この結婚は社内秘で 2024年 全32話 原題:私藏浪漫
目次
第9話 初めてのキス――10年越しの片想いが動き出す夜
第9話は、本作の大きな転換点となるエピソードです。
これまで「結婚のための結婚」「条件が合った相手」として始まった涂筱柠(トゥー・シャオニン)と紀昱恒(ジー・ユーホン)の関係が、ついに本物の恋愛へと変わり始めます。
そして何より、紀昱恒が10年以上胸の奥に秘めてきた想いが、少しずつ形になっていく甘い展開が見どころとなっています。
忘れたわけではない――でも戻ることはない
美容サロンを出た筱柠と凌惟依。
迎えに来ていた紀昱恒と合流しようとしたその時、偶然にも陸思靖と斉郁が現れる。
なんとも気まずい空気が流れる中、陸思靖は筱柠へ改めて謝罪を始める。
かつての恋愛。
学生時代の思い出。
二人で過ごした青春の日々。
陸思靖は一つひとつの思い出を大切そうに語った。
それを聞いていた紀昱恒は平静を装っていたが、内心では落ち着かない。
自分が知らない筱柠の過去。
七年間という長い時間を共有した元恋人。
嫉妬しない方が無理だった。
しかし筱柠の返事ははっきりしていた。
「忘れたわけじゃない。」
「だってあれは私の青春だったから。」
陸思靖の表情が少し明るくなる。
だが次の言葉が彼を現実へ引き戻した。
「でも、もう感情は残っていない。」
「今の私はあなたを好きじゃない。」
その言葉を聞いた瞬間、紀昱恒の肩から力が抜ける。
陸思靖は最後に尋ねる。
「今、好きな人はいるの?」
しかし筱柠は答えなかった。
そのまま凌惟依の手を引いて立ち去る。
けれど、その沈黙こそが答えだった。
紀昱恒は彼女の後ろ姿を見ながら、胸の奥に温かな感情が広がっていくのを感じていた。
嫉妬した紀昱恒の行動
帰り道。
二人は車の中で花束の話になる。
筱柠は正直に打ち明けた。
「あの花、やっぱり陸思靖だった。」
予想していたこととはいえ、紀昱恒の気分は複雑だった。
その時だった。
陸思靖から電話がかかってくる。
筱柠は切る。
だが再び鳴る。
また切る。
しかし何度もかかってくる。
紀昱恒は静かに言った。
「出て。」
「スピーカーにして。」
筱柠は少し戸惑いながらも電話に出る。
車内に陸思靖の声が響く。
彼はまだ諦めていなかった。
復縁したい。
やり直したい。
後悔している。
そんな言葉が次々と飛び出す。
紀昱恒は無言だった。
だがハンドルを握る手には力が入っていた。
そして突然――
車を路肩へ停める。
驚く筱柠。
次の瞬間。
紀昱恒は彼女を引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
二人にとって初めてのキスだった。
衝動的だった。
理性ではなく感情が先に動いていた。
ずっと我慢していた。
ずっと遠慮していた。
けれど、もう限界だった。
10年間片想いしてきた女性を、これ以上失いたくなかったのだ。
筱柠も抵抗しなかった。
むしろ彼の気持ちが伝わってきて、胸がいっぱいになる。
キスを終えた後も、しばらく二人は何も話せなかった。
静かな車内に、互いの鼓動だけが響いていた。
確実に変わり始めた二人の距離
翌日。
趙方剛が四半期優秀社員に選ばれる。
部署は大盛り上がりだった。
特に以前の問題以降、彼は以前にも増して仕事へ真剣に取り組んでいた。
その成長を誰より喜んでいたのが紀昱恒だった。
趙方剛もまた、以前とは違う。
紀昱恒を見る目に敵意はなくなっていた。
表向きは相変わらず素直ではないが、心の中では感謝している。
「部長に報告があります。」
そう言って真面目な顔で近づく姿に、周囲も思わず笑ってしまう。
紀昱恒は少しずつチームの信頼を得始めていた。
元恋人との最後の決着
そんな中、病院で銀行システムの不具合が発生する。
筱柠と饶静は急いで現場へ向かう。
利用者が混乱する中、筱柠は迅速に対応。
医師や患者への説明も的確で、問題は短時間で解決した。
そこで再び助けてくれたのが陸思靖だった。
対応が終わった後、彼は静かに言う。
「少しだけ話せないかな。」
筱柠は迷った末に承諾する。
これで本当に終わらせるために。
二人はカフェへ向かった。
陸思靖は昔と変わらず、彼女の好みを覚えていた。
好きだった飲み物。
好きだった席。
好きだったスイーツ。
それでも筱柠の心は動かなかった。
陸思靖は海外での苦労を語る。
仕事の重圧。
孤独。
将来への不安。
しかし筱柠は静かに答える。
「それでも私が傷ついた事実は消えない。」
七年間の恋愛。
長い時間だった。
本当に愛していた。
だからこそ傷も深かった。
陸思靖は最後のお願いをする。
「もう一度だけチャンスをくれないか。」
しかし筱柠は首を横に振る。
「無理。」
「私たちはもう戻れない。」
その言葉に迷いはなかった。
そして彼女は続ける。
「私、今好きな人がいる。」
陸思靖は息を呑む。
「紀昱恒。」
初めて彼女の口からその名前が語られた。
もちろん会社の規則上、公にはできない。
だが自分の気持ちを隠すつもりもなかった。
それを聞いた陸思靖は、ようやく完全に諦めるしかなかった。
七年間の恋は、本当に終わったのである。
10年間の片想い
カフェを出ると、そこには紀昱恒が待っていた。
筱柠は驚く。
しかし不思議と安心する。
二人は並んで歩きながら食事へ向かう。
途中、高校時代の話になる。
「紀昱恒って本当に人気だったよね。」
「校草だったし。」
筱柠が笑いながら話す。
すると紀昱恒は少し複雑そうな顔をした。
彼女は知らない。
当時の自分がどれほど彼女を見ていたのかを。
二人は思い出の高校へ立ち寄る。
夕暮れの校庭。
懐かしい教室。
静かな廊下。
紀昱恒は何度も告白しようとする。
しかしそのたびに筱柠の言葉に遮られてしまう。
結局、この日も言えなかった。
高校時代からずっと好きだったこと。
10年間一度も忘れたことがなかったこと。
彼は今も胸の奥にその想いを隠していた。
本当の夫婦になっていく
帰宅後。
筱柠は改めて夫婦のルールを決める。
仕事の不満を家庭に持ち込まない。
職場では公平に接する。
お互いを尊重する。
すると紀昱恒は突然封筒を差し出した。
中には給与振込口座の資料。
「今後は家計を任せる。」
つまり給料管理を任せるということだった。
それは彼なりの信頼の証だった。
筱柠は思わず笑ってしまう。
いつの間にか、本当に夫婦らしくなっていることに気付いたからだ。
星空の下の甘い夜
週末。
紀昱恒は筱柠をキャンプへ連れて行く。
青空の下でテントを張り、一緒に料理を作る。
コーヒーを飲みながら景色を眺める。
紀昱恒がギターを弾く姿に、筱柠は見惚れてしまう。
夜になると二人でバーベキューを楽しむ。
少しだけ飲んだお酒。
穏やかな時間。
そしてテントの中。
準備したはずの寝袋が一つしかない。
慌てる筱柠。
だが紀昱恒は内心ほくそ笑んでいた。
実は最初から一つしか持ってきていなかったのである。
夜更け。
眠る筱柠を見つめる紀昱恒。
月明かりが彼女を優しく照らしている。
ずっと見ていたかった。
ずっと隣にいたかった。
そう思った瞬間、彼はそっと唇を重ねる。
昼間の衝動的なキスとは違う。
大切にしたい人へ贈る優しいキスだった。
目を開けた筱柠は真っ赤になる。
そんな彼女へ紀昱恒は微笑む。
「今日のことは、いい思い出にしよう。」
その言葉に筱柠の胸は高鳴る。
翌朝。
目を覚ました筱柠は昨夜の出来事を思い出し、一人で照れてしまう。
そんな彼女を見て紀昱恒は楽しそうに笑う。
「顔、赤いよ。」
慌てて話題を変える筱柠。
だがその姿さえ愛おしい。
こうして二人は少しずつ、本当の意味で恋人になっていく。
契約のように始まった結婚は、いつしか誰よりも甘く、誰よりも大切な恋へと変わり始めていた。
第10話 嫉妬する妻と秘密の誕生日――白月光の正体は君だった
第10話では、結婚生活に少しずつ慣れてきた紀昱恒(ジー・ユーホン)と涂筱柠(トゥー・シャオニン)の甘い新婚生活がたっぷり描かれます。
しかしその一方で、「白月光(忘れられない初恋)」という存在が二人の間に小さな波紋を生み出します。
紀昱恒の心の中にいる特別な女性とは誰なのか――。
視聴者はすでに答えを知っていても、気づいていない筱柠の嫉妬がなんとも愛らしい回となっています。
秘密の社内恋愛と幸せな日常
露営デートから戻った二人の関係は、以前よりもずっと自然になっていた。
会社では上司と部下。
家では新婚夫婦。
その切り替えも少しずつ上手になっている。
仕事中の紀昱恒は相変わらず厳格だ。
会議では妥協せず、部下にも公平に接する。
しかし誰にも気づかれないように、筱柠の机へこっそりお菓子を置くことも忘れない。
小さなチョコレート。
好きな味のキャンディ。
誰にも見つからないように届けられる優しさ。
筱柠はそれを見つけるたびに頬を緩めていた。
夜になれば二人で買い物へ出かける。
スーパーで夕食の材料を選びながら話す何気ない会話。
手を繋げない代わりに、同じ商品を見て笑い合う。
派手な恋愛ではない。
けれど、こういう日常こそが幸せなのだと筱柠は感じ始めていた。
紀昱恒の誕生日
そんなある日。
饶静がオフィスで声を上げる。
「今日は紀部長の誕生日よ。」
その言葉に部署中が沸いた。
毎年恒例の誕生日祝いをするらしい。
しかし筱柠だけは呆然としていた。
夫なのに知らなかった。
一緒に暮らしているのに知らなかった。
少しショックだった。
考え事をしているうちに熱いお茶をこぼしてしまい、指を火傷してしまう。
しばらくすると紀昱恒から資料提出の連絡が届く。
筱柠が部長室へ行くと、彼はすぐに火傷へ気付いた。
資料などどうでもよかった。
本当の目的は彼女の様子を見ることだったのだ。
冷却ジェルを塗りながら言う。
「痛くないか?」
その優しさに筱柠は胸が温かくなる。
そして少し不満そうに言った。
「誕生日なのにどうして教えてくれなかったの?」
紀昱恒は優しく笑う。
「帰ったら一緒にケーキを作ろう。」
その一言だけで筱柠の機嫌はすっかり直ってしまった。
最大のピンチ! 同僚たちが自宅へ
仕事終わり。
二人はスーパーでケーキ作りの材料を買っていた。
ところがそこへ趙方剛から電話が入る。
「部長!誕生日なんだからみんなで祝いますよ!」
嫌な予感がした。
そしてその予感は的中する。
なんと趙方剛たちはすでにスーパー付近まで来ていた。
さらに勢いそのままに、
「今日は部長の家で誕生日会だ!」
と盛り上がってしまう。
もちろん紀昱恒は断りたい。
しかし断れる空気ではない。
一方その頃、事情を知った筱柠は大慌てだった。
もし部屋を見られたら終わり。
二人の秘密結婚が一瞬で発覚してしまう。
急いで帰宅し、自分の荷物を隠し始める。
化粧品。
洋服。
スリッパ。
写真。
女性の痕跡を必死に消していく。
その姿はまるでスパイ映画だった。
紀昱恒もスーパーで時間稼ぎを続ける。
遠回りをする。
買い物を増やす。
わざとゆっくり歩く。
全ては妻のためだった。
狭い部屋で二人きり
しかし完全には間に合わない。
同僚たちが到着し、筱柠は寝室へ隠れることになった。
紀昱恒が部屋へ入ると、隅に小さくしゃがみ込む筱柠がいた。
長時間隠れていたせいで足が痺れている。
立ち上がろうとしてもふらついてしまう。
紀昱恒が支える。
自然と顔が近づく。
互いの呼吸が聞こえる距離。
筱柠は思わず目を逸らした。
最近キスをしたばかりだ。
だからこそ余計に意識してしまう。
紀昱恒も彼女の反応が可愛くて仕方ない。
だが今は危険な状況だ。
二人は何とか気持ちを抑えた。
夫婦なのに他人のふり
その後、筱柠はタイミングを見計らって玄関から「今来ました」という演技で登場する。
幸い誰も疑わなかった。
みんなで鍋を囲みながら誕生日会が始まる。
かつて紀昱恒に反発していた同僚たちも今ではすっかり打ち解けていた。
趙方剛は特に顕著だった。
以前は敵対していたのに、今ではすっかり部長の味方である。
饶静と趙方剛は相変わらず言い合いばかり。
そのやり取りを見ながら筱柠は笑う。
こうして皆で食卓を囲む時間が、まるで本当の家族のように感じられた。
謎のプレゼント
宴会の途中。
同僚の一人が部屋で物を探している最中に包装されたプレゼントを発見する。
「これ誰への贈り物ですか?」
思わず全員が注目する。
紀昱恒は慌てる様子もなく受け取った。
本当は筱柠へのプレゼントだった。
だがもちろん言えない。
筱柠も内心ドキドキしていた。
しかし同時に別の感情が芽生えていた。
もしかして――
他に好きな女性がいる?
誰か特別な人がいる?
そんな不安だった。
白月光への嫉妬
誕生日会が終わった後も、筱柠はなかなか家へ戻らなかった。
凌惟依を呼び出し、不満をぶつける。
「紀昱恒には忘れられない人がいるかもしれない。」
完全な勘違いだった。
しかし恋をすると誰でも少し臆病になる。
好きだからこそ不安になるのだ。
凌惟依は苦笑いしながら話を聞く。
そして自分の恋愛話も始めた。
齐郁との復縁
最近、齐郁との距離が再び縮まっていた。
家の電球が切れた時も真っ先に駆けつけてくれた。
作業する姿。
鍛えられた体。
無防備な笑顔。
思わずドキドキしてしまう。
さらに彼は昔の思い出の品も大切に残していた。
そして今も夢を諦めず、公務員試験へ再挑戦しようとしている。
そんな姿を見て凌惟依の心も少しずつ揺れていた。
失った恋が再び動き出そうとしていたのである。
本当の白月光
その夜。
ようやく帰宅した筱柠は紀昱恒へ尋ねた。
「どうして誕生日を私に教えてくれなかったの?」
「誰かと過ごしたかったの?」
「忘れられない人でもいるの?」
紀昱恒は静かに首を振る。
「母が病気になってから誕生日は祝わなくなった。」
ただそれだけだった。
しかし筱柠は納得できない。
彼の心の奥には特別な女性がいる気がしていた。
けれど彼女は知らない。
紀昱恒の白月光。
高校時代から十年以上想い続けた女性。
忘れたことのない初恋。
その相手こそ――
涂筱柠自身なのだ。
だから紀昱恒にとって、他の誰かなど必要ない。
彼女が隣にいること。
それだけで十分だった。
誕生日プレゼントも必要ない。
なぜなら人生最高の贈り物は、すでに手に入れていたからだ。
新たなライバルの登場?
翌日。
拓展一部へ新しい社員がやって来る。
その名は唐羽卉。
美人で高学歴。
しかも実家は裕福。
さらに驚くことに紀昱恒の後輩だった。
「師兄!」
と親しげに話す姿にオフィスは大盛り上がり。
瞬く間に噂が広がる。
「もしかして紀部長の白月光?」
「お似合いじゃない?」
「昔付き合ってたりして?」
そんな声が聞こえてくる。
筱柠は平静を装う。
だが心の中は穏やかではない。
自分でも気付かないうちに嫉妬していた。
夫を好きになっている証拠だった。
そして紀昱恒はまだ知らない。
次に待っているのは仕事の試練ではなく、恋する妻の可愛い嫉妬との戦いになることを――。
第11話 嫉妬する妻と一途な夫――十年間の片想いは今も続いている
第11話では、新たな女性・唐羽卉(タン・ユーホイ)の登場によって、涂筱柠(トゥー・シャオニン)の心に初めて本格的な嫉妬が芽生える。
秘密結婚中の夫婦だからこそ、公の場で堂々と気持ちを伝えられない。
だからこそ小さな誤解が大きな不安へと変わっていく。
しかしその一方で、紀昱恒(ジー・ユーホン)の想いは少しも揺らいでいなかった。
彼が十年間想い続けてきた相手は、今も昔もただ一人――。
今回も胸キュン満載の甘いエピソードとなっている。
新しい後輩・唐羽卉の登場
拓展一部に新しい社員が配属される。
その名は唐羽卉。
若くて美人。
しかも実家は裕福で学歴も優秀。
さらに紀昱恒の大学時代の後輩でもあった。
「師兄!」
と親しげに声をかける姿に、部署内は早くも盛り上がる。
当然ながら噂好きの同僚たちは大騒ぎだ。
「部長の後輩だって。」
「お似合いじゃない?」
「昔付き合ってたりして。」
そんな言葉が飛び交う。
紀昱恒は何も気にしていない。
しかし涂筱柠だけは違った。
自分でも理由がわからない。
それでも胸の奥がモヤモヤする。
唐羽卉が紀昱恒を見る目が気になって仕方なかった。
食事会で芽生える嫉妬
歓迎会を兼ねて唐羽卉が食事会を開く。
豪華な店を予約し、みんなを招待する。
部署のメンバーは大喜びだった。
涂筱柠も参加するが、気分はどこか落ち着かない。
そして紀昱恒が到着する。
彼は迷わず涂筱柠の隣へ座った。
それだけで少し嬉しくなる。
ところが空気を読んだ趙方剛が席を移動させてしまう。
結果的に紀昱恒の隣は唐羽卉になった。
唐羽卉は嬉しそうに料理を取り分ける。
紀昱恒へ話しかける。
笑顔を向ける。
その様子を見るたびに筱柠の胸はチクリと痛んだ。
もちろん夫婦だと公表できない。
だから不満も言えない。
ただ黙って見ているしかなかった。
「お見合いします」
そんな時だった。
酒の勢いもあり、趙方剛がまたしても余計なことを言い出す。
「筱柠にいい相手を紹介してやる。」
以前から何度も言われていたお見合い話だった。
本来なら断る。
しかし唐羽卉への嫉妬で意地になっていた筱柠は、
「じゃあお願いします。」
と答えてしまう。
その瞬間。
紀昱恒の表情が変わった。
普段冷静な彼が明らかに動揺している。
筱柠は気付かないふりをしたが、内心では少しだけ嬉しかった。
壁ドンする紀昱恒
しばらくして紀昱恒からメッセージが届く。
「外へ来て。」
筱柠が店の外へ出ると、彼はそのまま個室へ連れていく。
そして壁際へ追い詰めた。
いわゆる壁ドンである。
距離は数センチ。
真っ直ぐ見つめながら聞く。
「本当にお見合いするつもりか?」
普段の部長としての顔ではない。
完全に嫉妬している夫の顔だった。
だが筱柠も素直になれない。
「断るのも悪いし。」
わざとそう答える。
紀昱恒はさらに不機嫌になる。
そんな絶妙なタイミングで唐羽卉が現れ、二人の時間は終わってしまった。
あと少し遅ければ何かが起きていたかもしれない。
そんな甘い空気が漂う場面だった。
すれ違う二人
食事会が終わる頃には、筱柠の機嫌は完全に悪くなっていた。
紀昱恒は当然送るつもりだった。
しかし彼女は断る。
「一人で帰るから。」
本当は送ってほしい。
でも素直になれない。
恋をすると誰でもそうなる。
一方で紀昱恒も困っていた。
妻が怒っている。
原因もなんとなくわかる。
だが秘密結婚のせいで堂々と説明できない。
結局その夜、彼は筱柠を追いかけることになる。
理想の女性
帰り道。
二人は静かな夜道を歩く。
そこで筱柠は何気なく聞いた。
「どんな女性がタイプなの?」
紀昱恒は少し考えたあと答える。
「高いポニーテールが似合って、よく笑う子。」
それは高校時代の筱柠そのものだった。
だが本人は気付かない。
一方で紀昱恒も質問する。
「君の理想の男性は?」
筱柠は少し照れながら答えた。
「好きになった人なら誰でも。」
その言葉に紀昱恒は思わず笑う。
彼女は気付いていない。
自分がずっと彼の理想そのものだということを。
優しすぎる夫
その夜。
紀昱恒は筱柠の体調を気遣い、紅糖水を作る。
しかし直接は渡さない。
そっと部屋の前へ置くだけ。
押し付けない優しさ。
見返りを求めない愛情。
それが紀昱恒だった。
筱柠はその紅糖水を受け取りながら微笑む。
怒っていても。
嫉妬していても。
やっぱり彼の優しさには勝てない。
理想の女性になりたい
翌朝。
筱柠は鏡の前で髪を結んでいた。
高い位置でポニーテールを作る。
昨日聞いた紀昱恒の理想像が頭から離れない。
親友の凌惟依へ写真を送る。
「どうかな?」
そしてSNSには、
「好きな人の理想に近づく努力って必要?」
と投稿する。
恋する女性そのものだった。
しかし視聴者は知っている。
彼女は努力する必要などない。
なぜなら紀昱恒が十年間好きだった相手は最初から筱柠だからだ。
本当の嫉妬
後日。
趙方剛に連れられ、本当にお見合いの席へ座ることになる筱柠。
しかし偶然にもその店では紀昱恒が接待中だった。
しかも隣には唐羽卉。
筱柠の心はさらに乱れる。
一方で紀昱恒もお見合い中の筱柠を見てしまう。
今度は彼が嫉妬する番だった。
慌てて趙方剛を仕事へ向かわせる。
何度もメッセージを送る。
妻を取られたくない。
そんな気持ちが見え隠れしていた。
十年間変わらない想い
その夜。
紀昱恒は帰宅後、眠っている筱柠を見つめる。
静かな寝顔。
無防備な表情。
彼の脳裏には高校時代の記憶が蘇る。
授業中に見かけた横顔。
ポニーテールを揺らしながら笑う姿。
地下鉄で偶然再会した日。
ノートの隅に描いた似顔絵。
すべての思い出の中心には筱柠がいた。
十年間。
片想いは終わらなかった。
そして今。
ようやく隣にいる。
それなのに彼女はまだ気付いていない。
紀昱恒の白月光。
紀昱恒の初恋。
紀昱恒が人生で一番大切にしている人。
その全てが――
涂筱柠自身なのだから。
第11話の見どころ
第11話は、唐羽卉の登場によって生まれる「嫉妬」が大きなテーマとなっている。
しかし実際には恋のライバルというよりも、筱柠が自分の気持ちを自覚していくための存在だ。
唐羽卉に嫉妬し、お見合い話に腹を立てる紀昱恒。
お互いに相手を意識しているのに、まだ完全には言葉にできない。
そんなもどかしさが非常に魅力的だった。
そして何より印象的なのは、十年間変わらない紀昱恒の一途な愛情である。
秘密の結婚生活はまだ始まったばかり。
しかし二人の心は確実に夫婦へと近づいていた。
第12話 初めての両想いキス――白月光の誤解と夫婦の距離が縮まる夜
第12話では、ついに紀昱恒(ジー・ユーホン)と涂筱柠(トゥー・シャオニン)の関係が大きく前進します。
唐羽卉の登場によって揺れていた筱柠の心。
しかし嫉妬や不安を乗り越えた先で、二人はようやく本当の夫婦らしい時間を過ごし始めます。
さらに退院した紀母との同居も始まり、二人の結婚生活は新たな段階へ。
甘さと温かさに満ちた見どころたっぷりの回となりました。
まだ消えない「白月光」への不安
唐羽卉が配属されてからというもの、筱柠の心は落ち着かない。
表面上は平静を装っているものの、紀昱恒と唐羽卉が親しそうに話すたびに気になってしまう。
凌惟依にも相談するが、彼女は呆れたように言う。
「そんなに気になるなら本人に聞けばいいじゃない。」
だが筱柠には聞く勇気がない。
もし本当に紀昱恒の白月光が別の女性だったら。
そう考えるだけで胸が苦しくなる。
そこで彼女は無理やり話題を変える。
今は転正試験が最優先。
恋愛より仕事。
そう自分に言い聞かせるのだった。
紀昱恒の静かな独占欲
その頃、紀昱恒のもとへ一本の電話が入る。
相手は趙方剛が紹介した筱柠のお見合い相手だった。
しかも電話がかかってきた時、筱柠は入浴中。
携帯を見た紀昱恒はためらうことなく電話に出る。
「筱柠は今お風呂です。」
たった一言。
しかしそこには強烈な意味が込められていた。
彼女は自分の妻だ。
そんな無言の宣言だったのである。
普段は冷静な紀昱恒だが、筱柠に近づく男性には決して寛容ではなかった。
ついに訪れた二人だけの甘い時間
夜。
筱柠は書斎で試験勉強をしていた。
紀昱恒はそっと隣へ座り、問題を一緒に確認する。
夫婦らしい静かな時間。
自然に肩が触れる。
息遣いが近くなる。
そんな中、筱柠は思わず紀昱恒の頬へ軽くキスをした。
一瞬だった。
しかし紀昱恒には十分だった。
彼は優しく筱柠を引き寄せる。
そして今度は自分から唇を重ねた。
これまで何度もすれ違ってきた二人。
ようやく互いの気持ちを確かめ合うような甘いキスだった。
筱柠もその想いを受け止める。
二人の距離は確実に縮まっていた。
天台で語られる本音
その後、二人はいつもの秘密基地である屋上へ向かう。
夜風が心地よい。
そこで紀昱恒は改めて話し始める。
「唐羽卉とは本当に兄妹弟子の関係だ。」
ずっと気になっていたことを自ら説明した。
筱柠は少し安心する。
しかし心の奥にはまだ引っ掛かりがあった。
「でも、あなたの白月光は私じゃないでしょう?」
紀昱恒は思わず苦笑する。
本当は目の前にいる彼女こそが十年間想い続けた相手なのだから。
しかし彼はまだ真実を告げない。
代わりにこんな質問をする。
「もし高校卒業の時、君の前に立ったのが僕だったら?」
筱柠は答えられない。
紀昱恒はそれ以上追及せず、試験が終わるまで待つことを決める。
それでも筱柠は嬉しかった。
少なくとも唐羽卉は白月光ではなかったのだから。
年末の激務と転正試験
年末が近づき、拓展一部は慌ただしくなっていた。
数字に追われる社員たち。
目標達成に苦しむ趙方剛と饶静。
一方で唐羽卉は次々と成果を上げていく。
その姿に周囲は驚くばかりだった。
そんな中でも筱柠は転正試験へ向けて勉強を続ける。
仕事が終われば参考書。
休日も勉強。
休む暇もない。
紀昱恒はそんな彼女を支え続けた。
掃除。
洗濯。
料理。
家事のほとんどを引き受ける。
時にはわざと話しかけて休憩を取らせることもあった。
厳しい上司でありながら、最高に優しい夫でもあった。
見つけてしまった結婚写真と指輪
ある日。
勉強中の筱柠は引き出しの中から一つの箱を見つける。
中には額装された二人の結婚写真。
そして美しく輝くダイヤの指輪が入っていた。
そっと指にはめてみる。
驚くほどぴったりだった。
紀昱恒がずっと前から準備していたもの。
その事実に筱柠の胸は温かくなる。
彼がどれほど真剣にこの結婚を考えていたのか。
改めて実感する瞬間だった。
紀母の退院と新しい家族の形
ついに紀母が退院する日がやって来た。
紀母は遠慮していた。
「若い二人の邪魔になるでしょう?」
しかし筱柠は笑顔で答える。
「一緒に住みましょう。」
その言葉に紀母も安心する。
家へ帰ると、筱柠は張り切って料理をしようとする。
だが魚をさばく段階で完全に立ち往生。
結局、紀昱恒が助けに入ることになった。
料理も得意ではない。
家事も完璧ではない。
それでも家族のために頑張ろうとする姿が愛らしい。
やがて双方の両親も集まり、食卓は賑やかな雰囲気に包まれた。
初めての同じベッド
夜になる。
紀母の世話を終えた二人は寝室へ戻る。
これまでは何かと理由をつけて別々に寝てきた。
しかし今回は違う。
紀昱恒はソファで寝ようとする。
ところが筱柠が引き止めた。
「ベッド広いし、大丈夫。」
そう言われた紀昱恒も思わず固まる。
結局、二人は同じベッドで眠ることになった。
互いに意識してしまい、なかなか落ち着かない。
筱柠は慌てて参考書を開く。
紀昱恒も平静を装う。
けれど二人とも眠れない。
夫婦になってから最も近い距離。
その緊張感がなんとも甘く微笑ましかった。
試験直前、支え合う夫婦
試験まで残り二日。
部署の同僚たちも筱柠を気遣っていた。
趙方剛でさえコーヒーを頼まなくなる。
紀昱恒も彼女の体調を常に気にかける。
少し咳をしただけで心配そうに声をかける。
「大丈夫か?」
筱柠は慌てて答える。
「全然大丈夫!」
そんな何気ないやり取りにも愛情が溢れていた。
仕事も試験も家族も。
さまざまな課題に向き合いながら、二人は少しずつ本当の夫婦になっていく。
そして次回、筱柠にとって運命の転正試験がいよいよ始まる――。
















この記事へのコメントはありません。