正当防衛~それは、正義か殺意か~ 2025年 全15話 原題:正当防卫
第1話あらすじ
物語は、検察官である段鸿山が警察署に現れ、自ら「人を殺した」と自首する衝撃的な場面から始まる。突然の告白に周囲は騒然となり、野次馬たちは「彼は検察官だから、どうせすぐに釈放されるだろう」「これまでも職権を利用して不正な案件処理をしてきたのではないか」と好き勝手に噂する。正義を司る立場の人物がなぜ殺人を認めたのか、その真意は謎に包まれていた。
時間は事件の5日前に遡る。段鸿山は娘の滢滢から電話を受ける。彼女は中学進学を控えた面接試験があり、「一緒に来てほしい」と父に頼む。しかし仕事に追われる段鸿山はすぐには応じられず、それでも最終的には水曜日に同行する約束を交わす。仕事と家庭の間で揺れる彼の姿が、後の出来事への伏線のように描かれる。
その頃、ある殺人事件が発生する。被疑者は女性の江婷。彼女は長年、夫の张源から家庭内暴力を受け続けていた。そしてついに、彼を刺し殺したとして逮捕される。事件現場となった自宅には家主も居合わせており、「まだ解決していない事件で部屋がどうなるのか」と困惑している様子だった。事件当日、江婷は洗濯をしており、その所要時間は28分。電気メーターの記録とも一致していたため、行動の一部は客観的に裏付けられていた。
取り調べの中で、江婷は当日の出来事を語る。张源は突然家に現れ、包丁を持ちながら料理のアスパラガスの下処理に難癖をつけ、「家に他の男がいるのではないか」と疑いを向けた。もともと猜疑心の強い彼は、根拠もなく江婷を責め立て、そのまま暴力を振るい始める。恐怖に駆られた江婷は、身を守るために包丁で彼を刺したと主張する。
しかし検察側の刘少兰は疑問を呈する。最初の一刺しで张源はすでに動けなくなっていた可能性があるのに、なぜ江婷はその後も合計7回も刺し続けたのか。これに対し江婷は、「極度の恐怖の中で相手が本当に動けないのか分からなかった。もし立ち上がって自分を殺しに来たらと思うと止められなかった」と涙ながらに説明する。その言葉は切実だが、同時に過剰防衛の可能性も強く示していた。
一方で、段鸿山は彼女の自宅から魚の水槽を持ち帰る。拘束された江婷は「誰も餌をやらなければ魚が死んでしまう」と頼み、彼はそれを引き受ける。この何気ない行動が、彼の人間性と、被疑者に対する共感を象徴している。
検察内部ではこの事件の扱いを巡り議論が紛糾する。「正当防衛」とする意見と、「故意殺人」とする意見が真っ向から対立し、結論は容易に出ない。そんな中、新たな証言が浮上する。向かいの住人である梅筝が名乗り出て、事件当時の様子を目撃していたという。彼女は张源が江婷に刃物を向ける場面を見ており、助けようとして懐中電灯で彼の目を照らした。その直後に江婷が刺したという。恐怖から当初は証言を控えていたが、後になって重要な事実を明かしたのだった。
さらに物語は過去へと繋がる。上司の宫检は、14年前に段鸿山が担当した事件を持ち出す。それは高校の図書館で起きた喧嘩の末、一人が失血死した事件で、最終的にもう一人の少年は「防衛過当」と判断された。この過去の判断が、現在の事件と奇妙に重なり始める。
現場検証では、懐中電灯で相手の視界を奪うことが実際に可能であることが確認されるが、証言の細部にはまだ不明点が残る。やがて段鸿山は、新たに赴任してきた検察官方灵渊と対面する。彼女は冷静に状況を分析し、「現時点で正当防衛と断定するのは早計だ」と指摘する。それに対し段鸿山は、「証拠から見れば正当防衛が妥当だ」と主張し、二人の間に鋭い対立が生まれる。
そして決定的な疑惑が浮かび上がる。方灵渊は、ある内部告発の存在を明かす。それは段鸿山が江婷と結託し、彼女を正当防衛として無罪に導こうとしているという内容だった。彼女はその告発をきっかけに、段鸿山自身を疑っていると告げる。
正義を貫こうとする検察官は、本当に正しい判断をしているのか。それとも感情や過去に引きずられているのか。物語は、「正当防衛」と「殺意」の境界がいかに曖昧であるかを突きつけながら、不穏な幕開けを迎える。
第2話あらすじ
物語は、殺人を自首した段鸿山への警察の取り調べから始まる。捜査員は、被害者が誰なのか、なぜ遠く離れた漁場で事件が起きたのかを問いただすが、段鸿山は一切口を開かず、沈黙を貫く。その態度は、何かを隠しているようにも、あるいは守ろうとしているようにも見え、事件の謎をさらに深めていく。
時間は事件前日に遡る。検察官の方灵渊は、証人である梅筝の元を訪れ、そこに置かれていた水槽に目を留める。それが誰のものか尋ねると、梅筝は「もともとは江婷のもので、彼女に頼まれた段鸿山が預かり、さらに自分のところに置かれた」と説明する。この何気ないやり取りが、後に重要な意味を持つことになる。
その後、段鸿山と方灵渊は拘置所で江婷と面会する。段鸿山は雑談のように、方灵渊がかつて自分と同じ第三中学の出身であることを話題にし、江婷と面識があるかを尋ねるが、彼女は「知らない」と即答する。一方の江婷は、何度も同じことを聞かれることに苛立ちを見せ、「自分はいつ帰れるのか」と強い関心を示す。これに対し方灵渊は、「もう帰れると分かっているかのようだ」と指摘し、彼女の自信の根拠を探ろうとする。江婷はあくまで「正当防衛だから当然だ」と言い切る。
ここで方灵渊は、水槽の魚について問いかける。江婷は「種類は知らない」と答えるが、方灵渊は矛盾を突く。魚を大切にし、餌や世話を気にするほどの人物が、種類を知らないのは不自然だというのだ。そしてその魚が「ブルーグラミー(蓝曼龙)」であり、強い光を浴び続けると水温上昇により酸素が不足し死んでしまう性質があると説明する。江婷は水槽をベランダに置いていたと話していたが、それなら魚が生きているのはおかしい。この違和感が、新たな疑念を生み出す。
面会後、方灵渊は単独で行動を開始し、水族館で働く梅筝を訪ねる。彼女は、梅筝と江婷が以前から面識があり、水槽の魚も彼女が贈ったものではないかと追及する。しかし梅筝は強く反発し、「証拠があるなら逮捕すればいい」と開き直る。さらに方灵渊は、段鸿山に対する内部告発の内容が梅筝にも関係していると明かし、疑いは一層深まっていく。
一方その夜、梅筝はバーで一人酒を飲みながら誰かを待っていたが、結局その相手は現れなかった。その相手こそが段鸿山である可能性が示唆される。
翌朝、段鸿山の娘である滢滢が目を覚ますと、父の姿が消えていた。彼女は母の雷爽に助けを求める。二人は検察院を訪れるが、同僚の丁一も段鸿山が出勤していないことを確認する。約束を必ず守るはずの父が姿を消したことに、雷爽は「これは失踪だ」と断言し、警察への通報を指示する。
その頃、方灵渊は再び梅筝と接触する。梅筝は前夜、段鸿山と会う約束をしていたが会えなかったと語り、さらに驚くべきことを口にする。「もし自分が証言を取り消したら、江婷はどうなるのか」と。真実を見たはずの証人がなぜそんなことを言い出すのか。問い詰める方灵渊に対し、梅筝は意味深に「14年前、江婷の証言は本当に真実だったのか」と返す。その言葉は、過去の事件と現在の事件が繋がっている可能性を強く示していた。
やがて、監視カメラの解析により、段鸿山はトンネル付近で消息を絶っていたことが判明する。方灵渊は関係者の一人である李沐风のもとを訪ねると、彼は前日に段鸿山と会っていたと証言する。しかしその直後、警察は彼を連行し事情聴取を行う。李沐风は「一度過ちを犯した人間は、ずっと疑われ続けるのか」と強く訴え、過去に何らかの問題を抱えていたことを匂わせる。
だが翌日、事態は急転する。段鸿山が自ら警察に出頭し、事件は自分一人の問題であり、李沐风は無関係だと明言したのだ。その結果、李沐风は釈放される。しかし拘置所に入った段鸿山は、依然として何も語ろうとしない。
そこへ妻の雷爽が面会に訪れる。彼女は「あなたは誰かに脅されているのではないか」と問いかけ、「あとは自分が何とかする」と告げる。そして突如、娘滢滢の親権放棄を求める書類にサインするよう迫る。殺人犯の娘という烙印から守るためだというが、段鸿山はこれを拒否する。「自分は正当防衛だ」と言い切り、最後まで信念を曲げようとしない。
果たして彼の沈黙の裏にある真実とは何なのか。正義を信じる検察官は、なぜ自ら罪を背負おうとしているのか。物語はさらに深い闇へと進んでいく。
3話あらすじ
警察の取り調べに対し、これまで沈黙を貫いていた段鸿山が、ついに口を開く。彼は事件当夜、「旧友に会うため外出した」と語り始めるが、その相手の名前については「プライバシーに関わる」として明かそうとしない。捜査員に促され、彼はさらに当時の行動を説明する。トンネル付近で屋台の輪投げに立ち寄り、娘の滢滢が好きそうなぬいぐるみを手に入れたこと、その後暗い路地に入ったところで突然後頭部を殴られ、意識を失ったことを語る。
目を覚ましたとき、段鸿山は何者かに拘束されていたという。犯人は見知らぬ男で、「お前の担当した事件には問題がある」と責め立てながら、ネット配信まで行っていたと主張する。画面越しに多くの人々が段鸿山を罵倒していたというのだ。そして男は彼を殺そうとし、もみ合いの末に段鸿山はナイフで相手を刺した。「あれは正当防衛だった」と彼は断言する。
しかし警察は、この供述に強い疑念を抱く。現場の状況は彼の説明と一致せず、さらに動画配信の記録も確認できなかった。つまり、その“ライブ配信”自体が存在しない可能性が高いのだ。段鸿山は「確かに見た」と食い下がり、犯人の携帯電話を調べるよう求めるが、その携帯はいまだ発見されていなかった。
そんな中、妻の雷爽が新たな情報を持って現れる。犯人の正体は、14年前の事件で亡くなった少年・周林の父親、周德龙だというのだ。この証言により、現在の事件が過去と深く結びついていることが明らかになる。
一方、検察側では方灵渊が内部告発の出所を探っていた。彼女は容疑者が2人いると睨むが、上司の宫检は「まずは段鸿山が話し始めたことを優先すべきだ」として深入りを避ける。しかし方灵渊は独自に動き、周德龙の自宅を訪れる。そこには14年前の事件資料や、段鸿山に関する記録がびっしりと残されており、長年にわたる執念が感じられた。
さらに衝撃的な発見がある。部屋には盗聴装置が仕掛けられており、隣室である段鸿山の家族の会話――娘の滢滢と母の雷爽の電話内容まで盗み聞きできる状態だったのだ。つまり、周德龙は長期間にわたり段鸿山の生活を監視していたことになる。しかし当の段鸿山がこの事実を知っていたのかは不明のままだった。
事件の影響は社会にも広がっていく。これまで段鸿山が関わった事件の関係者や遺族たちが次々と現れ、「あの裁判も間違っていたのではないか」と疑念を口にし始める。正義の象徴だった検察官は、一転して疑惑の中心へと引きずり下ろされていく。
方灵渊は拘置所で段鸿山と対面し、改めて問いただす。彼はこれまでの自分の判断に誤りはないと主張し、「今回の件も正当防衛であるべきだ」と譲らない。そこで方灵渊は、犯人が周德龙であることを伝えるが、段鸿山は「当時会ったのは母親だけで、父親とは面識がない」と答える。
それでも彼は、この事件の本質を冷静に見据えていた。もし周德龙が自分を殺せば、それは彼自身の未来を破壊することになる。逆に自分が周德龙を殺せば、それは過去を壊す行為になる。つまりこの事件は、単なる復讐ではなく、「司法そのものへの信頼を崩すための仕掛け」だというのだ。そしてその支点こそが、14年前の事件だった。
一方で、娘の滢滢は学校で孤立し始めていた。周囲の生徒たちは父の事件を噂し、彼女を避けるようになる。家族にも重い影が落ちていく。
再び面会に訪れた雷爽は、2通の書類を差し出す。1つは親権放棄、もう1つは自宅の名義変更。すべては娘のためだと説明するが、その実、生活基盤を確保するためでもあった。段鸿山はこれにも署名を拒み、最後まで父としての立場を手放そうとしない。
その後、雷爽は李沐风を訪ね、彼の本心を探る。「段鸿山を恨んだことはないのか」と問うと、彼は「彼がいなければ自分はもっと悪い状況にいた」と答える。段鸿山が過去に彼を支えていたことが明らかになるが、それでも疑問は残る。本来なら周德龙が恨むべき相手は李沐风のはずなのに、なぜ標的は段鸿山だったのか――。
そして物語の終盤、水中捜索が行われる。警察は証拠となる携帯電話を探すため、水族館の協力を得てダイバーを投入する。そこに名乗り出たのが梅筝だった。彼女は自ら潜水し、ついに携帯電話を発見する。しかし――彼女はそれを警察に渡さず、密かに隠してしまう。
証拠を握りながら沈黙する梅筝。その行動の真意とは何か。
物語は、真実がますます見えなくなる中で、新たな緊張を孕みながら進んでいく。
4話あらすじ
方灵渊たちは事件現場である漁場を訪れ、関係者から話を聞く。そこで明かされたのは、この場所で養殖されている魚は「光に弱く、昼間はもちろん月明かりのある夜でも基本的に人は近づかない」という特殊な環境だったという事実だった。これを聞いた方灵渊は、事件当夜が満月だったことに思い至る。つまり周德龙は、あえて人が来ない条件が整った夜を選び、段鸿山をここへ連れてきた可能性が高いと考える。
その頃、警察から連絡が入り、海中から携帯電話が発見されたことが報告される。ただし長時間海水に浸かっていたため、データ復元には時間がかかるという。発見者については「水族館から来た女性」としか分かっておらず、方灵渊はその人物に強い関心を抱く。
方灵渊は再び拘置所で段鸿山と向き合い、改めて周德龙との関係を問いただす。しかし彼は「知らない」と繰り返すばかりで、態度は変わらない。そこで彼女はさらに踏み込み、「実は二人は壁一枚隔てた隣人だった」と指摘する。それでも段鸿山は「本当に知らなかった」と否定する。
さらに移動時間についても疑問が投げかけられる。漁場から警察署までは通常30分程度の距離だが、段鸿山は「43分かかった」と証言していた。彼はその理由として、車内で同じ曲を9回繰り返し聴いていたことを挙げる。暗闇の中、怪我を負い、慣れない道を運転したため多少遅れたのは自然だと説明するが、方灵渊は遠回りの可能性を疑い続ける。
一方、娘の段滢滢は、父の事件の真実を知ろうと動き始める。彼女は李沐风を訪ね、「父に会いたい」と訴える。李沐风は彼女を拘置所の前まで連れて行くが、面会は叶わない。帰り道、段滢滢は法律を調べたことを明かし、「人を殺したらやっぱり罪になるんだよね」と不安を口にする。それに対し李沐风は、「人を殺したからといって必ず有罪になるわけではないし、有罪になった人が必ずしも悪人とは限らない」と静かに語る。かつては善悪がはっきりしていると思っていた段滢滢は、「もう分からなくなった」と揺れる心を吐露する。
その頃、方灵渊は梅筝の動向を追っていた。彼女が水族館で働いている理由を問うと、梅筝は「水の中にいると一人になれる」と答える。その言葉には過去から逃れたい思いが滲んでいた。さらに方灵渊は、かつて周德龙が彼女に付きまとっていた事実を示し、「その人物はすでに死亡している」と伝える。そして決定的な証拠として、段鸿山と梅筝が密会していた写真を突きつけるが、彼女は動揺を隠しきれないままその場を離れてしまう。
一方で、方灵渊は李沐风の工房も訪れる。彼が制作していた作品にわずかな気泡が入っているのを見た師匠は、それを「不完全だ」として容赦なく壊してしまう。その光景を前に、方灵渊は自らの過去の行動を重ねる。彼女は以前、根拠なく李沐风を疑ったことを認め、率直に謝罪する。李沐风は「疑われることには慣れている」と苦笑しながらも、「謝られるとは思わなかった」と驚きを見せる。方灵渊は「間違えたなら謝るべきだ」と真っ直ぐに言い切る。
検察庁では、上司の宫检が夜遅くまで働く方灵渊に声をかける。彼女が「何よりも真実が重要だ」と語ると、宫检は「その姿勢は14年前の段鸿山にそっくりだ」と意味深に告げる。過去と現在が再び重なり始める瞬間だった。
その後、李沐风は自ら方灵渊のもとを訪れ、新たな証言をする。周德龙は以前から彼に脅迫メッセージを送り、「必ず殺す」とまで言っていたという。さらに店に押しかけて騒ぎを起こし、「段鸿山と梅筝も自分の仇だ」と公言していたことが明らかになる。
事件の関係者が複雑に絡み合う中、捜査チームの丁一は利害関係を理由に担当からの回避を申し出るが、宫检は「この事件は特殊だ」としてそれを認めない。すべてが通常の枠を超えた異常な事態であることが浮き彫りになる。
再び拘置所での対話。段鸿山は、自身の見解として「今回の事件は単独ではなく、14年前の事件を起点に、様々な危険な要素が意図的に組み合わされた結果だ」と語る。そして、その背後で全てを仕組んだ人物がいるはずだと指摘する。真相に近づく発言だったが、方灵渊は鋭く切り返す。
「その人物が、あなた自身である可能性もあるのでは?」
突きつけられた疑念に対し、段鸿山は静かに否定する。「自分ではない」と。
だが、彼の語る“誰か”は本当に存在するのか。それともすべては彼自身が作り出した物語なのか。
真実は依然として霧の中にあり、物語はさらに深い迷宮へと進んでいく。
5話あらすじ
複雑に絡み合う事件の全体像を整理しようと、捜査チームの丁一は資料を前に頭を抱えていた。しかし個々の出来事は断片的で、明確な結論には至らない。そこへ現れた方灵渊は、冷静に三つの事件――現在の殺人事件、江婷の事件、そして14年前の図書館事件――を整理し、「この三件はすべて独立しているように見えて、実は共通点がある」と指摘する。その共通点こそが、すべて段鸿山に繋がっているという事実だった。彼女は「三つの事件を一体として捜査すべきだ」と提案し、捜査の方向性を大きく転換させる。
一方、拘置所では江婷が強い不安と怒りを爆発させていた。自分の事件の担当が方灵渊だと知ると、「あの人は自分を陥れようとしている」と激しく動揺し、取り乱してしまう。看守は慌てて医師を呼び、彼女の精神状態の悪化が浮き彫りとなる。
その頃、方灵渊は14年前の事件の当事者である李沐风に改めて話を聞くため、彼のもとを訪れる。李沐风は静かに当時を振り返る。大学入試を終えた直後、彼は図書館で本を借りるのが日課だった。あの日、館内から助けを求める声を聞き駆けつけると、周林が梅筝に暴力を振るっていた。彼は間に入り止めようとするが、周林は棍棒を持ち出し、逆に彼を激しく殴り始めた。恐怖の中、どこからか落ちていたナイフを手に取り、咄嗟に刺してしまった――それが事件の真相だという。
しかし当時の判決は「防衛過当」。正当防衛とは認められなかった。この判断について問われると、李沐风は「無罪であってほしかった」と本音を漏らしつつも、「それでも段鸿山はその後、自分を支えてくれた」と複雑な心境を語る。
資料を確認した方灵渊は、証人である梅筝の証言もほぼ一致していることを確認する。彼女もまた、あの日図書館で周林に襲われ、恐怖の中で助けを求めた一人だった。だがここで方灵渊は、重要な問いを投げかける。「もし自分を傷つけた相手のために証言しなければならないとしたら、あなたならどうするか?」。この問いに対し、丁一たちは「黙る」と答える。人間の感情と証言の信頼性、その曖昧さが浮かび上がる瞬間だった。
その後、李沐风は省都へ向かう途中、警察の職務質問を受ける。過去の前歴が記録に残っているため、簡単には解放されない。さらに車内の乗客から「人を殺した男だ」と囁かれ、彼は再び社会の偏見に晒される。
実家を訪れた彼は、母親に自分の作品が出展される大会のチケットを手渡す。しかしそこへ継父が帰宅し、状況は一変する。継父は李沐风の過去を激しく非難し、「彼の存在が家族の未来を壊す」と言い放つ。さらに「もし最初から知っていれば子どもは作らなかった」とまで言い切る。その言葉を陰で聞いていた李沐风は、深い傷を負う。母親は彼に「あなたは私に悪いことはしていない、自分自身に対して申し訳ないだけ」と優しく諭し、彼を送り出す。
一方、方灵渊は独自の手話能力を使い、李沐风の師匠に接触する。以前、店に何者かが押しかけて作品を壊したという情報を確認するが、師匠は「作品を壊せるのは自分だけだ」と語り、他人の関与を否定する。この証言により、事件の一部に虚偽が含まれている可能性が浮上する。
丁一は「李沐风が偽証しているのではないか」と疑いを強めるが、方灵渊はまず段鸿山の見解を確認することを優先する。拘置所での再聴取で、彼は当時の判断基準を説明する。棍棒を持つ周林に対し、ナイフを持った李沐风は過剰な反撃を行ったため、致命的な危険はなかったと判断したという。
しかしその裏には、別の疑念もあった。ナイフが現場にあったことを証明できなかった点だ。さらに段鸿山は、当時の李沐风が法学書を多く読んでいたこと、さらには政法大学への推薦が決まっていたことを思い出す。つまり彼は、正当防衛の成立条件を十分理解していた可能性があったのだ。
やがて大会当日、李沐风の作品は高く評価される。しかしその最中、彼は警察に連行される。偽証の疑いについて問い詰められると、彼は「脅迫メッセージ自体は本物だが、信じてもらうために誇張した」と認める。そして段鸿山への感情について、「恨んだことはあるが、同時に助けられてきた」と語る。師匠を紹介してくれたのも、大会出場の機会を与えたのも、すべて段鸿山だった。
だがその後、審査員たちの会話が彼の耳に入る。「あの作品が実体験に基づくものなら、逆に陳腐だ」。その言葉は、彼の過去と現在、そして苦しみのすべてを否定するかのように響く。
正義とは何か。真実とは何か。そして人はどこまで過去から逃れられるのか。
それぞれの思惑と傷が交錯する中、事件はさらに深い核心へと迫っていく。
















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