春花焔~Kill Me Love Me~

春花焔~Kill Me Love Me~

春花焔~Kill Me Love Me~ 5話・6話・7話・8話 あらすじ

春花焔~Kill Me Love Me~ 2024年 全32話 原題:春花焰

第5話 偽りの証と揺れる心

【第5話の見どころ】
青州虐殺の真相を覆す「偽の令牌」が事件の核心へと迫る一方、幻覚に苦しむ眉林を献身的に看病する慕容璟和の姿が描かれる。敵として出会った二人の距離が少しずつ変化し始める重要な転機となる一話。


眉林が命懸けで託した証拠を手にした慕容璟和は、その真偽を慎重に確かめていた。

並べられた二枚の令牌を見比べると、一見まったく同じに見えるものの、細かな彫りや細工には明らかな違いがあった。

「やはり偽物だったか……。」

慕容璟和は静かにつぶやく。

隣で見守っていた清宴も驚きを隠せない。これまで眉林が命を懸けて訴えてきたことは、すべて妄想でも思い込みでもなかったのである。

十年前、青州で起きた惨劇。その証拠として残された令牌は何者かによってすり替えられていた。

つまり、事件の裏では周到な隠蔽工作が行われていたということだった。

慕容璟和はさらに考えを巡らせる。

偽の令牌だけではない。当時軍事司に関わっていた者たちをたどれば、東宮へつながる決定的な証拠が見つかる可能性がある。

これまで点だった情報が、ようやく一本の線となって結びつき始めていた。

その言葉を聞き、清宴はようやくすべてを理解する。

なぜ王爺が計画を中断し、危険を冒してまで眉林を救ったのか。

それは彼女自身を助けるためではなく、青州事件の真相へ近づく唯一の鍵だったからである。


一方で、慕容璟和自身も重傷を負っていた。

眉林に刺された傷は決して浅くなく、無理をすれば命にも関わる状態だった。

しかし彼は傷を気にする様子もなく、すでに次の一手を考えていた。

「太子は必ず張印を切り捨てる。」

慕容玄烈ほど慎重な人物なら、自らへ疑いが及ぶ前に部下を犠牲にするはずだ。

長い年月をかけて仕掛けてきた離間の策は、ついに実を結ぼうとしていた。

あとは張印と東宮が互いを疑い始めるのを待てばいい。

敵同士が争えば、自分は何もせずとも真実へ近づける。

慕容璟和は静かに命じる。

「張印を片時も見失うな。」

清宴はすぐさま配下へ指示を飛ばした。


その頃、都へ殷落梅が戻ってくる。

彼女はかつて慕容璟和とともに戦場を駆け抜けた武将であり、長年にわたり密かな想いを寄せ続けていた女性でもあった。

帰京すると早速、身体を気遣うため数々の薬材や贈り物を景王府へ届ける。

しかし慕容璟和はそれらを淡々と倉庫へしまうよう命じるだけだった。

喜ぶ様子も感謝の言葉もない。

さらに「殷将軍が来たら知らせろ」とだけ伝える。

その反応に清宴は首をかしげる。

昔の主なら決してこんな態度は取らなかったはずだった。


殷落梅もまた胸を痛めていた。

毎年欠かさず贈り物を送り続けても、一度として返礼を受けたことはない。

侍女の絳屠はその扱いを悔しがるが、殷落梅は静かに制した。

「そんな話はしないで。」

それでも心のどこかでは期待していた。

外から贈り物が届いたと聞いた瞬間、「景王からの返礼かもしれない」と胸を躍らせる。

しかし届いた品は太子からだった。

その事実に、彼女は思わず表情を曇らせる。

表向きは「かつての戦友として彼を立ち直らせたい」と語る殷落梅だったが、その胸には今なお消えない恋心が残っていた。


やがて慕容璟和は自ら殷落梅を訪ねる。

その姿を見た殷落梅は安堵する。

「やはりあなたは、このまま終わる人ではなかった。」

しかし慕容璟和の態度はどこまでもよそよそしい。

礼儀正しく接するものの、そこには昔の親しさはなかった。

かつて理想を語り合い、国の未来を夢見た青年はもういない。

殷落梅は変わってしまった彼を見て、悔しさと悲しさを募らせる。

慕容璟和は静かに語る。

「私の心の傷はもう癒えない。」

「あの頃の正義を信じる私は、青州で死んだ。」

そして彼は殷落梅へ、これまで受け取ってきた贈り物への返礼を差し出す。

それは二人の距離をさらに遠ざけるような、どこか寂しい贈り物だった。


一方、眉林は密かに張印の後を追っていた。

尾行の末、彼が首筋に奇妙な刺青を持つ女性と密会している場面を目撃する。

そこで交わされていたのは、墨脈死士に関する取引だった。

さらに眉林は衝撃の事実を知る。

あの死士たちは太子が秘密裏に育てていた兵だったのである。

長年探し続けてきた真実が、ついに目の前へ現れた。

怒りを抑えきれなくなった眉林は飛び出し、張印を討とうとする。

しかしその瞬間、何者かが火を放つ。

建物は一気に炎に包まれ、死士たちは次々と口封じのため殺されていく。

崩れ落ちる建物の中、眉林も瓦礫の下敷きになってしまう。

必死に木箱を押しのけ脱出を図るが、屋根は音を立てて崩壊する。

そのまま落下した彼女を受け止めたのは――慕容璟和だった。

彼は迷うことなく腕を伸ばし、眉林を抱き留める。

敵であるはずの男が、再び彼女の命を救ったのである。


一方、子顧公主は依然として皇帝への輿入れを受け入れられずにいた。

皇帝と対面した彼女は、密かに懐へ短剣を忍ばせていた。

その覚悟を皇帝は見抜いていた。

しかし彼は怒ることも責めることもしない。

「お前にその勇気はない。」

そう穏やかに告げると、和平のために婚姻を望んでいるだけであり、無理強いするつもりはないと語る。

そして彼は子顧の指先を小さく傷つけ、その血を布へ移すと静かに立ち去る。

予想外の寛大さに触れた子顧は、皇帝への恐怖を少しだけ和らげていくのだった。


救出された眉林は、暗廠で長年飲まされ続けた毒の影響で激しい幻覚に苦しんでいた。

意識は朦朧とし、目の前にいる慕容璟和さえ判別できない。

彼女は突然慕容璟和へ抱きつき、まるで子どものように彼へ噛みつく。

さらに幻覚の中で、「暗廠の主人こそ真犯人だ」と意味深な言葉を口にすると、そのまま意識を失ってしまう。

目を覚ました後も症状は続いていた。

操り人形のような表情で慕容璟和の前へ跪き、「主人」と呼んで命令を待つ。

飛んできた暗器さえ無意識にかわしてしまうほど、身体には暗殺者としての習性が染み付いていた。

やがて再び慕容璟和へ噛みついた眉林は、涙を流しながら幼い子どものようにつぶやく。

「毎日叩かれた……。」

「痛くても何も感じなくなった……。」

暗廠で受け続けた虐待の日々。

家族を失ってから歩んできた過酷な人生。

その苦しみを知った慕容璟和の胸には、初めて深い同情が芽生える。

彼は暴れる眉林を責めることなく、毛筆をゆっくり揺らして彼女の視線を誘導し、子どもを寝かしつけるように静かに寝台へ導くのだった。


その後、太医から衝撃的な報告が届く。

これまで眉林へ与えられていた解毒薬は、本当の解毒薬ではなかった。

このまま飲み続ければ毒は消えるどころか体内へ蓄積し、やがて突然命を落とす危険があるという。

一方、慕容玄烈はすべてが思惑通りに進んでいると思い込み、各地で善政を行いながら人望を集め始める。

だがその足元では、青州事件の真実が少しずつ姿を現そうとしていた。


越秦は皇帝と囲碁を打ちながら、西焉への帰国を促される。

しかし彼は眉林を置いて帰ることができない。

「もう少しだけ都へ残りたい。」

その願いを聞いた皇帝は、子顧公主へ兄との面会を許すのだった。

そして目を覚ました眉林は、自分の手に握られている一本の毛筆を見つめ、不思議そうに首をかしげる。

毒が和らいでいることにも気づき、喜びを隠せない。

しかし彼女の心から消えない疑問があった。

眉林は慕容璟和を真っすぐ見つめる。

「十年前、青州で本当に何があったの?」

その問いに、慕容璟和は静かに眉を寄せる。

長年封じ込めてきた真実が、いよいよ語られようとしていた。

 

第6話 復讐を誓う刃、動き始める真相

【第6話の見どころ】
慕容璟和と眉林がついに手を組み、青州事件の真相を追う共同戦線が始まる。一方で越秦の一途な想いと太子・慕容玄烈の冷酷な本性も浮き彫りとなり、それぞれの思惑が複雑に交差していく。


青州事件の真相を追い始めた慕容璟和だったが、その胸には今なお消えることのない後悔が残っていた。

十年前、自分がもっと早く決断できていれば、多くの威北軍の兵たちは命を落とさずに済んだかもしれない。

彼らは国を守るために戦った忠義の将兵だった。

それにもかかわらず、真実は闇へ葬られ、彼らは反逆者のような汚名まで着せられてしまった。

その事実が、慕容璟和を今なお苦しめ続けていた。

そんな彼に対し、眉林は静かに語りかける。

「私も分かっています。本当の敵はあなたではありません。」

令牌の真実を知った今、彼女もまた復讐すべき相手が別にいることを理解していた。

「私は生き延びました。だからこそ、本当の仇を討つ資格があります。」

その強い決意を聞いた慕容璟和は、一瞬だけ表情を曇らせる。

医師から告げられた言葉が頭をよぎったからだった。

眉林に残された命は、長くてもあと一年。

たとえ解毒薬の完成に成功したとしても、それまで彼女が生きられる保証はない。

だからこそ彼は距離を置こうとする。

「私は仲間など必要ない。」

あえて冷たく言い放つ慕容璟和。

しかし眉林は諦めない。

張印の隠れ家を知っていること、自分には協力できることがあると必死に訴える。

だが慕容璟和は首を横に振る。

「私に必要なのは、一振りの刃だけだ。」

「命じれば迷わず人を斬る刃だ。」

その言葉に眉林は真っすぐ答える。

「私の刃は青州の仇だけを斬ります。」

「罪のない人は殺しません。」

暗殺者として育てられながらも、彼女には決して譲れない信念が残っていた。


その時、景王府へ越秦が姿を現す。

彼が眉林を迎えに来たことを察した慕容璟和は、それ以上話を続けようとはしなかった。

しかし胸の奥には説明のつかない苛立ちが生まれる。

「何をしに来た。」

鋭い視線を向ける慕容璟和に対し、越秦は穏やかに答える。

「眉林へ学問を教えに来ました。」

その言葉に慕容璟和は思わず笑みを浮かべる。

「私が彼女を困らせているとでも?」

そして眉林へ問いかける。

「お前は誰と行く。」

越秦は当然、自分の名が呼ばれると思っていた。

しかし眉林の答えは意外なものだった。

「私は景王についていきます。」

越秦は耳を疑う。

慕容璟和に脅されているのではないかと考えるが、慕容璟和は肩をすくめる。

「私は何も言っていない。」

「彼女が自分で決めた。」

納得できないまま越秦は景王府を後にする。

その背中を見送りながら、慕容璟和は複雑な表情を浮かべていた。

越秦と手を組めば、眉林はさらに危険へ巻き込まれる。

そう考えていたのである。


だが眉林はその後の言葉に思わず笑顔になる。

「今日からお前は私と動く。」

慕容璟和は正式に協力を認めたのだった。

もっとも、最初の仕事は意外なものだった。

「越秦とのことを全部話せ。」

どこで出会い、どんな会話を交わしたのか。

細かなことまで一つ残らず報告するよう命じる。

眉林は苦笑しながら答える。

「越秦様は本当に優しい方です。」

しかし慕容璟和は即座に否定する。

「本当に善人など、この世にはいない。」

その言葉には、自身が何度も人を信じて裏切られてきた経験がにじんでいた。

眉林はふと気づく。

牢から救い出してくれたのも、陰で自分を助け続けてくれたのも、結局は慕容璟和だったのではないか、と。

すると彼は照れ隠しのように言う。

「これからは善人には近づくな。」

その一言に、眉林は思わず微笑むのだった。


一方、越秦は妹・子顧公主と再会していた。

子顧は兄と眉林の関係を誤解していたが、越秦は慌てて説明する。

「彼女は私の命の恩人だ。」

その言葉を聞いた子顧はようやく事情を理解する。

そして兄が密かに眉林へ想いを寄せていることにも気づいてしまう。

兄を応援したいと申し出る子顧だったが、越秦は静かに首を振る。

「無理に振り向いてもらうつもりはない。」

ただ彼女を安全な場所へ連れ出したい。

それだけだった。

しかし書墨は複雑な表情を浮かべる。

眉林は越秦にふさわしい相手ではない。

彼女はあまりにも危険な運命を背負っている。

そう案じていたのである。


その後、慕容璟和は眉林を訪ねる。

すると彼女は真冬にもかかわらず冷水へ浸かっていた。

毒の苦しみを紛らわせるためだった。

慕容璟和は張印の潜伏先を何度も調べたことを伝える。

しかし何一つ証拠は見つからなかった。

「あれは幻覚だったのかもしれない。」

そう結論づけようとするが、眉林は首を振る。

「あの女は確かにいました。」

彼女はあの日見た首筋の刺青を忘れてはいなかった。

さらに慕容璟和から問いかけられるうちに、火災現場での出来事を少しずつ思い出していく。

あれは決して夢ではない。

眉林はそう確信するのだった。


宮中では、皇帝が慕容璟和へ苦言を呈していた。

殷落梅をあまりにも冷たく扱っているというのである。

ちょうどその場へ慕容玄烈も現れると、慕容璟和は話題を兄へ押しつける。

その結果、張印についての追及も巧みにかわされてしまった。

皇帝は兄弟二人へ命じる。

「栄安店を視察してこい。」

二人は並んで宮殿を歩くことになる。

道中、慕容玄烈は亡き皇后との思い出を懐かしそうに語り始める。

だが慕容璟和には、その姿が芝居にしか見えなかった。

「よくそんな演技ができるな。」

冷たく言い放つ弟に、慕容玄烈もついに仮面を脱ぎ捨てる。

そして最も触れられたくない傷をえぐる。

「母上を死なせたのは誰だった?」

その一言が慕容璟和の怒りを呼び起こす。

さらに慕容玄烈は、自分の罪を知る者はすべて消すつもりだと暗に語る。

兄弟の対立は、もはや修復できないところまで来ていた。


一方、眉林は秀女たちの中から首に傷跡のある女性を探し続けていた。

しかし該当する人物は見つからない。

代わりに彼女は奇妙なことへ気づく。

誰もが青州事件の絵を見て、慕容璟和だけを責めているのだ。

その様子を見た慕容璟和は、自らも亡き母に責められているような気持ちになる。

罪悪感は今も彼を苦しめ続けていた。

そんな中、一人の少女の腕にある傷跡が眉林の目に留まる。

違和感を覚えた彼女は、その少女から受け取った薬を慕容璟和へ見せる。

調べた結果、探している人物は女性ではなく男である可能性が浮上する。

そこで慕容璟和は大胆な策を思いつく。

「多くの者の腕に同じ傷を作ればいい。」

そうすれば東宮の間者も正体を隠せなくなる。


しかしその矢先、新たな悲劇が起きる。

秀女の一人・阿戴が突然命を落としたのである。

眉林はその亡骸を前に愕然とする。

明るく笑っていた少女が、突然死ぬはずがない。

「これは事故じゃない。」

「誰かに殺されたんです。」

眉林はそう確信する。

調べを進めるうち、阿戴を殺したのは教育係の嬷嬷であることを突き止める。

さらに嬷嬷たちが必死に探しているのも、腕が腐敗した傷を持つ人物だと気づく。

敵はこちらの動きを察知している。

ならば先に誘い出すしかない。

眉林は静かに決意を固める。

「私が囮になります。」

危険な賭けではあったが、真犯人へ近づくための最も確実な方法でもあった。

こうして慕容璟和と眉林は、命を懸けた新たな作戦へ踏み出していくのだった。

 

第7話 母が遺した想い

【第7話の見どころ】
眉林の機転によって皇后が慕容璟和へ遺した本当の想いが明らかになり、長年彼を縛ってきた心の傷が少しずつ癒えていく。一方、太子の陰謀はさらに深まり、殷落梅までもが新たな策略へ巻き込まれていく。


青州事件の真相を追うため、眉林は自ら危険な囮となる決意を固める。

敵をおびき寄せるため、彼女はあえて腕に残る傷跡を隠さず、人目につくように振る舞った。

狙い通り、教育係の嬷嬷はその傷を目にすると表情を変える。

探し続けていた人物が目の前に現れた――そう確信した嬷嬷は、何事もないよう装いながら眉林へ休息を命じた。

しかし裏では配下を呼び寄せ、冷たく命令する。

「始末しなさい。」

青州事件の秘密を知る者は、生かしてはおけなかったのである。


部屋へ戻った眉林は静かに耳を澄ませる。

幼い頃から暗廠で鍛えられた彼女の聴覚は、人の気配を敏感に察知していた。

外には確かに誰かがいる。

次の瞬間、姿を現したのは慕容璟和だった。

部屋の外にはすでに二人の下僕が気絶させられて倒れている。

彼は眉林を救うため、すでに手を打っていたのである。

さらに慕容璟和は思い切った行動へ出る。

皇后が遺した大切な屏風に、自ら刃を突き立てたのだ。

美しい刺繍は大きく裂け、周囲は騒然となる。

彼はすぐに嬷嬷を呼び出し、皇后の遺品を管理できなかった責任を厳しく問い詰める。

気絶していた下僕たちも目を覚ますが、景王の怒りを目の当たりにし、命惜しさから口裏を合わせた。

「野良猫が屏風を傷つけました。」

その証言によって嬷嬷は責任を逃れられなくなり、慕容璟和は「修復できる者が必要だ」として眉林を景王府へ連れて行くことを命じる。

堂々と眉林を保護するための巧妙な策だった。


一方で嬷嬷は追い詰められていた。

秘密を知る秀女たちを次々と消そうにも、すでに多くの娘たちの腕には火傷の痕が残っている。

これ以上犠牲者を増やせば、必ず誰かが不審に思う。

嬷嬷はその事情を太子・慕容玄烈へ報告する。

ところが太子は怒るどころか、大金を与えて労をねぎらった。

嬷嬷は命を助けられたと安堵する。

しかし、それは束の間の幻想だった。

役目を終えた彼女は、人知れず刺客によって始末されてしまう。

証拠を残さないためには、味方でさえ容赦なく切り捨てる。

それが慕容玄烈という男だった。

しかも彼は、その罪を慕容璟和へ着せようと密かに画策していた。


景王府では、眉林が傷ついた屏風の修復に取り掛かっていた。

誰よりも丁寧に一本一本の糸を縫い直していく。

皇后の形見であるこの屏風が、慕容璟和にとってどれほど大切なものなのかを彼女は理解していた。

その頃、越秦もまた眉林のために動いていた。

修復に役立つ書物を集め、少しでも力になろうと奔走する。

書墨はそんな主君を見ながら、休むことなく働き続ける姿を心配する。

しかし越秦は、自分よりも書墨の体調を気遣っていた。

書墨は微笑みながら答える。

「私は公子のお供です。」

「夜を徹してでも、お力になります。」

互いを思いやる主従の絆がそこにはあった。

一方の越秦は、眉林と同じ時間を過ごせること自体を、何より幸せに感じていた。


数か月にわたる修復作業の中で、眉林は刺繍の構図にある違和感を見つける。

糸の流れや模様には、単なる装飾ではない意味が隠されていた。

それは皇后が密かに遺した最後の言葉だったのである。

眉林は慕容璟和を呼び出し、鴻臚寺へ案内する。

そこで修復された屏風を前にしながら静かに語る。

「皇后様は、あなたへ伝えたいことを残していました。」

慕容璟和は刺繍に隠された文字を読み解き、息をのむ。

そこには、自分を責める言葉など一つもなかった。

『あなたを恨んではいません。』

『どうか自分を責めないで。』

それは母から息子へ贈る、最後の愛情だった。

十年間、自分が母に見放されたと思い込み続けてきた慕容璟和。

しかし真実は違っていた。

母は最期まで息子を信じ、愛し続けていたのである。

長年心を縛り続けた鎖が、ようやくほどけ始める。


その姿を見つめる眉林は優しく語りかける。

「亡くなった人は、決していなくなったわけではありません。」

「私も父や母が、今でも見守ってくれていると信じています。」

「皇后様も、きっとあなたのそばにいます。」

その言葉に慕容璟和は静かに目を閉じる。

初めて母と本当の意味で向き合えた瞬間だった。

さらに修復作業の途中、眉林は慕容璟和の衣服に施された刺繍を見つける。

その縫い方は皇后の技法そのものだった。

「王爺も刺繍ができるんですね。」

驚く眉林に、慕容璟和は照れたように視線をそらす。

幼い頃、母から教わった唯一の思い出だったのである。


その頃、越秦は都の様子に違和感を覚えていた。

街には普段以上に官兵が配置され、何かを探しているようだった。

しかし決定的な異変にはまだ気づけない。

一方、慕容璟和は母の遺した言葉を胸に刻みながらも、冷静さを失ってはいなかった。

太子が次の策を準備していることを確信していたのである。

眉林へも外出を控えるよう命じる。

だが眉林は首を振る。

「私は怖くありません。」

その返事に慕容璟和は珍しく感情をあらわにする。

「少しは自分の命を大事にしろ。」

その言葉には、彼自身も気づかぬうちに芽生えた眉林への強い思いがにじんでいた。


宮中では、皇帝が西焉に反乱の意思があるのかどうかを慎重に見極めようとしていた。

その問いに対し、太子・慕容玄烈は新たな策略を巡らせる。

狙うのは殷落梅だった。

彼は彼女へ近づき、わざと親密な態度を見せる。

しかし殷落梅は毅然と距離を保ち、その誘いを受け入れなかった。

すると慕容玄烈は話題を変え、慕容璟和から贈られた刀を見せながら密命を下す。

「西焉を密かに調べてほしい。」

その依頼には別の狙いがあった。

殷落梅へ景王への疑念を植え付け、二人の関係を引き裂こうとしていたのである。

実は慕容玄烈自身、殷落梅へ密かな想いを抱いていた。

だからこそ、彼女の心から景王の存在を消したかった。


一方、眉林は周囲の空気が妙に張り詰めていることを察する。

次の瞬間、目の前へ現れたのは殷落梅だった。

鋭い刃を向ける彼女は、眉林こそ西焉と通じる危険人物ではないかと疑っていた。

慕容玄烈の言葉によって、その疑念はさらに深まっていたのである。

今回の訪問は刺客としてではなく、真意を探るための試しでもあった。

その頃、異変を察知した越秦も急いで駆けつける。

しかし入口は固く閉ざされ、中へ入ることができない。

眉林を助けたい一心だったが、今は別の方法を探すしかなかった。


その一方で慕容璟和と清宴は、黒市で別行動を取っていた。

二人は首に刺青を持つ謎の人物の行方を追っていたのである。

聞き込みを進めるうち、黒市では最近、身元不明の男女二人を密かに国外へ逃がそうとしているという情報を掴む。

それは偶然とは思えない話だった。

青州事件の真犯人へつながる糸が、再び少しずつ動き始めていた。

 

第8話 上巳節に交わる運命

【第8話の見どころ】
黒市で追い続けてきた重要人物がついに姿を現し、張印を巡る包囲網も大きく動き始める。一方、上巳節の華やかな祭りの裏では、それぞれの想いと陰謀が交錯し、眉林と慕容璟和は新たな危機へ足を踏み入れる。


青州事件の真相を追い続ける慕容璟和は、黒市でついに有力な手掛かりを掴む。

長らく行方を追っていた謎の人物・美娘が、人目を避けながら路引(通行証)の売買を行っているという情報を得たのだ。

慕容璟和はすぐさま現場へ向かい、美娘と取引していた商人を捕らえて事情を問いただす。

しかし商人が知っていたのは、美娘が偽の路引を手に入れる独自のルートを持っているということだけだった。

肝心の素性や行方までは掴めず、捜査は再び暗礁へ乗り上げる。

美娘は青州事件を解く重要な鍵であることは間違いない。

慕容璟和は焦りを感じながらも、慎重に次の手を考え始める。

その時、清宴が慌てた様子で駆け込んできた。

「王爺、鴻臚寺で騒ぎが起きています。」

その報告を聞いた慕容璟和は、美娘の追跡を一旦中断し、急いで鴻臚寺へ向かうのだった。


鴻臚寺では、眉林と殷落梅が激しく剣を交えていた。

殷落梅は鋭い眼差しで問い詰める。

「なぜ西焉の美人として宮中へ入り込んだ?」

眉林は隠そうとしない。

「私は復讐のために来ました。」

その真っ直ぐな答えに、殷落梅はさらに疑念を深める。

その場へ越秦も駆けつけ、表向きは事件の調査に協力すると申し出る。

しかし彼の本当の目的は、眉林を危険から救い出すことだった。

殷落梅は一通り調べを終えたと告げ、眉林を静かに見つめる。

「あなたは西焉の間者ではない。」

「それよりも……青州の生き残りに見える。」

しかし同時に、彼女ほどの武芸を持つ女性が普通の民間人とは思えなかった。

眉林の正体をさらに詳しく調べる必要がある――殷落梅はそう判断する。


実は、そのやり取りを慕容璟和は物陰からすべて聞いていた。

殷落梅の言葉を聞き終えた彼は、太子側の狙いを瞬時に見抜く。

ここ数日、東宮が静かなのは偶然ではない。

殷落梅の正義感を利用し、自分を追い詰めようとしているのだ。

しかし慕容璟和は冷静だった。

眉林の身元に不自然な点はなく、今もっとも重要なのは張印を捕らえること。

余計な疑いに振り回されている暇はなかった。


一方、清宴はある疑問を抱いていた。

以前、慕容璟和はなぜ書墨をあえて逃がしたのか。

その問いに慕容璟和は答える。

越秦は皇帝とも親しい間柄であり、西焉が無謀な謀反を企てるとは考えにくい。

それよりも、書墨の行動を監視すれば、張印や黒市との繋がりが見えてくる。

敵を捕らえるより、泳がせる方が大きな獲物を得られる。

それが慕容璟和の狙いだった。

さらに彼は、鴻臚寺そのものへ滞在することを決める。

周囲には太子の間者が数多く潜んでいる。

自ら堂々と住み込めば、張印を狙う者たちも自由には動けなくなると考えたのである。


越秦はようやく眉林が自由になれると思い、彼女へ帰るよう勧める。

しかし眉林は静かに首を振る。

「まだ終わっていません。」

復讐も真相究明も何一つ終わっていない。

そう話そうとしたところへ、子顧公主が現れる。

束の間の穏やかな時間の中、越秦は酒を口にする眉林の横顔に思わず見惚れてしまう。

その様子を見ていた子顧は微笑みながら言う。

「私も眉林も、籠の中の鳥ね。」

そして兄の気持ちを代弁するように続ける。

「兄上は、この世で一番優しい人よ。」

「だからあなたには兄上のそばにいてほしい。」

眉林は何かを答えようとする。

しかし、その瞬間、書墨が現れ、子顧を迎えに来る。

言葉は最後まで交わされないまま、その場は終わってしまう。


その後、子顧は越秦へ詰め寄る。

「どうして気持ちを伝えないの?」

「このままじゃ、きっと後悔する。」

しかし越秦は苦く笑うだけだった。

想いを伝えることよりも、まずは眉林を守ることが先だと考えていたのである。

一方の書墨は、張印を国外へ逃がした後、同じ方法で眉林も安全な場所へ送り出そうと考えていた。

越秦もその案に賛成するが、書墨は静かに言う。

「すべては上巳節の日に決まります。」

その日こそが運命の分かれ道になると確信していた。


そんな中、慕容璟和は予定通り鴻臚寺へ住み込む。

眉林はその姿を見るなり、新たな手掛かりを掴んだのだと察する。

慕容璟和もまた、殷落梅が太子に利用されていることには気づいていた。

だが彼女自身が眉林を傷つけることはないと信じていたため、大きく心配はしていない。

その夜、同じ部屋で休むことになった二人。

眉林は何のためらいもなく寝台へ横になる。

慕容璟和は狭い寝台で押しつぶされそうになり、不満そうな表情を浮かべる。

「眠れない。」

そう文句を言う彼に対し、眉林は迷いなく首筋へ軽く一撃を加えた。

慕容璟和はその場で気を失ってしまう。

あまりにも豪快な眠らせ方に、思わず笑ってしまうような一幕だった。


その頃、書墨は密かに黒市へ伝令を送る。

しかし、その行動は清宴に見抜かれていた。

翌朝、目を覚ました慕容璟和は昨夜のことを思い出し、不機嫌そのもの。

「よくも私を気絶させたな。」

怒る彼だったが、その直後、異変に気づく。

眉林は料理を口にしても何の反応も示さない。

「味が分からないのか?」

毒の後遺症により、彼女は味覚を失い始めていたのである。

残された時間が確実に減っている現実を突きつけられ、慕容璟和の表情は険しくなる。


一方、清宴は書墨の尾行によって重要な情報を掴む。

張印は上巳節の日に密会する約束をしていた。

ついに張印を捕らえる絶好の機会が訪れる。

慕容璟和は眉林へ告げる。

「上巳節になれば、お前も外へ出られる。」

その一言に、眉林は久しぶりに明るい笑顔を見せる。


宮中では、子顧公主が妃としての礼儀作法を学ばされていた。

退屈そうに稽古を抜け出そうとする彼女だったが、実は皇帝が陰から様子を見守っていた。

子顧は皇帝の底知れなさに恐れを抱く。

しかし皇帝は何も言わず、静かにその場を後にするだけだった。

一方、殷落梅は叔母から太子・慕容玄烈との縁談を勧められ、大きな戸惑いを覚える。

そんな中、慕容玄烈本人が現れ、上巳節の火龍を一緒に見に行こうと誘う。

「大炎の将兵たちのために祈りたい。」

その言葉を聞いた殷落梅は断り切れず、同行を承諾する。


華やかな上巳節当日。

都は祭り一色に染まり、人々は火龍の巡行を楽しんでいた。

慕容璟和も眉林を連れて祭りへ繰り出す。

その一方で、清宴は書墨の尾行を続け、ついに張印へ繋がる動きを察知する。

急ぎ慕容璟和へ知らせると、彼は祭りの途中で現場へ駆け出した。

同じ頃、慕容玄烈は殷落梅と並んで火龍を眺めていた。

「十三年待って、ようやく君とこうして歩けた。」

その言葉には長年秘めてきた想いが込められていた。

しかし途中で慕容璟和と鉢合わせになる。

気まずい空気に耐えきれなくなった殷落梅は、一人その場を離れてしまう。

慕容璟和はその場で、張印が口封じのために消されようとしていることを察知する。

一刻の猶予もない。

彼は急いで密会場所へ向かう。

その頃、書墨は約束の場所で張印を待っていた。

しかし、いつまで経っても張印は姿を現さない。

不安を覚えた書墨は慌てて二階へ駆け上がる。

その後ろを、誰にも気づかれぬよう越秦が追っていた。

そして二階にいた眉林は、その一部始終を目撃する。

越秦までもが、この危険な事件へ足を踏み入れていたのだった。

 

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