荊棘(いばら)の花~奪われた私~

荊棘(いばら)の花~奪われた私~

荊棘(いばら)の花~奪われた私~ 9話・10話・11話・12話 あらすじ

荊棘(いばら)の花~奪われた私~ 2024年 全22話 原題:披荆斩棘的大小姐

第9話の見どころ

毒蜘蛛による暗殺、隠されていた真実、そして法廷で明かされる衝撃の証言――。沈丹青は命の危機に瀕しながらも潔白を証明し、徐程風との信頼をさらに深めていきます。一方、追い詰められた周姨娘は二人の娘を守るため、すべての罪を一人で背負う決断を下します。そして沈家と徐程風は皇帝の宝の地図事件を巡り正式に手を組むことに。復讐劇と陰謀劇が新たな局面へ進む重要な一話です。

第9話「娘を守るための罪」

沈丹青――羅愛蓮が牢に収監されている中、羅雪児は羅霜霜を伴って面会へ訪れる。

二人は勝ち誇ったような態度で愛蓮を見下ろし、静かに問いかける。

「なぜ、あなたは何度も羅家に敵対するの?」

愛蓮は動揺することなく微笑みを浮かべる。

「私は羅家を滅ぼしたいわけではありません。」

「ただ羅家の秘密を知ってしまっただけ。その秘密を利用して羅季舟と取引をしようとしていただけです。」

あえて真実をぼかしたその言葉に、雪児はなおも疑いを抱く。

しかし彼女は、それ以上問い詰めるよりも確実な方法を選んだ。

愛蓮を生かしておけば、いつか真相が暴かれる。

そう考えた雪児は、人知れず西域から持ち込まれた猛毒の毒蜘蛛を牢内へ放つ。

暗い牢の隅から現れた毒蜘蛛は、ゆっくりと愛蓮へ近付いていく。

異変に気付いた愛蓮は、このままでは毒に侵され命を落とすことを悟る。

彼女は牢番を鋭く睨みつける。

「すぐに徐程風将軍へ知らせなさい。」

「そして沈家へ行き、繆神医を連れて来るのです。」

命令口調に圧倒された牢番は慌てて役所を飛び出す。

しかし事態は思うようには進まなかった。

徐程風は将軍府で怡親王に呼び止められ、皇帝の宝の地図に関する報告を執拗に求められていた。

一方の沈家も、白知府が差し向けた役人たちに包囲され、繆神医は外へ出ることができない。

牢の中で愛蓮は毒が少しずつ全身へ回っていくのを感じながら、静かに死を覚悟し始める。

その頃、徐程風はようやく行動に移る決断を下す。

彼は怡親王へ向かって告げた。

「宝の地図につながる重要な手掛かりが見つかりました。」

「必ず戻ると誓約書を書きます。」

そう言って書面まで残し、ようやく将軍府を抜け出すことに成功する。

徐程風はその足で繆神医を連れ、急いで牢へ駆け付ける。

毒に苦しむ愛蓮を見た繆神医は、まず解毒丹を飲ませ応急処置を施した。

「これは毒の進行を止めるだけです。」

「本当の解毒薬は、これから調合します。」

命だけは何とか取り留めた愛蓮だったが、徐程風は彼女を牢から出そうと申し出る。

しかし愛蓮は首を横に振る。

「私を逃がす必要はありません。」

「それよりも羅季舟を見つけてください。」

「彼だけが私の無実を証明できます。」

その言葉を聞いた徐程風は、すぐに羅季舟の行方を追うことを決意する。

一方、周姨娘たちも沈丹青が救われたことを知り顔色を変える。

もし羅季舟が徐程風に発見されれば、自分たちの悪事はすべて明るみに出てしまう。

周姨娘は急いで手下を放ち、徐程風より先に羅季舟を探し出そうとする。

しかし一歩早かったのは徐程風だった。

彼は隠れ家に身を潜めていた羅季舟を発見する。

そこで羅季舟は震える声で真実を語り始める。

周姨娘は霜霜が自分の娘だと嘘をつき、自分を利用したこと。

出生の秘密が露見すると、霜霜が香炉の台座で自分を殴ったこと。

さらに気を失ったふりをしていた間、周姨娘たちが沈丹青へ罪を着せる相談をし、白知府まで買収していたこと。

羅季舟は命を守るため、遺体安置所へ運ばれた後に密かに抜け出して身を隠していたのだった。

すべてを聞いた徐程風は、ようやく沈丹青の潔白を確信する。

羅季舟もその場で膝をつき、「どうか私に正義を与えてください」と涙ながらに訴える。

徐程風は天昊へ命じる。

「周姨娘、羅雪児、羅霜霜をすぐ役所へ連行しろ。」

捕縛の知らせを受けた周姨娘は、すべてが終わったことを悟る。

それでも最後まで娘たちだけは守ろうと決意し、霜霜へ言い聞かせる。

「最後まで、お前は父親を殺していないと言いなさい。」

法廷では、死んだはずの羅季舟が姿を現し、その場は騒然となる。

追い詰められた周姨娘は、羅季舟殺害未遂については素直に認めた。

しかし同時に衝撃の告発を行う。

「羅季舟は昔、私を辱めた男です。」

自分の人生を狂わせた張本人だと訴え、羅季舟もまた激しく反論する。

法廷は互いの罵声が飛び交う混乱の場となる。

怒りを抑え切れなくなった周姨娘は羅季舟へ掴みかかり、激しく突き飛ばしてしまう。

その拍子に羅季舟は机へ頭を強く打ち付け、再び意識を失って倒れてしまう。

すべてを見届けた周姨娘は静かに口を開く。

「沈丹青を陥れたのも、羅季舟を殺そうとしたのも全部私です。」

「娘たちは何も知りません。」

二人の娘だけは助けたい一心で、すべての罪を自分一人が背負う決意を固めたのだった。

白知府は周姨娘へ「親族殺害未遂」の罪を言い渡し、秋の刑執行を待つ「斬監候」の判決を下す。

一方、沈丹青には無罪が宣告され、その場で釈放される。

しかし徐程風は、それだけでは終わらせなかった。

彼は白知府が賄賂を受け取り、公正な捜査を怠り、職権を乱用した数々の不正を一つずつ指摘する。

白知府には一年間の減俸と二十杖の刑が科され、法廷で恥をさらすこととなった。

事件が一段落すると、沈丹青は助けてくれた徐程風へ感謝を伝えるため、沈自山とともに酔雲楼へ招待する。

食事の席で愛蓮は率直に切り出す。

「あなたは何度も私を女山賊だと疑いました。」

「湖へ突き落としたことさえありました。」

「そこまで執着するのは、聊城へ来た本当の目的があるからでしょう。」

さらに彼女は続ける。

「その目的は、沈家から奪われた皇帝の宝の地図。」

徐程風は否定しない。

愛蓮は兄・沈自山へ視線を向ける。

「兄様は妹を毒殺した犯人を探している。」

「徐将軍は宝の地図を探している。」

「この二つの事件は、同じ時期に起きています。」

「きっと敵も同じです。」

沈自山も静かに頷く。

「私は徐将軍を信じよう。」

こうして沈家と徐程風は正式に手を結び、それぞれの事件を共同で調べることを約束する。

その夜、将軍府へ戻った徐程風を待っていたのは、再び怡親王だった。

怡親王は捜査資料を差し出すよう迫るが、徐程風は沈自山から得た情報を密かに林閣老へ送るよう天昊へ命じる。

思い通りにならなかった怡親王は、不気味な笑みを浮かべながら一人の若い侍女・緑竹を褒美として徐程風へ与える。

その真意が監視であることは誰の目にも明らかだった。

天昊は警戒し、緑竹を屋敷の離れへ配置しようとする。

しかし徐程風は首を振る。

「普通の侍女として扱え。」

「そうしておかなければ、怡親王は満足しない。」

こうして将軍府にも新たな監視の目が送り込まれ、皇帝の宝の地図を巡る陰謀は、さらに深く複雑さを増していくのだった。

 

第10話の見どころ

沈丹青と徐程風の距離が少しずつ縮まる一方、羅雪児は羅家の財産を独占するため冷酷な野望をあらわにします。怡親王の間者・緑竹を利用した心理戦、羅愛蓮の形見の玉佩が繋ぐ切ない想い、そして新たに開業する「丹青酒荘」を巡る羅家との新たな対立など、見どころ満載。復讐だけではなく、それぞれの思惑や人間関係が大きく動き始める転換点となる物語です。

第10話「羅家の財産を狙う者」

将軍府では、新たに侍女として仕えることになった緑竹が、徐程風の動向を探るため静かに機会をうかがっていた。

ある日、緑竹は手作りの菓子を届ける名目で徐程風の書斎へ入る。

ちょうどその時、天昊が極秘情報を報告していた。

「今夜、標的が城外の廃寺に現れます。」

「今度こそ一網打尽にしましょう。」

その会話を偶然聞いた緑竹は、すぐさま夜の廃寺へ向かい、物陰に身を潜めて様子をうかがう。

しかし、一晩中待ち続けても誰一人現れることはなかった。

肩透かしを食らった緑竹は翌朝将軍府へ戻る。

すると再び天昊が、「今夜も廃寺で待機する」と報告しているのを耳にする。

緑竹は疑うことなく再び偵察へ向かうが、これもまた空振りに終わる。

実はすべて徐程風と天昊が仕組んだ芝居だった。

二人は顔を見合わせて笑う。

「これで怡親王には偽の情報だけが伝わる。」

緑竹が間者であることを最初から見抜いていた徐程風は、わざと偽情報を流し、逆に敵を翻弄していたのである。

その報告を受けた怡親王もまた冷静だった。

「緑竹が本当の機密を持ち帰るとは最初から思っていない。」

彼の狙いは別にあった。

徐程風が誰と会い、どんな表情を見せ、何を考えているのか。

その何気ない日常こそが最大の情報源であり、人の心理を操る材料になると考えていたのである。

こうして両者は互いに相手を欺こうとする、高度な情報戦を繰り広げていた。

そんなある日、沈丹青は今後の捜査について相談するため将軍府を訪れる。

その様子を見た緑竹は、自ら作った菓子を徐程風へ差し出し、わざと親しげに寄り添う。

周囲に二人の親密さを印象づけようという魂胆だった。

しかし徐程風はすぐに察し、天昊へ命じる。

「緑竹を下がらせろ。」

誤解を招くことを嫌った徐程風は、沈丹青へ事情を説明する。

「彼女は怡親王が送り込んだ監視役だ。」

「私とは何の関係もない。」

ところが愛蓮は恋愛話にはまったく興味を示さない。

むしろ楽しそうに笑いながら提案する。

「それなら美男計を使えばいいじゃありませんか。」

「彼女があなたに本気で恋をすれば、怡親王の秘密まで教えてくれるかもしれません。」

徐程風は苦笑しながら答える。

「確かに私は魅力には自信がある。」

「だが、そんな手を使うつもりはない。」

思わず笑い合う二人だったが、そのやり取りには以前にはなかった気安さが生まれていた。

やがて話題は本題へ移る。

皇帝の宝の地図事件について意見を交わす中、徐程風は沈丹青という女性を改めて見つめ直していた。

「あなたは普通の令嬢とは違う。」

「しとやかさよりも決断力があり、視野も広い。」

「多くの男より大きな器を持っている。」

彼は率直にそう評価する。

そして、不思議そうに続けた。

「沈家の娘として育っただけでは、ここまでの人物にはなれない。」

「一体どんな人生を歩んできたんだ。」

その言葉は、羅愛蓮として壮絶な裏切りと死を経験した彼女の胸を深く刺した。

徐程風は真実を知らない。

それでも、彼女が普通ではない過去を背負っていることだけは見抜いていた。

愛蓮は動揺を隠すように話題を変え、ふと書斎の棚へ目を向ける。

そこには見覚えのある玉佩が大切に置かれていた。

それは、羅愛蓮だった頃に徐程風へ託した母の形見だった。

彼は今でも捨てることなく保管していたのである。

「まだ……残してくれていたの。」

心の中でそう呟いた愛蓮の胸には、言葉にできない感情が込み上げる。

この世で自分はすでに死んだ存在。

それでも自分を忘れず、証を大切にしてくれる人がいた。

亡き父や侍女・彬児のことまで思い出し、悲しみが溢れそうになる。

愛蓮は体調が悪くなったとだけ告げ、早々に将軍府を後にした。

帰宅した愛蓮の様子がおかしいことに気付いた沈自山は静かに寄り添う。

事情を聞いた彼は優しく語り掛けた。

「君は私の前では沈丹青でも羅愛蓮でもいい。」

「どんな姿でも、私は家族として支え続ける。」

愛蓮は兄の温かさに救われながらも決意を口にする。

「徐程風には感謝しています。」

「でも私は絶対に正体を明かしません。」

その頃、羅家では雷鳴が響く夜、雷を恐れる羅霜霜が羅雪児の部屋を訪ねていた。

霜霜は涙ぐみながら周姨娘を恋しがり、「早く母を助けて」と訴える。

雪児は妹を優しく抱き締める。

「あなたは郊外で静養しなさい。」

「母のことは私が何とかする。」

翌日、雪児は牢へ赴き周姨娘と面会する。

周姨娘は白知府からの密かな伝言を伝える。

「二十万両を用意できれば、時期を見て釈放してもらえる。」

その額は莫大だったが、周姨娘には秘策があった。

彼女は羅家代々の墓地に密かに埋められた金銀財宝の場所を雪児へ教える。

「それを持ち出して私を救いなさい。」

雪児は誰にも知られないよう夜の墓地へ向かう。

父・羅季達が眠る墓を前にしても、彼女の表情に罪悪感はない。

「私を養女として見下したあなた。」

「これからは私が羅家のすべてを手に入れる。」

そう呟きながら財宝を掘り起こしていく。

さらに墓地の近くから豊かな山の湧き水が流れていることにも気付く。

良質な酒造りには欠かせない名水だった。

雪児は新たな財産を手に入れたかのように微笑む。

一方、緑竹はなおも徐程風へ近付こうと夜食を持って部屋を訪れる。

さすがに我慢の限界に達した徐程風は、緑竹の首筋を軽く打って気絶させてしまう。

そして天昊へ苦笑交じりに命じる。

「今夜は誰も入れるな。」

その頃、沈自山は羅愛蓮の新たな人生を後押ししようとしていた。

彼は甘露堂の真正面にある店舗を借り受け、愛蓮へ贈る。

「君は酒造りが好きだろう。」

「ここで新しい酒蔵を始めればいい。」

愛蓮は兄の思いやりに胸を打たれる。

羅家からすべてを奪われた自分だったが、今は新しい家族が夢を支えてくれていた。

彼女は店を「丹青酒荘」と名付け、新たな一歩を踏み出す。

もちろん、その存在を快く思わない人物がいた。

甘露堂を取り仕切るようになった羅雪児である。

雪児はすぐに店主を買収し、「改装工事で風水を壊した」と難癖をつけ、沈丹青へ多額の賠償金を請求させようとする。

その場へ偶然やって来た徐程風の姿を見つけた水仙は、とっさに機転を利かせた。

「お金なら将軍府から頂いてください。」

「沈小姐は徐将軍の大切な方ですから。」

突然の言葉に愛蓮は驚く。

ところが徐程風は否定せず、水仙の芝居に合わせるように穏やかに笑った。

まるで本当に沈丹青へ想いを寄せているかのような態度を見せたのである。

将軍が後ろ盾になっていると知った店主は態度を一変させ、賠償金の話を取り下げて平謝りする。

事情を聞いた愛蓮は、黒幕が羅雪児だと悟るものの、店主を責めることはしなかった。

騒動が収まると、愛蓮は徐程風へ礼を述べる。

二人は軽口を交わしながら笑い合い、その空気には自然な親しさが漂っていた。

そして徐程風は帰ることなく袖をまくる。

「せっかくだ。」

「酒蔵づくりを手伝おう。」

復讐のために始まった「丹青酒荘」。

その新たな舞台では、愛蓮と徐程風の距離もまた、少しずつ縮まり始めていた。

 

第11話の見どころ

丹青酒荘がついに開業し、沈丹青は羅家との本格的な商いの戦いへ踏み出します。羅雪児が仕掛けた「酒神の泉」を巡る陰謀を鮮やかに覆す知略は痛快そのもの。一方で、徐程風との信頼関係はさらに深まり、月明かりの下で酒を酌み交わす穏やかな時間には恋の兆しも感じられます。しかし、敗北を認めない羅雪児は酒の秘伝を盗み出す新たな策略を実行。復讐と商戦、そして陰謀が複雑に絡み合う新たな局面が幕を開けます。

第11話「盗まれた酒造りの秘伝」

丹青酒荘の開業を目前に控えた沈丹青は、自ら仕込んだ新しい酒を携え、徐程風のもとを訪れる。

「ぜひ感想を聞かせてください。」

そう言って差し出した酒を徐程風は静かに口に含み、香りや後味を丁寧に確かめた。

やがて彼は驚いたように微笑む。

「これは見事な酒だ。」

「甘露堂の名酒『月下逢』にも引けを取らない。」

その評価に、沈丹青は思わず目を見開く。

この酒は、まだ羅愛蓮として暮らしていた頃、自ら考案していた酒造りの技をもとに完成させたものだった。

その価値を見抜いた徐程風に、彼女は初めて「自分を理解してくれる人」として親近感を覚える。

二人は月明かりの下で杯を重ねながら語り合う。

徐程風は以前から不思議に思っていたことを尋ねた。

「なぜ酒蔵を甘露堂の真向かいに開いたのですか。」

沈丹青は静かに答える。

「羅家には理不尽な罪を着せられました。」

「でも私は酒造りが好きです。」

「だからこそ、自分が一番得意なことで羅家に勝ちたいのです。」

復讐を口にしながらも、その瞳には酒造りへの純粋な情熱が宿っていた。

徐程風はその真っ直ぐな想いに深く共感し、二人は酒を酌み交わしながら互いを知己と認め合っていく。

その頃、羅家では羅雪児が帳簿を調べ、深刻な経営悪化に頭を悩ませていた。

度重なる騒動の影響で甘露堂は赤字続きとなり、資金繰りは限界に近づいていたのである。

しかし雪児は慌てるどころか、帳場に命じて手元の銀をすべて金塊へ換えさせる。

「半月あれば必ず立て直してみせる。」

彼女にはすでに次の一手があった。

一方、沈自山と徐程風は皇帝の宝の地図事件について調査を進めていた。

沈自山は亡き妹・沈丹青を苦しめた毒が「血曇花」という希少な毒であることを突き止める。

さらに徐程風は、宝箱の錠前が「化純散」という特殊な薬で溶かされていた事実を報告する。

二つの毒薬を扱える人物は極めて限られる。

二人は同じ人物が事件の裏にいる可能性を疑い始めた。

その裏では、緑竹が将軍府から盗み聞きした情報を怡親王へ流していた。

しかし徐程風はその動きをすべて把握している。

「監視は続けろ。」

「決して油断するな。」

彼は天昊へ命じ、間者を逆利用する策を続けていた。

やがて羅雪児は聊城酒商会の夏会長を訪ね、多額の金塊を差し出す。

「新しく見つかった名水は甘露堂だけに使わせていただきたい。」

賄賂を受け取った夏会長は数日後、「酒神祭」を開催すると発表した。

酒神の神託によって名水を独占できる酒蔵を決めるというのである。

その知らせを聞いた沈丹青はすぐに違和感を覚える。

「雪児が何もしないはずがない。」

彼女は林鏢師へ命じて羅雪児を密かに監視させる。

さらに翌朝、徐程風を羅家の墓地へ呼び出した。

「明日は私に力を貸してください。」

その真意を詳しく語ることはなかったが、徐程風は黙って了承する。

酒神祭当日。

夏会長と羅雪児は大勢の酒造家を集め、神聖な泉を披露する。

羅雪児は自分が仕組んだ神託によって甘露堂が選ばれると信じ切っていた。

ところが、神が示した札には意外な名が記されていた。

「丹青酒荘」

会場は騒然となる。

羅雪児は激怒し、沈丹青が細工をしたと非難する。

しかしその時、徐程風が前へ進み出た。

「沈小姐は終始私の隣にいた。」

「細工をする暇などなかった。」

将軍の証言に誰も反論できない。

追い詰められた雪児は今度は別の理屈を持ち出す。

「商会員でない酒蔵には泉を与えられません。」

夏会長もその言葉に従い、決定を保留しようとする。

だが沈丹青は落ち着いて提案する。

「それなら皆様に決めていただきましょう。」

「もし丹青酒荘が商会へ加わることを認めていただけるなら、私はこの泉を独占しません。」

「すべての酒蔵で分かち合いたいと思います。」

その言葉に会場の空気は一変した。

利益を独り占めしようとしない彼女の度量に、酒造家たちは感動する。

「丹青酒荘を商会へ迎えよう!」

賛成の声が次々と上がり、夏会長も逆らえなくなった。

こうして丹青酒荘は正式に酒商会の一員となり、名水の利用権も手に入れる。

羅雪児は完全敗北を喫し、悔しさを噛み締めながらその場を去っていく。

祭りの後、沈丹青は徐程風を宴席へ招き感謝を伝えた。

「今日は助かりました。」

徐程風は微笑みながら答える。

「あなたが泉を皆に分け与えると言った時、自分の目に狂いはなかったと思いました。」

沈丹青は神託の仕掛けを見抜いた経緯を説明する。

羅雪児が神託を利用して独占を企んでいたこと、その罠を逆手に取って丹青酒荘へ有利な流れを作ったことを知り、徐程風は感心する。

「本当に策士ですね。」

「酒造りだけではなく知恵でも一流です。」

そして丹青酒荘の成功を心から祝福した。

いよいよ丹青酒荘が華々しく開業する。

沈自山は妹への祝いとして、朝露だけを集めた特別な水を贈った。

「良い酒は良い水から始まる。」

兄の優しさに、沈丹青は心から感謝する。

しかし祝いの席に羅雪児も姿を現す。

彼女が持参したのは祝い花ではなく白い花だった。

まるで葬儀を思わせる嫌味な贈り物である。

「酒造りは素人には難しいものよ。」

「そのうち沈家の財産まで食い潰すことになるわ。」

沈丹青は挑発に乗ることなく、穏やかに笑って受け流した。

そこへ将軍府から天昊が祝いの品を届ける。

送り主が徐程風だと知ると、町の人々は一斉に丹青酒荘へ押し寄せた。

将軍が認めた酒として評判は瞬く間に広がり、店は大盛況となる。

その様子を見た羅雪児は歯ぎしりするしかなかった。

その夜、徐程風は再び酒荘を訪れる。

手には自ら作った「棋子酥」があった。

慣れない菓子作りに苦労した跡が見える素朴なお菓子だった。

沈丹青は一口食べると、思わず笑顔になる。

「今日いただいた贈り物の中で、一番うれしいです。」

徐程風も照れくさそうに笑い、二人の距離はまた少し近づいた。

その一方で、沈自山は百事通から重要な情報を得る。

「化純散」は唐門、「血曇花」は五毒教の秘薬だった。

しかも両方を扱えるのは、西域へ逃亡した元弟子ただ一人。

二つの事件が同じ黒幕による可能性はますます高まっていく。

沈自山は慎重に調査を続けるよう命じた。

一方、緑竹は徐程風が沈丹青のために手作り菓子まで用意したことに嫉妬し、酒荘を訪れて牽制する。

「将軍様に近づかないで。」

しかし沈丹青は少しも動じない。

「側に仕えるだけでは駄目です。」

「人の心を思いやることも覚えなくては。」

言い返せなくなった緑竹は、悔しそうにその場を立ち去る。

緑竹からの密書を受け取った怡親王は、徐程風にとって沈丹青が特別な存在になりつつあることを察知する。

「沈家が徐程風の弱点になる。」

そう判断した怡親王は、密かに沈家への監視をさらに強化するのだった。

その後、丹青酒荘の人気は日ごとに高まり、反対に甘露堂の客足は減っていく。

追い詰められた羅雪児は、新たな妨害を開始した。

客を買収し、「薔薇露を飲んで体調が悪くなった」と大騒ぎさせたのである。

だが沈丹青は慌てない。

すぐに繆神医を呼び診察させると、その客には何の異常もないことが判明した。

追及された男は最後には罪を認め、「金で雇われた」と白状する。

沈丹青は店の前で堂々と宣言した。

「丹青酒荘の酒は安全です。」

「今回の騒ぎは悪意ある者による偽りでした。」

客たちは安心し、店の信用はむしろ高まる結果となった。

もちろん黒幕が羅雪児であることを沈丹青は見抜いていた。

「今後は警戒を強めましょう。」

そう家臣たちへ命じる。

しかし雪児もただでは終わらなかった。

騒動の裏で密かに間者を丹青酒荘へ送り込み、人気商品「薔薇露」の醸造秘伝を書き写させることに成功していたのである。

「これで甘露堂でも同じ酒が造れる。」

羅雪児は盗み出した秘伝書を手に、不敵な笑みを浮かべる。

羅家と丹青酒荘の商いの戦いは、ついに正面からぶつかり合う新たな局面へと突入していくのだった。

 

第12話の見どころ

丹青酒荘と甘露堂の商いの戦いは、ついに正面対決へ。羅雪児は盗み出した秘伝を利用して「玫瑰酔」を発売し、一時は沈丹青を窮地へ追い込みます。しかし、沈丹青はすでにその先まで読んでいました。知略を巡らせた二人の頭脳戦は思わぬ逆転劇を生み、羅雪児は最大の危機を迎えます。一方で、徐程風は沈丹青への信頼をさらに深め、二人の距離も少しずつ縮まっていきます。そして皇帝の宝を巡る事件では、新たな犠牲者が現れ、黒幕の存在がさらに色濃く浮かび上がります。

第12話「丹青酒荘と甘露堂 激突する酒蔵」

丹青酒荘が順調に客足を伸ばす一方で、甘露堂は新商品「玫瑰酔(ばら酔い)」を発売する。

その知らせを聞いた沈丹青は、すぐに林鏢師へ命じて一本買い求めさせた。

酒を口にした彼女は静かに目を閉じる。

香りも味も、自分の店の看板商品「薔薇露」とほとんど同じだった。

「あの時の騒ぎは、このためだったのね……。」

彼女は以前、羅雪児が丹青酒荘へ嫌がらせを仕掛けた一件を思い返す。

あの騒動の本当の狙いは営業妨害ではなく、薔薇露の醸造秘伝を盗み出すことだったのだと悟る。

羅雪児の策略は成功し、甘露堂の「玫瑰酔」は飛ぶように売れ始める。

反対に丹青酒荘の売り上げは急激に落ち込み、何日も一本も売れない日が続いた。

使用する材料の質が高いため、値下げすれば売るほど赤字になる。

沈丹青は無理な安売りを拒み、沈自山へ手紙を書いた。

「大口の取引先を紹介してください。」

品質だけは決して妥協しない。

それが彼女の信念だった。

その頃、徐程風は沈丹青の酒造りへの情熱を誰よりも理解していた。

祭日を前に彼は丹青酒荘を訪れ、将軍府の兵士たちへの褒美として薔薇露二百斤を注文する。

高額な買い物だったが、徐程風は迷いなく代金を支払った。

「私は酒だけではなく、あなたを信じています。」

その一言に沈丹青は深く胸を打たれる。

感謝の気持ちを込めて、彼女は特別に仕込んでいた限定の酒を徐程風だけに贈った。

二人の信頼はさらに深まり、言葉を交わすだけで互いの思いが伝わるようになっていた。

一方、甘露堂では「玫瑰酔」が大成功を収めていた。

わずか数日で昨年一か月分に匹敵する利益を上げ、羅雪児は上機嫌になる。

丹青酒荘が閑散としている様子を見届けると、彼女はわざわざ店を訪れて勝ち誇ったように笑う。

「あなたの酒麹も原料も私が買ってあげる。」

「どうせ売れ残るくらいなら、その方がいいでしょう?」

さらに彼女は嘲笑を浮かべながら続けた。

「いっそのこと丹青酒荘ごと甘露堂が買収してあげるわ。」

「あなたはうちで酒売りでもしていればいい。」

あまりにも侮辱的な言葉に、沈丹青の我慢も限界に達する。

乾いた音が店内に響く。

彼女は羅雪児の頬を平手で打った。

「二度とそのようなことを口にしないで。」

二人は激しく睨み合い、互いに一歩も譲らない。

羅雪児は怒りに震えながら吐き捨てる。

「必ずあなたを破産させてみせる。」

その言葉通り、雪児はすぐに次の手を打つ。

夏会長へ圧力をかけ、酒商会の業者すべてに命じたのである。

「丹青酒荘へ酒麹も原料も売るな。」

流通そのものを止め、酒蔵を兵糧攻めにするつもりだった。

その頃、郊外では羅霜霜が退屈な療養生活に耐え切れず、屋敷へ帰ろうとしていた。

しかし羅雪児は妹を家へ戻そうとはしない。

家僕たちに命じ、霜霜を部屋へ閉じ込めてしまう。

霜霜は自分が利用されていることにも気付かず、ただ自由を奪われる毎日に不満を募らせていた。

一方、沈自山は護送の任務を終えて無事帰還する。

彼は嬉しい知らせを持ち帰ってきた。

隣県の有力商人・孟員外から大量注文が入ったのである。

沈丹青にとっては起死回生となる大口契約だった。

だが、その情報はすぐに羅雪児の耳にも入る。

彼女は配下へ命じ、周辺の酒麹や原料を買い占める。

さらに自ら「玫瑰酔」を携えて孟員外を訪ねた。

「丹青酒荘には注文をさばく力はありません。」

「聊城一番の酒蔵は甘露堂です。」

価格も大幅に下げ、契約金まで肩代わりすると申し出る。

その結果、孟員外は契約を破棄し、甘露堂へ乗り換えてしまった。

知らせを受けた沈丹青は落胆したものの、驚くほど冷静だった。

その姿に周囲は不思議そうな表情を浮かべる。

やがて梅雨入りし、激しい雨が町を包む。

傘を持たずに歩いていた沈丹青を見つけた徐程風は、自ら傘を差し出して屋敷まで送る。

初めて出会った頃は互いに反発し合っていた二人。

しかし今では自然と隣を歩き、静かな時間を共有できる関係になっていた。

沈丹青も徐程風の誠実さに安心感を覚えていた。

その様子を屋敷で見ていた沈自山は複雑な表情を浮かべる。

妹を大切に思う兄として、二人が親しくなることに少し嫉妬してしまったのである。

後日、沈自山はそれとなく尋ねた。

「徐将軍をどう思っている?」

沈丹青は少し考えてから微笑む。

「信頼できる親友です。」

恋ではなく友情だと聞き、沈自山はようやく胸をなで下ろした。

将軍府では別の変化も起きていた。

天昊は徐程風へ報告する。

「緑竹が怡親王へ送っているのは日常の報告ばかりです。」

徐程風は気にする様子もない。

「構わない。」

「むしろ仲良くしてやれ。」

その命令を受けた緑竹は、風邪をひいた天昊の看病をするようになる。

天昊は彼女が間者であることを忘れてはいない。

それでも誰かに世話を焼かれる温かさに、少しずつ心を和ませていた。

一方、羅雪児は沈丹青へ息をつく暇も与えまいと、手元の資金をすべて酒麹や原料へ投資する。

これで甘露堂の勝利は決まったと確信していた。

ところが数日後、店には怒った客が次々と押しかける。

「酒が腐っている!」

「返金してくれ!」

大量返品が始まったのである。

羅雪児は慌てて酒を調べ、ようやく真実に気付く。

盗んだ薔薇露の秘伝には、肝心な工程が書かれていなかった。

実は沈丹青は最初から秘伝を盗まれることを見越していた。

あえて一部を省いた偽の秘伝を書き残していたのである。

薔薇露は発酵だけでは完成しない。

最も重要なのは保存期間と熟成の時間だった。

特に湿気の多い梅雨時は管理が難しく、その工程を知らなければ酒はすぐ傷んでしまう。

まさに沈丹青が仕掛けた巧妙な罠だった。

「最初から……騙されていたの?」

羅雪児は愕然とする。

しかし店の信用を守るため、彼女は苦渋の決断を下した。

「三日後までに代金をすべて返金します。」

その約束を聞いた沈丹青は不思議そうに首をかしげる。

「今の甘露堂に、そんな資金があるはずがない。」

彼女は水仙へ密かに命じる。

「雪児の動きを一つ残らず見張って。」

金の流れを追えば、必ず新たな秘密が見つかると考えたのである。

その頃、百事通から沈自山と徐程風へ密会の誘いが届く。

「重要な手掛かりが見つかりました。」

二人は急いで宿へ向かう。

しかし部屋へ入った瞬間、空気が凍り付く。

百事通はすでに息絶えていた。

体には一本の銀針が突き刺さっている。

沈自山はその針を見るなり顔色を変えた。

「これは……。」

それはかつて本物の沈丹青が命を落としかけた時に使われた毒針とまったく同じものだった。

沈自山は静かに拳を握る。

「百事通を殺した者こそ、皇帝の宝の地図事件と妹への毒殺未遂、その両方に関わる黒幕だ。」

ついに長く追い続けてきた事件が一本の線で結ばれ始める。

復讐と陰謀は、新たな局面へと動き出そうとしていた。

 

荊棘(いばら)の花~奪われた私~ 13話・14話・15話・16話・17話 あらすじ

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