この結婚は社内秘で

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この結婚は社内秘で 1話・2話・3話・4話 あらすじ

この結婚は社内秘で 2024年 全32話 原題:私藏浪漫

第1話 運命の再会――契約結婚への第一歩

27歳になった涂筱柠(トゥー・シャオニン)には、どうしても叶えたい人生の目標が二つあった。一つは銀行で正社員になること。そしてもう一つは結婚することだった。安定した仕事と家庭を手に入れることこそ、自分の人生を安心できるものにしてくれると信じていたのである。

そんな彼女は休日、大規模なお見合いイベントに参加していた。会場では参加者全員に番号付きの小さなクマのぬいぐるみが配られ、気になる相手が見つかったら二人でぬいぐるみを持って行き、大きなクマと交換できるという趣向が用意されていた。しかし現実は甘くない。次々と男性が彼女の前に座り自己紹介をするものの、どの相手にも心は動かなかった。

結婚したい気持ちはある。だが誰でもいいわけではない。条件だけではなく、一緒にいて心が安らぐ相手を求めていたのだ。

疲れを感じ始めた筱柠は、これ以上いても意味がないと思い席を立つ。そんな時、一人の男性が彼女の前に現れる。

それが紀昱恒(ジー・ユーホン)だった。

落ち着いた雰囲気を持つその男性は、彼女が席に置き忘れていた小さなクマを手にしていた。筱柠は最初こそ気付かなかったが、再び席に戻った時、その男性の顔を見て驚く。

高校時代の同級生だったのである。

長い年月が流れ、まさかこんな場所で再会するとは夢にも思っていなかった。しかも互いに銀行で働いているという共通点まであった。

運命のいたずらのような再会だった。

その後も筱柠は他の参加者との会話を続けるが、なぜか気持ちは上の空になる。そして帰ろうとした時、彼女の前に再び紀昱恒が現れた。

しかも彼の腕の中には大きなクマのぬいぐるみが抱えられていた。

筱柠は状況を理解できず呆然とする。紀昱恒は高校時代の彼女を覚えており、再会を偶然とは思っていないようだった。

こうして二人は連絡先を交換する。

筱柠は食事代をきっちり割り勘にし、彼へ送金する。恋愛に夢を見ながらも現実的な彼女らしい行動だった。

その帰り道、親友の凌惟依(リン・ウェイイー)から電話がかかってくる。興味津々でお見合いの結果を聞いてくる親友に、筱柠は高校時代の同級生と再会したことを話した。

ところがその直後、彼女の電動バイクが故障してしまう。

困っている彼女を見かねた紀昱恒は自然に送っていくと言い出した。

二人乗りではなく、車で家まで送り届けるだけの短い時間だったが、その空間には不思議な居心地の良さがあった。

しかし緊張していた筱柠は、親友とのメッセージのやり取りを誤って外部スピーカーで再生してしまう。

「頑張って!今度こそ幸せを掴むのよ!」

そんな励ましの声が車内に響き渡り、筱柠は恥ずかしさで顔を真っ赤にする。

紀昱恒は笑うこともなく、ただ静かに運転を続けた。

その大人の余裕が、逆に彼女の心を揺らした。

一方で親友は、もうすぐ元恋人の陸思靖(ルー・スージン)が戻ってくることを思い出させる。

筱柠の胸には今も忘れられない傷が残っていた。

かつて彼女は陸思靖との結婚を真剣に考えていた。誕生日にはサプライズパーティーまで準備し、自分からプロポーズしようとしていたほどだった。

しかし彼は現れなかった。

その出来事は彼女にとって大きな挫折となり、「結婚したいのに結婚できない」という不安を抱える原因となっていたのである。

そんな中、家族からも結婚への圧力がかかる。

弟の強い勧めで、母親は知人の甥を紹介してくれた。

まずは微信でやり取りしてみようと思った筱柠だったが、相手のプロフィールを見た瞬間に目を疑う。

紹介相手はなんと紀昱恒だったのだ。

偶然が重なりすぎている。

筱柠は思わず運命という言葉を意識してしまう。

その頃、銀行では彼女の日常が続いていた。

契約社員として窓口業務を担当し、毎日多くの顧客に対応する。真面目に働き続けて三年。誰よりも努力してきたという自負もあった。

しかし彼女が待ち望んでいた正社員登用の結果は無情なものだった。

名簿の中に自分の名前はなかった。

理由を聞きに行っても納得できる説明は得られない。

実力よりも人脈や後ろ盾が優先された現実を前に、筱柠は深く傷つく。

努力だけでは報われない。

その事実は、恋愛で味わった挫折と同じくらい彼女の心を苦しめた。

失望した筱柠は退職を決意し、本社で離職手続きを進めようとする。

そこで出会ったのが女性管理職の饶静(ラオ・ジン)だった。

饶静は厳格で妥協を許さない人物だったが、筱柠の受け答えの速さと仕事への姿勢を見抜く。

退職願を簡単には受理せず、様々な雑務を任せることで彼女の能力を試し始めた。

普通なら不満を抱く状況だったが、筱柠は諦めなかった。

むしろ饶静の下なら成長できるかもしれないと考え、一つひとつの仕事を誠実にこなしていく。

そんな頑張り屋な姿もまた、彼女の魅力だった。

そして物語の後半では、友人の結婚前のパーティーが開かれる。

新郎は紀昱恒の友人でもあった。

当初は参加を断っていた紀昱恒だったが、筱柠が参加すると知った瞬間に予定を変更し、誰よりも気合いを入れて会場へ向かう。

彼の心の中では、高校時代から続く想いが静かに動き始めていたのである。

パーティー会場では運命の再会が待っていた。

筱柠の元恋人・陸思靖が現れたのだ。

彼は花束を抱え、過去の過ちを謝罪する。

当時は結婚も子育ても考えられなかった。

だが今なら違う。

もう一度やり直したい。

そう訴える陸思靖だったが、筱柠の答えははっきりしていた。

かつて深く愛した相手だったからこそ、失った信頼は取り戻せない。

彼女は静かに別れを告げる。

その場には気まずい空気が流れた。

しかし次の瞬間、紀昱恒が一本の赤いバラを手にして現れる。

まるで彼女を守る騎士のように。

何も大げさなことは言わない。

ただ自然に筱柠の隣へ立っただけだった。

それだけで十分だった。

彼の存在が、過去に縛られそうになった彼女を救い出したのである。

高校時代には交わることのなかった二人の人生。

しかし今、運命は少しずつその距離を縮め始めていた。

仕事にも恋愛にも不安を抱える筱柠と、長い間彼女を見つめ続けてきた紀昱恒。

秘密の結婚へと続く甘いラブストーリーは、この再会をきっかけに静かに幕を開けるのだった。

 

第2話 突然のプロポーズ――二人が選んだ未来

友人の独身最後のパーティーで元恋人・陸思靖と再会した涂筱柠(トゥー・シャオニン)。長年心の奥に残っていたわだかまりと向き合い、彼から復縁を申し込まれたものの、その申し出をきっぱりと断った。かつては結婚まで考えた相手だったが、一番支えてほしい時にそばにいてくれなかった事実は消えない。過去に区切りをつけた筱柠の胸には、不思議な解放感が広がっていた。

その直後、まるで彼女を守るように紀昱恒(ジー・ユーホン)が現れる。彼が手にした一本のバラが、筱柠を気まずい状況から救い出した。さらに夜空には華やかな花火が打ち上がり、その光景はまるで二人の新たな始まりを祝福しているかのようだった。

陸思靖が去った後、筱柠はようやく本当の意味で過去を手放すことができた。自分が求めているのは、ただ恋愛感情に流される関係ではない。共に人生を歩み、安定した家庭を築ける相手なのだと改めて実感する。

帰り道、紀昱恒は車を運転しながら静かに彼女へ尋ねる。

「これからどうするつもり?」

筱柠は少し考えた末、「たぶんこれからもお見合いは続けると思う」と答える。すると紀昱恒は車を路肩に停め、真剣な表情で彼女を見つめた。

「もし君が安定した結婚生活を望んでいるなら、僕と結婚しないか?」

突然の言葉に筱柠は息をのむ。

それは衝動的な提案ではなかった。

紀昱恒は高校時代、初めて彼女を見た瞬間から特別な存在として心に刻んでいた。だが当時は何もできないまま卒業し、そのまま別々の人生を歩むことになる。しかし今回の再会で彼は決意した。高校時代のように何もせず後悔したくない。だからこそ、自分の気持ちに正直になったのである。

一方の筱柠は、あまりにも突然の話に答えを出せず戸惑うばかりだった。

翌日、出勤した彼女はエレベーターで偶然紀昱恒と再会する。しかしそのタイミングでエレベーターが停止するというハプニングが発生した。

閉ざされた空間の中、紀昱恒が「考えてくれた?」と問いかけようとした瞬間、筱柠は慌てて答える。

「まだ答えは出てません!」

先回りして弁解する彼女の様子に、紀昱恒は思わず苦笑する。緊張している筱柠がどこか可愛らしく見えていた。

そんな恋愛模様とは別に、職場では厳しい現実が待っていた。

饶静(ラオ・ジン)から会議室へ呼び出された筱柠は、自分が上司のミスの責任を負わされそうになっていることを知る。普通なら泣き寝入りするしかない状況だったが、筱柠は違った。

「私は納得できません。必ず証拠を探します。」

そう宣言する彼女の姿に、饶静は密かに満足していた。実は今回の件も彼女を鍛えるための試練だったのである。

その後、筱柠は偶然、紀昱恒が他の社員と話している場面を耳にする。話題は派遣社員についてだった。

多くの人が派遣社員を軽視する中、紀昱恒ははっきりと言った。

「派遣か正社員かは関係ない。仕事をきちんとする人が評価されるべきだ。」

その言葉は筱柠の胸に深く響く。

自分がずっと求めていたのは、こうした公平な考え方だった。恋愛感情とは別に、一人の社会人として彼を尊敬する気持ちが芽生えていく。

そんなある日、残業を終えて会社を出ると外は土砂降りだった。

タクシーは捕まらず、傘も役に立たない。

ずぶ濡れになりながら歩く筱柠は、かつて働いていた営業所の前で足を止める。正社員になれなかった悔しさ、認めてもらえなかった悲しさ、将来への不安――。

様々な感情が一気に押し寄せる。

誰かに話したい。

母親に電話をかけても繋がらない。

風で傘は飛ばされ、ついに彼女は道路脇でしゃがみ込み涙を流してしまう。

そんな彼女の前に現れたのが紀昱恒だった。

彼は何も聞かない。

ただ静かに傘を差し出し、濡れた彼女を見つめる。

その優しさに筱柠の涙はさらに溢れた。

紀昱恒は彼女を山の展望台へ連れて行く。

夜景を見下ろしながら、筱柠は今まで抱えてきた苦しみを少しずつ打ち明けた。

努力しても報われないこと。

将来が不安なこと。

誰かと家庭を築きたいこと。

その全てを聞いた紀昱恒は、ただ静かに寄り添う。

そしてその夜、筱柠は改めて言う。

「結婚のこと、真剣に考えてみる。」

恋愛の盛り上がりではなく、人生のパートナーとして彼を見始めていた。

その後も彼女は職場での問題解決に全力を注ぐ。

証拠を集め続け、最後にはコンプライアンス部門へ提出する。そこで待っていたのは紀昱恒だった。

厳しい質問が次々と飛ぶ中、筱柠は一つひとつ誠実に答える。

最後に紀昱恒が核心を突く質問を投げかけるが、彼女は見事に回答することができた。

結果として処分は見送られ、潔白が証明される。

表面上は冷静な饶静だったが、内心では自分の見込みが正しかったことを喜んでいた。

一方で筱柠は、この一件を通じてさらに成長していた。

後日、彼女は親友の凌惟依に紀昱恒からプロポーズされたことを打ち明ける。

凌惟依は大喜びだった。

「すごくお似合いじゃない!」

その言葉に筱柠も少しずつ前向きになっていく。

そんな中、饶静とともに病院で顧客対応をすることになった筱柠は、偶然そこで紀昱恒と再会する。

好奇心から後を追うと、病室で彼の母親と鉢合わせしてしまう。

紀母は当然のように彼女を息子の恋人だと思い込み、大歓迎する。

否定しようとした筱柠だったが、病弱な母親を前に言葉を飲み込む。

しかしその直後、紀母の容体が急変する。

慌ただしく医師たちが駆け込み、緊急処置が行われる。

そこで筱柠は衝撃の事実を知る。

紀母は乳がん末期だったのだ。

治療には莫大な費用が必要であり、医師も余命を保証できない状況だった。

なぜ紀昱恒が結婚を急いでいたのか。

なぜあれほど真剣だったのか。

その理由がようやく理解できた。

彼は母親に安心してもらいたかったのだ。

病室を出た後、筱柠は仕事のため一度病院を離れる。しかし心の中では紀昱恒のことが気になって仕方なかった。

実は紀母も以前から息子の口を通して筱柠の名前を何度も聞いていた。

紀昱恒にとって彼女は、高校時代からずっと特別な存在だったのである。

仕事を終えた筱柠は帰らずに病院の近くで待っていた。

やがて現れた紀昱恒を連れ出し、小さな屋台街へ向かう。

二人は肩を並べて食事をし、学生時代を思い出すような穏やかな時間を過ごす。

その後、大学のグラウンドへ移動した二人は夜風に吹かれながら語り合う。

「どうして私だったの?」

筱柠はずっと気になっていた疑問をぶつける。

紀昱恒は少し微笑みながら答えた。

「君といると自然なんだ。同じ方向を向いている気がする。」

派手な愛の告白ではない。

だがその言葉には長年積み重ねてきた想いが込められていた。

筱柠は静かに彼を見つめる。

そしてついに決意する。

「私、決めた。あなたと結婚する。」

こうして二人は恋愛よりも先に結婚を選ぶことになる。

だがそれは打算だけではない。

互いを信頼し、人生を共に歩めると感じたからこその選択だった。

運命の再会から始まった二人の物語は、ついに新たな段階へ進もうとしていた。秘密の結婚生活の幕開けは、もうすぐそこまで来ていたのである。

 

第3話 秘密の夫婦生活の始まり――近づく二人の距離

紀昱恒(ジー・ユーホン)からの突然のプロポーズを受け入れた涂筱柠(トゥー・シャオニン)は、ついに人生の大きな決断を下す。恋愛を十分に重ねた末の結婚ではない。それでも彼となら安心して人生を歩める――そう感じたからこその選択だった。

その日のうちに筱柠は紀昱恒を実家へ連れて行き、両親に結婚の意思を伝える。

突然の報告に両親は驚くものの、頭ごなしに反対はしなかった。ただ一つだけ心配だったのは、二人に十分な感情の土台があるのかということだった。

「結婚は勢いだけじゃ続かないのよ」

母親の言葉はもっともだった。

しかしそこで筱柠は咄嗟に大きな嘘を口にする。

「私、高校の頃から紀昱恒のことを十年間ずっと好きだったの」

予想外の発言に紀昱恒は思わず吹き出しそうになる。

もちろんそれは筱柠の作り話だった。

だが紀昱恒にとっては複雑な気持ちでもあった。

なぜなら本当に十年以上彼女を想い続けてきたのは、自分の方だったからだ。

それでも彼は何も言わず話を合わせる。

二人の息の合ったやり取りに両親も安心し、最終的には結婚を認めてくれた。

こうして二人は正式に家族公認の関係となる。

翌日、二人は仕事の合間を利用して婚姻届を提出しようと民政局へ向かった。

ところがここで思わぬ問題が発生する。

結婚証明書用の写真を準備していなかったのだ。

慌てて写真館へ向かう二人だったが、緊張のせいか撮影はなかなかうまくいかない。

距離感も表情もぎこちない。

カメラマンから何度も撮り直しを求められる。

そんな中、紀昱恒はふとある提案をする。

「銀行の証明写真を撮るつもりでいいんじゃない?」

その一言で筱柠の緊張は少しほぐれた。

ようやく自然な表情で撮影を終えたものの、民政局へ戻った時にはすでに受付終了の時間になっていた。

あと少しだった。

二人は結局その日、婚姻届を提出することができなかった。

しかし帰宅するとさらに大きな試練が待っていた。

筱柠の実家には親戚たちが集まり、結婚のお祝いムード一色になっていたのである。

今さら「実はまだ籍を入れていません」とは言えない。

両親も親戚もすっかり二人を新婚夫婦として迎えていた。

そんな中、紀昱恒は自然に「お父さん」「お母さん」と呼び始める。

その順応の早さに筱柠は驚く。

父親は嬉しそうに大きなご祝儀を渡しながら、夫婦円満の秘訣を語り始める。

「家庭では勝とうとするな。負けるが勝ちだ。」

母親もすっかり紀昱恒を気に入り、息子のように接していた。

温かな家族の雰囲気の中で、筱柠は不思議な安心感を覚える。

帰り際、彼女は今日一日協力してくれたことへの感謝を伝える。

しかしまだ心の中では、夫婦になったという実感が追いついていなかった。

そんな彼女の気持ちを察した紀昱恒は無理に距離を縮めようとはしない。

「ゆっくり慣れればいい」

そう言い残し、一人で帰宅する。

その夜、紀昱恒は筱柠の部屋の灯りがつくまで車の中で見守っていた。

彼女が無事に部屋へ入ったことを確認してからようやく車を発進させる。

誰にも気付かれない優しさだった。

帰宅した紀昱恒は、昼間に撮影した結婚写真を眺める。

それは二人にとって初めての正式なツーショット写真だった。

高校時代には想像もできなかった未来が、少しずつ現実になろうとしている。

一方、職場では新たな課題が待っていた。

饶静(ラオ・ジン)は筱柠を重要な顧客との会食へ同行させることを決める。

経験を積ませるためだった。

その日の夜、本来なら紀昱恒と食事をする約束があったが、筱柠は仕事を優先して断る。

偶然エレベーターで会った紀昱恒は表面上平静を装うものの、どこか不機嫌だった。

彼女と食事をしたかったのだ。

しかし立場上、それを素直に言えない。

その様子が少しだけ子供っぽく見え、筱柠は内心可笑しくなる。

会食当日、筱柠は徹底的に顧客について調査していた。

好みや性格、趣味まで細かく把握している。

饶静も彼女の準備の良さに感心する。

会食では巧みに情報を引き出し、相手の警戒心を解いていく。

その働きぶりは見事だった。

途中、饶静は洗面所で彼女に職場で生き残るための心得を語る。

「能力だけじゃダメ。相手の考えを読む力も必要よ」

筱柠は真剣に耳を傾ける。

尊敬できる上司から学べることが嬉しかった。

だが問題はその後だった。

自信満々に「私、お酒強いんです」と言っていた筱柠だったが、実際にはかなり弱かったのである。

会食が終わる頃にはすっかり酔い潰れていた。

代行運転も見つからず困っていた饶静の前に現れたのが紀昱恒だった。

まるで最初から見守っていたかのようなタイミングだった。

筱柠は彼を見るなり迷うことなく車へ乗り込む。

完全に酔っている。

車内では意味の分からない独り言を呟き続け、紀昱恒は思わず笑ってしまう。

普段のしっかり者の姿とのギャップがあまりにも大きかった。

家に到着したものの、さらに問題が起こる。

筱柠が鍵を車内に落としてしまったのだ。

両親に連絡すると、二人とも田舎へ出掛けていて帰宅できないという。

仕方なく紀昱恒は彼女を自宅へ連れて帰る。

これが二人にとって初めて同じ家で過ごす夜となった。

酔った筱柠はベッドに横になると、ぼんやりした目で紀昱恒を見つめる。

そして突然顔を近づけた。

「いい匂いがする……」

予想外の行動に紀昱恒の心拍数は一気に上がる。

さらに彼女は無意識のまま彼の腕を掴み、自分の方へ引き寄せる。

「紀昱恒って本当にかっこいいよね……」

思わず息を飲む紀昱恒。

十年以上想い続けてきた女性が目の前にいる。

しかも自分を抱き寄せている。

キスしたい。

抱き締めたい。

そんな感情が一瞬で溢れ出す。

しかし彼は理性でそれを押し留める。

今はまだ彼女の気持ちが追いついていない。

だからこそ待つべきだと考えた。

紀昱恒はそっと彼女の手を外し、布団を掛ける。

そして自分は書斎で一夜を明かした。

翌朝。

紀昱恒は彼女が起きる前に水を用意し、静かに部屋へ置いていく。

まるで本当の夫のような気遣いだった。

目覚めた筱柠は見知らぬ天井を見上げて混乱する。

さらに自分がパジャマ姿であることに気付き大慌てになる。

ようやく昨夜の出来事を思い出し、ここが紀昱恒の家だと理解した。

そんな彼女に紀昱恒は家の鍵を渡す。

それは単なる鍵ではない。

自分の生活の一部へ入ることを許した証だった。

会社では相変わらず二人の関係は秘密である。

社員食堂で顔を合わせても、まるで他人のように振る舞わなければならない。

夫婦なのに他人のふりをする。

そんな奇妙な関係が少しずつ始まっていた。

そして物語の最後には、筱柠が知らないもう一つの真実が明かされる。

実は結婚を認めてもらうため、紀昱恒は事前に彼女の両親へ会っていた。

自分の資産状況を全て見せ、将来設計も説明していたのである。

さらに高校時代、人生で最も苦しかった時期に筱柠の何気ない言葉に救われたことも語っていた。

だが、その想いを本人にはまだ伝えていない。

十年以上抱き続けてきた恋心。

それこそが紀昱恒が結婚を望んだ本当の理由だった。

しかし筱柠はまだ知らない。

自分が思っている以上に、彼から深く愛されているということを――。

秘密の結婚生活は始まったばかりだった。

 

第4話 秘密の夫婦と新任部長――すれ違いの先にある想い

結婚を決意しながらも、まだ正式な婚姻届は提出していない涂筱柠(トゥー・シャオニン)と紀昱恒(ジー・ユーホン)。しかし二人の関係はすでに恋人以上の特別なものになりつつあった。

会社では誰にも知られてはいけない秘密の関係。

家では将来を約束した相手。

そんな不思議な距離感の中で、二人の毎日は少しずつ変化していく。

昼休み、社員食堂へ向かった筱柠は思わず紀昱恒の姿を探してしまう。本当なら隣に座って食事をしたい。しかし周囲には同僚たちがいるため、そういうわけにはいかない。

結局、彼女は少し離れた席へ座ることになる。

それでも時折視線が交わるだけで心が温かくなる。

同じ空間にいて、同じ時間を過ごしている。

ただそれだけのことが嬉しかった。

仕事が終わると二人は待ち合わせをして一緒にスーパーへ向かう。

夫婦のような買い物だった。

食器を選ぶ時も、日用品を選ぶ時も、紀昱恒は自然と筱柠の好みを優先する。

「こっちの色が好きじゃない?」

そう言いながら彼女の好きな色の商品を手に取る。

筱柠は驚く。

自分でも気付かないような細かな好みまで彼は覚えているのだ。

紀昱恒にとって彼女を思いやることは特別なことではない。

十年以上見つめ続けてきた女性だからこそ、自然にできることだった。

そんな何気ない優しさに、筱柠の心は少しずつ溶かされていく。

だが翌朝になると現実が待っている。

二人は同じ車で出勤するものの、会社の近くでは必ず別行動を取らなければならない。

噂好きな同僚たちに知られれば面倒なことになるからだ。

筱柠は会社の少し手前で車を降り、一人で歩いて出勤する。

その姿はまるで秘密の恋人同士だった。

そんな中、銀行では大きな人事異動の噂が流れていた。

空席となった拓展一部の部長職に誰が就任するのか。

社員たちは朝からその話題で持ちきりだった。

筱柠も同僚たちと一緒になって噂話をしていたが、その時はまさか自分に関係する人物だとは思っていない。

会議室では上層部による重要な話し合いが行われていた。

一方で拓展二部は相変わらず一部との統合を狙っており、表向きは友好的な態度を見せながらも裏では駆け引きを続けている。

饶静(ラオ・ジン)も趙経理もそれを警戒していた。

そしてついに会議室の扉が開く。

新任部長として現れた人物を見て、全員が驚いた。

それは紀昱恒だった。

社員たちは騒然となる。

「若すぎるだろう」

「経験不足じゃないか」

「コネ人事だ」

不満の声が次々と上がる。

筱柠はその場にいたが、何も言うことができない。

本当なら彼の能力を知っている。

しかし関係を隠している以上、擁護することもできなかった。

昼休みになり、彼女はこっそり紀昱恒へメッセージを送る。

励ましの言葉を伝えたかったのだ。

ところが彼は新任部長として次々と仕事を任され、ゆっくり返信する時間もない。

夜に約束していた食事もキャンセルになってしまう。

筱柠は少し寂しさを感じる。

その一方で同僚たちは盛り上がっていた。

「新しい部長、すごくイケメンだよね」

「独身かな?」

そんな話題ばかりが飛び交う。

筱柠は苦笑いするしかない。

目の前で自分の未来の夫が褒められているのだから複雑な気持ちになる。

その日の夜、筱柠は実家で夕食を取る予定だった。

ところが家へ帰ると驚く光景が広がっていた。

キッチンには紀昱恒がいる。

しかも大量の料理を作っていた。

テーブルいっぱいに並べられた料理はどれも本格的だった。

筱柠は驚きながらも素直になれない。

「どうしてここにいるの?」

つい冷たい口調になってしまう。

さらに料理の味にわざと文句をつけたりもする。

しかし紀昱恒は怒らない。

むしろ彼女の皿に料理を取り分けてやる。

その優しさに両親は微笑ましそうに見守っていた。

母親はすぐに異変に気付く。

「二人、何かあったの?」

図星だった。

実は筱柠には大きな悩みがあった。

もし正式に結婚してしまえば社内恋愛になる。

同じ部署になればさらに問題は大きくなる。

彼女は真剣に考えた末、「別れた方がいいかもしれない」と思い始めていたのだ。

両親には聞かれたくない話だったため、彼女は慌てて話題を変える。

だがその直後、思わぬ事件が起こる。

魚を食べていた筱柠が魚の骨を喉に刺してしまったのである。

苦しそうな彼女を見た紀昱恒は顔色を変える。

慌てて病院へ連れて行き、医師の診察を受けさせる。

本人よりも彼の方が焦っているほどだった。

無事に骨は取り除かれたが、看護師は微笑みながら言った。

「ご主人、とても心配していましたよ。」

その言葉に二人は思わず顔を見合わせる。

まだ正式には夫婦ではない。

しかしその瞬間だけは本当の夫婦のように見えた。

帰り道、車内で紀昱恒は胸の内を明かす。

行長から拓展一部を立て直してほしいと依頼されたこと。

業績を回復させなければならないこと。

そして何より母親の治療費が必要なこと。

乳がん末期の母親を支えるためには高額な分子標的薬が欠かせない。

だからこそ彼は挑戦しようとしていた。

「本当に引き受けるべきか迷っている。」

そう打ち明ける紀昱恒。

彼はいつも完璧に見えるが、本当は不安も抱えている。

筱柠はそんな彼の弱さを初めて知る。

そして自分の意見を求められたことも嬉しかった。

しかし彼女はすぐに答えを出せなかった。

「少し時間を置こう。」

そう提案する。

お互い冷静に考える時間が必要だと思ったのだ。

その頃、紀昱恒はこっそり彼女のSNSを見ていた。

筱柠が落ち込んでいることも知っている。

そんな中、かつての恩師から連絡が入る。

しかし彼は断った。

本来なら自分の将来に大きく関わる話だったが、今は筱柠を優先したかったからだ。

偶然その会話を聞いた筱柠は胸が痛くなる。

自分のために彼が何かを諦めることは望んでいない。

翌朝、彼女は自分から伝える。

「私のことは気にしなくていい。拓展一部へ行って。」

その言葉を聞いた紀昱恒は少し驚く。

そして二人は一つの約束を交わす。

結婚は前提として続ける。

しかし婚姻届はしばらく保留。

お互い仕事で結果を出すことを優先する。

まるで「対赌契約」のような約束だった。

こうして紀昱恒は正式に拓展一部の部長として着任する。

会社では上司と部下。

家では将来の伴侶。

二人はその境界線を守りながら生活することになった。

初めての部門会議の日。

筱柠はあることに気付いて青ざめる。

なんと紀昱恒と社員証を取り違えてしまっていたのだ。

慌てる彼女とは対照的に、紀昱恒は冷静だった。

会議では自己紹介を行うが、趙方剛は最初から反抗的な態度を取る。

歓迎会の誘いも拒否し、周囲を巻き込んで反発する。

明らかな下馬評だった。

しかし紀昱恒は感情的にならない。

淡々と全員の履歴書を確認し、人材分析を進めていく。

その中で筱柠の履歴書だけは少し長く眺めてしまう。

もちろん誰にも気付かれないように。

昼休みになると二人は社員食堂で向かい合う。

誰も見ていない隙を狙い、テーブルの下で社員証を交換する。

まるでスパイ映画の秘密取引のようだった。

そして交換が終わる頃、筱柠の前には温かいコーヒーが置かれていた。

紀昱恒が注文していたのだ。

何も言わない。

特別な視線も送らない。

だがコーヒーの温もりには、誰よりも深い愛情が込められていた。

秘密の関係だからこそ伝えられる優しさ。

すれ違いながらも互いを想い合う二人の距離は、少しずつ確実に近づいていくのだった。

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この結婚は社内秘で 各話あらすじ キャスト・相関図

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