恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 2025年 全26話 原題:怎敌她千娇百媚
目次
第5話 恋の誤解と突然の平手打ち――近づく心、すれ違う想い
雪蕪院での生活にも少しずつ慣れてきた羅令妤(ら・れいよ)。
そんな彼女のもとへ、ある日、陸昀(りくいん)からの返礼品が届けられる。
それは一枚の美しい絵だった。
画巻を広げた瞬間、令妤は思わず息をのむ。
陽光を受けて輝く川面、小舟の上で静かに釣り糸を垂れる白衣の女性。その情景はどこか幻想的で、見る者の心を穏やかにする不思議な魅力を持っていた。
細部まで丁寧に描き込まれた筆致からは、作者の高い才能と繊細な感性が伝わってくる。
令妤はしばらく絵から目を離せなかった。
そして自然とある考えが浮かぶ。
「もしかして、これは私への特別な贈り物なのでは……?」
陸昀が自ら描いた作品を贈ってくれた。
そう思った令妤の胸は高鳴る。
これまで自分が続けてきた接近作戦が、少しずつ成果を上げ始めているのかもしれない。
しかし、その裏には大きな誤解があった。
実は陸昀自身、この絵が令妤に渡ったことを後になって知ったのである。
部下の錦川に適当な返礼品を渡すよう命じたはずだった。
ところが錦川は気を利かせたつもりで、主人が大切にしていた絵を贈ってしまったのだ。
報告を聞いた陸昀は思わず頭を抱える。
よりによって一番大事な作品を渡してしまうとは思ってもみなかった。
だが、今さら取り返すわけにもいかない。
こうして令妤の誤解はさらに深まっていく。
一方で令妤は、陸家での立場を固めるため新たな行動を開始する。
雪蕪院へ移り住んで以来、彼女は多くの令嬢たちの反感を買っていた。
原因はもちろん陸昀である。
人気者の三公子の隣に住み、何かと接点を持とうとする令妤を快く思わない者も少なくなかった。
そこで令妤は対立を避けるため、関係改善作戦を思いつく。
妹の嬅児や侍女の霊犀とともに、美しい造花を大量に作り始めたのだ。
手作りの贈り物を通じて交流を深めれば、敵意も和らぐかもしれない。
だが令妤の頭脳はそれだけでは終わらなかった。
彼女はさらに大胆な商売を思いつく。
ある日、自宅の前に多くの令嬢たちが集まっていることに気付いた令妤は、彼女たちを院内へ招き入れる。
そして驚くべきことに、「陸昀観賞席」を設置したのである。
陸昀の屋敷に近い席ほど高額になる特等席。
少し離れた場所は一般席。
さらに気軽に楽しめる格安席まで用意するという徹底ぶりだった。
もちろん席料は有料である。
令妤は持ち前の商才を発揮し、陸昀の人気を見事に収益へ変えてしまったのだ。
霊犀も花茶や果物を振る舞い、雪蕪院はまるで小さな社交場のような賑わいを見せる。
連日大勢の令嬢たちが訪れ、院内は大繁盛となった。
そんな状況を知らない陸昀は、最近やたらと自宅周辺が騒がしいことを不思議に思う。
事情を聞かされた彼は唖然とした。
まさか自分の容姿を利用して商売をしているとは夢にも思わなかったのである。
怒るべきなのか呆れるべきなのか。
結局、令妤らしい発想に苦笑するしかなかった。
しかし、この騒動を面白く思わない人物もいた。
ある女性が当主夫人へ密告したのである。
間もなく陸家の大夫人が使用人を引き連れて雪蕪院へ現れる。
突然の訪問に令嬢たちは大慌て。
大夫人は娘たちの振る舞いを見て激怒し、女性としての品位を欠いていると厳しく叱責する。
そして矛先は当然ながら令妤へ向けられた。
人を集めて騒ぎを起こした張本人として責め立てられる。
だが、ここで令妤の真価が発揮される。
彼女は少しも慌てなかった。
むしろ悲しげな表情を浮かべながら、
「大夫人様がお好きな蘭の花を模した造花作りを皆様に教えていただけです」
と説明する。
さらに、作業で目が疲れた令嬢たちが景色を眺めながら休憩していただけだと付け加える。
その姿はまるで濡れた花のようにか弱く見えた。
大夫人も確かな証拠を持っていなかったため、それ以上追及することができない。
こうして令妤は絶体絶命の危機を見事に切り抜けたのである。
その夜。
令妤は昼間に稼いだお金で花や屏風を購入し、美しい東屋を飾り付けていた。
幻想的な灯り。
風に揺れる花々。
まるで恋物語の舞台のような空間が完成する。
そして彼女は陸昀を呼び出した。
これまでの努力を実らせる絶好の機会だと考えたのである。
約束の時間。
陸昀が姿を現す。
令妤は丁寧に身支度を整え、最も美しい姿で彼を迎える。
月明かりの下に立つ二人。
普段は強気な令妤も、この時ばかりは少し緊張していた。
一方の陸昀も、華やかに着飾った令妤から目を離せなくなる。
その美しさは思わず見惚れてしまうほどだった。
だが同時に、自分が彼女に惹かれ始めていることを認めたくない気持ちもあった。
そこで陸昀はわざと彼女へ近づく。
二人の距離はほとんどなくなり、互いの息遣いが聞こえるほどだった。
しかし令妤は逃げない。
真っ直ぐに陸昀を見つめ返す。
その反応に動揺したのは、むしろ陸昀の方だった。
思わず彼は耳元で囁く。
「これは色仕掛けですか?」
次の瞬間だった。
パシン――!
静かな夜に乾いた音が響く。
令妤の平手打ちが見事に陸昀の頬を捉えたのである。
予想外の一撃に陸昀は完全に呆然。
令妤も自分の行動に驚きながら、その場を立ち去ってしまう。
後に陸昀は常易王との密談に向かうが、頬にはくっきりと赤い手形が残っていた。
事情を聞いた常易王は思わず吹き出してしまう。
戦場では恐れられる陸昀も、恋愛となれば勝手が違うようだった。
一方、自室へ戻った令妤は深く後悔していた。
確かに失礼な発言だった。
しかし、いきなり平手打ちをする必要はなかったのではないか。
悩みに悩んだ末、彼女は決意する。
自分の気持ちをきちんと伝えよう。
そして陸昀に謝ろう、と。
次回の見どころ
勢いで陸昀を平手打ちしてしまった令妤は、謝罪のため再び彼のもとを訪れる。しかし二人の関係は思わぬ方向へ進み始め、恋の駆け引きはさらに複雑さを増していく。一方で陸昀が追う北褚の間者事件にも新たな動きが見え始め、ロマンスだけでなく陰謀の影も色濃くなっていく。頭脳派ヒロイン令妤とツンデレ若様・陸昀の掛け合いはますます絶好調。果たして謝罪は成功するのか、それとも新たな誤解が生まれてしまうのか。次回も期待が高まる展開が待っている。
第6話 すれ違う想いと新たなライバル――深まる誤解の行方
樾州の夜に不穏な影が忍び寄る。
戦功を挙げて帰還した衡陽王(こうようおう)は、密かに移動していた最中、突如として刺客集団の襲撃を受ける。敵は極めて統率が取れており、明らかに王の命を狙った計画的な襲撃だった。
護衛たちの奮戦によって衡陽王は辛うじて難を逃れるが、捕らえられた刺客たちは皆、自害用の毒を携帯していた。身元を示す物も一切持っておらず、黒幕の存在だけが不気味に浮かび上がる。
さらに衡陽王には気になることがあった。
今回の極秘行動の行程を知っていたのは、ごく限られた人物だけだったのである。
その中には陸昀(りくいん)の名前もあった。
長年信頼してきた腹心を疑いたくはない。しかし状況があまりにも出来すぎていた。
陰謀の影は、静かに陸昀へと迫り始めていた。
一方その頃、羅令妤(ら・れいよ)は別の悩みを抱えていた。
前夜、勢い余って陸昀に平手打ちをしてしまったことを深く後悔していたのである。
冷静になって考えれば、自分にも非があった。
誤解を解きたい。
そして謝罪したい。
そう考えた令妤は勇気を振り絞り、再び陸昀のもとを訪ねる。
しかし、彼女は知らなかった。
その時、陸昀の屋敷では衡陽王との極秘会談が行われていたのである。
突然の来訪に陸昀は一瞬緊張する。
すぐさま衡陽王を隠し、自ら表へ出ると、令妤を冷たく迎えた。
せっかく謝罪に来た令妤だったが、陸昀は皮肉たっぷりの言葉を浴びせる。
「また何か企んでいるのではないか?」
そんな態度に令妤は傷つきながらも必死に弁解する。
涙を浮かべ、自分の軽率な行動を反省していると訴えるが、陸昀は簡単には信じない。
二人の距離は縮まるどころか、さらに離れていくようだった。
だが、令妤はふと違和感を覚える。
庭の奥に、誰か別の人物の気配を感じたのである。
そして、それを隠そうとする陸昀の不自然な態度。
鋭い観察力を持つ令妤はすぐに悟る。
「ここには何か秘密がある」
そう考えた彼女は、今度は秘密を守る代わりに信用してもらおうと提案する。
だが陸昀はますます警戒を強めるばかりだった。
結局、謝罪も信頼回復も失敗に終わる。
落胆した令妤は帰ろうとするが、さらに運の悪いことに足を泥にはめてしまう。
身動きが取れず困り果てる彼女。
しかし陸昀は助けようとしない。
その冷たい態度に令妤の怒りが爆発する。
彼女は靴を脱ぎ捨て、裸足のまま歩き出す。
令嬢とは思えないほどの豪快な行動だった。
そんな彼女を救ったのは、心優しい少女・劉棠(りゅうとう)だった。
劉棠は令妤を笑うどころか親身になって世話を焼き、住まいまで付き添ってくれる。
陸家では珍しい純粋な善意に触れ、令妤の心は少しだけ救われるのだった。
その夜、令妤は今後について真剣に考える。
陸昀を婿候補として追いかけてきたが、思うような成果は出ていない。
むしろ誤解ばかりが増えている。
このまま一人に執着するのは得策ではないのではないか。
策略家らしく、彼女は新たな方針を模索し始める。
一方、陸昀もまた別の問題を抱えていた。
衡陽王の弟である常宜王(じょうぎおう)から、失踪した周揚霊(しゅうようれい)の捜索を依頼されたのである。
常宜王は寒門出身者との関係強化を図るため、周揚霊との縁談を計画していた。しかし当の本人が姿を消してしまったのだ。
陸昀は政略結婚そのものに疑問を抱いていたが、王命である以上協力せざるを得ない。
こうして周揚霊の似顔絵が作られ、町中に張り出されることになった。
ところが運命とは皮肉なものだった。
その周揚霊本人が、まさにその張り紙の前を通り過ぎていたのである。
男装していたため誰も気付かなかったが、彼女は樾州で新たな生活を始めようとしていた。
偶然目にした陸家の募集広告に興味を持った周揚霊は、家庭教師として働くため陸家を訪れる。
そこで再会したのが令妤だった。
実は以前、自分たちを助けてくれた恩人こそ周揚霊だったのである。
異郷での思わぬ再会に、令妤は大喜びする。
そして彼女を陸家へ案内することになる。
ところが、ここでも陸昀との誤解が発生する。
周揚霊を連れてきた令妤を見た陸昀は、またしても彼女が何か企んでいると疑ったのだ。
「今度は仲間まで連れてきたのか」
そう思い込んだ陸昀は、令妤への警戒心をさらに強める。
一方、二公子の陸顕(りくけん)は周揚霊の才能を高く評価し、すぐに採用を決定する。
知的で落ち着いた陸顕と聡明な周揚霊。
二人の出会いは新たな縁を予感させるものだった。
しかし、その陰で令妤と陸昀の対立はさらに深まっていく。
陸昀は令妤を計算高い女性だと思い込み、令妤は陸昀の独善的な態度にうんざりしていた。
互いに相手を意識しているにもかかわらず、心はすれ違うばかりである。
そんな中、さらに厄介な人物が樾州へ姿を現す。
范清辰(はん・せいしん)だった。
逃亡した花嫁を諦めきれない彼は、公務のために樾州へ来ながらも、密かに令妤の行方を捜していたのである。
そして運命は再び二人を引き合わせる。
町で買い物をしていた令妤と霊犀の前に、范清辰が現れたのだ。
突然の再会に驚く令妤。
しかし彼女にとって、その再会は喜びではなかった。
過去を断ち切るために逃げ出したはずなのに、再び追いつかれてしまったのである。
果たして范清辰は令妤を連れ戻そうとするのか。
そして陸昀との関係にどのような影響を与えるのか。
新たな波乱の幕が静かに上がろうとしていた。
次回の見どころ
ついに樾州で再会してしまった令妤と范清辰。かつての婚約者の登場によって、令妤の平穏な生活は大きく揺らぎ始める。一方、陸昀はなぜか令妤の動向が気になって仕方がなくなり、自分でも気付かぬうちに嫉妬心を募らせていく。さらに周揚霊と陸顕の交流も始まり、新たな恋模様の兆しが見え始める。恋愛、陰謀、そして身分を超えた思惑が複雑に交錯する中、令妤を巡る貴公子たちの争いはますます激化。次回は見逃せない急展開が待ち受ける。
第7話 迫る元婚約者!揺れる令妤の心と陸昀のさりげない優しさ
樾州での生活にも少しずつ慣れ始めた羅令妤(ら・れいよ)だったが、彼女の前に再び過去の因縁が立ちはだかる。
街で偶然再会した元婚約者・范清辰(はん・せいしん)は、令妤を見つけた瞬間から彼女を連れ戻すことを諦めていなかった。
突然の再会に令妤は動揺するものの、逃げ続けるだけでは問題は解決しないと覚悟を決める。
そして彼女は、自らの本心を范清辰へと打ち明けた。
令妤が望んでいるのは、ただ嫁ぐことではない。
亡き両親が残した羅家を再興し、自らの手で家を守ることだった。
そのためには、自分を支え、羅家へ婿入りしてくれる夫が必要なのである。
もし范清辰がその条件を受け入れるなら、自分は今すぐ一緒に帰ってもよい――。
令妤は率直にそう伝える。
しかし范清辰は複雑な表情を浮かべた。
彼女を愛している気持ちは本物だった。
幸せにしたいという想いにも偽りはない。
だが、名門・范家の嫡男である自分が婿入りすることは現実的ではない。
家柄や世間体を考えれば到底認められない話だった。
その答えを聞いた令妤は静かに微笑む。
相手を責めることはしない。
しかし、自分の願いも曲げるつもりはなかった。
価値観の違いを理解した彼女は、その場を離れようとする。
ところが范清辰は諦めなかった。
彼は令妤の腕を掴み、強引にでも連れ戻そうとする。
そんな緊迫した空気の中、間一髪で現れたのが霊犀だった。
霊犀は令妤の手を引き、人混みの中へと逃げ込む。
しかし范清辰もすぐに追いかけてくる。
まさに追走劇となったその時、思いもよらぬ人物が二人の前に立ちはだかった。
陸昀(りくいん)だった。
実は陸昀と錦川は、令妤と范清辰のやり取りを密かに見守っていたのである。
これまで陸昀は、令妤に対して何か裏があるのではないかという疑いを完全には捨てきれずにいた。
だが今回のやり取りを見て、彼女が本当に逃婚した身であり、范家と通じているわけではないことを確信する。
そして彼は、令妤を守るため一歩前へ出た。
陸昀は冷静な口調で范清辰へ告げる。
ここは朔州ではなく樾州であること。
そして女性の意思を無視して連れ去ることは許されないことを。
その毅然とした態度に范清辰も強く出られず、ひとまず引き下がるしかなかった。
こうして令妤は再び陸昀に助けられることになる。
帰りの馬車の中。
令妤は素直に感謝の気持ちを伝えた。
そしてなぜ婚約を破棄したのか、その本当の理由を初めて陸昀へ話す。
家を守りたいという強い信念。
財産のためではなく、一族の誇りを取り戻したいという願い。
それを聞いた陸昀は少なからず驚く。
これまで計算高い女性だと思っていた令妤が、実は家族を想う強い意志を持った女性だったからである。
陸昀の中で、令妤に対する評価が少しずつ変わり始める。
一方で、そんな微妙な変化を当人たちはまだ自覚していなかった。
屋敷へ戻ると、令妤は思いがけない贈り物を目にする。
錦川が届けた大きな衣装箱だった。
中には高価な布地や美しい装飾品がぎっしりと詰められている。
昼間、令妤が店先で羨ましそうに眺めていた品々ばかりだった。
突然の贈り物に令妤は戸惑う。
陸昀はいつも辛辣な言葉ばかり口にする。
それなのに、なぜこんなにも気遣うような真似をするのか。
彼女には理解できなかった。
しかしその頃、陸昀の屋敷では別の騒動が起きていた。
得意げな錦川が贈り物の報告をすると、陸昀は仰天する。
実はその品々は本来、親族へ渡すために用意していた高価な贈答品だったのである。
陸昀はただ適当な品を渡すつもりだった。
ところが錦川は勝手に解釈し、最上級の品を令妤へ届けてしまったのだ。
慌てる陸昀を見ながら、錦川は面白そうに笑う。
「若様は本当は羅姑娘のことが気になっているのでしょう?」
その言葉に陸昀は否定するが、どこか説得力がない。
ツンデレぶり全開の陸昀に、視聴者も思わず頬が緩む場面となる。
しかし、平穏な時間は長く続かなかった。
翌朝、陸家の門前で大騒ぎが起こる。
范清辰が大勢の人々を集め、自らを令妤の夫だと主張し始めたのである。
彼は二人がすでに婚礼を済ませたと語り、令妤を連れ戻しに来たと堂々宣言する。
事情を知らない人々は次第に范清辰へ同情的になっていく。
令妤は追い詰められるが、ここで彼女の策略が光る。
実は婚書には特殊な墨が使われていた。
霊犀が用意した烏賊墨の文字は、時間が経つと消えてしまうのである。
范清辰が自信満々に差し出した婚書には、肝心の署名が残っていなかった。
これにより婚約の証拠は無効となる。
さらに事態を大きく動かしたのが劉棠(りゅうとう)だった。
これまで無邪気な少女として振る舞っていた彼女は、自らの正体が南樾州の寧平公主であることを明かす。
突然明かされた高貴な身分に周囲は騒然となる。
公主の後ろ盾を得たことで、陸家の老夫人も令妤を守る姿勢を鮮明にした。
完全に形勢不利となった范清辰は、悔しさを滲ませながらも退却を余儀なくされる。
しかし彼が諦めたわけではない。
令妤自身もそれを理解していた。
今回の勝利は一時的なものに過ぎない。
それでも彼女は、自分の未来を自分で選び取るという決意を改めて固めるのだった。
そしてこの騒動をきっかけに、令妤は陸家の中で一躍注目の存在となる。
羨望、嫉妬、好奇心――。
さまざまな感情が彼女へ向けられ始める。
知らぬ間に令妤の運命は大きく動き出していた。
次回の見どころ
范清辰の執念深い追跡はまだ終わらない。一方で、令妤を救った陸昀もまた、彼女への感情に少しずつ変化が現れ始める。表向きは冷たく接しながらも、陰では何かと気に掛ける陸昀。その不器用な優しさに令妤は気付くのか。そして公主である劉棠の正体が明らかになったことで、陸家を取り巻く人間関係にも新たな波紋が広がる。恋と策略、そして家同士の思惑がさらに複雑に絡み合う中、令妤を巡る貴公子たちの駆け引きは新たな局面へ。次回も見逃せない展開が待っている。
第8話 桃花の下で芽生える想い――令妤を巡る新たな波乱
范清辰(はん・せいしん)が陸家で騒ぎを起こしてから数日後。
ようやく平穏を取り戻したかに見えた陸家だったが、新たな人物の来訪によって再び運命の歯車が動き始める。
その日、范清辰は懲りることなく再び陸家を訪れていた。
羅令妤(ら・れいよ)を諦めきれない彼は、何とかして彼女を連れ戻そうと考えていたのである。
門前で彼を迎えた陸昀(りくいん)は露骨に不機嫌な表情を浮かべる。
今にも追い返そうとしたその時、一台の立派な馬車が到着する。
そこから姿を現したのは衡陽王(こうようおう)だった。
陸昀は驚きながらもすぐに礼を尽くし、旧友との再会を心から喜ぶ。
一方、范清辰はその様子を見て密かに期待する。
権力者である衡陽王に味方してもらえれば、自分に有利な状況を作れるかもしれないと考えたのだ。
しかし、その期待はあっさり裏切られる。
衡陽王は范清辰にほとんど関心を示さず、そのまま陸昀と共に屋敷の中へ入ってしまった。
取り残された范清辰は面目を失い、周囲の視線を浴びることになる。
その様子を遠くから見ていた令妤は、すぐにあることに気付く。
陸昀が敬意を払い、范清辰ですら頭が上がらない人物。
つまり衡陽王は相当な権力者に違いない。
范清辰の執拗な追跡に悩まされている令妤は、「この人物と親しくなれれば、自分の立場も守れるのではないか」と考え始める。
持ち前の行動力を発揮した令妤は、さっそく接近作戦を練り始めるのだった。
そんな中、庭では錦川が茶の支度をしていた。
香り高い茶葉の匂いが辺りに漂う中、令妤は機転を利かせる。
前日に陸昀から贈り物を受け取ったお礼として、自らお茶を淹れたいと申し出たのだ。
事情を知らない錦川は快く場所を譲る。
こうして令妤は自然な形で衡陽王の目に留まる機会を得ることになる。
実は衡陽王には別の目的があった。
以前、自分の行動予定が刺客に漏れた件について、陸昀を疑っていたのである。
今回の訪問も、その真意を探るためのものだった。
しかし会話を重ねるうちに、陸昀が秘密を漏らした形跡はないと判断し、少しずつ警戒を解いていく。
やがて王は庭の景色を楽しむ余裕を見せ始める。
春爛漫の季節。
満開の桃の花が風に舞い、柔らかな日差しが庭を包み込む。
その美しい風景の中で茶を淹れる令妤の姿は、まるで絵巻物から抜け出したかのようだった。
衡陽王は思わず見とれてしまう。
知性と美しさを兼ね備えた彼女の姿に、強く心を惹かれたのである。
もちろん、その視線に気付いた人物がいた。
陸昀だった。
桃の花びらをまといながら茶を淹れる令妤を見つめる衡陽王。
その光景に陸昀は妙な居心地の悪さを感じる。
自分でも理由は分からない。
だが、王が令妤を見つめる姿を面白く思えなかった。
陸昀は令妤を呼び寄せる。
本来なら彼女と范清辰の関係を王へ説明するつもりだった。
しかし令妤は察しが良い。
何かを話される前に巧みに話題を逸らし、その場を離れてしまう。
頭脳戦に長けた令妤らしい見事な立ち回りだった。
一方その頃、思わぬ騒動が起きていた。
令妤の妹・婳児(かじ)と陸家の子どもたちが遊んでいるうちに口論になったのである。
その仲裁に入ったのが二公子・陸顕(りくけん)だった。
だが不運なことに足を滑らせ、子どもたちと共に池へ転落してしまう。
周囲は大混乱となる。
陸顕は泳ぐことができなかった。
その時、真っ先に飛び込んだのが令妤だった。
自分の身の危険も顧みず池へ飛び込み、陸顕を助け出したのである。
しかし、その勇敢な行動が正当に評価されることはなかった。
駆け付けた大夫人は、息子が池へ落ちたという事実だけで激怒する。
事情を聞こうともせず、令妤に責任を押し付けた。
そして祠堂での罰を命じる。
令妤は反論しなかった。
もし妹の名前が出れば、姉妹ともども陸家から追い出される可能性がある。
寄る辺のない自分たちにとって、それは絶対に避けなければならない事態だった。
こうして令妤はすべてを一人で背負うことを選ぶ。
夜になると激しい雨が降り始める。
冷たい風が吹き込む祠堂で、濡れた衣のまま令妤は跪き続ける。
その頃、隣室では婳児が泣いていた。
事情を聞いた陸昀は胸を痛める。
普段は強気な令妤が、誰にも頼れず苦しんでいることを知ったからだ。
結局、彼はじっとしていられなかった。
祠堂を訪れた陸昀は、震えながら耐えている令妤の姿を目にする。
家族も後ろ盾もなく、肩身の狭い思いをしながら生きる彼女。
その姿に、陸昀は初めて深い同情と理解を覚える。
やがて高熱に耐え切れなくなった令妤は、その場で意識を失ってしまう。
陸昀は慌てて彼女を抱き上げ、自室へ連れ帰った。
これまで何かと衝突を繰り返してきた二人だったが、この夜だけは違った。
令妤が目を覚ますと、そこは陸昀の部屋だった。
濡れた衣服は乾いた着物に替えられ、薬湯まで用意されている。
いつも皮肉ばかり言う陸昀が、まるで別人のように優しい。
令妤もまた、その温かさに少し驚く。
二人の距離が静かに縮まった瞬間だった。
それでも令妤が真っ先に口にしたのは自分のことではない。
助けた陸顕の容体だった。
さらに彼女は、もし陸顕が目覚めても妹・婳児の名前だけは出さないでほしいと陸昀へ頼む。
妹を守ろうとする姉の深い愛情に、陸昀の心は大きく揺さぶられる。
翌朝。
陸顕は命に別状がないことが判明する。
しかし事件は終わらなかった。
以前から令妤を快く思っていなかった女性たちが、この機会に彼女を追い出そうと動き始める。
大夫人の前で令妤の悪評を吹き込み、すべての責任を押し付けようとするのだ。
その話を耳にした陸昀は黙っていられなかった。
これまでなら静観していたはずの彼が、令妤のために言葉を発する。
少しずつ変化していく二人の関係。
しかし大夫人は納得していない。
真相を必ず突き止めると宣言し、新たな嵐の到来を予感させるのだった。
次回の見どころ
陸顕の落水事件は思わぬ方向へ発展し、令妤はさらに厳しい立場へ追い込まれていく。一方で、彼女をかばう陸昀の態度には明らかな変化が見え始める。冷たく突き放していたはずの若様が、なぜここまで令妤を気に掛けるのか。さらに衡陽王も令妤への関心を強めており、彼女を巡る恋の駆け引きはますます加速。策略家たちの頭脳戦、貴公子たちの想い、そして陸家に渦巻く陰謀が複雑に絡み合う中、令妤の運命は新たな試練を迎える。次回も見逃せない展開が待っている。
















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