九重紫 2024年 全34話 原題:九重紫
第9話の見どころ
窦昭の機転によって邬善が治療を受け、祖父・邬阁老との関係にも大きな変化が訪れます。一方、宋墨は蒋梅荪暗殺の真相を追う中で、船上から消えた謎の男・陈嘉の存在にたどり着きます。さらに窦昭と宋墨は福亭で再び対峙。海賊との結託という濡れ衣を着せられた窦昭を宋墨が取り調べることになります。互いに疑いながらも、宋墨は密かに窦昭を救い、彼女が未来を予見しているかのような不可解な行動を続けていたことに気づきます。二人の距離が縮まる一方、蒋梅荪暗殺の黒幕へ近づく重要な回となります。
第9話のあらすじ
邬阁老は、部屋に閉じこもって木工ばかりしている邬善を厳しく叱責します。邬善が自分の身を守ることすらできず、邬家の将来を背負う覚悟もないことに苛立ち、怒りのままに邬善の大切な木工作品を壊してしまいます。そこへ李太医が到着したとの知らせが入りますが、邬善は頑なに診察を拒みます。
すると、李太医が持参したという木箱が差し出されます。邬善が箱を見ると、それはかつて自分が窦昭のために作ったものでした。二人の名前まで刻まれた木箱を見た邬善は、窦昭の存在を感じ取り、ようやく治療を受ける決心をします。
一方、宋墨は陈曲水のために送別の宴を開きます。严朝卿とともに、なぜこれほど才能のある陈曲水が窦昭に仕えているのか尋ねます。陈曲水は、かつて罪を背負った自分を窦昭が見捨てず、幕僚として受け入れてくれたからこそ、今の自分があるのだと答えます。その言葉を聞いた宋墨は、ますます窦昭という女性への興味を深めていきます。
その頃、窦昭は邬善を訪ね、婚姻について語り合います。邬善は祖父に逆らいたいわけではなく、自分の人生を自分で選びたいだけだと打ち明けます。幼い頃から邬阁老を尊敬し、何事にも従ってきたからこそ、唯一の人生の伴侶だけは自分で決めたいというのです。
窦昭は邬善に、邬阁老の苦労を理解してほしいと伝えます。朝廷の中で邬家を守るために戦い続ける邬阁老の負担を減らすには、邬善自身が強くなるしかありません。窦昭の言葉に心を動かされた邬善は、祖父を支え、邬家を守れる人間になることを決意します。窦昭が去ろうとすると、邬善はまた会いたいと願いますが、窦昭は自分と会うことよりも、彼が幸せに生きることを望むのでした。
その後、窦昭の身代わりとして李太医を連れてきた素兰が宋墨のもとへ戻ります。宋墨は、なぜ窦昭自身が来なかったのかと疑問を抱きます。さらに陆鸣から、素心を捕らえたとの報告を受け、すぐに窦昭を呼び出すよう命じます。
窦昭が邬家を出る際、廊下で邬阁老と遭遇します。大きな斗篷で顔を隠していたため正体は気づかれませんでしたが、邬阁老は不審に思い、振り返るよう命じます。窦昭が窮地に陥ったその瞬間、陆鸣が現れ、李太医を宋墨のもとへ連れていくのだと説明します。邬阁老はそれ以上追及せず、窦昭は無事に邬家を脱出します。
窦昭が自分のために危険を冒してくれたことを知った邬善は、祖父の前に跪きます。これまで自分が間違っていたことを認め、祖父の苦労を理解したうえで、これからは自分も邬家を守るために努力すると誓います。邬阁老はその言葉に心を動かされ、二人の間にはようやく歩み寄りの兆しが生まれます。
一方、宋墨は朝廷がすでに定国軍への圧力を強めており、その聖旨を届けたのが窦世枢だったことを知ります。窦昭が窦世枢を引き止めていたからこそ、宋墨たちは行動できたのではないかと考えます。しかし、その後の状況を考えると窦昭がすべてを知っていたとも思えず、宋墨は彼女への疑念を完全には捨てきれません。陈曲水を返す約束も取り消し、素心だけを窦昭のもとへ返します。
宋墨は蒋梅荪暗殺の真相を追い続け、当時の船に乗っていた缉影卫の人数を調べます。記録上は九人が船に乗ったはずなのに、遺体は八人しかありませんでした。そこで浮上したのが陈嘉という男です。賭博癖のため正式な名簿から外されていたものの、義父である缉影卫の責任者に能力を買われ、密かに船へ乗せられていました。
あの日、船は高官たちによる襲撃を受けました。襲撃者たちは東渝人の刀法を使っていましたが、宋墨はそれが本物ではなく、意図的に東渝人の仕業に見せかけたものだと見抜きます。現場へ駆けつけた陈嘉は義父が殺されているのを見て、自分も殺されると恐れ、海へ飛び込んで逃亡していました。その後、罪悪感に苦しみながら賭場に入り浸る生活を送っていたのです。
宋墨はついに陈嘉を見つけ出します。賭場で借金を抱え、暴力を受けていた陈嘉の借金を肩代わりした宋墨は、義父の死についてすべて話すよう迫ります。宋墨の叱責を受けた陈嘉はようやく過去と向き合い、義父の仇を討つため宋墨に協力することを決意します。
そんな中、窦昭のもとへ纪咏から福亭に関する知らせが届きます。市舶司が安素の家の船を押収し、窦昭と安素の商売を断とうとしているというのです。窦昭は単なる商売上の問題ではないと察し、安素とともに福亭へ向かいます。一方、宋墨も蒋梅荪の死の真相を調べるため福亭へ向かうことになります。
福亭に到着した窦昭は、茶葉を売れなくなり困窮する民衆の姿を目の当たりにします。定国軍への処分によって船が止められ、茶葉を運べなくなったことで、多くの人々が生活に困っていました。窦昭はすぐに食料を配り、民衆を救おうとします。
しかし、市舶司の丁谓は窦昭と安素を呼び出し、海賊と結託したという罪を着せようとします。船から武器が見つかったと主張し、罪を認めなければさらに重罪にすると脅します。窦昭は人証を求めますが、丁谓は何一つ提示できません。それでも二人を牢へ入れ、取り調べを続けます。
丁谓は、安素がすでにすべてを自白したと嘘をつき、窦昭にも罪を認めるよう迫ります。しかし窦昭は、誰が自分を裏切ることがあっても安素だけは絶対に裏切らないと信じ、屈しません。
そこへ宋墨が到着します。丁谓は宋墨の厳しい尋問を利用して窦昭を追い詰めようとし、二人を別々に取り調べさせます。宋墨は窦昭に対し、窦世枢と共謀しているのではないかと問いただします。窦昭は、自分と窦世枢を同じ人間だと思わないでほしいと訴えます。
宋墨は表向きには窦昭を厳しく責め、刑を加えるふりをします。しかし実際には、彼女の負傷した手に金瘡薬を塗っていました。さらに周囲に疑われないよう、窦昭に小さく声を上げるよう促します。窦昭も意図を理解し、苦痛を装って叫び声を上げます。丁谓は宋墨が本当に窦昭を拷問していると思い込み、二人の真意には気づきません。
しかし宋墨には、窦昭に対する新たな疑問が生まれていました。窦昭は蒋梅荪が殺されることを予測していたかのように福亭へ投資し、船や茶葉、絹を準備していました。それなのに情勢が変わる直前には、すべての船を売却しています。まるで未来を知っていたかのような行動です。
宋墨は、窦昭がただの聡明な女性ではなく、何か大きな秘密を抱えていると確信します。敵なのか味方なのか――。疑念を抱きながらも、彼女を守ろうとする自分自身にも気づき始めます。窦昭もまた、宋墨にすべてを説明できない苦しさを抱えたまま、福亭で迫り来る危機と向き合うのでした。
第10話の見どころ
宋墨と窦昭が再び命を懸けて真相を追う中、二人の距離が一気に縮まる重要回です。牢獄で互いの秘密を探りながらも信頼を深めた二人は、女妓と客に扮して船へ潜入。危機の中で宋墨が窦昭を守るため身を挺し、二人は前世の記憶と重なる瞬間を経験します。一方、丁謂は黒幕を隠したまま自害し、事件の真相はさらに深い闇へ。最後には宋墨が皇帝への忠誠を捨て、「乱臣賊子」となる決意を固めます。そんな彼を見つめる窦昭は、前世と同じ悲劇が再び始まろうとしていることを悟るのでした。
第10話のあらすじ
薄暗い牢獄の中で、宋墨は窦昭を鋭い眼差しで見つめ、彼女が何か重大な秘密を隠していることを見抜こうとしていました。窦昭は、自分は商売に長けているから世の中の流れを読むのが得意なだけだと説明します。しかし、宋墨の鋭い洞察を前に、その説明だけでは到底納得させられません。宋墨は窦昭の言葉だけでなく、その心の動きから、自分に関わる何かを彼女が知っているのではないかと感じていました。
窦昭はやがて宋墨に近づき、ここから生きて出られたなら、必ずすべてを話すと約束します。宋墨は彼女の真っ直ぐな目を見つめ、完全には疑念を捨てきれないものの、ひとまずその言葉を信じることにします。
そこへ纪咏が令牌を手に牢獄へ現れ、苗安素と窦昭との面会を求めます。纪咏は、丁謂が牢獄の外から様子を探っていることを察すると、あえて宋墨と衝突。激しい口論を演じ、さらには自ら傷を負って血を流すことで丁謂を誘い出します。思惑通り、丁謂は二人が争っていると思い込み、様子を見ようと姿を現します。その隙を利用して纪咏はその場を離れ、宋墨と窦昭だけを残します。
その後、纪咏は窦昭の手の傷を確認します。すでに誰かが丁寧に手当てしていたことに気づき、視線を宋墨へ向けます。宋墨が治療したことを察した纪咏は、それでも自分の手で窦昭に薬を塗り直します。そして自分と窦昭は幼い頃からの付き合いだと強調し、宋墨などとは比べものにならないほど彼女を理解していると挑発します。宋墨は表情を変えませんが、心の中にはわずかな動揺が生まれます。外で様子を見ていた陆争と陆鸣も、宋墨が窦昭を特別に意識していることを感じ取っていました。
三人は今後の策を話し合い、宋墨は蒋梅荪の死の真相を突き止めるため、問題となっている船へ潜入することを決めます。窦昭も安素の家族のために真相を明らかにすると同行を申し出ます。纪咏は内心では反対しながらも、丁謂に近づいて酒宴の中から令牌を盗み出し、二人が船へ入れるよう手助けすることにします。
窦昭は女妓に変装し、宋墨とともに船の前まで向かいます。しかし、令牌を見せても船番は簡単には通してくれません。宋墨が強引に突破しようとすると、窦昭は彼を止め、自分が船内に置き忘れた宝石を取り戻したいと泣き出します。宋墨もすぐに芝居に合わせ、愛する女性のためなら何でもする男を演じます。さらに銀を渡したことで、船番は二人を単なる色恋沙汰の男女だと思い込み、船内へ通します。
船に乗り込んだ宋墨と窦昭は、互いに身体を寄せ合いながら船内を探索します。人目を避けるため宋墨が窦昭を抱き寄せる場面も多く、最初は恥ずかしそうにしていた窦昭も次第に自然な動きで彼に合わせるようになります。二人は調査を続けるうち、言葉を交わさなくても互いの考えが分かるほどの息の合った動きを見せるようになります。
そして船室の奥で手掛かりを探していた二人は、木板越しに偶然目を合わせます。その瞬間、二人の脳裏に、かつて劇場で仮面をつけて向き合った人物の姿が蘇ります。宋墨は、目の前の窦昭こそ自分が探していた「仮面の少女」ではないかと感じ、窦昭もまた、宋墨との間に不思議な既視感があることを確信します。互いの正体に近づいたことで、二人の心の距離もさらに縮まっていきます。
しかし、船の総管に二人の潜入が知られてしまいます。総管は女を連れて船に入った宋墨を敵と判断し、部下に二人を殺すよう命じます。宋墨は窦昭を守りながら応戦しますが、総管が放った矢が窦昭へ向けられます。その瞬間、窦昭の脳裏には前世の記憶が蘇ります。かつて宋墨が自分を守るために命を懸けた光景です。
次の瞬間、宋墨は窦昭を抱きしめたまま水中へ飛び込みます。二人は何とか岸へ逃れ、焚き火を起こして濡れた衣服を乾かします。負傷した宋墨を見た窦昭は、そっと傷の手当てをします。宋墨はその機会に、以前見た芝居を窦昭も見たことがあるのかと尋ねます。しかし窦昭は前世の記憶を隠し、見たことはないと答えます。実際には、これが二度目となる宋墨の負傷であり、彼が自分を守るたびに窦昭の心には罪悪感と切なさが積み重なっていました。
一方、陆争と陆鸣は丁謂を監視し続け、彼が逃亡しようとしていることを突き止めます。窦昭が一晩戻らなかったため、素兰も計画通り牢獄へ向かい、窦昭を救い出そうとします。しかし、牢番の中には総管も紛れ込んでおり、窦昭は捕らえられてしまいます。
宋墨はすぐさま丁謂を捕らえ、事件の黒幕を問い詰めます。しかし丁謂は私怨による犯行だと誤魔化し、背後にいる人物について一切語ろうとしません。宋墨は容赦なく刀を突きつけ、真相を話すよう迫ります。丁謂は最後まで沈黙を貫き、ついには舌を噛み切って自害します。宋墨は、わずかな筋肉の反応から答えを読み取ろうとしていましたが、丁謂はそれすら許さず、秘密を抱えたまま死んでしまいました。
夜になると、総管が窦昭を人質にして姿を現し、丁謂との交換を要求します。宋墨は窦昭をただの利用価値のある駒だと冷たく言い放ちます。しかし実際には彼女を傷つけることなどできませんでした。総管に向けて放った矢は、窦昭を避けながら総管だけを射抜きます。窦昭を救出した宋墨は、彼女を危険に巻き込んだことを悔やみます。恐怖で手を震わせる窦昭を見た宋墨は心配しますが、窦昭は気丈に振る舞い、自分は大丈夫だと答えます。
その後、宋墨が捕らえた刺客たちを尋問しようとしたところ、汪公公が突然現れます。汪公公は皇帝の勅旨を示し、今回の事件の責任をすべて丁謂に負わせ、関係者を処刑するよう命じます。さらに宋墨自身にも公務を妨害した罪があるとして、京へ連行しようとします。
宋墨は激怒し、刀を汪公公へ向けます。なぜ証拠を知る者たちを皆殺しにするのか、皇帝は蒋梅荪の死に別の事情があると知っているはずなのに、なぜ真相を隠そうとするのかと問い詰めます。汪公公は答えようとせず、「君が臣を死なせようとするなら、臣には従うしかない」と告げます。ただし、宋墨にはまだ自分で選ぶ道が残されているとも伝えます。
その言葉を聞いた宋墨は、皇帝への忠誠そのものに疑問を抱き始めます。彼は手にしていた鸳鸯刀を見つめます。それはかつて皇帝が蒋梅荪に褒美として与えた刀であり、蒋梅荪はそれを宋墨へ譲っていました。つまり、その刀には「お前が次の蒋梅荪になる」という意味が込められていたのです。
しかし今、宋墨はその道を歩むことが蒋梅荪と同じ結末を迎えることになるのではないかと悟ります。窦昭は刀を壊せば大不敬になると彼を止めようとしますが、宋墨は皇帝に仕えることをやめる決意を固めます。そして鸳鸯刀を投げ捨て、自ら「乱臣賊子」となる道を選びます。
さらに宋墨は窦昭に船を受け取るための証文を渡し、これ以上自分に関わらないよう告げます。窦昭はその場を去ろうとしますが、前世で宋墨が自分を守りながら死んでいったときの言葉が脳裏に蘇ります。宋墨は今回も、自分が背負う汚名から窦昭を遠ざけようとしているのです。
窦昭は歩みを止め、遠ざかっていく宋墨の背中を見つめます。彼が再び前世と同じ悲劇へ向かおうとしていることを、誰よりも知っているのは窦昭でした。だからこそ彼を見捨てることはできません。二人の運命は、ここから大きく変わり始めようとしていました。
第11話の見どころ
蒋梅荪の死を受け、宋墨は定国軍を解散させる一方、密かに腹心たちを集めて反撃の機会をうかがい始めます。窦昭はそんな宋墨に「あなたが新しい蒋梅荪になる」と告げ、彼に受け継ぐべき責任と使命を示します。一方、苗安素の窮地を救うため母の形見まで差し出した窦昭は、さらにジャガイモ栽培という新たな商機を見いだします。庆王への接近を考える纪咏、窦昭の動きを探る王映雪、そして窦昭を密かに守る宋墨。帰路で何度も窦昭の周囲に現れる不可解な助けの正体とは――。二人の距離が少しずつ縮まる一方、宮廷と窦家をめぐる新たな駆け引きが始まります。
第11話のあらすじ
窦昭は、宋墨が皇帝への忠義を捨て、乱臣賊子として生きる道を選ぼうとしていることを察します。それでも彼を見捨てることができず、皮肉を交えながら宋墨を説得しようとします。蒋梅荪ならば、たとえ理不尽な仕打ちを受けても、国と皇帝を見捨てることはなかった――そう伝えることで、窦昭は宋墨に自分の使命を思い出させようとします。そして水辺で小さな祈りの舟を流し、蒋梅荪の冥福を静かに祈ります。これまで自分が平穏に暮らせたのも蒋梅荪の庇護があったからだと感謝し、彼が残した平和は決して失われないと語るのでした。
さらに窦昭は、皇帝が蒋梅荪を本当に見捨てたわけではないと推測します。皇帝は真相を知りながらも、今すぐ動けばさらに多くの犠牲が出るため、あえて沈黙しているのではないか。真の強者とは、力をむやみに振りかざすのではなく、刃を鞘に収めたまま時機を待つ者だと説きます。そして蒋梅荪が亡くなった今、宋墨こそがその意思を受け継ぐ存在なのだと告げます。宋墨はその言葉を胸に刻み、自らの進むべき道について考え直します。
そこへ陈嘉が宮中から得た情報を持って戻ってきます。皇帝は毎日のように蒋梅荪との思い出の品である戒尺を見つめ、深い後悔を口にしているというのです。皇帝もまた定国公が冤罪で殺されたことを知りながら、何らかの圧力によって事件を終わらせざるを得なかった――窦昭の推測は現実に近いものでした。宋墨は、皇帝がなぜ真犯人を庇うのかを考え、太子派の利益を守るためではないかと疑います。さらに陈嘉から、蒋梅荪が護送された際、太子と庆王だけが見舞いに訪れていたことを聞き、皇子たちの動向にも疑念を抱きます。
その頃、福亭の軍営で異変が起きます。定国公を失った兵士たちは怒りと絶望に包まれ、反乱や落草を考える者まで現れていました。宋墨は急いで軍営へ向かいますが、彼はすでに軍職を失った身であり、自分はもう少帥ではないと兵士たちに告げます。それでも兵士たちは宋墨への忠誠を捨てようとせず、定国公の無念を晴らすため彼に従うと誓います。宋墨は苦渋の決断として定国軍を解散させますが、その裏では信頼できる者たちだけを密かに集め、新たな組織を作ることを決意します。今は耐え、機会が訪れた瞬間に反撃する――宋墨は新たな戦いの準備を始めます。
一方、福亭では苗安素の家に債主たちが押し寄せ、差し押さえられた商船や損失した商品について賠償を求めます。窦昭と纪咏が駆けつけ、法に基づいて騒ぎを抑えますが、苗家の窮状は深刻でした。窦昭は迷うことなく、亡き母の形見である大切な腕輪を差し出し、それを担保にして官府へ十日以内に借金を返済すると約束します。
苗安素は申し訳なさに涙を流し、自分の店をすべて売ってでも腕輪を取り戻そうとします。しかし窦昭は、二人の友情は金銭や財産では測れないと優しく説きます。母の形見が友人を救うために役立ったのなら、亡き母もきっと喜んでくれるはずだと伝え、苗安素を思いとどまらせます。その一方で、苗家では弟・安平の科挙受験費用も必要となっており、窦昭は家族全員で困難を乗り越えるよう説得します。
さらに窦昭は、食料として食べていたジャガイモに目を留めます。芽が出て売り物にならなくなったジャガイモを見ながら、厳しい環境でも育つ作物ならば、荒れた土地でも栽培できるのではないかと考えます。苗安素に土地を購入させ、三か月ほどで収穫できれば新たな収入源になると提案します。商売だけでなく農業にも目を向ける窦昭の先見性は、苗家に新たな希望をもたらします。
その頃、窦家では王映雪が窦昭の行方を探っていました。節礼を持って訪れ、窦昭本人に会おうとしますが、赵璋如や崔氏に阻まれます。王映雪は祈祷のための神像を持ってきたと装いながら、実際には窦昭が本当に屋敷にいるのか確認しようとしていました。しかし崔氏の機転によって目的を果たせず、帰る際には窦昭本人ではない誰かが裏で動いていることに気づきます。
崔氏は事情を問いただし、赵璋如から窦昭が福亭へ向かったことを知ります。王映雪もその情報を窦世英へ伝え、ちょうど济宁侯府から届いた宴会の招待を利用して、窦家と有力者の縁談を進めようとします。窦世英は判断を決められず、王映雪に押される形で宴会への参加を承諾します。
一方、纪咏は皇帝から寵愛されている庆王に接近することを考えます。太子は必ずしも皇帝から重く見られておらず、支持する朝臣も少ない一方、庆王は礼賢下士で人望も厚いと分析します。窦昭は前世の記憶から、庆王が最終的に成功した背景には非常に優れた軍師がいたことを思い出します。そして、その人物こそ纪咏ではないかと疑い始めます。まるで未来を知っているかのような纪咏の言動に、窦昭は警戒を強めます。
そんな中、窦世枢と窦世英が福亭を訪れ、窦昭を責め立てます。窦世枢は、窦昭がわざわざ福亭まで来て苗家を助けることを「恥さらし」と非難し、苗家のような家柄の者と親しくすることすら否定します。さらに崔氏の病状が悪化したのは窦昭が家を離れたせいだと告げます。
その言葉を聞いた窦昭は顔色を変え、すぐに帰宅することを決意します。福亭で築いた財産をすべて窦家に渡してもいいから、母のもとへ帰らせてほしいと懇願し、ようやく翌朝の出発を認めさせます。しかし帰路でも窦世枢は窦昭への不満を口にし続けます。
ところが道中、窦昭たちを待っていたのは思いがけない助けでした。軍兵が温かい食事を用意し、窦昭が体調不良を訴えると、すぐに胃に優しい粥まで届けられます。窦昭は、それが定国軍による密かな護衛だと察して微笑みます。さらに禹州城では、窦家の名を伝えただけで門番が優先的に通行を許可します。窦世枢は、これも窦昭の人脈によるものだと気づき、不快感を募らせます。
その後、大雨で馬車が泥に埋まると、農民姿の男たちが現れて馬車を押し上げます。彼らは窦昭を「四小姐」と呼び、礼金さえ受け取らず去っていきました。窦世枢は、窦昭が身分の低い者たちとまで親しくしていることに怒りを覚えます。
ようやく庄子へ戻った窦昭でしたが、窦世枢は崔氏を見舞おうともせず、窦昭に魏廷瑜との婚約を忘れるなと念を押します。婚書はすでに窦世英夫妻が署名したというのです。窦昭は反論する暇もなく、病床の崔氏のもとへ駆け込みます。
その頃、宋墨はずっと窦昭の帰路を密かに見守っていました。軍兵や農民を通じて彼女を助けていたのも宋墨だったのです。窦昭が無事に庄子へ戻ったことを確認すると、宋墨は誰にも気づかれないままその場を離れます。蒋梅荪を失った悲しみを抱えながらも、宋墨は今なお窦昭を守ることをやめられないのでした。
第12話の見どころ
窦昭が窦家へ戻ると、王映雪の策略によって再び家族間の争いに巻き込まれていきます。一方、宋墨には「弑父殺弟」と「一夜白頭」という前世の記録に関わる新たな危機が迫ります。さらに庆王のもとで力を発揮した宋墨が急ぎ帰京すると、母・蒋蕙荪はすでに亡くなり、父・宋宜春から身に覚えのない罪まで着せられてしまいます。窦昭は宋墨を救うため禁足を破って奔走し、陸争は命を懸けて世子を逃がします。家族から見捨てられた宋墨を救ったのは、血のつながらない窦昭たちでした。傷ついた宋墨の髪に白いものを見つけた窦昭は、前世と同じ運命が再び始まろうとしていることを悟ります。
第12話のあらすじ
窦昭は、王映雪が自分を帰宅させるため、崔氏の病状まで利用したことを見抜いていました。王映雪が得意げな顔を見せる一方、窦昭は何も騒がず、まず病床にある崔氏を救うことを優先します。窦昭は丁寧に鍼を施し、崔氏が普段から起こしやすい症状に備えて薬包まで用意します。そして自分が家を離れている間にも対応できるよう、赵璋如に薬の使い方を細かく説明します。
やがて目を覚ました崔氏は、目の前に窦昭がいることを知ると、まるで子供のように泣き出します。崔氏もまた、今回の病状悪化が王映雪によって意図的に引き起こされたものだと察していました。さらに王映雪が窦昭の婚約まで勝手に決めたと聞くと、怒りのあまり直接問いただそうとします。しかし窦昭は祖母を制止し、「私はもう子供ではない。自分の問題は自分で向き合わなければならない」と説得します。
崔氏は、自分が窦昭を十分に守れなかったことを悔やみます。しかし同時に、聡明な窦昭ならば困難を乗り越えられるとも信じています。それでも心配は尽きず、くれぐれも慎重に行動するよう何度も言い聞かせます。そんな中、窦世枢も窦昭のもとへやって来て、都へ戻った際に恥をかかないよう、高価な衣服や装飾品を用意します。窦昭は、父親が自分のためというより、窦家の面子を守るためだと理解します。
その夜、外から美しい楽器の音が聞こえてきます。崔氏は自分の誕生日を祝う音楽だと思いますが、窦昭は通りすがりの芸人ではないかと考えます。しかし実際には、その音色を奏でていたのは宋墨でした。窦昭は庭に出ると、宋墨が近くにいることを察し、迷うことなく彼を呼び出します。
窦昭は、福亭から帰るまで宋墨が陰ながら自分を守ってくれたこと、そして彼が贈ってくれた曲について感謝を伝えます。宋墨もまた、窦昭を「自分がこれまで会ってきた女性の中でも、最も物事を見通している」と評価します。普通の女性ならば知ることもできない朝廷の情勢まで分析する窦昭に、宋墨は改めて強い関心を抱いていました。窦昭はそんな宋墨を見て、自分も彼のように困難を突破する勇気を身につけたいと語ります。
すると宋墨は、以前船上で窦昭が落とした耳飾りを取り出します。それは彼が矢を放った際に偶然落ちたものでした。宋墨がそれを大切に拾っていたことを知り、窦昭の心には温かな感情が広がります。二人の間には、もはや単なる協力関係だけでは説明できない微妙な空気が流れ始めていました。
一方、窦昭が帰宅した後、陈曲水は屋敷の様子に違和感を覚えます。新しい使用人が増えているうえ、蒋蕙荪の病状がさらに悪化し、毎日のように吐血しているという知らせまで入ります。窦昭は王映雪の前でも反抗的な態度を見せず、「これからは言うことを聞く」と従順な姿勢を見せます。しかし王映雪はそれを信用せず、窦昭に書写を命じます。
窦昭が黙々と書物を書き写していると、夜になって赵掌柜が新しい硯と紙を届けます。窦昭が中を確認すると、それは陈曲水からの密かな報告でした。その内容を読んだ窦昭は、前世の記憶を思い出します。『昭世録』には、この年に宋墨が「父を殺し、弟を殺し、そして一夜にして白髪になった」と記されていました。
窦昭は、この悲劇が蒋梅荪の死だけでは終わらず、英国公府にもつながっているのではないかと考えます。そこで陈曲水にさらに深く調べるよう指示します。自分の記憶とは異なる部分が少しずつ現れ始めており、窦昭は前世と同じ結末を変えるため、情報収集を急ぎます。
そんな夜、窦明が窦昭の部屋を訪れます。彼女は窦昭を湖へ連れ出そうとし、王映雪から命じられた書写まで代わりに済ませていました。窦昭は、以前の窦明とは明らかに違う彼女の姿に戸惑います。かつては自分に敵意を向けていたと思っていた妹が、今は自分を気遣っているように見えたからです。
突然、外から人の足音が聞こえます。窦昭はすぐに灯を消し、窦明は咄嗟に窦昭の膝元に身を隠します。二人は思いがけず近い距離で身を寄せることになり、これまで距離のあった姉妹の間にも、少しずつ本当の情が芽生え始めます。
さらに窦昭のもとには、纪咏と宋墨からも書写された文書が届けられます。窦昭が目を通すと、宋墨の筆跡が驚くほど自分の左手の字と似ていることに気づきます。纪咏もまた、他人の筆跡を巧みに真似ることができました。素心は二人の書いたものを両方利用すればいいと提案し、窦昭も思わず笑みを浮かべます。
その頃、纪咏は庆王のもとで宋墨の実力を見せます。宋墨は目隠しをした状態で弓を引き、百歩先の的を正確に射抜きます。その見事な腕前に庆王は感服し、宋墨を自分の側近として迎えたいと考えます。しかし宋墨は、母・蒋蕙荪の病気を理由に帰京を願い出ます。
ちょうどその時、辺境で軍事的な異変が起き、庆王自ら軍を率いて討伐へ向かうことになります。庆王は宋墨に檄文を託し、先に都へ戻るよう命じます。ところが、急いで帰京した宋墨を待っていたのは、最も残酷な現実でした。
屋敷にはすでに母の葬儀のための霊堂が設けられていたのです。弟は棺の前で泣きながら、母が病床で何度も宋墨の名を呼び、薬を飲もうとしなかったことを伝えます。宋墨は母の最期に立ち会えなかったことを激しく悔やみ、棺の前で何度も額を床に打ちつけます。
さらに追い打ちをかけるように、宋宜春が宋墨を呼びつけます。父は妻の死を受け入れられず、彼女がただ花を見に出かけているだけで、すぐ帰ってくるような錯覚に陥っていました。しかし、その悲しみに浸る間もなく、宋宜春は一つの羊脂玉を宋墨に突きつけます。
それはかつて祖父から蒋蕙荪へ贈られ、宋墨も一つ受け取っていた大切な品でした。しかし同じものが侍女・梅蕊の手元から見つかったのです。梅蕊は蒋蕙荪の死後、自ら命を絶っていました。そして彼女の腹には三か月の子がいたことが判明します。
宋宜春は、宋墨が梅蕊と密通していたのではないかと疑います。三か月前には宋墨がすでに都へ戻っていたにもかかわらず、家に帰ってこなかったことも疑惑を深めました。宋墨は身の潔白を証明するため、使用人や陆争が証人になれると訴えます。しかし宋宜春は一切耳を貸さず、激しく彼を殴りつけます。
そして宋宜春は、宋墨を家法によって処罰し、祠堂からも除名すると宣言します。翌日には宗族を集め、宋墨の世子としての資格まで剥奪するつもりでした。宋墨は父から完全に見捨てられたことを悟ります。
この知らせを聞いた窦昭は、英国公府が封鎖されたことから、ただならぬ事件が起きていると察します。自分が禁足中であることも顧みず、宋墨を救うため動き出します。窦昭は陈曲水の協力を得て混乱を起こし、陸家の者たちも救出作戦に加わります。
しかし救出の途中、陆争は宋墨を逃がすために門を守り、一人で追手を食い止めます。そして最後までその場を離れようとせず、敵の刃に倒れてしまいます。血のつながりもない者たちが命を懸けて自分を救おうとする一方、実の父親は自分を家から追放しようとしている――宋墨は、その現実に深い絶望を覚えます。
そして何より、窦昭までもが男女の身分や世間の目を顧みず、自分を助けるため危険を冒していました。窦昭は思わず「私も以前、あなたに救われたことがある」と口にします。
その言葉を聞いた宋墨は、窦昭が書いた文字を目にします。彼は以前、芝居を見た際に出会った仮面の女性と窦昭が同一人物なのではないかと確信します。しかし窦昭は、決してその秘密を認めようとはしません。
窦昭が宋墨の傷に薬を塗っていると、彼の髪に一本の白髪があることに気づきます。その瞬間、窦昭の脳裏に前世の宋墨の姿がよみがえります。前世と同じように、宋墨の運命が再び悲劇へ向かっているのではないか――窦昭は強い不安に襲われます。
それでも宋墨は立ち上がろうとします。父は翌日にも祠堂を開き、自分を宗族から除名し、世子の地位まで奪おうとしている。宗法が動けば、たとえ皇帝であっても簡単には覆せません。
母の遺体もまだ安置されたまま、命を懸けて自分を救ってくれた陆争も帰らぬ人となった今、宋墨に必要なのは傷を癒やす時間ではありません。再び刀を握り、失ったものを取り戻すために戦う力でした。
こうして宋墨は、家族からも朝廷からも追い詰められながら、再び過酷な運命へと歩み始めます。そして窦昭もまた、前世とは違う未来を作るため、彼の運命に深く関わっていくことになります。
九重紫 13話・14話・15話・16話 あらすじ
















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