恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 2025年 全26話 原題:怎敌她千娇百媚
目次
第1話 花嫁逃亡大作戦――名門令嬢が仕掛けた人生逆転の一手
泾陽(けいよう)の古城で、代々名門として栄華を誇ってきた羅家。その一族の最後の希望ともいえる存在が、若き令嬢・羅令妤(ら・れいよ)だった。
幼い頃に両親を亡くした彼女は、不幸な境遇に屈することなく、美しさと聡明さを兼ね備えた女性へと成長する。その評判は遠方にまで広がり、彼女の成人の儀「花信礼」が行われる日には、多くの人々が羅家の門前に集まった。
人々のお目当てはもちろん令妤の姿だった。誰もがその美貌に魅了され、彼女こそが羅家再興の鍵を握る人物だと考えていたのである。
しかし、令妤自身は自分の価値が美しさだけではないことをよく理解していた。
両親亡き後、羅家の莫大な財産は朝廷によって管理されており、彼女が正式に結婚しなければ相続できない決まりとなっている。つまり結婚は避けて通れない運命だった。
だが令妤には譲れない条件があった。
それは、夫となる人物が羅家へ婿入りすること。
没落しかけた家門を再び繁栄させるためには、自らの姓を守り、羅家を立て直さなければならない。恋愛や世間体よりも、彼女にとって重要なのは家族の誇りだった。
花信礼の日、豪華な衣装をまとった令妤は、美しく飾られた輿に乗り、人々から贈られた数々の品を眺めていた。
東海から献上された高価な真珠、名工が手掛けた宝飾品、貴重な絹織物――どれも目を見張るような品ばかりだった。
しかし令妤が選んだのは、そんな豪華な贈り物ではなかった。
彼女が手に取ったのは、一人の貧しい少女が寺で祈りを捧げて求めた木製の腕輪だったのである。
妹の嬅児(かじ)は不思議そうに首をかしげる。
「どうして東海の真珠ではなく、その腕輪なの?」
すると令妤は優しく微笑みながら答える。
「真珠を選べば、人々は私をお金好きだと思うでしょう。でも、この腕輪には人の真心が込められているの。価値があるのは品物ではなく、そこに込められた想いよ」
その言葉からは、令妤が人の心を大切にする女性であることが伝わってくる。
だが、その穏やかな表情の裏で、彼女はある重大な決意を固めていた。
叔父の屋敷へ到着すると、門前には真っ赤な祝いの布が結ばれた婚礼品が山のように積み上げられていた。
それらは幼い頃から婚約が決まっていた范清辰(はん・せいしん)から贈られた結納品だった。
范清辰は毎年欠かさず令妤の誕生日を祝い、彼女を妻に迎える日を心待ちにしていた。令妤が成人した今、正式に婚礼を進めようとしていたのである。
叔父夫婦は豪華な贈り物に目を輝かせ、婚姻話を急ごうとする。
しかし令妤は簡単には従わない。
婚約書へ署名する直前、彼女は何気ない様子で母の遺品について尋ねた。
「母の形見を少し頂くことはできませんか?」
その一言に、財産を手放したくない叔母は慌てて高価な髪飾りを持ち出してくる。
令妤はそれをしっかり確認したうえで婚約書へ署名した。
叔父夫婦は喜びに顔をほころばせる。
だが彼女の本当の狙いは別にあった。
その夜。
令妤は侍女の霊犀(れいせい)と妹の嬅児を密室へ呼び集める。
机の上には地図が広げられていた。
実は彼女はすでに逃亡計画を立てていたのである。
婚礼当日に屋敷を脱出し、船で遠方へ逃れる――。
そのための経路や集合場所、持ち出す財産まで全て準備済みだった。
令妤は冷静に指示を出しながらも、その瞳には強い覚悟が宿っていた。
人生を他人に決められるつもりはない。
自らの未来は自ら切り開く。
それが彼女の選んだ道だった。
一方その頃、別の場所ではもう一人の策略家が動き始めていた。
陸家の三公子・陸昀(りく・いん)である。
文武両道で知られる陸昀は、敵国・北褚の間者が范家に潜伏しているとの情報を掴んでいた。
しかし范家の警備は厳重で、正面から潜入することは不可能に近い。
そこで陸昀は大胆な策を思いつく。
范清辰の婚礼騒ぎを利用して潜入するのだ。
夜のうちに部下たちとともに令妤の婚礼品の中へ身を潜め、翌日の混乱に乗じて范家へ入り込む計画だった。
こうして同じ夜、まったく異なる目的を持つ二人の策士が、それぞれの勝負に挑もうとしていた。
そして迎えた婚礼当日――。
花嫁姿の令妤は、誰にも気づかれないよう妹とともに塀を乗り越え、用意していた馬へ飛び乗る。
風を切りながら駆け出すその姿は、か弱い令嬢ではなく、自らの運命を切り開こうとする勇敢な戦士そのものだった。
その頃、陸昀もまた計画どおり范家への潜入を開始していた。
逃亡する花嫁と潜入捜査を行う若き策士。
まだ出会うことのない二人の運命は、知らぬ間に同じ方向へと動き始めていた。
この逃亡劇と陰謀劇が、やがて大きな恋と数々の策略を生み出していくことになるのである。
次回の見どころ
ついに婚礼当日に逃亡した令妤。しかし范清辰は彼女を諦めるどころか執念深く追跡を開始する。一方、潜入任務を遂行する陸昀にも思わぬ危険が迫り、命を落としかねない窮地に追い込まれる。逃亡中の令妤が偶然出会う傷だらけの男の正体とは? 策略家同士の運命的な接点が生まれ、恋と陰謀の物語がいよいよ本格的に動き出す。次回も見逃せない展開が待っている。
第2話 運命の出会い――逃亡先で拾った謎の男
婚礼当日に見事な策で屋敷を脱出した羅令妤(ら・れいよ)。しかし自由を手にした喜びも束の間、彼女たちの逃避行は決して平穏なものではなかった。
約束の船着き場では、侍女の霊犀(れいせい)が不安そうな表情で令妤たちの到着を待ち続けていた。
予定の時刻を大幅に過ぎても姿を見せない主人を案じ、彼女の胸は不安でいっぱいだった。范清辰(はん・せいしん)の追手に捕まったのではないか、途中で何か事件に巻き込まれたのではないか――悪い想像ばかりが頭をよぎる。
そんな中、ようやく令妤と妹の嬅児(かじ)が姿を現した。
花嫁衣装のまま現れた令妤を見て、船頭はすぐに事情を察する。泾陽では有名な婚礼騒動となっていたため、この美しい花嫁が逃亡中の羅家の令嬢だと気づいたのだ。
范家の追手に関わりたくない船頭は、受け取った船賃を返しながら慌てて出航の準備を始める。
しかし、追手もすぐそこまで迫っていた。
范家の家僕たちは執拗に令妤を追い続けており、彼女たちには一刻の猶予も残されていなかった。
令妤は妹と霊犀の手を引きながら必死に走る。
するとその時、一人の若い書生が偶然通りかかる。
事情を察した彼は迷うことなく令妤たちに協力した。
なんと自ら花嫁衣装を身にまとい、追手の目を引きつけたのである。
追手たちは花嫁姿の人物を見て一斉にその後を追い始める。
その隙を突き、令妤たちは船へ乗り込むことに成功した。
見知らぬ青年の機転によって、彼女たちはようやく危機を脱したのだった。
一方その頃、もう一人の主人公である陸昀(りく・いん)もまた窮地に陥っていた。
范家への潜入任務を成功させたものの、逃走の際に令妤が彼の愛馬を乗り逃げしてしまったため、予定が大きく狂ってしまう。
さらに范家の追手たちから執拗に追われ、激しい戦いを繰り広げることとなる。
知略に長けた陸昀だったが、数の差は大きかった。
逃走の最中に矢を受け、ついには崖から転落してしまう。
深い谷底へと落ちていく彼の姿は、生死さえ分からない絶望的な状況だった。
その報告を受けた范清辰は怒りを爆発させる。
逃げた花嫁も捕まえられず、潜入者も取り逃がした部下たちを厳しく叱責する。
しかし彼自身は諦めていなかった。
令妤の叔母が結納金を返そうとしても、范清辰は静かに押し返す。
「令妤はすでに私の花嫁だ」
そう言い放つ彼の表情には執着にも似た強い想いが浮かんでいた。
美しく聡明な令妤を手放すつもりなど最初からないのである。
やがて叔母の口から、令妤が樾州(えつしゅう)へ向かった可能性が語られる。
そこには父の旧知である英夫人が住んでいた。
范清辰はその情報を聞き逃さなかった。
令妤の逃亡劇は終わるどころか、さらに大きな追跡劇へと発展していくことになる。
その頃、令妤たちは船で樾州を目指していた。
ようやく一息つける状況になったものの、妹の嬅児は空腹に苦しんでいた。
船頭が用意した保存食は口に合わず、幼い彼女はほとんど食事を取れていなかったのである。
妹を心配した令妤は、自ら釣り糸を垂らし魚を捕まえようとする。
何とか温かい魚のスープを作って食べさせたい。
そんな姉としての優しさが彼女を動かしていた。
しばらくすると釣り竿に大きな手応えが伝わる。
令妤は大物が掛かったと思い、大喜びで糸を引き上げる。
ところが水面から現れたのは魚ではなかった。
それは傷だらけの一人の男だったのである。
黒装束をまとい、顔には仮面。
しかも体には矢が突き刺さっていた。
どう見ても普通の人物ではない。
令妤は瞬時に危険な人物だと判断する。
自分自身も追われる身であり、正体不明の男を助ける余裕などない。
だが嬅児は違った。
「かわいそうだから助けてあげよう」
妹の純粋な言葉に、令妤の心は揺れる。
そして最終的に彼女は男を助ける決断を下した。
それが陸昀との最初の出会いだった。
もちろん二人はまだお互いの正体を知らない。
令妤は仮面を外さず、黙って矢を抜き、父の形見として大切に残していた最後の金創薬を使って傷の手当てを行う。
さらに毎日の食事まで欠かさず用意した。
見返りを求めるわけでもなく、ただ目の前の命を救いたいという思いだけだった。
そんな令妤の姿を、陸昀は静かに見つめていた。
そして船内に置かれた真っ赤な花嫁衣装を見た瞬間、彼は全てを悟る。
この女性こそ、自分の馬を奪って逃げた張本人だったのである。
しかし今は重傷を負った身。
文句を言う余裕もない。
陸昀は内心複雑な思いを抱えながらも、まずは傷を治すことを優先するしかなかった。
こうして数日間、二人は奇妙な共同生活を送ることになる。
互いに素性を知らず、名前さえ知らない。
それでも同じ船の上で時間を過ごすうちに、不思議な縁が生まれ始めていた。
やがて船は樾州へ到着する。
傷も回復し始めた陸昀に対し、令妤は人目を避けるため先に泳いで上陸するよう勧める。
彼女はまだ知らない。
自分が助けたこの男こそ、今後の人生を大きく左右する運命の相手であることを――。
次回の見どころ
ついに樾州へたどり着いた令妤たち。頼れる親族を訪ねて新たな生活を始めようとするが、そこで待っていたのは想像を超える名門・陸家だった。一方、命を救われた陸昀も再び令妤の前に現れる。互いに正体を知らぬまま始まる再会と駆け引き。さらに令妤は羅家再興のため、理想の婿探しという新たな計画を動かし始める。恋と策略の舞台は、いよいよ陸家へと移っていく。
第3話 理想の婿探し開始――狙われたのは陸家の三公子
長い逃避行の末、羅令妤(ら・れいよ)たちはついに樾州へとたどり着く。
彼女が頼りにしていたのは、亡き父の旧知である英夫人だった。
幼い頃の令妤にとって、英夫人は実の叔母のような存在だった。優しく抱きしめてくれた記憶は今も鮮明に残っている。しかし年月は流れ、互いに長く離れて暮らしてきた。果たして自分のことを覚えていてくれているのだろうか――。
令妤は不安を抱えながら陸家の門をくぐる。
だが、そんな心配はすぐに吹き飛んだ。
目の前に広がったのは、想像をはるかに超える豪壮な屋敷だったのである。
広大な庭園、美しく整えられた回廊、格式高い建物の数々。名門として知られる陸家の繁栄ぶりは、かつて栄えた羅家で育った令妤ですら驚くほどだった。
そして何より嬉しかったのは、英夫人が昔と変わらぬ温かさで彼女たちを迎え入れてくれたことだった。
事情を聞いた英夫人は、逃亡してきた令妤と妹の嬅児(かじ)をためらうことなく保護する。
ようやく安心できる居場所を得た令妤だったが、問題はまだ何一つ解決していなかった。
その夜、妹から今後の生活について尋ねられた令妤は、しばらく黙り込む。
逃亡には成功した。
しかし羅家の財産を取り戻すという本来の目的は達成できていない。
結婚しなければ相続権を得られない以上、いずれは夫を見つけなければならない。
そこで令妤の頭にある考えが浮かぶ。
「陸家で理想の婿を見つければいいのではないか」
それは彼女らしい大胆な発想だった。
恋に身を任せるのではなく、人生設計として結婚相手を選ぶ。
まさに策略家らしい発想である。
翌日から令妤は密かに情報収集を始める。
陸家には優秀な若君たちが数多くいるらしい。
英夫人から彼らの話を聞くうちに、令妤の興味はますます高まっていく。
特に注目したのは二人だった。
一人は二公子・陸顕(りくけん)。
容姿端麗で学問にも優れ、将来有望な才子として周囲の期待を集めている。
もう一人は三公子・陸昀(りくいん)。
母を早くに亡くした庶子でありながら、文武両道で人目を引く存在だった。しかし自由奔放な性格ゆえに数々の浮き名を流しているという。
普通に考えれば陸顕こそ理想的な結婚相手だった。
だが令妤は違う視点で見ていた。
陸顕は陸家の宝ともいえる存在であり、婿入りなど許されるはずがない。
しかし陸昀なら話は別だ。
後ろ盾が少なく、自由な立場にある彼なら説得できる可能性がある。
令妤の頭の中では早くも計算が始まっていた。
「三公子こそ最適な婿候補だわ」
こうして彼女は陸昀を攻略対象として定めるのである。
一方その頃、陸昀もまた一人の女性のことが気になっていた。
船の上で自分を助けたあの女性。
そして愛馬を勝手に持ち去った女性。
まさに恩人でありながら腹立たしい相手でもある。
そんな中、陸家に遠方から若い女性客が来ているという話を耳にする。
もしかすると――。
陸昀は確かめるために夜の宴へ姿を現した。
そしてそこで令妤と再会する。
華やかな宴席の中で見つめ合う二人。
だが感動の再会とは程遠かった。
令妤は目の前の美男子が、あの時助けた傷だらけの男だとはまったく気づいていない。
一方の陸昀はしっかり覚えている。
大雨の中で船外に放置されたことも、崖から転落する羽目になったことも。
彼にとって忘れようのない出来事だった。
そこで陸昀は意地悪な質問を投げかける。
「本当に私を覚えていないのですか?」
突然の問いに令妤は戸惑う。
もちろん彼女には心当たりがない。
首を横に振ると、陸昀は意味深な笑みを浮かべながら魚のスープを差し出した。
それは二人を結び付けた船上での出来事を連想させるものだったが、令妤は全く気づかなかった。
陸昀はそんな彼女の反応を見て苦笑するしかなかった。
宴の後、令妤は霊犀や嬅児とともに改めて陸家の若君たちを分析する。
二人は口を揃えて陸顕を勧める。
誰が見ても理想の結婚相手だからだ。
しかし令妤は首を振った。
彼女が気になったのは陸顕本人ではなく、その母親だった。
宴席で見せた厳しい態度や過保護な様子を見て、将来嫁姑問題が起きることを敏感に察知したのである。
その点、陸昀のほうがはるかに魅力的に思えた。
こうして令妤は正式に「陸昀婿入り計画」を始動させる。
まずは理想の婿の条件を書き出した。
第一条件は「美男子であること」。
能力や家柄も重要だが、毎日顔を合わせる以上、見た目も大切だというのが彼女の持論だった。
さらに陸昀との距離を縮めるため、令妤は老太太に手作りの菓子を贈り、巧みにお願いを持ちかける。
狙いはもちろん陸昀の近くに住むことだった。
持ち前の愛嬌と知恵を駆使しながら、少しずつ外堀を埋めていく令妤。
知らぬ間に恋の包囲網を張られつつある陸昀は、まだそのことに気づいていなかった。
だが、この出会いこそが二人の運命を大きく変える始まりとなるのである。
次回の見どころ
陸昀を理想の婿候補に定めた令妤は、ついに本格的な接近作戦を開始する。狙うは陸昀の隣にある屋敷。しかし彼女の思惑に気づいた陸昀も簡単には近づかせない。策略家同士の知恵比べが幕を開け、二人の駆け引きはますます激化していく。さらに陸昀を慕う女性たちの嫉妬も加わり、恋の戦場は大混戦へ。果たして令妤は理想の婿を手に入れることができるのか。次回も見逃せない。
第4話 隣人作戦発動!――恋の包囲網と知略の攻防戦
陸家での新しい生活を始めた羅令妤(ら・れいよ)は、ある大きな目標に向かって動き始めていた。
それはもちろん、理想の婿候補に選んだ三公子・陸昀(りくいん)との距離を縮めることだった。
令妤は早朝から陸家の広い敷地を歩き回り、地図を片手に住まい探しを始める。表向きは「住みやすい場所を探しているだけ」と装っていたが、本当の狙いは誰の目にも明らかだった。
陸昀の近くに住むこと――。
それが彼女の第一歩だったのである。
しかし、陸昀は陸家でも人気の高い若君だった。
屋敷には彼に憧れる娘たちが大勢おり、令妤の動きを警戒している。
令妤もそのことを十分理解していた。
だからこそ彼女は本心を隠し、あえて無邪気で何も知らない娘を演じる。
周囲の女性たちと談笑しながらも、その裏では着実に目的地へ近づいていた。
そんな令妤の思惑を、陸昀は冷静に見抜いていた。
船で出会った時から彼女が並外れて頭の回る女性だと知っていた陸昀は、彼女の策略を面白がりながら観察していたのである。
そして少しばかり意地悪な気持ちも芽生えていた。
「それほど近づきたいなら、少し遊んでやろう」
そう考えた陸昀は、親切そうな顔をしながら住まい選びを手伝うと申し出る。
だが本心は逆だった。
できるだけ自分から遠い場所へ誘導しようとしていたのである。
ところが令妤も負けてはいない。
陸昀に案内されながらも、途中で蝶を追いかけるふりをして方向を変え、巧みに元の場所へ戻ってしまう。
そして彼女が選んだのは、陸昀の住まいに隣接する「雪蕪院(せつぶいん)」だった。
その決断に陸昀は思わず苦笑する。
遠回しな誘導など、この女性には通用しないらしい。
しかし陸昀も簡単には諦めない。
彼は令妤の化粧をさりげなく乱し、老太太の前で恥をかかせようとする。
住む場所を諦めさせるための小さな妨害工作だった。
ところが令妤は動じなかった。
むしろ堂々と老太太の前へ進み出て、自ら雪蕪院への入居を願い出る。
老太太は困ったように説明する。
雪蕪院は長年使われておらず、建物も古く、虫や草木が生い茂る荒れた屋敷だという。
普通の令嬢なら尻込みする条件だった。
しかし令妤は即答した。
「私は気にいたしません」
その真っ直ぐな態度に老太太も折れ、雪蕪院を与えることを認める。
こうして令妤は見事に第一関門を突破したのである。
だが実際に雪蕪院へ足を踏み入れた令妤たちは愕然とする。
そこは想像以上の荒れ果てた屋敷だった。
家具は壊れ、庭は雑草だらけ。
まともに暮らせる環境とは言い難い。
それでも令妤は落胆しなかった。
「住めないなら、自分たちで住めるようにすればいいのよ」
そう言って率先して掃除を始める。
その前向きな姿勢は霊犀や嬅児にも伝わり、三人は力を合わせて屋敷を整え始める。
さらに陸昀に想いを寄せる娘たちは、令妤への嫌がらせとして不要な家具を大量に送り付けてくる。
普通なら嫌味として受け取るところだ。
しかし令妤は違った。
その中から小さな花瓶を見つけ出し、摘んできた花を飾る。
すると殺風景だった屋敷の一角が、たちまち華やかな空間へと変わる。
どんな逆境も味方に変えてしまう。
それが令妤の強さだった。
やがて彼女はさらなる作戦に出る。
寝具や家具が足りないことを理由に、何度も隣の陸昀の屋敷を訪ね始めたのである。
今日は桃色の花を持ち、翌日は白い花を持つ。
毎回違う理由を考えては陸昀の前に現れる令妤。
陸昀は呆れながらも、どこか楽しんでいる自分に気づき始めていた。
ついに我慢の限界に達した陸昀は、部下の錦川(きんせん)に命じて幽霊騒ぎを演出させる。
怖がらせれば諦めるだろう。
そう考えたのだ。
ところが予想外の展開が待っていた。
令妤の妹・嬅児がまったく怖がらなかったのである。
それどころか幽霊役の錦川と遊び始めてしまう。
令妤もすぐに芝居だと見抜いていた。
そして逆に陸昀の部屋を訪れ、
「幽霊が出るそうなので守りに来ました」
と堂々と言い放つ。
完全に一本取られた陸昀は苦笑するしかない。
さらに部屋の扉を開けた瞬間、上半身裸だった陸昀の姿が令妤の目に飛び込む。
いつも冷静な令妤もさすがに動揺し、顔を真っ赤にして慌てて立ち去る。
陸昀もまた、そんな彼女の反応を見て思わず笑みを浮かべるのだった。
その夜、陸昀は考え込む。
令妤に対して強く出れば出るほど、彼女はさらに大胆な行動に出る。
正面から対抗するのは得策ではない。
そこで彼は方針転換を決意する。
「今後は様子を見ることにしよう」
翌朝、令妤はまたしても陸昀を訪ねてくる。
今度は美しい扇子を贈り物として持参していた。
陸昀は素直に受け取る。
そして彼女が帰った後、適当な返礼品を渡すよう錦川に指示した。
ところが錦川は主人の言葉を勘違いし、陸昀が大切にしていた絵の下絵を令妤へ届けてしまう。
報告を聞いた陸昀は思わず頭を抱える。
しかし同時に、令妤という女性が自分の予想以上に魅力的な存在であることも認め始めていた。
頭が切れ、行動力があり、何度妨害されても諦めない。
そんな令妤に対し、陸昀の心には少しずつ特別な感情が芽生え始めていたのである。
次回の見どころ
陸昀から贈られた思いがけない絵を見た令妤は、それを特別な意味を持つ贈り物だと受け取る。一方の陸昀は誤解を解こうとするどころか、ますます令妤のペースに巻き込まれていく。さらに令妤は陸家の令嬢たちとの関係改善を図り、新たな作戦を開始。恋の駆け引きはさらに加速し、陸昀を巡る女性たちの思惑も複雑に絡み合っていく。果たして二人の距離は縮まるのか、それとも新たな波乱が待ち受けるのか。次回も目が離せない。
恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 5話・6話・7話・8話 あらすじ
















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