春花焔~Kill Me Love Me~ 2024年 全32話 原題:春花焰
第1話 復讐の誓い、偽りの王子との邂逅
【第1話の見どころ】
家族を奪われた少女・眉林が復讐を胸に暗殺者として生きる道を選び、宿敵・慕容璟和との運命的な対面を果たす。誰も知らない三皇子の秘密と、危険な駆け引きの始まりから目が離せない第1話。
大炎国の辺境・青州。穏やかな暮らしを送っていた少女・眉林(びりん)の人生は、ある夜突然起こった惨劇によって一変する。
激しい炎が村を包み込み、人々の悲鳴が夜空に響き渡る中、眠っていた眉林は父親に叩き起こされる。父は娘だけでも助けようと必死に逃がそうとするが、その直後、自らは燃え盛る炎の中へと消えていった。眉林は目の前で父を失い、何もできないまま絶望に打ちひしがれる。
焼け跡をさまよう彼女は、やがて火を放った犯人たちの姿を発見する。怒りに駆られた眉林は無謀にも立ち向かうが、幼い少女の力で敵う相手ではない。あっという間にねじ伏せられてしまう。しかしその混乱の中で、彼女は相手の持っていた一枚の令牌を奪い取ることに成功する。
その令牌に刻まれた印を見た眉林は、この事件の背後には大炎国第三皇子・慕容璟和(ぼよう・けいわ)がいると確信する。そして父の亡骸を思い浮かべながら、「必ずこの手で仇を討つ」と固く誓うのだった。
それから年月が流れる。
復讐だけを支えに生きてきた眉林は、秘密裏に暗殺者を育成する組織「暗廠(あんしょう)」へ身を投じる。過酷な訓練と数々の任務をこなしながら、彼女は一流の刺客へと成長していく。
だが冷酷な暗殺者となった今でも、眉林の心には優しさが残されていた。ある任務で、かつての自分と同じように火災で家族を失った少女が組織に連れ去られそうになる場面に遭遇する。見過ごせなかった眉林は密かに少女を助け出し、自らの危険を顧みず救いの手を差し伸べる。
そんな彼女に、ついに長年待ち続けた機会が訪れる。
暗廠から与えられた新たな任務――それは皇宮へ潜入し、第三皇子・慕容璟和を暗殺することだった。
宿敵を討つ絶好の機会に、眉林の胸は激しく高鳴る。
その頃、都では西焉国との和平交渉が進められていた。慕容璟和は迎賓大使として帰京することになり、宮廷内は大きな話題となっていた。
しかし、その帰還を歓迎しない者も多い。
皇太子・慕容玄烈(ぼよう・げんれつ)は、表向きこそ弟との兄弟愛を語るものの、その胸中では三皇子の存在を快く思っていなかった。だが皇帝である炎帝は、あえて二人の関係を試そうとしていた。
炎帝から弟について尋ねられた慕容玄烈は、「私は三弟の帰還を心から望んでおります」と笑顔で答える。その模範的な返答に炎帝は満足し、慕容璟和を正式に都へ呼び戻す決断を下すのだった。
そしてついに慕容璟和が帰京する。
だが彼の登場は常識を超えていた。
都へ続く大通りで、慕容璟和は大量の紙銭をばらまきながら進軍する。まるで葬列のような異様な光景に、民衆は騒然となる。
その場にいた眉林もまた、遠くから宿敵の姿を見つめていた。
「この男が私の家族を奪った――」
憎しみが再び燃え上がる。
一方、西焉国から嫁ぐことになった子顧公主も、この歓迎のない待遇に激怒していた。誰も迎えに来ないばかりか、紙銭まで撒かれる屈辱を受け、自らが政略結婚のために捨てられた存在であることを痛感する。
そんな混乱の中、慕容璟和は突如として民衆の中にいた眉林へ視線を向ける。
そして周囲を驚かせる行動に出た。
「この娘を私の美人にする。」
突然の指名に誰もが言葉を失う。
さらに慕容璟和はその場で四人の美女を選び、自らの後宮へ迎え入れると宣言する。豪放磊落な振る舞いに、周囲は振り回されるばかりだった。
後宮へ入った眉林は、暗殺の機会をうかがいながら生活を始める。
そこで出会った子顧公主は、自分が祖国から見捨てられた存在だと打ち明ける。眉林はその孤独に共感しながらも、復讐という使命を抱える身として深く関わることはできなかった。
その夜。
眉林はついに行動を開始する。
人々が眠りについた隙を狙い、彼女は慕容璟和の寝宮へ忍び込む。しかし肝心の主の姿が見当たらない。さらに部屋の中には別の侵入者らしき覆面の人物まで潜んでいた。
予想外の事態に戸惑いながらも、眉林はさらに調査を進める。
やがて慕容璟和の居場所を突き止めた彼女は、美人として近づき暗殺を決行しようとする。
だが慕容璟和は想像以上に鋭かった。
浴池で隙を見せているように見えた彼は、眉林のわずかな殺気を察知し、一瞬で形勢を逆転させる。
気づけば眉林は彼に押さえ込まれていた。
ちょうどその時、異変を察知した護衛たちが駆け込んでくる。
しかし彼らの目に映ったのは、刺客と王子の攻防ではなく、まるで男女が密会しているかのような光景だった。
慌てて引き下がる護衛たち。
その場に残された眉林へ、慕容璟和は静かに告げる。
「私はここで人を殺すこともできる。だが救うこともできる。すべては私の気分次第だ。」
その言葉には、単なる脅しではない不思議な響きがあった。
二人は奇妙な駆け引きの末、ひとまず互いを利用し合う関係を築くことになる。
慕容璟和は満足そうな表情を浮かべながら、その場を後にする。
そして彼の背中を見送った眉林は、衝撃的な光景を目にする。
それは――。
誰もが足の不自由な人物だと思っていた慕容璟和が、何事もなかったかのように自らの足で歩いていたのだ。
「そんな……」
眉林は言葉を失う。
宿敵だと思っていた男は、世間を欺くために自らを傷ついた王子として演じていた。
こうして復讐に燃える刺客と、多くの秘密を抱えた第三皇子の危険な物語が幕を開けるのだった。
第2話 揺らぐ真実、復讐の令牌
【第2話の見どころ】
眉林の復讐心がさらに燃え上がる一方で、慕容璟和の過去や亡き母への想いが明らかになる。さらに、復讐の根拠となっていた令牌に違和感が生じ、事件の真相に新たな謎が浮かび上がる重要な回。
宿敵・慕容璟和への暗殺に失敗した眉林は、それでも復讐の炎を消すことができずにいた。
その頃、慕容璟和は初めて眉林と出会った日のことを思い出していた。
激しい雨が降る中、まだ幼さを残していた眉林はたった一人で彼の前に現れ、「青州十万の民の仇を討つ」と叫びながら刃を向けたのだ。
普通なら無謀としか言いようのない行動だったが、慕容璟和はその姿に興味を抱く。恐怖に震えながらも決して後退しない少女の目には、燃え盛る復讐心が宿っていた。
しかし力の差は歴然だった。
眉林は簡単に制圧され、絶望のあまり自ら命を絶とうとする。だが慕容璟和はそれすら許さない。
「死は救いに過ぎない。本当の苦しみは生き続けることだ。」
そう言い放った彼は眉林を地面へ叩き伏せる。
それでも眉林は諦めなかった。
傷ついた身体を引きずりながら前へ進み、激痛に耐えて立ち上がる。そしてついには慕容璟和を押し倒すことに成功する。
「私は生きるためじゃない。あなたを殺すために生きている。」
その言葉を聞いた慕容璟和は静かに笑う。
「憎しみだけでは仇は討てない。」
二人の間に流れるのは、単純な加害者と被害者の関係ではなかった。
そして視聴者はこの回で、慕容璟和自身もまた青州に対して深い憎悪を抱いていることを知る。
彼の足が不自由になった原因は、十年前の青州で起きた出来事にあったのだ。
青州の人々によって人生を狂わされたと思い込む慕容璟和。
一方で青州の生き残りである眉林は、彼こそが虐殺の元凶だと信じている。
互いに相手を憎みながら生きてきた二人の対立は、さらに激しさを増していく。
翌日、慕容璟和の側近・清宴は珍しく主君の機嫌が良いことに気づく。
慕容璟和は絵筆を取り、何やら熱心に絵を描いていた。
清宴は美しい人物画でも描いたのかと期待するが、完成した絵を見て言葉を失う。
そこに描かれていたのは、まるで魔除けの神・鍾馗のような恐ろしい顔だった。
「都へ戻れば魑魅魍魎が増える。」
そう語る慕容璟和の言葉には、宮廷内に潜む敵への警戒が込められていた。
彼が見ている戦場は、もはや国境ではなく宮廷そのものだったのである。
一方、子顧公主は眉林が慕容璟和からひどい扱いを受けていると知り、怒りを募らせていた。
身分の高い公主である彼女は、自ら三皇子に抗議しようとする。
しかし慕容璟和はまともに取り合わず、逆に奇妙な勝負を持ちかける。
眉林を守りたい一心の子顧はその挑発に応じるが、そこで彼女は慕容璟和の冷酷さを目の当たりにすることになる。
訓練の実演として呼び出された兵士が恐怖のあまり命令に従えなくなると、慕容璟和は何の躊躇もなく弓を引き、その兵士を射殺したのだ。
突然の出来事に子顧は青ざめる。
これまで噂で聞いていた「虐殺将軍」の異名が、決して誇張ではないように思えた。
慕容璟和は劉忠に向かって、その兵士こそ昨夜の刺客だったと説明するが、真実は誰にも分からない。
子顧はますます彼を恐れ、「やはり皇兄の言う通りだ。この男は悪魔だ」と確信するのだった。
その頃、宮廷では昨夜の刺客騒動が大きな問題となっていた。
皇太子・慕容玄烈は事態を利用しようと動き出す。
重臣の張印を呼び出した彼は、慕容璟和が刺客を見つけたとしても証拠はないと指摘し、軽々しく動くべきではないと助言する。
しかしその裏には別の狙いがあった。
張印が皇帝の周辺に密偵を配置していることを把握していた慕容玄烈は、その弱みを利用して自分の陣営へ取り込もうとしていたのだ。
兄弟の対立は表面上こそ穏やかだが、水面下では激しい権力争いが進行していた。
そんな中、都の街では新たな騒動が巻き起こる。
多くの民衆が西焉国の名将・越秦を一目見ようと集まるが、その場で子どもたちが歌い始めた童謡が問題となる。
歌の内容は、慕容璟和による青州虐殺を非難するものだった。
誰が仕組んだのかは明白だった。
背後には慕容玄烈の影が見え隠れしていたのである。
民衆の怒りは瞬く間に広がり、慕容璟和へ向けて罵声や食べ物が投げつけられる。
しかし当の本人はまるで気にしていない。
悠然と饅頭を食べ続けると、突然一本の矢を放つ。
鋭い矢は群衆を震え上がらせ、その場を一瞬で静まり返らせた。
さらに慕容璟和は童謡を歌っていた子どもたちを呼び寄せ、褒美として金を与える。
そしてこう命じる。
「もっと大きな声で歌え。」
誰も予想しなかった反応だった。
中傷を否定するどころか利用してみせたのである。
遠くからその様子を見ていた眉林は、改めて慕容璟和という男の異常さを実感する。
宮中に戻ると、皇帝は和親使節団への無礼な対応に激怒する。
しかし慕容璟和は一歩も引かない。
紙銭を撒いたのは敵国への威圧であり、決して外交を軽視したわけではないと主張する。
皇帝は納得しきれない様子ながらも、息子の真意を測りかねていた。
その夜。
眉林は再び密かに三皇子府へ潜入する。
彼女の目的は、かつて火災現場で手に入れた令牌の真相を確かめることだった。
同じ頃、慕容璟和もまた誰にも知られぬ場所で亡き母を弔っていた。
彼は皇后が生前に望んでいた花婿姿の衣装を身にまとい、静かに位牌の前へ跪く。
十年前、母の最期に立ち会えなかった後悔。
それは今も彼の心を深く蝕み続けていた。
普段は冷酷無比に見える慕容璟和にも、誰にも見せない弱さがあったのである。
物陰からその様子を目撃した眉林は、これまで知らなかった彼の一面に戸惑う。
そしてさらに驚くべき事実に気づく。
自分が長年証拠として信じ続けてきた令牌と、三皇子府にある本物の令牌の細部が違っていたのだ。
「なぜ……?」
もし令牌が偽物だったとしたら。
自分が十年間信じてきた復讐の理由は何だったのか。
眉林の心に初めて疑念が生まれる。
だが考える時間は与えられなかった。
暗廠の主人から呼び出された彼女は再び毒を盛られ、慕容璟和暗殺の命令を下される。
解毒薬を得るためには命令に従うしかない。
こうして眉林は、ますます逃れられない運命の渦へと引き込まれていく。
一方、慕容璟和もまた密かに動き始めていた。
彼は眉林が抱える復讐心を理解した上で、その怒りを利用しようとしていたのである。
敵として出会ったはずの二人。
しかし彼らを結びつける十年前の真実は、まだ誰にも見えていなかった。
第3話 牢獄に咲く花、交錯する思惑
【第3話の見どころ】
眉林による刺殺未遂事件が宮廷を揺るがす中、慕容璟和と慕容玄烈の兄弟対決が本格化。互いに本心を隠しながら探り合う駆け引きと、絶望の牢獄で生きる希望を見出す眉林の姿が胸を打つ。
眉林による刺殺未遂事件の裏で、慕容璟和の胸には十年前の青州で起きた悲劇が今なお深く刻まれていた。
青州から戻って以来、彼はまるで別人のようになっていた。
かつて勇猛果敢な将軍として知られた男は、生きる気力を失ったかのように酒に溺れ、毎日を無気力に過ごしていたのである。
そんな弟を見舞うため、皇太子・慕容玄烈は毎日のように三皇子府を訪れていた。
表向きは兄として弟を気遣う姿勢を見せていたが、その心の奥底には別の感情が渦巻いていた。
酒臭い息を吐きながら酔い潰れている慕容璟和の姿を見るたびに、慕容玄烈は安堵していたのだ。
彼は幼い頃を思い出していた。
母后に愛され、弟と共に過ごした日々。
しかし今となっては、その思い出すらも権力争いの中で色褪せていた。
「過去に囚われず前を向け」
兄らしく励ます言葉を口にする慕容玄烈だったが、その胸中では別のことを考えていた。
足を失い、将来を閉ざされた弟がこのまま沈んでいけば、自分の前に立ちはだかる障害はなくなる。
そう考える彼にとって、慕容璟和の苦悩はむしろ好都合だった。
そんな兄に対し、慕容璟和もまた探りを入れる。
なぜ昔から自分に譲り続けてきたのか。
なぜ今も優しい兄を演じ続けるのか。
その問いに慕容玄烈は静かに答える。
「私はすでに太子だ。これからはお前に譲る必要などない。」
その瞬間、彼の目に一瞬だけ冷たい殺意が宿る。
慕容璟和はその変化を見逃さなかった。
兄弟の間に残されていた最後の情も、すでに消えかけていたのである。
さらに慕容璟和は、自分に逆らう美人を殺してほしいと兄へ頼む。
しかし慕容玄烈は応じない。
「それはお前のためにならない。」
正論を口にしながらも、その実、弟の思惑に乗るつもりはなかった。
互いに笑顔を浮かべながらも、一歩間違えれば命を奪い合う関係となっていた。
その後、慕容璟和は側近の清宴と共に青州の犠牲者たちを弔うため墓前を訪れる。
そこで彼の口から、これまで語られなかった青州の真実の一端が明かされる。
当時、青州では大火が発生していた。
だが慕容璟和たちが目にしたのは、火を消そうとしない民衆の姿だった。
それどころか彼らは慕容璟和の軍へ襲いかかってきたのである。
さらに彼の兵士たちは民を守ろうとしていたにもかかわらず、酒を浴びせられ火を放たれた。
それでも反撃しなかった者たちもいた。
慕容璟和はその光景を忘れられずにいた。
だからこそ今の彼は言う。
「あの時はまだ甘かった。」
「あの頃の私なら民を守ろうとした。だが今は違う。」
冷酷な言葉の裏には、理想を裏切られた男の深い絶望が隠されていた。
一方、眉林もまた運命の分岐点に立たされていた。
暗廠から与えられた毒は日に日に彼女の身体を蝕んでいる。
解毒薬を得るためには慕容璟和を殺さなければならない。
失敗すれば死。
まさに最後の機会だった。
そんな中、越秦は偶然眉林の姿を見かける。
必死に追いかけるが見失い、その代わりに彼女が身につけていた青州結びを発見する。
青州に関わる人物が再び姿を現したことで、越秦もまた何かを感じ取るのだった。
その頃、子顧公主は兄・越秦との再会を喜んでいた。
異国の地に嫁ぐことになった彼女は、不安と孤独に押し潰されそうになっていた。
越秦は妹を安心させるように語る。
「お前がここで落ち着くまでは帰らない。」
兄の優しさに子顧は救われる。
そして兄の心に想い人がいることにも気づいていた。
だが越秦はその相手への気持ちを打ち明けることができずにいた。
やがて宮中では盛大な式典が開かれる。
眉林もその場へ呼び出されるが、毒の発作が起こり始める。
激しい苦痛に襲われた彼女は、人目につかないよう自ら腕を傷つけることで意識を保とうとする。
そんな彼女へ慕容玄烈が褒美として玉佩を与える。
だがその瞬間、慕容璟和が制止する。
さらに驚くべき出来事が起きる。
普段は歩けないはずの慕容璟和が、咄嗟に立ち上がったのである。
皇帝はその姿を見て歓喜する。
息子の足に回復の兆しが見えたと思ったのだ。
しかしそれは慕容璟和が仕掛けた巧妙な演技だった。
その後、眉林は慕容璟和へ近づく。
そして誰にも聞こえない声で囁く。
「青州の民を殺した真犯人は別にいる。」
その言葉を残し、彼女は突然短剣を抜く。
周囲が悲鳴を上げる中、刃は慕容璟和の身体を貫いた。
しかし致命傷ではなかった。
慕容璟和は瞬時に理解する。
眉林は本気で殺そうとしたのではない。
彼女は自分へ何かを伝えようとしているのだと。
事件後、眉林は投獄される。
慕容玄烈は自ら牢へ赴き、彼女を尋問する。
この刺客を利用して弟を追い詰めようとしていたのである。
もし慕容璟和が眉林を庇えば、二人の関係に疑惑が生じる。
だが慕容璟和は予想外の反応を見せる。
「好きにしろ。」
「私はその女など気にしていない。」
冷たく言い放つ弟を見て、慕容玄烈は逆に困惑する。
本当に無関係なのか。
それとも何か企みがあるのか。
ますます疑念を深めていく。
その一方で、慕容璟和は別の行動を開始していた。
彼は張印を酒席へ呼び出し、意味深な言葉を投げかける。
十年前の青州。
墨脈死士。
隠された真実。
慕容璟和は直接証拠を突きつけることはしない。
しかし張印に「自分は何かを掴んでいる」と思わせるには十分だった。
張印は動揺する。
主人に忠誠を誓っているものの、いざ危機になれば切り捨てられることも理解していた。
板挟みになった彼の心は大きく揺れ始める。
暗く湿った牢獄。
眉林は極限状態に追い込まれていた。
毒による苦しみと拷問の恐怖。
生きる気力すら失いかけていたその時だった。
ふと石壁の隙間を見ると、小さな花が咲いている。
誰も気づかないような場所で。
誰にも守られずに。
それでも懸命に生きている花だった。
その姿はまるで自分自身のようだった。
「私はまだ死ねない。」
「ここで終わるわけにはいかない。」
眉林の瞳に再び光が宿る。
牢獄の中で見つけた小さな花は、彼女に生きる希望を与えてくれたのだった。
その頃、清宴は眉林の命が長くないことを心配していた。
しかし慕容璟和は静かに首を振る。
「彼女は耐える。」
「何年も今日のために生きてきた人間だ。」
その言葉には不思議な確信が込められていた。
こうして牢獄の中で命を懸ける眉林と、陰から彼女を見守る慕容璟和。
二人を結ぶ運命の糸は、誰にも気づかれぬまま少しずつ絡み始めていた。
第4話 命を懸けた救出、深まる疑惑
【第4話の見どころ】
死刑の危機に瀕した眉林を救うため、越秦と慕容璟和がそれぞれ動き出す。敵であるはずの慕容璟和が見せる意外な行動と、太子・慕容玄烈の新たな陰謀が物語を大きく動かしていく。
刺殺未遂の罪で牢に囚われた眉林は、依然として死の危機にさらされていた。
宮廷では彼女を処刑すべきだという声が高まっており、一度でも判断を誤れば命はない。
そんな中、彼女を救いたいと願う者がいた。
西焉国の越秦である。
彼は部屋にこもり、静かに木を削りながら何かを考えていた。長年愛用してきた棋盤や棋譜を見つめながら、決意を固める。
その様子を見ていた側近の書墨は、主君の考えを察していた。
「眉林姑娘のために宮中へ行かれるおつもりですね。」
しかし書墨は不安を隠せない。
現在、朝廷では西焉国そのものに謀反の疑いが向けられている。そんな状況で越秦が青州遺孤である眉林の助命を願い出れば、自国にさらなる疑惑を招く恐れがあった。
それは一人の女性を救うために国家を危険へさらす行為でもあった。
だが越秦は迷わない。
「たとえ国中から非難されても構わない。」
「どんな代償を払ってでも、彼女を救える可能性があるなら諦めない。」
彼にとって眉林はそれほど大切な存在になっていた。
越秦は皇帝への拝謁を願い出る。
自らの宝物ともいえる棋譜まで献上し、助命を嘆願するが、皇帝の態度は冷たいままだった。
朝から夜まで待ち続けても返事はない。
それでも越秦は諦めなかった。
だがようやく届いたのは期待していた赦免ではなく、「西焉への疑いは晴れた。今回の件が終われば改めて囲碁を楽しもう」という伝言だった。
つまり、眉林の件については何も約束しないということだった。
それでも越秦は希望を捨てない。
直接助けられないなら別の方法を探すしかない。
彼は宮中の侍衛へ賄賂を渡し、牢へ食事を届けてもらうことに成功する。
そして翌日には仮死薬を使い、眉林を脱獄させる計画を立てるのだった。
一方の眉林は、薄暗い牢の中で生きることだけを考えていた。
運ばれてきた菓子を見ると、彼女は夢中で口へ運ぶ。
生き延びなければならない。
青州の真相を突き止めるまでは死ねない。
それだけが彼女を支えていた。
しかしその食盒は、越秦の善意だけで届けられたものではなかった。
何者かが計画を利用し、眉林を始末しようとしていたのである。
その頃、慕容璟和もまた落ち着かない日々を送っていた。
彼の脳裏には、牢の中で必死に生きようとする眉林の姿が焼き付いていた。
「助けてほしい」
そう訴える彼女の目が忘れられなかったのである。
もちろん彼はそんな感情を認めようとはしない。
「あの女は身の程知らずだ。」
そう言いながらも、心のどこかで放っておけない自分がいることに気づいていた。
庭に咲く花を見つめながら、彼は静かにつぶやく。
「死なない、か……。」
「だがこの世では、生と死は紙一重だ。」
青州以来、多くの死を見てきた彼には、「絶対に死なない人間」など信じられなかった。
だからこそ、どんな逆境でも生きようとする眉林の存在が気になって仕方なかったのである。
慕容璟和は強風の中で一人碁盤に向かう。
そこで彼は意味深な言葉を口にする。
「秘密を守れるのは死人だけだ。」
その言葉には、青州事件の真相に近づきつつあるという確信が込められていた。
さらに彼は配下へ命じる。
「景王府を監視しろ。」
誰かが動き始めている。
慕容璟和はそう感じていた。
その予感は的中する。
牢の中で眉林は食盒の異変に気づく。
次の瞬間、刺客が姿を現した。
相手の狙いはただ一つ。
口封じだった。
眉林は必死に応戦するが、長い拘束生活で体力は限界に近い。
絶体絶命の危機。
しかしそこへ現れたのは、意外な人物だった。
慕容璟和である。
彼は迷うことなく刺客を制圧し、眉林を救い出す。
驚く眉林だったが、すぐに冷静さを取り戻す。
そして青州事件に関する証拠を持ち出し、それを餌に自分を牢から出すよう要求する。
敵同士でありながら、互いに利用し合う関係は続いていた。
そこへ越秦も現れる。
本来なら仮死薬を使って救い出すはずだった。
しかし先に慕容璟和が動いていたため、計画は狂ってしまう。
越秦は覚悟を決め、慕容璟和へ協力を持ちかける。
彼は眉林の過去を知っていた。
青州で家族を失ったことも。
彼女が復讐だけを支えに生きてきたことも。
だが慕容璟和は冷たく言い放つ。
「青州遺孤だからこそ見逃せない。」
「助けるつもりもない。」
交渉は決裂する。
しかし越秦が去った後も、慕容璟和は考え込んでいた。
なぜ越秦はそこまで眉林に執着するのか。
彼は清宴に命じ、その関係を調べさせることにする。
その頃、慕容玄烈は焦りを感じていた。
本来なら眉林を利用して弟を追い詰めるはずだった。
ところが状況は逆へ進みつつある。
このままでは自分の方が疑われかねない。
彼は張印へ全ての責任を押し付け、騒動を収束させようと考える。
まさに尻尾切りだった。
そんな中、慕容璟和は皇帝へ直訴する。
「今、眉林を殺すべきではありません。」
彼は青州遺孤の存在が利用されている可能性を指摘する。
誰かが青州事件を利用して反乱を起こそうとしている。
だからこそ生かしておく必要があると主張した。
さらに彼は静かに語る。
「人は変わります。」
「特に復讐だけを抱えて生きてきた者は。」
その言葉は眉林を指しているようであり、同時に自分自身へ向けたものにも聞こえた。
そこへ子顧公主が駆け込んでくる。
彼女は眉林を庇い、すべての原因は慕容璟和にあると訴える。
すると慕容璟和は反論せず、その場で跪いて罪を認める。
予想外の行動に誰もが驚く。
そして皇帝はついに眉林の助命を認めるのだった。
しかし慕容玄烈は納得していなかった。
生きていれば再び真相を語る可能性がある。
ならばここで消してしまえばいい。
彼は密かにそう考えていた。
その意図を察した慕容璟和は、自ら刑罰を執行する。
重い鞭を選び、容赦なく眉林を打つ。
周囲には残酷な光景に見えた。
だが眉林には分かっていた。
彼は殺さないよう加減している。
これは処刑ではなく救出なのだと。
刑罰が終わると、慕容璟和は周囲の目も気にせず眉林を抱き上げ、その場を去る。
太子の前で堂々と。
まるで誰にも渡さないと言わんばかりに。
意識を取り戻した眉林は静かに言う。
「青州の仇は、青州の人間が討つ。」
その言葉を聞いた慕容璟和は一瞬だけ表情を変える。
だが何も答えず、そのまま立ち去るのだった。
その後、越秦は何度も眉林との面会を求める。
ようやく再会を果たした二人。
越秦は彼女が生きていることに心から安堵する。
だが眉林は、かつて彼を助けたのは恩返しに過ぎないと言う。
それでも越秦は優しく語りかける。
「どうか生きてほしい。」
「憎しみだけに囚われないでほしい。」
その言葉には深い想いが込められていた。
一方で慕容玄烈は、自らへの疑惑が薄れたことに安堵していた。
だが彼はさらに証拠隠滅を進める。
張印が隠している死士たちを始末するため、王全へ密命を下したのだ。
青州事件の真相を知る者は、一人でも多く消さなければならない。
そして物語の終盤、都へ一人の女性が戻ってくる。
殷落梅。
その名を聞いた慕容玄烈は珍しく笑顔を見せる。
彼女の帰還が、新たな波乱の始まりであることをまだ誰も知らなかった。


















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