銭弘俶もまた都の権力争いに巻き込まれることが避けられなくなっていく。
中原の汴梁では、趙匡胤が郭栄と郭威に代わり、魏王・劉承訓の邸宅を訪問する。ところが、第二皇子の劉承祐にその姿を目撃され、趙匡胤を魏王派の人間だと疑われてしまう。父の趙弘殷は、息子が郭威と魏王の双方と関係を築いていることを頼もしく思うが、趙匡胤自身は慎重な姿勢を崩さなかった。
その夜、魏王・劉承訓が突然亡くなる。予期せぬ出来事に趙匡胤は驚き、葬儀では劉承祐が皇帝と皇后の前で悲しみのあまり倒れる。しかし、両親は息子の内に秘めた計算高さを見抜いていた。皇太子を失った後漢の政局は再び揺れ、唯一の正統な後継者となった劉承祐は、密かに自らの立場を固め始める。病の重い劉知遠は、兄弟である太原王を都へ呼び戻して政務を任せようとするが、群臣の反対に遭い、劉承祐を皇太子に立てるにとどまった。それでも、若い皇太子に国を託すことへの不安は消えない。
その頃、台州では銭弘俶と孫太真の婚礼が執り行われる。式典の最中、俞大娘子と俞文秀が黄龍島の軍船を率いて港に到着。整然と並ぶ戦船が花嫁の門出を祝福し、盛大で感動的な婚礼となる。
第27話 兄の死を知った銭弘俶、都の政争へ
沈寅は、婚礼が終わるまで銭弘佐の死を銭弘俶に知らせずにおこうと考えていた。しかし、兄の訃報を知った銭弘俶は、長年にわたって国のために尽くし、ついには過労によって命を落とした兄の苦労を思い、深い悲しみに沈む。そして、かつての自分の未熟さを振り返り、兄に対する申し訳なさを募らせる。孫太真はそんな夫を優しく慰めた。銭弘俶に恩義を感じる葛強も、録事参軍の職を辞し、彼に従って杭州へ向かうことを決意する。
後漢の朝廷では、皇太子・劉承祐が趙匡胤父子を警戒し、「父子がそろって宮中を守るのは法度に反する」として趙弘殷を異動させようとする。これに対し、趙匡胤は断固として官職を辞し、復州で新たな道を探ることを決めた。
杭州へ戻った銭弘俶を待っていたのは、激しい権力争いだった。新王の銭弘倧は慣例に従って軍への恩賞を行おうとするが、胡進思は正式な冊封を受けていないことを理由に反対する。銭弘倧が意見を聞き入れないため、胡進思は怒って席を立ち、王の怒りを買う。宰相の元徳昭も国費の節約を理由に胡進思に同調し、銭弘俶も時期尚早だと諫める。
ところが、銭弘倧は銭弘俶に宮廷の軍勢を統率させようとする。銭弘俶は、王が軍の歓心を買うことばかり考え、国全体の利益を顧みないのは危険だと率直に述べて辞退する。しかし銭弘倧は聞き入れず、先王の遺命を偽ってまで弟に軍職を与えてしまう。さらに胡進思を牽制するため、水丘昭券との縁組を画策するが、水丘はこれを断り、胡進思をむやみに疑うべきではないと忠告する。その隙を見た親衛都指揮使の何承訓は、胡進思を反乱へ追い込む策を進言するのだった。
第28話 胡進思の反乱、王宮を覆う血の影
上元節の宮廷宴会で、何承訓は胡進思を暗殺するため、密かに武装した兵を配置していた。銭弘倧が杯を投げるのを合図に、一斉に襲いかかる計画である。宴席では、銭弘倧がわざと胡進思を侮辱し、怒りをあおろうとする。だが、異変を察した銭弘俶が機転を利かせて兄の動きを遮り、さらに水丘昭券が王命を偽って何承訓に部隊の帰営を命じたことで、流血を伴う政変はかろうじて回避された。
宴の後、水丘昭券は銭弘倧を厳しく叱責する。孟子の言葉を引き、小人の讒言を信じて自ら国を支える柱を壊してはならないと諭した。しかし、何承訓は諦めず、胡進思を早急に排除しなければならないと再び銭弘倧をそそのかす。ついに銭弘倧は危険な賭けに出て、何承訓を胡進思の屋敷へ送り、王が誅殺を望んでいると直接伝えさせる。胡進思の反応を探るためだった。
ところが、何承訓は胡進思に宴席での暗殺計画をすべて明かし、その策を水丘昭券が提案したものだと偽る。自らが追い詰められたことを悟った胡進思は、先手を打つことを決断。屋敷の親兵や家臣を集め、武装して王宮へと向かう。
宮中ではたちまち騒乱が起こり、胡進思は武力によって宮廷を制圧する。銭弘倧は抵抗することもできず、胡進思に捕らえられてしまう。そして胡進思は、居並ぶ者たちの前で銭弘倧の「留後」としての地位を廃すると宣言する。王を守るはずの臣下が王宮を掌握し、呉越の政局は一気に暗転するのだった。
第29話 王位を迫られる銭弘俶
胡進思は兵を率いて銭弘俶の邸宅へ押しかけ、武力を背景に呉越王の位を継ぐよう迫る。銭弘俶は王位を望んでいなかったが、捕らえられた兄・銭弘倧の安否を確かめるため、やむなく要求を受け入れる。表向きは従う姿勢を見せながら、孫太真とともに入宮の準備を進め、裏では水丘昭券らに密使を送り、事態に対処するための協力を求めた。
一方、幽閉された銭弘倧は、もはや自分に打つ手がないことを悟る。そこで宦官の黄巍に命じ、宮中を抜け出して水丘昭券に救援を求めさせようとする。黄巍は別の方向に注意をそらす策を使って脱出を試みるが、胡進思の息子・胡璟に捕らえられてしまう。恐怖に駆られた銭弘倧は、黄巍への命令を否定し、すべての責任を彼に押しつけるのだった。
胡進思は後顧の憂いを断つため、何承訓に水丘昭券の殺害を命じる。何承訓は親衛の兵を率いて水丘の屋敷を包囲すると、弁明の機会も与えずに一族を虐殺する。水丘昭券とその家族は無残にも命を奪われ、杭州はさらなる混乱に陥った。
やがて銭弘俶は王宮で銭弘倧と対面する。銭弘俶は、自分にはもともと王位を争う意思などなかったと打ち明ける。王座に就けば、国を背負う責任から逃れられず、自由も失われることをよく理解していたからだ。それでも、呉越の国の基盤を守り、民の平穏を保ち、何より兄の命を救うためには、王位を引き受ける以外に道はない。銭弘俶は重い決意を胸に、避けることのできない運命と向き合う。
第30話 仇敵を国の柱とする覚悟
銭弘俶は呉越の留後に即位し、政局の安定を図るため、胡進思を宰相に任命する。水丘昭券にも宰相の地位を与える方針を示すが、その直後、何承訓が水丘昭券の首級を持って宮殿に現れ、彼が謀反を企てたと訴える。
水丘昭券の死を知った銭弘俶は、悲しみと怒りを抑えきれず、何承訓をその場で斬り捨てる。そして胡進思や群臣に向かい、奸臣が好き勝手に振る舞うことを自分は決して許さないと宣言し、こんな自分を王位に推すつもりなのかと問いただす。群臣は恐れおののいてひれ伏すが、銭弘俶は目の前に並ぶ臣下たちの姿に、かえって言いようのない孤独を覚える。怒りと緊張のあまり、その場で意識を失って倒れてしまった。
昏睡する銭弘俶は、水丘昭券が無残に殺された姿を目にし、亡き父や兄とも向き合う。その中で彼は、胡進思だけが自分の敵なのではなく、人々が互いに争い、疑い合うこの世のあり方こそが災いの根源なのだと悟っていく。
銭弘俶は持病を再発させ、高熱に苦しむ。孫太真は、医官や太后が相次いで見舞いに訪れれば、宮廷内外に疑念を生じさせ、国の基盤を揺るがしかねないと考え、面会を制止する。やがて銭弘俶は意識を取り戻し、月明かりの下で孫太真と向き合うと、杯を掲げて「胡進思は私の仇敵であり、国の柱石でもある」と叫ぶ。
一個人としての銭九郎なら、仇である胡進思を討ちたい。しかし、呉越の君主となった今、私怨に任せて権臣を排除すれば、国の安定を損ないかねない。銭弘俶は、憎しみを胸に秘めながらも国を守るために胡進思を遇するという、苦渋の決断を下すのだった。
















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