恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 2025年 全26話 原題:怎敌她千娇百媚
第9話
目次
第9話「追放の危機と衡陽王の想い」
陸顕の落水騒動から一夜明けた朝、羅令妤は静かに祠堂へ向かった。昨夜、本来ならば自分が受けるはずだった罰を、忠実な侍女・霊犀が身代わりとなって引き受けてくれたことに胸を痛めながらも、今は妹の婳児を守ることが最優先だった。
やがて大夫人から呼び出しを受けた令妤は、祠堂で一晩中反省していたように見せるため、自ら衣服を濡らして憔悴した姿を演出する。寄る辺のない身である彼女にとって、陸家を追われることはすべてを失うことを意味していた。
大夫人は陸顕の落水について厳しく問いただす。しかしその場に現れた陸昶が、当日の出来事を無邪気に語ったことで状況は一変する。さらに令妤が現場に残されていた油の痕跡について説明したことで、事故ではなく何者かの仕組んだ罠であった可能性が浮上した。
追及の末、これまで令妤を敵視していた娘の一人が犯人として発覚する。彼女は泣きながら許しを請うが、大夫人は厳しく処分を下し、陸家から追放することを決定した。
これによって令妤の疑いは晴れたかに見えた。
ところが、別の娘が思わぬ告発を始める。昨夜、令妤が本当に祠堂で反省していたわけではないこと、さらに陸昀の部屋にいた事実を暴露したのである。
もちろん令妤が陸昀の部屋にいたのは、高熱で倒れた彼女を陸昀が助けたためだった。しかし事情を知らない者たちから見れば、若い男女が一夜を同じ屋根の下で過ごしたようにも受け取れる。
大夫人は激怒した。
もともと令妤のことを快く思っていなかった大夫人は、「人の噂を招くような娘を陸家には置いておけない」と判断し、ついに令妤へ追放を言い渡す。
陸昀は慌てて弁明しようとするが、それがかえって大夫人の怒りを買ってしまう。
令妤は悔しさを胸に押し込めながらも、自分の処分は受け入れる覚悟を決める。ただ一つだけ、妹の婳児だけは陸家に残してほしいと懇願した。その姿にさすがの大夫人も折れ、妹への処分だけは見送ることとなった。
しかし令妤には別の問題があった。
陸家の門外には、あの范清辰が待ち構えていたのである。
もし今ここで陸家を追われれば、逃げ場を失った自分は再び范家へ連れ戻されてしまう。令妤は絶体絶命の状況の中で必死に活路を探した。
そんな彼女が思い出したのは、最近自分に好意を寄せ始めている衡陽王の存在だった。
令妤は周揚霊に協力を頼み、陸昀の名を借りて衡陽王を呼び出す計画を立てる。突然の誘いに衡陽王は不審を抱きながらも、親友である陸昀の頼みならと馬を走らせる。
一方その頃、陸昀もまた令妤を救うために動いていた。
彼は陸家で最も発言力を持つ祖母のもとを訪ね、令妤がこれまで陸家へ尽くしてきたこと、陸顕や家族を助けたこと、そして忠臣の娘であることを丁寧に説明する。
陸昀自身も気づかぬうちに、令妤を守りたいという気持ちが強くなっていた。
祖母は陸昀の話に心を動かされ、大夫人のもとへ向かう。そして令妤にもう一度だけ機会を与えるよう説得したのだった。
その頃、衡陽王は陸家へ到着していた。
霊犀は機転を利かせ、門前にいた范清辰を衡陽王の馬の進路へ押し出す。突然の出来事に馬は暴れ出し、周囲は騒然となる。
危険を察知した令妤は、とっさに衡陽王の前へ飛び出した。
自ら危険を顧みず王を守ろうとするその姿に、衡陽王は大きな衝撃を受ける。
もちろん令妤の行動には計算もあった。しかしその勇気ある姿は衡陽王の心を強く揺さぶり、彼女への想いをさらに深める結果となった。
そこへ陸昀が駆けつける。
彼は祖母の説得によって追放が取り消されたことを令妤へ伝えた。
予想外の吉報に令妤は思わず安堵の笑みを浮かべる。しかし彼女はまだ、陰で奔走していたのが陸昀であることを知らない。
一方の衡陽王は、ますます令妤への関心を強めていた。
彼は近々開催される王府の宴へ令妤を招待する。
それは単なる社交辞令ではなく、明らかに特別な意味を持つ誘いだった。
令妤は微笑みながら応じるが、その胸の内では新たな思惑が動き始めていた。
そして陸昀は、そんな二人の様子を複雑な表情で見つめるのだった。
次回の見どころ
追放の危機を乗り越えた羅令妤。しかし今度は衡陽王からの積極的な接近が始まります。王府の宴への招待によって、令妤は新たな選択を迫られることに。一方、彼女を陰で守った陸昀は、自分でも気づかぬうちに令妤への想いを深めていきます。衡陽王と陸昀、二人の間で揺れ始める恋模様。そして范清辰もなお諦めておらず、水面下で新たな策を巡らせていました。恋と陰謀がさらに複雑に絡み合う第10話をお見逃しなく。
第10話「揺れる想い、迫る陰謀」
樾州に春の気配が深まる中、陸家には新たな波紋が広がり始めていた。
衡陽王と陸昀が東屋で語り合っていたある日、そこへ常宜王が現れる。二人の皇子は以前から折り合いが悪く、顔を合わせた瞬間から空気は張り詰める。衡陽王は先日の襲撃事件について探るように問いかけるが、陸昀も常宜王も何も知らぬ様子を貫く。その態度に納得できない衡陽王は、不機嫌そうにその場を後にするのだった。
一方、羅令妤は以前助けてもらった周揚霊への感謝を伝えるため、密かに会っていた。そこで思いがけず、周揚霊が男装した女性であることを知る。驚きながらも二人はすぐに打ち解け、まるで姉妹のような関係となる。
異郷の地で本音を語れる相手を得た令妤は心から喜び、「これから困ったことがあれば必ず相談してほしい」と約束する。周揚霊もまた、令妤の誠実さに心を開き、二人の友情は一層深まっていった。
そんな中、令妤は自分を何度も助けてくれた陸昀への感謝を形にしたいと考える。夜なべして作ったのは、精巧な蟹の形をした灯籠だった。蟹の足や鋏まで細かく作り込まれたその灯籠は、見る者を驚かせるほど見事な出来栄えだった。
贈り物を受け取った陸昀は思わず顔をほころばせる。しかし素直になれない彼は、「これは私だけのために作ったのか?」と遠回しに尋ねる。
令妤が「もちろんです」と答えると、陸昀は平静を装いながらも内心では大いに喜ぶ。その様子を見た錦川は主人の変化に気づきながらも、黙って微笑むのだった。
その頃、寧平公主である劉棠が令妤を訪ねてくる。令妤は最近の出来事を語る中で、衡陽王から受けた厚意についても話題にする。
すると劉棠は意味深な笑みを浮かべながら、「五皇子が女性にここまで関心を示すなんて珍しいことよ。もしかして未来の五皇子妃かもしれないわね」と冗談交じりに話す。
令妤は慌てて否定するものの、范清辰の執着から逃れる手段として衡陽王の存在が有効かもしれないとも考えていた。そこで劉棠から衡陽王の好みや性格をさりげなく聞き出し始める。
一方の衡陽王もまた、令妤のことが頭から離れなくなっていた。
彼は自ら主催する歓迎の宴の準備に余念がなく、令妤が来てくれることを密かに楽しみにしている。宴当日も朝から落ち着かず、門前に人影が見えるたびに令妤の到着かと期待する。
ところが、ようやく来客があったと思えば杏を売る商人だった。期待を裏切られた衡陽王は思わず家臣を叱責し、周囲を困惑させる。
その頃、常宜王は陸家で男装中の周揚霊と再会していた。
教育の現場に興味を持った常宜王は、周揚霊の授業に参加する。農作物について学ぶ授業では、韭菜すら見分けられないほど世間知らずな一面を見せるが、誰よりも熱心に学ぼうとする姿勢に周揚霊は好感を抱く。
泥だらけになりながら懸命に学ぶ常宜王の姿はどこか愛らしく、周揚霊の胸にも少しずつ温かな感情が芽生え始めていた。
その後、令妤は衡陽王の招待への礼を伝えるため王府を訪れる。
宴について自らの考えを語る令妤の聡明さに、衡陽王はますます惹かれていく。もっと長く話していたいと思う衡陽王だったが、そこへ陸昀が現れる。
「食事の時間だ。」
まるで当然のように令妤を連れて帰ろうとする陸昀に、衡陽王は不満を隠せない。
近頃の陸昀は何かと令妤のそばに現れる。その姿が衡陽王には面白くなかった。
一方の陸昀もまた、自分でも気づかぬうちに令妤を気に掛けていた。彼女が危険な場所へ近づけば心配し、誰かに言い寄られれば不機嫌になる。しかし本人はその感情を認めようとしない。
夜になると、衡陽王は上機嫌のまま庭で剣を振るう。軍師から「羅令妤の行動は計算ではないのか」と問われても、衡陽王は笑い飛ばす。
たとえ計算だったとしても構わない。
それほどまでに彼の心は令妤へと傾いていた。
しかし、そんな穏やかな恋心の裏側では、新たな陰謀が動き始めていた。
深夜、范清辰が衡陽王を訪ねてくる。
表向きは軍務の報告だったが、衡陽王は同行している男に鋭い視線を向ける。その人物はどこか先日の刺客たちと共通する気配をまとっていた。
実はその男は陸昀が送り込んでいた密偵・趙原だった。しかし范清辰に正体を見抜かれ、逆に利用されていたのである。
趙原が捕らえられたことを知った陸昀は動揺し、すぐに救出へ向かおうとする。
だが常宜王は冷静だった。
「今動けば敵の思う壺だ。」
その助言を受けた陸昀は冷静さを取り戻し、間近に迫る衡陽王主催の宴を利用して趙原を救い出す計画を立て始める。
恋心が交錯し始めた令妤、陸昀、衡陽王。
そして密かに進行する范清辰の陰謀。
それぞれの思惑が複雑に絡み合いながら、樾州には新たな嵐の気配が忍び寄っていた。
次回の見どころ
衡陽王主催の華やかな宴がついに開幕。令妤は思いがけず注目の的となり、衡陽王の好意もさらに露わになっていく。一方で陸昀は趙原救出のため危険な計画を実行へ移し、范清辰との対立も激化。恋の三角関係と水面下の権力争いが同時に動き出し、令妤を巡る状況はますます複雑になっていく。宴の裏で仕掛けられる駆け引きから目が離せない。
第11話「仮面の下の真実」
衡陽王のために開かれる接風宴の日が近づき、羅令妤はその準備に追われていた。
これまで何度も助けてもらった恩返しの意味も込め、宴を成功させたいと考えていた令妤は、装飾から料理、余興に至るまで細かな部分にまで心を配る。ところが、準備が大詰めを迎えた頃、空には厚い雲が立ち込め、やがて冷たい雨が降り始める。
せっかく用意した催しが台無しになるかもしれない――。
令妤は焦りを隠せずにいたが、そんな彼女の前に現れたのが陸昀だった。
普段は皮肉ばかり口にする陸昀だったが、この日は珍しく協力的な態度を見せる。
「困っているなら手伝ってやる。」
ぶっきらぼうな言葉ながら、その申し出に令妤は思わず心を動かされる。
しかし陸昀には別の目的があった。
実は彼は、衡陽王府に捕らえられている密偵・趙原を救出する計画を進めていたのである。
宴の準備を手伝う一方で、銀川には王府周辺の警戒状況を探らせ、自身は夜陰に紛れて潜入を試みる。
だが衡陽王府の警備は想像以上に厳重だった。
門には無数の鈴が仕掛けられ、わずかな振動でも音が鳴る仕組みになっている。
慎重に侵入した陸昀だったが、扉に触れた瞬間、鈴の音が静寂を切り裂いた。
異変を察知した衡陽王は即座に行動を開始する。
王府全体に警戒令が敷かれ、侍衛たちが侵入者の捜索に乗り出した。
その頃、宴の準備を続けていた令妤は突然胸の痛みに襲われ、作業を中断して部屋へ戻ろうとしていた。
その途中、川辺で倒れている一人の男を見つける。
顔には仮面があり、負傷している様子だった。
令妤はその姿を見た瞬間、かつて船旅で出会った謎の男を思い出す。
さらに、その男の瞳を見た瞬間、彼女は息を呑んだ。
仮面の下にいたのは陸昀だったのである。
昨夜、衡陽王府へ忍び込んだ侵入者が陸昀だったことを知り、令妤は大きな衝撃を受ける。
しかし今は問い詰めるよりも先に治療が必要だった。
彼女は陸昀を自室へ運び込み、傷の手当てを行う。
そして二人きりになると、これまで積み重なってきた因縁が次々と蒸し返されていく。
嫁入り道具の箱に潜り込んでいたこと。
逃亡の際に馬を奪ったこと。
船旅で雨に打たれたこと。
無理やり泳いで上陸させられたこと。
互いに不満をぶつけ合ううちに、いつしか口論は昔話のようになっていく。
令妤はそこで初めて気づく。
陸昀は最初から自分の正体や事情を知っていたにもかかわらず、ずっと黙っていてくれたのだと。
その事実に感謝しながらも、半年近く知らぬふりを続けていた彼に呆れもする。
一方の陸昀もまた、令妤に対する自分の感情と向き合わざるを得なくなっていた。
范清辰が近づけば腹が立つ。
衡陽王と親しげに話していれば面白くない。
危険な目に遭えば誰よりも心配になる。
だが令妤の夢はあくまで婿入りしてくれる夫を見つけ、羅家を再興すること。
その目標を知るたびに、陸昀は言葉にできない複雑な思いを抱えていた。
翌朝。
令妤は接風宴のため、鏡の前で念入りに身支度を整えていた。
豪華な衣装に身を包み、髪飾りを選ぶ彼女を見ながら、陸昀はわざと意地悪な言葉を投げかける。
「もうお互いの正体が分かったんだ。今さら取り繕う必要もないだろう。」
令妤は呆れながら聞き流すが、陸昀はふと彼女の髪に手を伸ばす。
そして一本の簪を抜き取り、そのまま懐へしまった。
それは二人だけが共有する秘密の証のようでもあり、陸昀なりの不器用な独占欲の表れでもあった。
やがて接風宴が始まる。
会場には令妤が工夫を凝らした装飾が並び、春の華やかな雰囲気に包まれていた。
衡陽王はその出来栄えに満足しながらも、姿を見せた陸昀に意味深な視線を向ける。
そして肩を強く叩いた。
昨夜の侵入者が誰だったのか、すでに気付いているという無言の合図だった。
幼い頃から共に育った二人だからこそ分かるやり取りだった。
その様子を見た令妤は、陸昀の肩にまだ傷が残っていることを思い出す。
これ以上二人の間に不穏な空気が流れないよう、彼女は話題を変えるように宴の開始を提案し、その場を和ませるのだった。
しかし宴の裏側では、さらに大きな陰謀が動き始めていた。
范清辰のもとでは重要な帳簿が失われるという事件が発生する。
慌てた范清辰は上役へ報告するが、激しい叱責を受ける。
しかも樾州からの即時撤退まで命じられてしまう。
そのやり取りを密かに察知した陸昀は、范清辰の背後に想像以上に大きな組織が存在することを確信する。
一方の令妤もまた、これまでの出来事が単なる縁談騒動ではないことを感じ始めていた。
恋心が芽生え始める一方で、樾州の水面下では危険な陰謀が静かに広がっていたのである。
次回の見どころ
接風宴をきっかけに、陸昀と令妤の距離はさらに縮まっていく。しかし衡陽王の想いもますます強くなり、三人の関係は微妙な均衡を迎えることに。一方、范清辰の背後に潜む黒幕の存在が徐々に明らかとなり、陸昀は危険な調査へ踏み込んでいく。恋と陰謀が交差する中、令妤が下す新たな決断にも注目したい。
第12話「花火に代わる想い」
衡陽王の接風宴は華やかに続いていたが、その裏ではそれぞれの思惑が複雑に交錯していた。
宴の最中、衡陽王はふと陸昀へ視線を向ける。
それは友人同士の何気ない会話のようでありながら、どこか探るような鋭さを含んでいた。
「昨夜はどこにいた?」
突然の問いに、その場の空気がわずかに張り詰める。
衡陽王は昨夜の侵入者の正体について未だ確信を持てずにいた。そして目の前の陸昀こそが最も怪しい人物だった。
しかし陸昀は動じない。
むしろ平然とした表情で、昨夜は羅令妤と共に過ごしていたと答える。
予想外の返答に最も驚いたのは令妤本人だった。
突然自分の名前を出され、思わず言葉を失う。
もし対応を誤れば、自分と陸昀の関係を周囲に誤解されかねない。
一方で衡陽王の前では少しでも良い印象を残したい。
そんな複雑な思いが頭を巡る中、令妤は機転を利かせる。
昨夜は翌日の宴について相談していただけだと説明し、その場を自然に収めた。
その姿に陸昀は感心しつつも、どこか面白そうに彼女を見つめていた。
二人の絶妙な掛け合いは、まるで長年連れ添った夫婦のようでもあり、衡陽王の胸に小さな違和感を残すことになる。
一方、宴の別の場所では周揚霊が思わぬ動揺に包まれていた。
そこにいたのは常宜王だった。
以前から交流を重ねていたものの、彼女は常宜王の本当の立場を十分に理解していなかった。
だが父が決めた婚約相手が常宜王であると知った瞬間、胸の鼓動が大きく跳ね上がる。
これまで気軽に接していた相手が未来の夫かもしれない。
その事実に顔を赤らめる周揚霊。
幸い常宜王は彼女が女性であることにまだ気づいておらず、そのことが唯一の救いだった。
宴が進む中、余興として抽選による競技が始まる。
本来、陸昀が引き当てたのは投壺だった。
ところが衡陽王の部下たちは、彼が昨夜の侵入者かどうかを確かめるため、密かに競技内容を弓術へと変更していた。
昨夜負った肩の傷が残る陸昀にとって、弓を引くことは危険だった。
無理をすれば正体が露見する。
そこで陸昀はとっさに令妤を巻き込む。
「彼女に弓を教えていたので、今日はその成果を見せたい。」
突然の提案に令妤は心の中で呆れ返る。
またしても利用されたのだ。
しかし今さら断れば余計に怪しまれる。
仕方なく協力することになった令妤は、陸昀の指示を受けながら弓を構える。
その姿を見た衡陽王は複雑な表情を浮かべる。
本当なら自分が令妤を手助けしたい。
だが彼女自身が陸昀を選んだ以上、割って入ることはできなかった。
やがて競技が始まる。
衡陽王は見事な腕前を披露し、百発百中とも言える正確な射撃で周囲を圧倒する。
一方の令妤と陸昀は二人で息を合わせ、協力しながら矢を放つ。
完璧ではないものの、飛び立つ斑鳩を射抜くことに成功した。
その結果を見た衡陽王は迷い始める。
昨夜の侵入者が本当に陸昀なら、あれほど自然に弓を扱えるだろうか。
疑念は再び霧の中へ消えていった。
昼の催しが終盤を迎えた頃、令妤は夜の演出に使う花火の確認をしていた。
そこで異変に気づく。
用意していた花火が不自然に濡れていたのである。
昼過ぎにはすでに雨は止んでいた。
つまり誰かが故意に水をかけたということになる。
令妤は冷静に周囲を観察する。
そして一人の女性に目を留めた。
陳娘子だった。
以前から陸昀に想いを寄せる彼女は、今日の弓術で二人が親しげにしている姿を見て明らかに機嫌を損ねていた。
令妤はすぐに陳娘子を呼び出し事情を尋ねる。
すると真相は意外なものだった。
花火を濡らしたのは陳娘子本人ではなく、主人を思うあまり暴走した侍女だったのである。
陳娘子は激しく叱責するが、忠義心から起こした行動でもあり、責任は自分が取ると申し出る。
令妤はそんな陳娘子を責めなかった。
むしろ静かに語りかける。
「競うなら正々堂々と。」
恋心は恥じるものではない。
だからこそ陰で足を引っ張るのではなく、自分の気持ちに正直であるべきだと伝える。
その言葉に陳娘子もまた心を動かされるのだった。
しかし問題は残っている。
花火が使えなくなった今、夜の演出をどうするのか。
そこで令妤は新たな案を思いつく。
それが「離火踏歌」だった。
剣に火油を塗り、激しく打ち合わせることで無数の火花を散らせる演武である。
夜の闇の中、剣が交わるたびに火花が咲き、将兵たちの勇壮な歌声が響き渡る。
それは花火にも劣らぬ壮麗な光景だった。
会場中が息を呑む。
特に衡陽王は強く心を揺さぶられていた。
戦場を知る武人だからこそ、この演出に込められた意味を理解できたのである。
ただ美しいだけではない。
力強さと知性、そして優しさを兼ね備えた令妤の魅力が、その舞台には凝縮されていた。
衡陽王は改めて確信する。
自分はこの女性に惹かれているのだと。
一方で陸昀もまた、令妤の機転と胆力に感心していた。
どんな窮地でも諦めず、必ず活路を見出す。
そんな彼女の姿は、いつの間にか彼の心を強く引きつけていた。
だが、その様子を遠くから見つめる范清辰だけは違った。
彼の胸には重い痛みが広がっていた。
令妤がここまで努力している理由。
それは自分のためではない。
衡陽王の心を掴むためなのだ。
その現実を目の当たりにし、范清辰は初めて悟る。
令妤の心は、もはや自分の手の届かない場所へ向かい始めているのかもしれない――。
次回の見どころ
接風宴をきっかけに、衡陽王の想いはますます深まっていく。一方、陸昀も令妤への特別な感情を隠しきれなくなり、恋の三角関係は新たな局面へ。さらに范清辰の背後に潜む勢力の動きも活発化し、樾州には不穏な影が忍び寄る。令妤を巡る恋と陰謀が複雑に絡み合う中、次なる波乱の幕が上がる。
















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