恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 2025年 全26話 原題:怎敌她千娇百媚
目次
第22話 暴かれた裏切りの証
陸昀たちは密道図の発見によって、父・陸節将軍の死の真相へと大きく近づいていた。そして次なる標的は、長年にわたり疑惑の中心にありながら決定的な証拠が見つからなかった陳灏だった。
数日前、孔先生の屋敷から偶然発見された帳簿には、官職の売買や不正な利益供与の記録が詳細に残されていた。その内容から、孔先生が長年にわたり私利私欲のために権力を利用していたことが明らかとなる。さらに、その多くの取引に陳灏の名前が記されており、二人が深く結びついていることも判明した。
帳簿を調べ終えた陸昀は羅令妤と密かに会い、今後の方針を話し合う。
十年以上にわたり国家を裏切り続けてきた者たちが、これだけで全ての証拠を残しているはずがない。
そう考えた二人は、陳府へ再び潜入し、決定的な証拠を探し出すことを決意する。
翌朝、羅令妤は高価な胭脂や化粧品を手土産に陳府を訪れた。表向きは陳繍への祝いの挨拶だったが、本当の目的は屋敷内の調査にある。
陳灏は突然の来訪に警戒を強めるものの、相手が女性同士の訪問を装っている以上、露骨に追い返すこともできない。表面上は笑顔で迎えながらも、その目は終始鋭く光っていた。
そんな中、今度は陸昀までもが大量の婚礼品を持参して現れる。
思わぬ鉢合わせに見えたが、もちろんこれも二人が事前に仕組んだ芝居だった。
陸昀と羅令妤はわざと口論を始め、お互いを皮肉り合う。まるで関係が冷え切っているかのような振る舞いに、陳灏も次第に警戒を解いていった。
陳灏は密かに娘と陸昀を結び付けたいと考えていたため、陸昀が羅令妤に未練を持っていないように見えたことに安堵する。
その隙を突き、二人は別々に行動を開始した。
羅令妤は陳繍と共に後院へ向かい、陸昀は書房の捜索を始める。
しかし陸昀が書棚を調べている最中、運悪く陳灏本人に見つかってしまう。
慌てて古書に興味を持ったふりをする陸昀だったが、老獪な陳灏はすでに全てを察していた。
これまで陸昀を味方に引き入れようとしてきた陳灏だったが、それが不可能だと悟った今、もはや遠慮はなかった。
彼は計画を前倒しし、自ら反撃に出る。
陳灏は突然、陸昀こそが北褚の間者だと言い放つ。そして羅令妤も北境出身であり、二人が共謀していると主張し始めたのである。
思いもよらぬ反撃に陸昀は驚くが、羅令妤がまだ証拠を探している以上、ここで倒れるわけにはいかない。
彼は平静を装いながら言葉を重ね、時間を稼ごうとする。
だが陳灏はもはや後戻りする気などなかった。
追い詰められた陸昀はついに剣を抜き、陳灏へ突きつける。
その直後、騒ぎを聞きつけた陳府の護衛たちが次々と集まり、屋敷内は一触即発の空気に包まれた。
一方その頃、羅令妤と陳繍は別の場所を捜索していたが、有力な証拠は見つからない。
そこで羅令妤は発想を変え、最近の家族の行動に不自然な点がなかったかを陳繍に尋ねる。
すると陳繍は、母親が近頃やたらと祠堂へ通っていることを思い出す。
以前は短時間の参拝で済ませていたのに、最近は長時間こもることが増えていたという。
その話を聞いた羅令妤は直感する。
秘密が隠されているとすれば、そこしかない。
二人は急いで祠堂へ向かう。
そして予想は的中した。
祠堂の奥深くに隠された場所から、一枚の北褚の令牌が発見されたのである。
それは北褚との繋がりを証明する決定的な証拠だった。
羅令妤はすぐに令牌を持って陸昀のもとへ向かう。
だが陳灏はなおも往生際が悪かった。
令牌など知らない、自分への濡れ衣だと叫び続ける。
そこへ孔先生までもが現れ、陳灏をかばおうとする。
しかし次の瞬間、衡陽王が兵を率いて現れた。
ついに逃げ場を失った二人はその場で拘束され、陳府は封鎖される。
羅令妤は混乱の中で傷ついた陳繍を気遣い、尋梅居へと保護する。
やがて陳灏は牢へ送られるが、それでもなお罪を認めようとしなかった。
陸昀はそんな彼の前に現れる。
そして静かに告げる。
かつて陳灏に取り立てられた書生たちはすでに全員が自白し、皇帝も真相を把握していること。
さらに今飲んでいる酒は毒酒であり、もはや助かる道はないことを。
もちろん、それは陸昀の仕掛けた心理戦だった。
だが陳灏は完全に動揺する。
死を目前にしたと思い込んだ彼は、長年胸の奥に隠していた秘密をついに吐き出した。
あの日、陸節将軍が敵軍包囲網を突破しようとした時のこと。
陳灏は味方のふりをしながら背後から近づき、自らの手で剣を突き立てた。
鮮血に染まる戦場で、陸節将軍は信頼していた仲間に裏切られて命を落としたのである。
全てを語り終えた陳灏はようやく気付く。
その場には大理寺の書記官が同席しており、自分の供述は一言残らず記録されていたことを。
陳灏は愕然とする。
だが、もはや全てが遅かった。
長年隠されてきた国家反逆の真実は、ついに白日の下に晒されたのである。
父を殺した真犯人の自白を聞いた陸昀は、ようやく長年の苦しみに一区切りをつける。
復讐を果たした安堵。
失われた父への哀しみ。
そして真実へ辿り着いた達成感。
様々な感情が胸の中で入り混じる。
その傍らで羅令妤もまた、人の欲望が生み出した悲劇の大きさを痛感していた。
二人は改めて誓う。
この事件の全貌を明らかにし、父たちの名誉を回復し、朝廷から裏切り者を一掃することを――。
次回の見どころ
ついに陳灏の自白によって、陸節将軍殺害の真相が明らかとなる。しかし事件の黒幕は本当に陳灏だけなのか。孔先生の背後にはさらに大きな勢力が潜んでいる可能性が浮上する。一方、長い戦いを共にしてきた陸昀と羅令妤の関係にも新たな変化が訪れる。真実へ近づくほど危険も増していく中、二人が下す決断とは――。物語はついに最終局面へ向けて大きく動き始める。
第23話 旅立ちの誓い――託された想いと北境への出征
陸昀は長年追い続けてきた父・陸節将軍の冤罪をついに晴らすことに成功した。皇帝もその忠義と孝行を高く評価し、陸節に「鎮北侯」の称号を追贈する。長く汚名を着せられていた父の名誉が回復され、陸家にとっても悲願が叶う瞬間だった。
陸昀は父の位牌を祠堂へと安置し、静かに手を合わせる。幼い頃から胸に抱き続けてきた無念と悲しみ、そして真実を追い求めてきた歳月が脳裏をよぎる。ようやく父に顔向けできる日が訪れたのだ。しかし彼の胸には安堵だけではなく、新たな決意も芽生えていた。父が命を懸けて守ろうとした国と民を、自分もまた守り抜かなければならない――その使命感が、彼をさらに前へと進ませる。
祠堂の外では、羅令妤が静かにその姿を見守っていた。彼女の父もまた、かつての陰謀によって命を落とした一人である。同じ痛みを抱える者として、陸昀の気持ちは誰よりも理解できた。言葉はなくとも、二人の間には深い共感が流れている。羅令妤は、ようやく過去と向き合い終えた陸昀が、これから未来へ歩き出せるよう心から願うのだった。
その頃、衡陽王は重い足取りで牢獄を訪れていた。面会する相手は恩師である孔先生。幼い頃から自分を支え、戦場でも多くを教えてくれた人物である。しかし、その恩師こそが長年にわたり北褚へ情報を流していた内通者だった。
衡陽王は未だに現実を受け入れきれずにいた。信頼していた恩師が裏切り者だったという事実は、彼の心を深く傷つけている。それでも最後に何か救う方法はないかと模索するが、孔先生はすでに毒を服していた。死を覚悟した孔先生は、自らの過ちを認め、衡陽王へ深い謝罪の言葉を残す。
「もし来世があるならば、その時こそ恩に報いたい――」
恩師の最期の言葉を聞いた衡陽王は、悲しみと無力感に包まれる。敵よりも辛いのは、信じていた人間の裏切りだった。
一方、常宜王と周揚霊は皇帝への拝謁を命じられていた。皇帝は周揚霊の答案を読み、その卓越した知識と見識に大いに感心する。さらに彼女が周大儒の娘であり、常宜王の許嫁であると知ると大いに喜んだ。
しかし、常宜王は突然ひざまずき、婚約解消を願い出る。
彼は周揚霊の才能を高く評価しており、自分との結婚によって彼女の自由や未来を縛りたくないと考えていた。そして、自分は彼女にふさわしくないとも語る。その真摯な想いに皇帝も心を動かされるが、二人の表情から互いへの深い愛情を見抜いていた。
そこで皇帝はあえて「聖旨は取り消せぬ」と告げ、婚約解消を認めなかった。
宮中を後にした二人は、満開の桃花が咲く並木道を歩く。静かな空気の中、常宜王は勇気を振り絞り、周揚霊へ問いかける。
「私に心を動かされたことはあるのか?」
周揚霊は言葉では答えず、そっと背伸びをして彼に口づけをした。
その答えだけで十分だった。
長く遠回りを続けてきた二人の想いは、ようやく一つになる。常宜王は彼女を優しく抱き寄せ、周揚霊もまたその腕の中へ身を委ねるのだった。
そんな中、陸昀は新たな決断を下す。
父の無念を晴らした今、次に果たすべき使命は、長年北褚に占領されている泾陽の奪還だった。
叔父や祖母は危険すぎると猛反対する。ようやく平穏を取り戻したばかりなのに、再び命を懸けて戦場へ向かう必要があるのかと説得を試みる。しかし陸昀の決意は揺るがない。
父の遺志を継ぎ、この国を守るためには避けて通れない道だからだ。
最終的に家族も彼の覚悟を理解し、涙ながらに送り出すことを決める。
出征を目前に控えたある日、陸昀と羅令妤は静かに向き合う。
二人とも別れが近いことを理解していた。しかし羅令妤は涙を見せない。彼女はただ穏やかな笑顔で「必ず無事に帰ってきてください」と伝える。
そして、自ら縫い上げた香袋を陸昀へ手渡した。
そこには言葉以上の想いが込められていた。
陸昀はその香袋を大切に受け取り、彼女の存在こそが自分の帰る場所なのだと改めて実感する。
翌朝、陸家の人々は陸昀を見送るため門前に集まる。祖母は懸命に涙をこらえ、叔父も無言のまま背中を見送る。
銀川だけは別れの場に立つことができず、夜明け前に姿を消していた。
その後、銀川は羅令妤のもとを訪れ、一つの小箱を手渡す。中には陸昀が長年蓄えてきた財産が収められていた。
「公子は、もし何か困ったことがあれば遠慮なく使ってほしいと」
その言葉を聞いた羅令妤の目には涙があふれる。
陸昀がどれほど自分を大切に想っているのか、その気持ちが痛いほど伝わってきたからだった。
やがて戦場では、陸昀と衡陽王が再び肩を並べて戦い始める。二人の連携は見事で、次々と勝利を収めていく。
しかし北褚側も黙ってはいなかった。
彼らの前に現れたのは、かつて羅令妤を執拗に追い続けた范清辰。
彼は自ら出陣を願い出て、陸昀との決着をつけようとしていた。
父の仇を討ち、愛する人を守るため戦う陸昀。
執念を胸に復讐を誓う范清辰。
運命に導かれるように、二人は再び戦場で相まみえようとしていた。
次回の見どころ
北境での戦いが本格化し、陸昀と衡陽王は泾陽奪還へ向けて快進撃を続ける。一方、北褚軍には因縁深い范清辰が参戦し、陸昀との宿命の対決が目前に迫る。離れ離れとなった羅令妤と陸昀は、それぞれ相手を想いながら困難に立ち向かうことに。果たして陸昀は無事に帰還できるのか。そして戦場で再会する敵と味方の運命は――。新たな戦乱の幕が開く。
第24話 再会の地・泾陽――託された黄金と父たちの遺志
陸昀が泾陽へ出征してからというもの、羅令妤の日々はどこか色を失っていた。彼からは定期的に手紙が届いていたが、羅令妤はなかなか封を開くことができない。遠く離れた戦地から届く便りには、きっと無事を知らせる言葉が綴られているはずだ。それでも、戦場という過酷な場所を思うたび、手紙の中に記された現実を知ることが怖かった。
代わりに彼女は、周揚霊や常宜王から伝えられる情報に耳を傾けていた。常宜王は努めて明るい話題を選び、陸昀たちが泾陽を奪還したことや軍が優勢に戦っていることを伝える。しかし、その一方で戦いが決して順調ではないことも隠し切れなかった。補給路は不安定で、兵糧不足も深刻化しているという。
そんなある夜、羅令妤は恐ろしい悪夢を見る。
夢の中で陸昀は敵軍に包囲され、味方の将兵たちも次々と倒れていく。そしてなぜか自分自身も戦場に立っており、身体には無数の矢が突き刺さっていた。胸も背中も傷だらけになり、激しい痛みの中で陸昀の名を呼び続ける――。
目を覚ました時には枕が涙で濡れていた。
このまま待ち続けるだけではいられない。
そう決意した羅令妤は、幼い妹を眠らせた後、侍女の霊犀だけを連れ、密かに泾陽へ向かうことを決める。
長い旅路の末、ようやく泾陽へ到着した羅令妤。
その知らせを聞いた陸昀は、誰よりも早く駆けつけた。
再会した瞬間、彼は周囲の視線も忘れ、羅令妤を抱き上げる。嬉しさを隠し切れず、その場で何度も彼女を抱えたまま回り続ける姿に、兵たちは驚きを隠せない。衡陽王ですら、陸昀がここまで感情を露わにする姿を見たことがなかった。
それほどまでに、彼は羅令妤との再会を待ち望んでいたのである。
その後、陸昀は軍営を案内する。
しかし羅令妤の目に映ったのは、想像以上に厳しい現実だった。
兵士たちが口にするのは薄い粥ばかり。満足な食糧もなく、皆が限界の中で戦っている。勝利を目指しているとはいえ、このままでは兵たちの体力も士気も持たない。
その光景を見た羅令妤は、父が遺した「一生要強」という言葉を思い出す。
どんな苦境でも諦めず道を切り開く。
その教えが彼女の心に火を灯した。
父が残した地図を改めて調べ始めた羅令妤は、軍営の一角に不自然な印を発見する。慎重に仕掛けを作動させると、隠し扉が静かに開いた。
そこには誰も知らない地下室が広がっていた。
さらに奥へ進むと、五万両もの黄金が保管されている。
思わぬ発見に驚く二人だったが、それ以上に衝撃だったのは、そこに残されていた一通の手紙だった。
差出人は羅郡守。
そして手紙の傍らには、陸昀の父・陸節将軍の玉佩が置かれていた。
手紙には、陸節将軍の戦死を悼む言葉と、泾陽を最後まで守り抜くという決意が記されていた。そして彼は、陸節将軍の遺骸を密かに回収し、その遺品を大切に保管していたことも明かされていた。
父たちが生前、互いを信頼し支え合っていた事実。
そして、その志を今度は自分たちが受け継いでいるという現実。
羅令妤も陸昀も、思わず目に涙を浮かべる。
亡き父たちの想いが、時を越えて二人を結びつけていたのだった。
黄金を発見した羅令妤は迷うことなく決断する。
その全額を軍資金として使い、兵糧を購入するのだ。
私財とも呼べる莫大な財産を惜しげもなく軍へ捧げる彼女の姿に、将兵たちは深く感動する。
飢えに苦しんでいた兵士たちは再び活力を取り戻し、「必ず北褚を打ち破る」と声を上げる。
こうして軍全体の士気は大きく向上した。
一方、陸昀は調査を進める中で、北褚軍が繰り返していた不可解な降伏作戦の真相を掴む。
彼らは硝石を利用して大規模な爆破罠を仕掛けていたのだ。
偽装降伏で敵軍を誘い込み、一気に殲滅する――。
それが敵の狙いだった。
この事実を知った陸昀は、これまでの速攻作戦を見直し、慎重な調査と包囲戦へ戦略を変更する。まずは敵の硝石備蓄量と配置を把握しなければならない。
勝利を焦るのではなく、確実な勝利を掴むための判断だった。
その夜。
陸昀は密かに羅令妤の天幕を訪れる。
久しぶりに二人きりとなった静かな時間。
戦場の喧騒から離れた空間で、互いの存在を確かめるように言葉を交わす。
羅令妤のすぐそばにいるだけで胸が熱くなる。
思わず彼女を抱き寄せたくなる衝動に駆られるが、陸昀は自らを制した。
今はまだ戦いの最中。
すべてが終わり、平和を取り戻したその時こそ、正式に彼女を妻として迎えたい。
そんな願いを胸に秘めながら、静かに彼女を見つめるのだった。
その後、衡陽王の天幕へ戻った陸昀は、冗談めかして語る。
「今回の功績には身をもって報いるしかありませんね」
もちろん、その相手が誰なのかは言うまでもない。
衡陽王も苦笑しながら頷く。
かつては恋敵だったが、今では二人の想いを誰よりも理解していた。
その頃、北褚軍の本陣では范清辰が作戦地図を眺めていた。
そこへ急報が届く。
泾陽の陸軍へ大量の兵糧が届けられたという。
しかも、その立役者は一人の女性だった。
名前を聞いた瞬間、范清辰の表情が凍りつく。
羅令妤――。
かつて自分を選ぶはずだと信じていた女性。
だが今、彼女は完全に陸昀の側に立っている。
その現実は范清辰に激しい怒りと敗北感を与えた。
しかし同時に、彼の執念にも火をつける。
陸昀を倒し、戦に勝利する。
それだけが、失ったすべてを取り戻す唯一の道だと信じて――。
次回の見どころ
泾陽で再会を果たした陸昀と羅令妤。父たちが遺した黄金と手紙は、二人に新たな希望と使命を与える。一方で北褚軍は硝石を利用した恐るべき罠を準備しており、戦況はさらに緊迫していく。陸昀は敵の策略を見抜き反撃の機会を探るが、その前に最大の宿敵・范清辰が立ちはだかる。愛する人を守るため、そして父の遺志を継ぐため、陸昀は決戦の時へと歩み始める。
第25話 命を懸けた救出劇 ― 雪原に響く愛の誓い ―
泾陽を巡る戦いは、ついに最終局面へと突入していた。
羅令妤が羅家に遺された莫大な財産を軍資金として提供したことで、南樾軍は深刻な兵糧不足を乗り越え、士気も大きく回復していた。しかし、その知らせは北褚軍にいる范清辰の耳にも届いてしまう。
かつて羅令妤との結婚を執拗に望みながら拒絶され続けた范清辰は、彼女が自らの全財産を陸昀のため、そして南樾軍のために差し出した事実に激しい嫉妬と怒りを覚える。
「なぜ私ではなく陸昀なのか――」
長年積み重ねてきた執着は、もはや愛情ではなく狂気へと変わっていた。
范清辰は従来の作戦を捨て去り、保有する大量の硝石を利用した大規模な火攻めを計画する。同時に、陸昀に対する最大の報復として、羅令妤を再び自らの手中に収めることを決意するのだった。
一方の陸昀は、戦況の分析や軍の指揮に追われる日々を送っていた。
かつて都で優雅な貴公子として知られた彼も、今では髭を伸ばし、寝る間も惜しんで軍務に没頭している。
そんな彼のもとを訪れた羅令妤は、その疲れ切った姿を見て胸を痛める。
「少しは自分のことも大切になさってください」
そう言いながら彼女は自ら剃刀を手に取り、陸昀の髭を整え始める。
戦場という緊張感に包まれた場所でありながら、その時間だけは穏やかな空気が流れていた。
羅令妤の指先が頬に触れるたび、陸昀の心は温かさで満たされていく。
だが二人に与えられた平穏は長く続かなかった。
敵襲の報告が入り、陸昀は即座に戦場へ向かう。
出陣する彼の背中を見送りながら、羅令妤もまた胸騒ぎを覚えていた。
そしてその不安は的中する。
陸昀不在の隙を狙い、范清辰の配下が軍営へ潜入。羅令妤は薬で眠らされ、そのまま連れ去られてしまうのだった。
目を覚ました羅令妤が見たのは、豪華に飾り立てられた巨大な鳥籠。
その中で足枷をはめられた自分の姿に愕然とする。
そして目の前には、死んだはずの范清辰が立っていた。
彼はまるで過去の出来事など存在しなかったかのように、再び二人で人生をやり直そうと語りかける。
しかし羅令妤にとって、それは愛ではなく恐怖でしかなかった。
幾度となく自由を奪われ、利用されそうになった記憶が蘇る。
「あなたのものになるくらいなら死んだ方がまし」
その言葉は范清辰の理性をさらに失わせていく。
一方、戦場で異変を知った陸昀は即座に衡陽王へ軍営の防衛を託し、自ら救出へ向かう。
雪原を駆け抜けながら、彼の胸にあるのはただ一つ。
――必ず令妤を連れ戻す。
北褚軍の兵を次々と倒しながら進む陸昀は、ついに范清辰の拠点へたどり着く。
そこで見つけたのは、羅令妤の肖像画と婚礼の招待状だった。
異常な執着に怒りを覚えた陸昀は、肖像画を引き裂きながら范清辰への怒りを爆発させる。
やがて彼は雪原の中央に置かれた赤い布で覆われた巨大な籠へと辿り着く。
そこに囚われていたのは、傷だらけになりながらも必死に耐えていた羅令妤だった。
再会した瞬間、二人の目には涙が浮かぶ。
しかし安堵も束の間だった。
籠を破壊した瞬間、巧妙に仕掛けられていた罠が発動し、陸昀は地下へと引きずり込まれてしまう。
すべては范清辰の計算通りだった。
地下では大量の火薬が設置されており、范清辰は陸昀を柱へ縛り付けながら、自らの不幸の原因はすべて陸昀にあると叫ぶ。
そして羅令妤に火種を渡し、愛する男を自らの手で焼き殺せと迫る。
極限状態の中でも羅令妤は決して屈しなかった。
表面上は従うふりをしながら、密かに足枷を破壊する機会をうかがう。
その間、陸昀もまた范清辰の注意を引きつけ続ける。
互いを信じ合う二人だからこそできる時間稼ぎだった。
やがて羅令妤は血まみれになりながら鎖を断ち切ることに成功する。
そして渾身の力で剣を振り下ろし、范清辰の胸を貫いた。
だが執念に取り憑かれた范清辰は最後の力を振り絞り、火薬へ火を放とうとする。
その瞬間、陸昀は羅令妤を気絶させて馬へ乗せ、安全な場所へ逃がすことを選ぶ。
愛する人を守るため、自らは死地に残ったのである。
燃え広がる導火線。
迫る爆発。
范清辰は最後まで陸昀の足を引っ張ろうとするが、陸昀は決して諦めない。
死闘の末、彼は導火線を消し止めることに成功する。
こうして長年続いた因縁に終止符が打たれた。
軍営へ戻った羅令妤が目を覚ますと、そこには無事な姿の陸昀が立っていた。
再会した二人は言葉を失い、ただ強く抱きしめ合う。
幾度も死線を越え、そのたびに互いを守ろうとしてきた二人。
今回の試練は、彼らの絆が決して揺らがないことを証明するものとなった。
戦争終結の光が見え始める中、二人の未来にもまた新たな希望の光が差し込み始めていたのである。
次回の見どころ
范清辰との長き因縁に終止符が打たれ、陸昀と羅令妤は束の間の安堵を得る。しかし戦はまだ終わっていない。北褚軍との最終決戦が迫る中、陸昀と衡陽王は最大の攻勢に打って出る。一方、幾度も死別の危機を乗り越えた羅令妤は、自身の未来について大きな決断を下そうとしていた。果たして二人は戦乱の先に幸せを掴むことができるのか。感動と激戦が待つ次回からも目が離せない。
第26話 雪原の奇跡 ― ついに結ばれた二人の約束 ―
雪深い戦場での激闘の末、羅令妤はようやく安全な軍営へと戻された。しかし、目覚めた彼女を待っていたのは想像を絶する知らせだった。
衡陽王は重い表情のまま、陸昀が消息不明になったことを告げる。
范清辰との死闘の直後、陸昀がいた山間部では大規模な雪崩が発生し、そのまま行方が分からなくなっていたのである。
その言葉を聞いた瞬間、羅令妤の顔から血の気が引いた。
これまで幾度となく死地を共に乗り越えてきた陸昀。しかし今回ばかりは生存すら確認できない。
だが彼女は涙に暮れることを選ばなかった。
「必ず見つけます」
そう言い残し、まだ回復しきっていない身体で雪山へ向かうのだった。
衡陽王もまた即座に捜索隊を編成する。
かつて恋敵でありながら、今では心から二人の幸せを願う彼にとっても、陸昀は失うことのできない大切な仲間だった。
吹雪の残る雪原で捜索は続く。
将兵たちが諦めかける中、羅令妤だけは決して手を止めなかった。
素手で雪を掘り続けるうちに指先は赤く腫れ上がり、感覚も失われていく。
それでも彼女は掘り続けた。
なぜなら、陸昀は必ず生きていると信じていたからである。
そして奇跡は訪れる。
雪の中から現れたのは、見慣れた小さな荷包だった。
陸昀が常に身につけていた大切な品である。
羅令妤は涙を流しながら必死に掘り進める。
やがて雪に埋もれた岩陰で、意識を失った陸昀の姿を発見する。
息は弱々しいながらも確かに続いていた。
「見つけた……!」
安堵と喜びが入り混じる中、羅令妤は彼を抱きしめた。
彼女の執念と愛情が、一つの命を救ったのである。
数日後。
陸昀は奇跡的な回復を遂げていた。
軍営ではその快気を祝う宴が開かれ、衡陽王自ら紅い布を飾り付ける。
北褚軍はすでに壊滅状態となり、戦局は完全に南樾側へ傾いていた。
衡陽王は二人へ豪華な贈り物を渡しながら微笑む。
かつては自らも羅令妤を愛した男だった。
だが今は心から祝福していた。
「早く都へ帰って夫婦になれ」
その言葉には未練よりも友情が込められていた。
こうして長き戦いは終わりを迎える。
都へ戻った陸昀と羅令妤は、英雄として盛大な歓迎を受ける。
陸家では早速結婚話が持ち上がった。
祖母をはじめ一族の誰もが二人の婚礼を心待ちにしていたのである。
ところが不思議なことに、数日経っても二人は結婚について何も進展させようとしない。
痺れを切らした陸老太太は、ついに二人を呼び出した。
「いったいいつになったら嫁入りするのだい?」
当然の質問だった。
しかし陸昀も羅令妤も顔を見合わせるばかりで、誰一人として切り出そうとしない。
実は二人とも結婚したい気持ちは同じだった。
ただし、どちらも相手から言ってほしいと思っていたのである。
祖母の部屋を出た後、陸昀は思い切って羅令妤を呼び止める。
「最近、婚礼衣装を見ているらしいな」
探るような言葉に羅令妤は照れながら聞き返す。
「では陸様は最近何をしていたのですか?」
すると陸昀は少し恥ずかしそうに答えた。
「今年の吉日を全部調べていた」
その言葉に羅令妤の頬が赤く染まる。
お互い結婚する気満々でありながら、肝心の一言だけが言えない。
そんな二人を見ていた友人たちは業を煮やした。
陸昀側では銀川たちが恋愛作戦会議を開き、羅令妤側では周揚霊や侍女たちが集まって作戦を練る。
目的はただ一つ。
どうにかして二人を結婚へ導くことだった。
その頃、もう一組の恋人にも進展が訪れていた。
周揚霊は依然として常宜王の真意に不安を抱いていた。
皇帝の赐婚があったとはいえ、本当に自分を愛しているのか確信が持てなかったのである。
しかし常宜王は真っ直ぐな言葉で想いを伝える。
権力でも義務でもなく、一人の女性として周揚霊を愛している。
その告白によって彼女の迷いは完全に消え去った。
二人は静かに抱き合い、ようやく本当の意味で心を通わせるのだった。
そんな幸せな空気に触発された友人たちは、さらに大胆な計画を立てる。
そして迎えたある日。
双方の作戦が偶然にも同時進行し、思わぬ騒動を巻き起こす。
しかし、その混乱すら二人にとっては幸せな思い出となった。
大勢の友人たちが見守る中、ついに羅令妤が一歩を踏み出す。
彼女は自ら手作りした「夫婿冠」を差し出した。
それは未来の夫へ贈る特別な品だった。
「私の夫になってください」
戦場でも怯まなかった彼女が、今は緊張で震えている。
そんな姿を見た陸昀は、一瞬だけ勿体ぶるように沈黙した。
周囲からは焦れた声が飛ぶ。
しかし次の瞬間、彼は笑顔で答えた。
「もちろんだ」
その返事に歓声が上がる。
長い年月をかけて育まれた愛が、ついに正式な約束へと変わった瞬間だった。
その後、陸昀は羅令妤へ新たな提案をする。
それは泾陽へ戻ることだった。
かつて羅令妤は、自らの家を守り、自分の家に婿を迎えるという夢を語っていた。
陸昀はその夢を叶えたいと思っていたのである。
戦乱の中で結ばれた二人は、ようやく平穏な未来へ向かって歩き始める。
苦難を乗り越えた先に待っていたのは、愛する人と共に築く幸せな人生だった。
次回の見どころ
ついに婚約を果たした陸昀と羅令妤。だが二人を待つのは甘い新婚準備だけではない。泾陽復興という大きな使命が残されていた。新たな土地で理想の未来を築こうとする二人に、思いがけない試練が訪れる。一方、周揚霊と常宜王の恋もいよいよ新たな段階へ。戦乱を乗り越えた若者たちは、それぞれの幸せを掴めるのか。感動の最終章へ向けて物語はさらに加速していく。

















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