荊棘(いばら)の花~奪われた私~

荊棘(いばら)の花~奪われた私~

荊棘(いばら)の花~奪われた私~ 13話・14話・15話・16話・17話 あらすじ

荊棘(いばら)の花~奪われた私~ 2024年 全22話 原題:披荆斩棘的大小姐

第13話の見どころ

羅季達が娘たちへ遺した“最後の贈り物”が明らかになり、復讐の物語は新たな局面を迎えます。遺産を巡る駆け引きの末、沈丹青と羅雪児はついに正面から激突。父への憎しみを語る雪児と、父の真意を知る丹青が激しくぶつかり合います。一方、徐程風は連続事件の真相へ一歩近づき、沈丹青を静かに気遣う優しさも見せます。そして物語のラストでは、沈丹青が羅家を取り戻し、羅雪児を屋敷から追放する痛快な逆転劇が描かれます。

第13話「羅雪児、羅家を追われる」

甘露堂では帳簿の整理をしていた番頭が、羅季達が生前に預けていた銀行の預かり証を偶然見つける。

その報告を受けた羅雪児はすぐに銀行へ向かった。

預かり証を差し出すと、主人は静かに説明する。

「これは羅季達様が三人の娘の嫁入り道具として預けられた品です。」

雪児は当然のように引き出そうとするが、主人は首を横に振る。

「受け取りには羅家当主の印章が必要です。」

思わぬ条件に、雪児は苛立ちを隠せなかった。

その頃、沈丹青も同じ情報を耳にしていた。

さらに雪児が印章を見つけられずにいることも知る。

彼女は水仙へ命じた。

「雪児が牢へ周姨娘を訪ねたら、すぐ知らせて。」

印章の在りかは周姨娘だけが知っていると読んでいたのである。

雪児はまず周姨娘が収監前に残した持ち物を調べる。

しかし印章は見当たらない。

屋敷にもなく、所持品にもない以上、本人に聞くしかなかった。

牢へ入った雪児を見た周姨娘は、すべてを見透かしたように笑う。

「ようやく来たわね。」

「あなたは私を助けに来たのではない。」

「印章が欲しいだけでしょう。」

図星を突かれた雪児は探るように質問を重ねる。

そのやり取りの中で、周姨娘は思わず口を滑らせてしまう。

印章は羅霜霜へ渡した、と。

雪児は怒りを露わにした。

「最後まで霜霜ばかり!」

「私は道具だったのね!」

さらに彼女は長年胸に秘めていた秘密を明かす。

実は幼い頃、周姨娘と蕭家の使用人との会話を偶然聞いていたのだ。

そこで知った真実――。

自分は羅季達の娘ではない。

臨県の蕭家酒造の娘であり、羅季達こそ父の仇だった。

羅家に引き取られたのも偶然ではなく、運命の皮肉だったのである。

周姨娘は涙ながらに頼み込む。

「お願いだから霜霜だけは守って。」

「あなたと霜霜には同じ血が流れているの。」

しかし雪児の心はすでに憎しみに支配されていた。

「霜霜にはあなたが処刑される姿を見せる。」

「この世で頼れるのは私だけだと思い知らせる。」

そう言い放ち、冷たく牢を後にする。

その後、沈丹青は周姨娘を訪ね、思いもよらない提案を持ち掛けた。

「取引をしましょう。」

「印章の在りかを教えてください。」

「その代わり霜霜の命だけは守ります。」

沈丹青は復讐を望んでいても、罪のない命まで奪うつもりはない。

その誠意を感じた周姨娘は長く沈黙した末、取引に応じる決心をする。

「霜霜をお願い。」

その言葉には、一人の母親としての最後の願いが込められていた。

一方、羅雪児は郊外の別荘へ向かい、羅霜霜へ巧妙な嘘を吹き込む。

「沈丹青は父様が残した嫁入り道具を狙っている。」

「あなたも私もさらわれるかもしれない。」

そう言うと、あらかじめ手配していた家僕たちに盗賊の芝居を演じさせる。

突然現れた男たちに驚く霜霜を連れて雪児は必死に逃げ出す。

すべては演技だった。

純粋な霜霜はすっかり姉を信じ込んでしまう。

その混乱に乗じ、雪児は印章の在りかを尋ねる。

霜霜は首を振る。

「印章なんて預かっていない。」

だが会話の中から、母が木箱を渡していたことだけは聞き出すことに成功した。

その夜、雪児は一人で別荘裏の木の根元を掘り返し、埋められていた箱を見つけ出す。

これで印章は自分のものだと喜ぶが、その様子を沈丹青が見逃すはずもなかった。

水仙の報告を受けて駆け付けた沈丹青は、部下を率いて雪児を急襲する。

箱は奪い返した。

しかし雪児は一枚上手だった。

本物の印章だけは事前に懐へ隠していたのである。

その頃、徐程風は百事通が殺害された現場を再調査していた。

彼は床の一部だけ妙に乾いていることへ気付く。

酒がこぼれたような跡はあるのに、その場所だけ水気が残っていない。

不自然だった。

沈自山へ相談すると、彼は答える。

「硼砂を使えば床を乾かせます。」

徐程風はすぐに真相を見抜く。

犯人自身も毒で負傷し、血痕や痕跡を消すため床を洗ったのだ。

「犯人も解毒薬を必要としたはず。」

沈自山は繆神医へ命じる。

「最近、珍しい解毒薬を求めた者を薬屋から調べてくれ。」

事件は着実に核心へ近付いていた。

一方、印章を手にした雪児は意気揚々と銀行を訪れる。

ようやく父の遺産を手に入れられる――。

そう信じていた。

ところが主人が差し出した箱を開けると、中に入っていたのは一幅の絵だけだった。

期待は完全に裏切られる。

実はその前に沈丹青が本物の印章を使って銀行を訪れていたのである。

そこで受け取ったのは、羅季達から娘たちへ宛てた一通の手紙だった。

手紙には父としての想いが綴られていた。

「どんな人生になっても困らぬように。」

三人の娘それぞれへ、羅家秘伝の酒造りの配合を一つずつ遺していたのである。

それは金銀財宝よりも価値ある宝だった。

父は最後まで三人を平等に愛していた。

手紙を読み終えた沈丹青は、羅愛蓮としての記憶が溢れ、静かに涙を流す。

「お父様……。」

その優しさを思うほど、二度と会えない現実が胸を締め付ける。

その夜、徐程風は以前気に入った「乗風酒」を求めて沈家を訪れる。

だが沈自山は妹が落ち込んでいることを理由に面会を断った。

代わりに自ら酒を渡す。

徐程風は帰ろうとした時、屋敷の奥から小さな泣き声を耳にする。

沈丹青が泣いている。

理由は分からない。

それでも彼は何も聞かなかった。

そっと酒だけを置き、「少しでも元気になりますように」と心の中で願いながら静かに立ち去る。

後になって沈自山が尋ねる。

「銀行では何があった?」

沈丹青は真実を話す。

周姨娘から、箱の二重底に本物の印章が隠されていると教えられていたこと。

そして父の手紙と秘伝を受け取ったこと。

一方その頃、雪児も銀行から「本物の印章を持った沈丹青が先に来ていた」と聞かされ、激怒する。

完全に出し抜かれたのだった。

その怒りを抱えたまま羅家へ戻ると、今度は債権者たちが押しかけていた。

返済を迫る声が屋敷中に響く。

そこへ悠然と姿を現したのは沈丹青だった。

「安心してください。」

「今日からこの借金は私が引き受けます。」

彼女は一枚の契約書を取り出す。

それは周姨娘が正式に署名した、甘露堂と羅家の全財産の売買契約だった。

羅雪児は言葉を失う。

沈丹青は合法的に羅家そのものを手に入れていたのである。

そのまま雪児を羅家の祠堂へ連れて行かせる。

父祖の位牌の前で跪かせると、静かに問い掛けた。

「羅愛蓮を殺したの?」

「父を見殺しにしたの?」

雪児はもはや隠そうともしなかった。

「私は自分のものを取り返しただけ。」

「蕭家酒造は羅季達に奪われ、父は殺された。」

「私の復讐は当然よ。」

しかし沈丹青は首を振る。

「父は最後まであなたを娘として愛していた。」

「手紙も、秘伝も、三人全員に遺していた。」

「一度もあなたを差別していない。」

その言葉を聞いても雪児の心は動かなかった。

彼女はなおも冥婚へ送られそうになった恨みだけを口にする。

沈丹青は怒りを抑え切れず、雪児の頬を打った。

「恩を仇で返し、人の道まで踏みにじった。」

「それでもまだ自分は正しいと言うの?」

雪児は最後まで謝ることはなかった。

その姿を見届けた沈丹青は静かに命じる。

「この女を羅家から追い出しなさい。」

「二度とこの屋敷へ足を踏み入れることは許しません。」

家僕たちは雪児を門の外へ放り出す。

かつて羅家を思いのままに支配していた女は、何一つ持たぬまま夜の町へ追われていった。

こうして羅愛蓮が失った故郷は、ついに沈丹青の手によって取り戻される。

しかし、すべてを失った羅雪児の憎悪はなお消えておらず、新たな復讐の火種となって静かに燃え続けていた。

第14話の見どころ

沈丹青がついに羅家の当主として新たな一歩を踏み出す一方、皇鏢事件の黒幕が怡親王であることが明らかになり、物語は一気に陰謀劇へと加速します。徐程風と沈自山は共闘して真犯人を追い詰めますが、宗偉の毒牙により沈自山が瀕死の重傷を負うことに。さらに沈丹青の出生の秘密が徐程風に知られ、互いの信頼関係にも変化が訪れます。解毒薬を巡る緊迫した駆け引きの末、救いと新たな絶望が待ち受ける、怒涛の展開が続く重要な一話です。

第14話「黒幕は怡親王」

沈丹青は正式に羅家へ戻り、父・羅季達の位牌の前で静かに頭を下げる。

「必ず羅雪児に罪を償わせます。」

「そして羅愛蓮の汚名を晴らし、羅家の酒造りを再び盛り立てます。」

さらに、羅霜霜にも穏やかな人生を歩ませると誓うのだった。

その後、沈丹青は部下へ命じる。

「二十年前に蕭家酒造が滅んだ経緯を調べて。」

「雪児と蕭家の関係も必ず明らかにして。」

復讐だけではなく、過去の真実にも目を向け始める。

一方、庄園から逃げ出した羅霜霜は、わずかな装飾品を売り払い、その金で牢へいる周姨娘に会おうとする。

しかし牢番は冷たく言い放つ。

「面会したければ五十両だ。」

霜霜には到底払える額ではない。

母に会うこともできず、その場で立ち尽くすしかなかった。

その日は、本当の沈丹青の誕生日でもあった。

沈自山が妹を思い出し、静かに手を合わせている姿を見た沈丹青は声を掛ける。

「今日は妹さんへ何を伝えたい?」

沈自山は位牌を見つめながら答える。

「必ずあいつを見つけ出して、この手で仇を討つ。」

沈丹青は優しく微笑んだ。

「本当の沈丹青も、きっと兄さんには幸せでいてほしいと思っています。」

「これからは私が妹として、あなたを支えます。」

その言葉に沈自山は静かにうなずいた。

その頃、繆神医は百事通を殺害した毒針を詳しく調べていた。

解毒薬に使われていた薬草は「杏甘草」。

聊城で扱う店はごくわずかだった。

沈自山は薬店の調査を命じる。

やがて購入記録から、宗偉の部下・蕭威の名前が浮かび上がる。

徐程風は結論を口にした。

「実行犯は宗偉。」

「だが、その背後にいるのは怡親王だ。」

怡親王が聊城へ来た真の目的は、皇鏢と宝の地図を奪った事件の証拠隠滅だったのである。

宗偉をおびき寄せるため、徐程風は大胆な策を立てる。

「百事通が善堂の額の裏へ密書を隠した。」

その偽情報を、あえて緑竹を通じて怡親王へ流した。

案の定、その夜。

宗偉は部下を率いて善堂へ姿を現す。

徐程風と天昊は待ち伏せし、一気に襲い掛かった。

宗偉は激しく応戦するが、逃げ道には沈自山も待ち構えていた。

二人の連携で宗偉は追い詰められる。

しかし追い込まれた宗偉は毒針を放ち、沈自山へ命中させた。

さらに仲間を口封じのため自ら殺害し、その混乱に乗じて逃走してしまう。

倒れた沈自山を繆神医が診察する。

「これは以前、本当の沈丹青を襲った毒と同じです。」

「このままでは一日しか持ちません。」

沈丹青は迷わず言った。

「私の血を使ってください。」

しかし繆神医は首を振る。

「あなたと沈自山には血縁がありません。」

「換血では救えない。」

その会話を、偶然やって来た徐程風が耳にしてしまう。

事情を隠せなくなった繆神医は説明する。

「沈丹青は沈家の実の娘ではなく、養女なのです。」

徐程風は驚きながらも、それ以上は問い詰めなかった。

一方、宗偉は緑竹が裏切ったと思い込み、夜の将軍府へ侵入する。

緑竹は胸を刺され、駆け付けた天昊の腕の中へ倒れ込んだ。

「私を責めないで……。」

「母を守るため、怡親王に逆らえなかっただけ。」

涙を浮かべながら彼女は重要な情報を告げる。

「西四大街の薬屋……。」

「あそこが宗偉の毒薬と解毒薬を作る場所よ。」

徐程風と沈丹青は、すぐ薬屋へ向かった。

天昊は緑竹の手を握る。

「誰も君を責めたりしない。」

「五年間、本当によく耐えた。」

緑竹はようやく安堵したように目を閉じるのだった。

薬屋では徐程風たちが解毒薬の手掛かりを見つける。

だが宗偉はすでに罠を仕掛けていた。

沈丹青が誤って仕掛けを作動させ、爆薬が炸裂する。

徐程風はとっさに彼女をかばい、自ら爆風を受けて負傷した。

沈丹青は必死に傷を手当てする。

「ごめんなさい……。」

「兄さんを助ける時間がなくなってしまう。」

焦る彼女を徐程風は励ます。

「まだ諦めるな。」

その頃、宗偉は袖弩を失った責任を取り、自害を申し出ていた。

しかし怡親王は冷たく言う。

「お前にはまだ利用価値がある。」

「死ぬのはその後だ。」

宗偉は再び命を預けられることになった。

徐程風は最後の望みを懸け、沈丹青を連れて怡親王のもとへ向かう。

彼は宗偉が落とした袖弩を机へ置いた。

「これが皇鏢事件の証拠です。」

「解毒薬と交換していただきたい。」

怡親王は余裕の笑みを浮かべる。

「構わぬ。」

「ただし、お前が掴んだ皇鏢事件の情報をすべて渡せ。」

沈自山を救うため、徐程風は苦渋の決断を下す。

こうして手に入れた解毒薬を沈丹青は急いで沈自山へ飲ませた。

沈自山は苦しそうに息を整え、やがてゆっくりと目を開ける。

誰もが安堵した。

しかし繆神医の表情は晴れなかった。

薬を調べた彼は静かに告げる。

「これは本物ですが、半分しかありません。」

「命は助かりました。」

「ですが、残り半分を一日以内に服用できなければ、身体は元には戻りません。」

希望を得た直後に突き付けられた新たな絶望。

沈丹青は沈自山の手を強く握りしめ、必ず残る半分の解毒薬を奪い返すことを心に誓うのだった。

 

 

第15話の見どころ

沈自山を救うため、沈丹青は命を懸けた決断を下し、怡親王から「側室になれ」という残酷な条件を突き付けられます。一方、徐程風は大切な人を守れない自分を責め続け、ついに沈丹青への抑え切れない想いと向き合うことに。花嫁姿の沈丹青を巡る緊迫の「略奪婚」、そして二人が初めて本音をぶつけ合う場面は必見です。互いを守ろうとする気持ちがすれ違いながらも確かに結ばれ、恋と陰謀が大きく動き出す、シリーズ屈指の名場面が描かれます。

第15話「怡親王、沈丹青に婚姻を迫る」

沈自山は解毒薬を飲んだことで命こそ取り留めたものの、身体はほとんど動かなかった。

残る半分の解毒薬がなければ、一生このままだという。

兄の苦しむ姿を見つめる沈丹青は胸を締め付けられていた。

「このまま見ているだけなんてできない。」

彼女は一人で怡親王のもとへ向かおうとする。

しかし、その前に徐程風が立ちはだかった。

「待て。」

「怡親王は並の相手じゃない。」

「焦って動けば、相手の思うつぼだ。」

徐程風は冷静に状況を分析する。

怡親王は沈家と自分たちが宝の地図を狙っていることを知っている。

だからこそ解毒薬を半分だけ渡し、沈自山を人質同然に利用しているのだ。

「奴は地図を手に入れても、秘密を解けていない。」

「だから慎重に動いている。」

「こちらも策を練らなければならない。」

だが沈丹青の心は揺るがなかった。

沈自山は命を救い、自分に家族の温もりを教えてくれた恩人である。

「兄さんだけは絶対に助けたい。」

その思いだけが胸を満たしていた。

結局、沈丹青は誰にも告げず、単身で怡親王を訪ねる。

「どんな条件でも受けます。」

「兄を助けてください。」

怡親王は楽しそうに彼女を見つめた。

「本当に何でも?」

そして静かに告げる。

「私の側室になれ。」

「返事は一日だけ待ってやる。」

あまりにも屈辱的な条件だった。

その頃、徐程風も必死に解毒薬の行方を探していた。

しかし成果はない。

自分の無力さを責め、酒をあおる。

「戦場では仲間を守れないこともある。」

「だが平和な世では違うと思っていた。」

百事通も、緑竹も、そして沈自山まで救えなかった。

彼は深い絶望に沈む。

酔いに任せてつぶやく。

「羅愛蓮も……守れなかった。」

その名前を聞いた沈丹青は胸が痛んだ。

彼女は本当の羅愛蓮だった。

徐程風は今も自分の死を悔やみ続けていたのである。

眠り込んだ徐程風を見つめながら、沈丹青は小さく微笑む。

「あなたは悪くない。」

「私は一度も恨んだことなんてない。」

抑えてきた想いがあふれ出す。

彼女はそっと身をかがめ、眠る徐程風の唇へ静かに口づけを落とした。

しかし、その想いを胸に秘めたまま、翌日には決断を下す。

怡親王のもとへ嫁ぐことを。

もちろん本気で妻になるつもりはない。

婚礼の場で怡親王を討ち、相打ちになる覚悟だった。

それが兄を救い、徐程風にも道を開く唯一の方法だと信じていた。

婚礼の日。

沈丹青は真紅の花嫁衣装に身を包み、静かに現れる。

「約束どおり、解毒薬を兄へ届けてください。」

怡親王は満足そうに笑う。

「安心しろ。」

「今日からお前は私の女だ。」

沈丹青は冷たく答える。

「私は自害するような女ではありません。」

「死ぬなら敵を道連れにします。」

その強気な姿勢に、怡親王はむしろ興味を示す。

「そういう女ほど手なずける楽しみがある。」

婚礼が始まろうとした、その瞬間だった。

「待て!」

鋭い声が響く。

現れたのは徐程風だった。

「この婚姻は本人の意思ではない。」

「認めるわけにはいかない。」

剣先を怡親王へ向け、真っ向から対峙する。

宗偉たちが剣を抜く。

緊張が一気に高まる。

徐程風はためらうことなく沈丹青の手を取った。

「行くぞ!」

そのまま彼女を連れ去る。

宗偉らは執拗に追撃するが、徐程風は敵を次々となぎ倒し、二人はようやく追っ手を振り切った。

逃走の途中、沈丹青は肩へ傷を負ってしまう。

安全な場所で休息すると、徐程風は無言で傷薬を取り出した。

衣を少しずらして手当てを始める。

その時、彼は彼女の背中に蓮の花の刺青を見つける。

「これは?」

沈丹青は一瞬動揺するが、すぐに答えた。

「昔、大きな傷を負った跡を隠すためです。」

徐程風はそれ以上追及しなかった。

だが別の怒りが込み上げてくる。

「どうして俺に相談しなかった。」

「俺を信用していないのか。」

沈丹青も負けじと言い返す。

「違う!」

「私はあなたを巻き込みたくなかっただけ。」

「解毒薬を手に入れたら、怡親王を殺して私も死ぬつもりだった。」

徐程風は驚く。

「そんなことを考えていたのか……。」

そして静かに真実を打ち明ける。

実は彼はすでに宗偉の動きを読んでいた。

宗偉は薬屋へ解毒薬を隠したままだと推理し、天昊と共に再び薬屋を張り込んでいたのである。

予想どおり宗偉は解毒薬を移そうと現れた。

その隙を突き、徐程風は本物の残り半分を手に入れていた。

「確証が持てなかった。」

「だから君には言えなかった。」

「もし間違っていたら、余計に希望を持たせてしまうから。」

沈丹青は目を見開く。

自分が命を捨てようとした頃、徐程風は最後まで諦めず動いていたのだ。

徐程風は彼女を見つめる。

「俺は君を失うのが怖かった。」

「だから助けに行った。」

沈丹青も静かに答える。

「私も……あなたが来るなんて思っていませんでした。」

互いに命を懸けて守ろうとしていたことを知り、二人の距離は一気に縮まる。

徐程風は傷の手当てを終えると、少し照れ隠しのように笑った。

「君は俺のために傷を負った。」

「俺は君の着替えまで手伝った。」

「ここまでしたんだから……責任を取って嫁いでくれてもいいんじゃないか?」

思いがけない冗談に、沈丹青は思わず頬を赤らめる。

張り詰めていた空気がようやく和らぎ、二人は初めて心から笑い合うのだった。

 

第16話の見どころ

徐程風はついに沈丹青への恋心を自覚し、自ら想いを伝えようと動き始めます。一方、沈自山もまた丹青への恋心を認め、兄弟同然だった二人の男が恋のライバルになることを宣言。恋模様が大きく動き出す一方で、皇鏢事件では怡親王の狙いがまだ終わっていないことも判明します。さらに、徐程風は酔った夜に交わした口づけが夢ではなかったと確信し、沈丹青との距離を縮めようと奮闘。笑いあり、ときめきあり、三角関係の幕開けとなる見逃せない一話です。

第16話「徐程風、沈丹青への想いを確信する」

「責任を取って嫁いでくれてもいいんじゃないか?」

思わず口をついて出た徐程風の言葉に、二人の間の空気が一瞬で固まる。

徐程風は自分でも失言だったと気付き、慌てて咳払いをした。

「い、いや……今のは冗談だ。」

沈丹青も顔を赤くしながら視線を逸らす。

「私も気にしていません。」

互いに気まずさを隠せないまま会話は終わり、徐程風は沈丹青を沈家まで送り届けた。

帰り道、徐程風の脳裏には酒に酔った夜の記憶がよみがえる。

誰かと酒を酌み交わし、そして優しい口づけを受けたような感覚――。

彼は思い切って尋ねる。

「あの日、俺が酔っていた夜……君は一緒だったのか?」

沈丹青は一瞬息をのむ。

羅愛蓮としての正体だけは、まだ知られるわけにはいかない。

「私はその場にはいませんでした。」

そう静かに嘘をついた。

一方、沈自山は解毒薬のおかげで意識を取り戻していた。

彼は妹へ微笑みかける。

「また命を救われたな。」

しかし沈丹青は首を横に振る。

「私じゃありません。」

「最後の解毒薬を見つけたのは徐程風です。」

「私は当然のことをしただけ。」

「兄さんも、昔こうして私を助けてくれましたから。」

沈自山は悔しそうに拳を握る。

「宗偉を取り逃がした。」

「証拠まで失ってしまった。」

だが沈丹青は優しく励ます。

「証拠はまた集めればいい。」

「敵が誰なのかは、もう分かっています。」

「必ず復讐の機会は訪れます。」

その頃、将軍府では徐程風が天昊へ妙な質問をしていた。

「俺という男をどう思う?」

天昊は不思議そうな顔をしながら答える。

「家柄は申し分ありません。」

「武芸も一流。」

「顔立ちも良い。」

「性格は……徐将軍らしいです。」

徐程風は満足そうにうなずく。

「では沈丹青もそう思うだろうか?」

天昊は少し考えたあと、容赦なく言った。

「難しいでしょう。」

「初対面で疑われ。」

「次は湖へ突き落とされ。」

「山賊との戦いでは怪我まで負いました。」

「相性は正反対です。」

「きっと結ばれません。」

その言葉に徐程風は即座に反論した。

「そんなことはない。」

「俺は必ず彼女と一緒になる。」

初めて自分の気持ちをはっきり認めた瞬間だった。

一方、羅雪児は羅家を追われ、乞食同然の生活を送っていた。

住む場所もなく、街をさまようしかない。

沈家では沈自山の回復が進み、繆神医から徐程風へ養女の件を話したことを知らされる。

だが沈自山は怒るどころか笑みを浮かべた。

彼は自分の本当の気持ちを自覚していた。

沈丹青を義妹ではなく、一人の女性として愛していることを。

そして近く開かれる廟会で、その想いを伝える決意を固める。

その頃、徐程風は怡親王の動きを考えていた。

宝の地図を手に入れたはずなのに、なぜ聊城を離れないのか。

沈自山も推測する。

「地図だけでは秘密は解けない。」

「徐程風の捜査を利用して答えを得ようとしている。」

「ならば先に秘密を解けば勝機はある。」

二人は改めて協力を誓った。

一方、行き場を失った羅雪児は酔雲楼で働き口を求める。

店主は厄介事を恐れて断ろうとするが、その時、怡親王と偶然ぶつかった。

雪児はわざと転び、その身体を怡親王へ預ける。

怡親王は不快そうに衣を払い、使った手巾を彼女へ投げ捨てた。

それでも店主は勘違いする。

「怡親王のお気に入りかもしれない。」

そう考え、雪児を店で働かせることにした。

その一方で、徐程風は怡親王による民女強奪を朝廷へ上奏する。

やがて聖旨が届き、怡親王は都への帰還を命じられた。

羅霜霜は母を救う資金を集めるため、町で懸命に働き続ける。

また酔雲楼では、羅雪児が客に絡まれる騒ぎが起きていた。

そこへ杜影児が現れ、雪児を助ける。

彼女は雪児へ和田玉の腕輪まで贈り、

「これを売って新しい人生を始めなさい。」

と優しく声を掛けるのだった。

その頃、天昊は一枚の手巾を徐程風へ届ける。

それは薬屋で負傷した徐程風を、沈丹青が手当てした時に使ったものだった。

手巾を見つめた徐程風は、あることに気付く。

「あれは夢じゃなかった。」

酒に酔った夜、沈丹青が自分へ口づけた記憶は現実だったのである。

嬉しさを隠しきれない徐程風は、すぐに沈丹青へ文を送り、夜に会いたいと誘う。

約束どおり現れた沈丹青へ、徐程風は酔った勢いで尋ねる。

「あの日、一緒に酒を飲んだのは君だろう?」

沈丹青は否定する。

しかし徐程風は手巾を取り出した。

「これは君の物だ。」

「そして……。」

彼は沈丹青へ顔を近づける。

「あの日を思い出させてくれ。」

突然の行動に沈丹青は真っ赤になる。

「もう!」

「分かりました!」

「確かにあの日、一緒にいたのは私です。」

ようやく真実を認めた。

徐程風はさらに尋ねる。

「なぜ羅愛蓮の話をした?」

沈丹青は慎重に答える。

「私は彼女を知っています。」

「愛憎がはっきりした女性でした。」

「あなたが今でも彼女を忘れていないと知れば、きっと喜ぶと思います。」

徐程風は静かにその言葉を受け止めた。

翌朝、徐程風は丹青酒荘を訪れ、昨夜の無礼を素直に詫びる。

そのうえで笑顔を見せた。

「今日は花見に行かないか?」

しかし沈丹青は申し訳なさそうに断る。

「先約があるんです。」

その相手は沈自山だった。

廟会へ一緒に出掛ける約束をしていたのである。

沈自山は徐程風を門まで送りながら、静かに切り出した。

「実は俺も丹青が好きだ。」

「義兄としてではない。」

「一人の女性として。」

徐程風は驚く。

沈自山は真っ直ぐ彼を見つめた。

「だから譲るつもりはない。」

「公平に勝負しよう。」

恋敵となった二人は、互いの想いを認め合うのだった。

徐程風は二人について廟会へ行こうとするが、沈自山は巧みに理由を付けて断ってしまう。

廟会では、沈自山が糖葫蘆を買いに席を外す。

その隙を待っていた徐程風は、祭りの「花神」に変装して沈丹青の前へ現れた。

色鮮やかな花束を差し出し、二人きりで祭りを楽しもうとする。

しかし正体がばれてしまい、慌てて沈丹青の手を引いて逃げ出した。

「ようやく二人きりだ。」

徐程風は満面の笑みを浮かべる。

だが、その幸せな時間は長く続かなかった。

糖葫蘆を買い終えた沈自山が、二人の前へ現れたのである。

三人は思わぬ形で顔を合わせ、沈丹青を巡る恋の火花は、ますます激しく燃え上がっていくのだった。

 

第17話の見どころ

恋と復讐が交錯する庙会で、徐程風はついに沈丹青へ真っすぐな想いを伝えます。しかし丹青は自らの秘密を抱えたまま、その気持ちを受け入れることができません。一方で、羅季達の死と皇鏢事件を結ぶ新たな手掛かりも浮上し、事件はさらに大きな陰謀へ。徐程風が「羅愛蓮を信じた理由」を語る場面は切なく、丹青の胸を大きく揺さぶります。恋愛模様とミステリーが同時に大きく動き出す重要な一話です。

第17話「徐程風、ついに想いを告げる」

廟会は思いがけず三人で巡ることになった。

徐程風と沈自山は互いに沈丹青へ想いを寄せていることを知っており、少しでも二人きりにさせまいと牽制し合う。

そんな中、沈丹青は露店で幼い頃に母・羅愛蓮が作ってくれたものによく似た**兔子灯(うさぎ灯籠)**を見つける。

その灯籠を景品にした射的大会が開かれ、徐程風と沈自山はどちらも丹青のために挑戦する。

互角の勝負の末、最後は徐程風が見事な腕前で勝利し、うさぎ灯籠を手に入れた。

しかし沈丹青は、兄を気遣ってその場を離れ、沈自山と願い札を書きに向かう。

徐程風は丹青を追い掛け、沈自山を席から外してもらうよう頼む。

二人きりになると、徐程風は静かに口を開いた。

「返事を聞かせてほしい。」

沈丹青は目を伏せる。

「思い出は心の中にあるから美しいものです。」

「現実になれば、きっと壊れてしまいます。」

そして、徐程風の気持ちを受け止めることはできないと告げる。

徐程風は彼女の瞳を見つめた。

「君の心にも、俺はいる。」

「理由は分からない。でも、それでも待つ。」

「君が俺を信じられる日まで。」

それでも沈丹青は首を横に振った。

彼女には、自分が本当は羅愛蓮であるという秘密がある。

その真実を明かせない限り、彼の想いには応えられなかった。

その後、沈自山は妹へ尋ねる。

「どうして灯籠を受け取らなかった?」

沈丹青は静かに答える。

「期待を持たせたくないの。」

「程風はいまも愛蓮を救えなかったことを悔やみ続けている。」

「私はまず、愛蓮の無実を証明したい。」

「蕭家の真実も明らかにしたい。」

「それが終わるまで、恋を考えることはできない。」

沈自山は優しくうなずく。

「すべて終わる日まで、俺も一緒に戦う。」

一方その頃、天昊は怡親王が宝の地図を解読するための道具を探し続けていることを突き止める。

徐程風はすぐに林閣老へ報告し、その道具について調査を依頼した。

少しでも怡親王より先に真相へ辿り着こうとしていたのである。

その頃、沈家には杜影児が西域・亀茲から帰って来る。

幼い頃から沈丹青の親友だった女性だ。

しかし現在の沈丹青は愛蓮の魂で生きているため、影児との思い出をほとんど覚えていない。

幸い沈自山が会話を取り繕い、その場を切り抜ける。

後で彼は丹青へ説明した。

「影児はお前の一番の親友だ。」

「細かいことは俺にも分からない。」

「とにかく自然に振る舞えばいい。」

徐程風も沈家を訪ねるが、ちょうど丹青は外出中だった。

杜影児は彼を歓迎し、沈丹青が開く予定だった帰郷祝いへ誘う。

やがて丹青と沈自山も戻り、宴が始まる。

徐程風はわざと杜影児と親しげに話し、沈丹青の反応をうかがう。

さらに幼い頃の話を聞き出した。

杜影児は笑顔で語る。

「七歳の時、池へ落ちた私を助けてくれたのが丹青だった。」

徐程風は驚く。

「丹青は泳げるのか?」

沈自山が説明した。

「あの頃は泳げた。」

「でも影児を助けたあと、水が怖くなってしまった。」

「それ以来、一度も泳いでいない。」

徐程風は以前、水へ突き落としたことを思い出し、胸を痛めるのだった。

その後、林閣老から新たな手紙が届く。

宝の地図は普通には読めず、特殊な顕影水を吹き付けることで初めて道筋が浮かび上がるという。

そして、その顕影水に詳しい人物は欧陽という姓の収集家で、羅季達とも親交があったことが判明する。

一方、沈丹青は蕭家没落の真相も調べていた。

調査の結果、蕭家当主は酒造りではなく賭博で財産を失っていたことが分かる。

羅季達は正当な取引で酒蔵を引き継ぎ、借金まで肩代わりし、蕭家当主へ仕事まで与えていた。

羅雪児が信じていた「父の仇」という話とはまったく違う事実だった。

沈丹青はさらに証人となる元蕭家の番頭を探すよう命じる。

その夜、沈自山は杜影児の好きな物や癖を書き留めた手帳を丹青へ渡した。

「困った時はこれを読め。」

そして真剣な表情で続ける。

「程風は頭が切れる。」

「いつか必ず、お前の秘密に気付く。」

沈丹青も静かにうなずいた。

「その時は……全部話すつもり。」

杜影児もまた、沈丹青の異変に気付いていた。

使用人から、彼女が重傷を負って多くの記憶を失ったと聞いた影児は、その夜丹青を訪ねる。

「昔のことは私が全部覚えている。」

「だから心配しないで。」

さらに背中に残る火傷の跡を見つけると涙ぐみ、

「これからは何があっても一人で抱え込まないで。」

と優しく抱きしめるのだった。

一方、天昊は徐程風へ妙案を授ける。

丹青を嫉妬させるため、「徐将軍が近く結婚する」という噂を町へ流したのである。

しかし当の徐程風は激怒。

屋敷には縁談が殺到し、逃げ回る羽目になってしまう。

その噂は沈丹青の耳にも届いた。

彼女は平静を装うが、その胸は大きく揺れていた。

杜影児はそんな丹青の様子を見て、徐程風を問い詰める。

「あなたは丹青を泣かせる気?」

徐程風は慌てて事情を説明した。

「全部、彼女の本心を知りたかっただけなんだ。」

杜影兒は少し大げさに、

「丹青はすごく落ち込んで、泣いていたわ。」

と伝える。

その話を聞いた徐程風は、丹青が自分を想ってくれていると知り、大喜びで沈家へ駆け付けた。

彼は沈丹青の前で、もう隠さずに告げる。

「俺は君が好きだ。」

「誰よりも大切に思っている。」

さらに羅季達の死についても新情報を明かす。

「羅季達は家族争いで殺されたのではない。」

「宝の地図が原因だった可能性が高い。」

その鍵を握るのが、欧陽という収集家だった。

沈自山はすぐに部下へ捜索を命じる。

そして最後に、沈丹青は徐程風へ問い掛けた。

「どうして、羅愛蓮を信じたの?」

徐程風は迷わず答える。

「会ったのは数えるほどだった。」

「でも、彼女の目はまっすぐだった。」

「嘘をつく人間の目じゃなかった。」

「だから、信じた。」

その言葉は、正体を隠し続ける沈丹青の胸へ深く響く。

しばらく沈黙したあと、彼女は静かに微笑んだ。

「欧陽という人なら、私が居場所を知っています。」

「明日、一緒に会いに行きましょう。」

二人は新たな真実を求め、再び歩き始めるのだった。

 

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