恋の一手は計画的に~貴公子に囲まれて~ 2025年 全26話 原題:怎敌她千娇百媚
目次
第13話「さらわれた花嫁、救い出された想い」
衡陽王から「望みを一つ叶えよう」と告げられた夜、羅令妤にとってそれは運命を変える好機となる。宴の成功を称えられた彼女は、長年胸に秘めてきた苦しみを打ち明ける。叔父夫婦によって勝手に決められた范清辰との婚約、そして自らの意思を無視された人生――。令妤は勇気を振り絞り、どうかこの婚約を無効にしてほしいと願い出る。
事情を聞いた衡陽王は激しい怒りを覚える。名門の娘でありながら財産目当てに利用され、望まぬ結婚を強いられている現状に強く憤り、必ず助けると約束するのだった。
しかし、その翌朝――。
令妤の姿が忽然と消える。
慌てて駆け込んできた霊犀から報告を受けた衡陽王と陸昀は、ただ事ではないと直感する。令妤は無鉄砲な一面こそあるものの、何も告げずに姿を消すような人物ではない。二人は即座に誘拐を疑い、屋敷の外に残された馬車の轍を手掛かりに調査を開始する。
そして容疑はすぐに一人へと向けられた。
范清辰である。
令妤を諦めきれない范清辰は、ついに強硬手段へと出ていたのだった。
一方その頃、令妤は薄暗い部屋で目を覚ます。手足は椅子に縛り付けられ、身には鮮やかな紅色の嫁衣装が着せられていた。周囲には婚礼を思わせる赤い飾りが並び、逃げ場はどこにもない。
そこへ現れた范清辰は、満足げな笑みを浮かべながら婚書を差し出す。
「これでようやく夫婦になれる」
令妤は必死に説得を試みるが、范清辰は耳を貸そうとしない。これまで何度も逃げられた経験から、彼は令妤の言葉を一切信用していなかった。
ついに范清辰は令妤の手を無理やり取り、婚書へ署名させてしまう。
絶望的な状況の中、それでも令妤は諦めなかった。
隙を見て縄を解き、必死に脱出を試みる。
だが逃走はすぐに見つかり、再び追い詰められてしまう。
それでも令妤は最後まで抵抗した。
髪を飾る簪を抜き取り、范清辰の肩へ突き立てる。
傷を負わせることには成功したものの、体力は限界に近かった。床へ倒れ込みながらも必死に出口へ向かう令妤。その姿は痛々しくも凛としていた。
そんな彼女の前に、一筋の光が差し込む。
扉が勢いよく開かれたのだ。
そこに立っていたのは――陸昀だった。
さらに背後には衡陽王の姿もある。
衡陽王は剣を抜き放ち、范清辰へ鋭く突きつける。
万事休すと悟った范清辰は抵抗できず、ついに令妤は救出されるのだった。
救出後、衡陽王はすぐに宮中の名医を呼び寄せ、令妤の治療を命じる。そして范清辰には厳しい処分が下され、樾州から永久追放となった。
長きにわたり令妤を苦しめてきた因縁は、ようやく終わりを迎える。
三日後。
意識を取り戻した令妤は、真っ先に空腹を訴える。
それも樾州名物の麺が食べたいという、いかにも彼女らしい願いだった。
夜も更けていたため霊犀は困惑するが、陸昀は迷わず付き添いを申し出る。
二人は静かな夜道を並んで歩き、小さな麺屋へ向かう。
閉店間際だった店主も、陸昀が差し出した金元宝を見るや態度を一変させ、大急ぎで麺を作り始める。
湯気の立つ丼を前に、令妤は今回の出来事を振り返る。
どれだけ知恵を絞り、逃げ続けても、結局は范清辰に捕まってしまった。運命の残酷さを嘆く彼女に対し、陸昀はその勇気と強さを認め、励ましの言葉を掛ける。
そして半ば冗談めかして尋ねる。
「婿入りしてくれる相手は見つかったのか?」
しかし令妤は穏やかな笑顔で答える。
これまで何度も助けてもらった恩は忘れない。
だが、自分はもう前へ進む。
陸昀への恩も借りもすべて返し終えたつもりだ、と。
その言葉に陸昀の胸は思いがけず痛んだ。
彼はこれまで令妤をからかい続けてきたが、彼女が本当に自分から離れていこうとすると、言いようのない寂しさを覚える。
令妤の夢である「婿取り」や「羅家再興」の話題を持ち出して引き留めようとするが、彼女の決意は固い。
初めて陸昀は気付く。
自分が思っていた以上に、令妤の存在が大きくなっていたことを――。
一方で、令妤はまだその想いに気付いていない。
二人の距離は確実に近づいているはずなのに、肝心な一歩だけが踏み出せない。
そんなもどかしい空気を残したまま、新たな物語が動き始めるのだった。
次回の見どころ
范清辰との因縁に一区切りがつき、ようやく平穏を取り戻した羅令妤。しかし彼女を巡る恋模様はさらに複雑になっていく。衡陽王はますます令妤への想いを深め、陸昀もまた自分の本心と向き合い始める。一方で樾州では不穏な陰謀が進行中。恋と権力争いが交錯する中、令妤が次に下す決断とは――。三人の関係が大きく動き出す注目の展開となる。
第14話「花神への挑戦、動き出す恋と陰謀」
范清辰との因縁にようやく終止符が打たれたことで、羅令妤は久しぶりに心から穏やかな日々を迎えていた。長年自分を縛り続けた望まぬ婚約から解放され、未来を自らの手で切り開ける喜びに満ちていたのである。
そんなある日、羅令妤は周揚霊と再会し、久しぶりに語り合う機会を得る。令妤は婚約解消によって自由を取り戻した心境を嬉しそうに語るが、その一方で周揚霊にも大きな悩みがあった。
実は彼女もまた、皇帝自らが定めた婚約に苦しんでいたのである。
その婚約相手とは、なんと常宜王だった。
令妤は驚きを隠せない。普通の婚約でさえ破談は難しいのに、相手は皇族であり、しかも皇帝の勅命による縁談である。周揚霊の抱える問題は、自分以上に困難なものだと痛感するのだった。
そんな中、樾州では一年に一度の「花神選抜」の話題で持ちきりとなっていた。
美貌だけでなく、教養や芸事、家柄なども審査対象となるこの大会は、樾州の若い女性たちにとって最大の晴れ舞台である。そして優勝者には、皇帝から直接褒賞が与えられるという名誉が待っていた。
その話を耳にした瞬間、令妤の胸に新たな希望が芽生える。
羅家の財産を取り戻す。
その夢を叶えるための絶好の機会かもしれない――。
現在の彼女には身分や立場の問題があり、簡単に参加できる状況ではない。それでも令妤は諦めなかった。
むしろ困難であるほど燃えるのが彼女の性格だった。
阿棠はそんな令妤の姿を見て感心する。自分にはない行動力と強い意志に憧れを抱きながらも、令妤から「あなたも自由に生きていい」と励まされるのだった。
花神大会への出場資格を得るため、令妤はさっそく行動を開始する。
まず向かったのは英婶婶のもとだった。
得意の話術と情熱で説得を続けた結果、英婶婶も令妤の熱意に心を動かされる。そして二人は陸家老太太のもとを訪れ、正式な出場許可を願い出た。
その場には偶然陸昀も居合わせていた。
陸昀は令妤の挑戦を知ると、珍しく積極的に後押しする。
英婶婶と陸昀、二人の説得もあり、老太太は最終的に出場を認めるのだった。
こうして羅令妤は花神大会への第一歩を踏み出す。
一方その頃、都では花神大会の参加者名簿が皇帝のもとへ届けられていた。
その中に見慣れない名前を見つけた皇帝は興味を示す。
「陸家から新人が出るのか」
たまたま同席していた衡陽王は迷うことなく答えた。
その女性こそ、自分が想いを寄せる羅令妤であると。
それを聞いた皇帝は面白そうに笑う。
そして思いがけない一言を口にする。
「今年の花神の優勝者には、衡陽王妃の資格を与えよう」
突然の発言に衡陽王は驚く。
もし令妤が優勝できなければ、自分との未来も遠のいてしまうからだ。しかし皇帝は、王妃になる以上、それだけの実力を示すべきだと考えていた。
知らぬ間に、令妤の挑戦は恋と運命を左右する大きな戦いへと変わっていたのである。
その頃、陸昀にもある変化が起きていた。
婚約騒動が終わって以降、令妤との接触が極端に減っていたのだ。
ようやく静かになったはずなのに、なぜか心は落ち着かない。
そんな陸昀に、錦川はある助言をする。
「今度は旦那様が令妤様を追いかければいいのでは?」
その言葉に背中を押された陸昀は、令妤が以前自分にしていたような行動を真似し始める。
筆を借りる。
紙を借りる。
硯を借りる。
本を借りる。
理由をつけては隣の院を訪ね続けるのだった。
あまりの頻度に、ついに霊犀から門前払いを受けてしまう。
それでも陸昀は諦めない。
今度は町の布屋や装飾店へ手を回し、令妤が花神大会の準備で困らないよう密かに援助を始める。
本人は決して認めようとしないが、その行動は明らかに恋する男そのものだった。
一方の衡陽王も負けてはいない。
自ら選んだ豪華な髪飾りや装身具を令妤へ贈り、さらに宮廷舞姫による特別指導まで申し出る。
しかし令妤は丁重に断った。
自分の力で勝ちたい。
その強い意志を見た衡陽王はますます彼女に惹かれていく。
令妤はさらに教坊の名妓・七娘のもとを訪ねる。
最初こそ七娘は安い謝礼に興味を示さなかったが、令妤は彼女の才能を世に広めたいという夢を巧みに刺激する。
「私が優勝すれば、あなたの名も天下に轟く」
その言葉に七娘は心を動かされ、ついに師弟関係が成立するのだった。
しかし恋模様が進展する裏で、樾州では不穏な動きも加速していた。
陸昀と常宜王は、范家への捜索を開始する。
そこで発見されたのは大量の硝石だった。
軍事利用も可能な危険物資である。
事態の深刻さを悟った范父は秘密を守るため自害。
その異常な行動から、陸昀たちは范家の背後にさらに大きな勢力が存在すると確信する。
捜査は急速に進められ、行方をくらませた范清辰の追跡が始まる。
だがその矢先――。
范清辰は帰宅途中、突然現れた黒衣の刺客に襲われる。
部下たちは次々と斬り倒され、范清辰自身も血に染まって倒れ込むのだった。
誰が口封じを命じたのか。
范家が守ろうとした秘密とは何なのか。
樾州を覆う巨大な陰謀は、ついにその牙を剥き始めるのであった。
次回の見どころ
花神大会へ向けて本格的な特訓を開始した羅令妤。衡陽王と陸昀、二人の想いはますます強くなり、恋の三角関係は新たな局面を迎える。一方で范家を巡る陰謀は予想以上に深く、黒幕の存在が浮かび上がってくる。華やかな花神大会の裏側で進行する危険な権力闘争。恋と陰謀が交錯する中、令妤はどのような試練に立ち向かうのか。次回も目が離せない展開となる。
第15話「花神の口づけ」
花神大会の開催が迫る中、陸昀たちは依然として范家の陰謀を追い続けていた。衡陽王の身辺を狙った襲撃事件の真相を探るため、陸昀と常宜王は衡陽王を尋梅居へ招き、重要な話し合いの場を設ける。二人は、范家と軍営との不審な繋がりを突き止めつつあり、衡陽王の行動が漏れていた原因も、彼の身近な人物にある可能性が高いと考えていた。
しかし衡陽王は、長年仕えてきた幕僚や部下たちへの信頼が厚く、陸昀たちの警告を容易には受け入れられない。かつて自身の行動が敵に知られた際も、陸昀と常宜王を疑ったほどであり、今回もまた二人の話に耳を貸そうとはしなかった。話し合いは平行線のまま終わり、陸昀は複雑な思いを抱えながらその場を後にする。
そんな帰り道、陸昀は思いがけず羅令妤と霊犀の姿を見かける。二人が尋梅居から出てきたことに驚いた陸昀は、すぐに後を追った。実は羅令妤は花神大会へ向けた準備のため、師匠探しや衣装選びに奔走していたのである。
陸昀は少しでも令妤と話したい一心で近づくが、彼女はどこか素っ気ない。道端で令妤が糖葫蘆(タンフールー)を眺めているのを見ると、陸昀は勢い余って店の糖葫蘆をすべて買い占めてしまう。しかし、あまりにも大げさな行動に令妤は呆れ顔。感謝されるどころか、むしろ困惑されてしまい、陸昀は空回りするばかりだった。
一方その頃、令妤は花神大会のために選んだ衣装の試着を進めていた。親友となった周揚霊を誘い、一緒に衣装合わせを行う。男装姿しか知られていなかった周揚霊が久しぶりに女性の装いをすると、その美しさは誰もが目を奪われるほどだった。
そこへ偶然現れた常宜王は、目の前に立つ美しい女性に思わず言葉を失う。どこか見覚えがあると感じながらも、まさか周先生本人だとは思わず、「羅公子の妹」だと勘違いしてしまう。周揚霊も正体を明かせないため、そのまま曖昧に話を合わせるしかなかった。
だが常宜王の胸には疑念が残る。食事の際の仕草や話し方が、どうしても周先生に似ているのだ。屋敷へ戻った常宜王は、かつて許嫁として渡された周揚霊の肖像画を取り出し、記憶と照らし合わせ始める。彼の中で、少しずつ真実への糸が繋がり始めていた。
その頃、令妤は花神大会へ向けて連日厳しい舞の稽古を続けていた。美しく舞うためには相当な練習量が必要であり、足には痛々しい傷が増えていく。それを知った陸昀は心を痛め、傷薬を届けようとするが、直接渡せば拒まれるかもしれないと考え、舞の師匠を通じてそっと贈る。
令妤は差出人を知らぬまま薬を受け取るが、その優しさにどこか心が温かくなる。
夜になると、銀川が令妤のもとへ現れ、陸昀からの呼び出しを伝える。令妤が隣の屋敷を訪れると、陸昀は得意げな表情で一通の書状を見せた。それは花神大会の審査員任命書だった。
今回の大会では三人の審査員が勝敗を左右する。残る二人は有力な家柄の人物であり、令妤とは何の縁もない。つまり陸昀だけが、彼女にとって唯一頼れる存在だった。
陸昀は意味深な笑みを浮かべながら、「協力してほしいなら交換条件がある」と切り出す。
令妤は警戒しながらも条件を尋ねる。
すると陸昀は意を決したように、「口づけを一つ」と告げた。
本来なら怒られても仕方のない要求だった。しかし令妤はしばらく考えた後、驚くほどあっさりと彼の前へ歩み寄る。そして背伸びをして、そっと頬に口づけを落とした。
予想外の展開に陸昀は完全に固まってしまう。冗談半分のつもりだった彼は、まさか本当に応じてもらえるとは思っていなかったのだ。
令妤は照れる様子もなく、「取引ですもの。それに陸三公子は見目も良いから損はしていませんわ」と微笑む。そして何事もなかったかのように帰っていく。
一人残された陸昀は、喜びと戸惑いの入り混じった複雑な表情を浮かべる。想い人からの口づけを得たはずなのに、それが恋ではなく“取引”だったことが、かえって彼を落ち着かなくさせるのだった。
花神大会を目前に控え、令妤と陸昀の距離は確実に近づいている。しかし同時に、周揚霊の正体に迫る常宜王、そして衡陽王を取り巻く陰謀も静かに動き続けていた。恋と策略が複雑に絡み合う中、それぞれの想いは少しずつ運命の転機へと向かっていく。
次回の見どころ
花神大会に向けて稽古に励む羅令妤。しかし大会の裏では、衡陽王を巡る陰謀がさらに深まり、陸昀たちの調査も新たな局面を迎える。一方、常宜王は周揚霊の正体にますます疑念を抱き始め、二人の関係にも変化の兆しが。さらに、口づけを交わした後も平然としている令妤に対し、陸昀は一人振り回され続ける。果たして花神大会の行方は――そして二人の恋はどこへ向かうのか。次回も見逃せない。
第16話「花神祭の舞姫」
花神祭の本選当日を迎え、陸昀は判官(審査員)としての役目を果たすため、朝から入念な準備を進めていた。衣装や装飾品を何度も確認し、令妤が最高の舞台を披露できるよう陰ながら支えるつもりでいたのである。
しかし、その矢先に銀川が慌ただしく駆け込んでくる。長らく行方不明だった王陽明が樾州郊外で発見されたという知らせだった。
王陽明の失踪は、范家や軍中の陰謀にも関わる重要な案件である。陸昀は一瞬迷うものの、自らの本分が捕吏として真相を追うことにあると理解していた。花神祭に立ち会いたい気持ちを胸に押し込み、急いで令妤のもとへ向かう。
事情を聞いた令妤は意外にも落胆した様子を見せなかった。
「大事な仕事なら行ってください。私は私で頑張ります」
そう微笑む彼女に、陸昀はかえって胸を締め付けられる。もっと引き留めてほしい気持ちもあったが、令妤は常に自分の力で未来を切り開こうとする女性だった。
別れ際、陸昀は密かに用意していた琉璃の腕輪を彼女へ贈る。
陽光を受けて七色に輝くその腕輪には、言葉にできない想いが込められていた。
令妤はその意味を深く問いたださなかったが、大切そうに腕へ通し、静かに礼を述べる。その姿を見つめながら、陸昀は後ろ髪を引かれる思いで捜査へ向かった。
一方、花神祭の会場では各地から集まった才女たちが華やかな競演を繰り広げていた。
令妤にとって、これほど大規模で格式高い舞台は初めてだった。緊張しながらも、羅家再興という夢を叶えるためには絶対に負けられない。
そこへ現れたのが衡陽王だった。
彼は公然と令妤の名に五十両もの大金を賭ける。
その行動は、令妤への期待と好意を誰の目にも分かる形で示すものだった。
さらに衡陽王は彼女の控室を視察し、あまりに粗末な環境を見るや、すぐに豪華な部屋へ変更させる。広々とした室内には上質な茶菓子や果物まで並べられ、令妤はその厚遇に驚きを隠せなかった。
周囲の者たちも、衡陽王の特別扱いに気づき始める。
彼の想いはもはや隠しきれないほど明らかになっていた。
そんな中、寧平公主・劉棠もまた勇気を振り絞って舞台へ立つ。
普段は控えめで目立つことを嫌う彼女だったが、この日は違った。自らの殻を破ろうと懸命に舞う姿に、令妤も心を打たれる。
だが、本当の試練はその後に訪れる。
舞台へ上がった陳娘子の姿を見た瞬間、令妤の顔色が変わった。
衣装も振付も、自分が七娘と共に準備してきた演目と酷似していたのである。
会場はざわつき、令妤の努力が一瞬で無意味になる危機が訪れた。
しかし彼女は取り乱さなかった。
七娘を完全には信用していなかった令妤は、万一の場合に備えて別の演目を密かに準備していたのである。
急遽、周揚霊を呼び寄せると、二人は最後の確認を行う。
そして令妤は勝負に出た。
その頃、郊外では陸昀が王陽明を追っていた。
だが調査は敵の罠だった。
突然四方から矢が放たれ、陸昀は胸を射抜かれる。
鮮血が衣を染め、意識が遠のいていく。
王陽明は息も絶え絶えに、事件の核心へ繋がる重要な秘密を打ち明ける。そして高原が命懸けで陸昀を救出した。
しかし毒を受けた陸昀の視界は次第に霞み始める。
本来なら安静にすべき状態だった。
それでも陸昀はただ一つのことを考えていた。
――令妤の舞台を見届けたい。
高原に支えられながら、彼は花神祭の会場へ向かう。
そしてついに令妤の出番が訪れた。
彼女が披露したのは急遽変更した「錦鯉の舞」。
琉璃の腕輪が光を反射し、舞台上に幻想的な光の波紋を生み出していく。
まるで水中を優雅に泳ぐ錦鯉のような舞。
灯りと影が織りなす神秘的な世界に、観客たちは息を呑む。
その美しさは単なる舞踊を超え、一つの芸術作品へと昇華されていた。
大きな拍手が巻き起こり、会場は熱狂に包まれる。
ところが一次審査の結果は予想外に厳しいものだった。
令妤は諦めない。
自ら前へ進み出ると、この舞に込めた想い、苦労、そして夢について真摯に語る。
自分がなぜ花神祭に挑むのか。
なぜここまで努力を続けてきたのか。
その言葉は多くの人々の心を動かした。
その時だった。
会場後方から一人の男がよろめきながら現れる。
陸昀だった。
胸に傷を負い、視界もほとんど失っている。それでも彼は舞台へ向かい、令妤の隣へ立った。
「彼女は誰よりも努力してきた」
その一言が会場を静まり返らせる。
令妤は驚きと心配で言葉を失う。
だが陸昀は微笑みながら、彼女を信じていると告げる。
衡陽王が地位と権力で支えるなら、陸昀は命を懸けて彼女を支える。
その姿に、観客だけでなく令妤自身も胸を強く揺さぶられるのだった。
花神祭は佳境を迎え、恋模様もまた大きく動き始める。
衡陽王の一途な想い。
命懸けで駆け付けた陸昀の深い愛情。
そして二人の間で揺れ始める令妤の心。
さらに王陽明が残した秘密は、范家の陰謀を暴く大きな鍵となろうとしていた。
次回の見どころ
花神祭の結果はいよいよ最終局面へ。陸昀の命懸けの応援は令妤にどのような影響を与えるのか。そして衡陽王もまた令妤への想いを隠そうとしなくなり、二人の恋のライバル関係はさらに激化していく。一方で王陽明が語った秘密により、范家と軍中勢力を巡る陰謀が急展開。恋と権謀術数が交錯する中、令妤の運命を左右する重大な決断が迫る。次回も見逃せない。

















この記事へのコメントはありません。