長安のライチ 2025年 全35話 原題:长安的荔枝
目次
第9話 鄭平安、父の仇を追う決意――李善徳との奇妙な共闘が始まる
かつて名門・鄭家の一員だった鄭平安は、家が没落した後、生きていくために様々な苦労を重ねてきた。かつての誇りを捨て、宴席で客を楽しませる舞を覚え、権力者に気に入られるための世渡り術まで身につけたのだ。
そんな彼の姿を見た十七娘は、鄭平安が自分の境遇を受け入れられず苦しんでいることを察し、一つの仮面を贈る。
「人前では別の顔を見せればいい」
その言葉をきっかけに、鄭平安は現実と向き合い、自分の置かれた立場を受け入れるようになっていく。
一方、空浪先生は鄭平安が右相の使者から奪った密書を確認し、驚きを隠せなかった。
なんとその密書は、かつて宋無忌が命懸けで右相から手に入れたものと同じ内容だったのだ。
鄭平安は単に投誠書を手に入れただけではなく、思いがけず大きな証拠まで掴んでいた。
これまで鄭平安を軽く見ていた空浪先生だったが、その実力を認めざるを得なくなる。
しかし、何有光が兵魚符を手に入れたことで、状況はさらに悪化していた。
空浪先生は鄭平安に父親の死の真相を語る。
彼女が真実を明かしたのは、鄭平安に絶望させるためではない。
権力者たちに利用され続けるだけの人生から抜け出し、自分自身の道を選ばせるためだった。
そして同時に、空浪先生は鄭平安を自分の仲間として引き入れたいとも考えていた。
父の無念を晴らすため、岭南に残ることを決意した鄭平安。
そんな彼に、空浪先生は一通の密書を渡す。
そこに書かれていたのは「騎鯨楼」という謎の存在だった。
騎鯨楼とは、海上を航行する巨大な船。
十年前、胡商行首だった阿妮塔の父・海虎は、この船によって莫大な利益を得ていた。
多くの官員たちもその利益に関わり、毎年大きな収入を得ていたという。
しかし、ある日突然、騎鯨楼で大火災が発生する。
海虎は消息不明となり、多くの関係者が失脚した。
その混乱の中で、海虎の側近だった何有光だけが急速に力を伸ばしていく。
彼は官府と手を結び、ついには岭南刺史の地位にまで上り詰めた。
鄭平安は、この火災こそ何有光が仕組んだ陰謀ではないかと疑う。
確かな証拠はまだない。
しかし、祖父と姉のためにも、必ず真相を突き止めると決意するのだった。
その夜、鄭平安が宿へ戻ると、宿屋の主人から帳簿を渡される。
確認すると、そこには李善徳の未払い金まで残っていた。
仕方なく鄭平安は立て替えるが、その後すぐに李善徳へ返済を求める。
その機会を利用し、李善徳は以前から気になっていた疑問をぶつける。
「なぜ馬帰雲という偽名を使って岭南に残っているのか」
長い間問い続けてきた李善徳に対し、鄭平安はついに本当の目的を明かす。
自分は左相から送り込まれた密偵であり、右相を倒すための証拠を集めているのだと。
しかし李善徳は思わず笑ってしまう。
あまりにも危険な任務を背負っている鄭平安の姿が、自分と重なったからだ。
鄭平安も負けじと言い返す。
「そんな性格で、よく荔枝使になれたものだ」
互いに無謀とも言える使命を背負う二人。
だが、どちらも簡単には諦めない。
最後には、必ず長安へ帰ろうと励まし合うのだった。
翌日、李善徳のもとへ駅馬から手紙が届く。
待ち望んでいたその手紙の中には、娘・袖児が刺繍した胡餅が入っていた。
娘の小さな贈り物を手にした李善徳は、涙を流す。
遠く離れた袖児への想いは、ますます強くなるのだった。
その頃、阿僮も新鮮な荔枝を持って宿へやって来る。
これほど美味しい荔枝を皇帝が味わえないことを、阿僮は惜しむ。
二人は改めて荔枝の輸送方法について話し合い、さらに時間短縮のため良馬を購入することを決める。
しかし市場へ向かうと、馬の値段は想像以上に高騰していた。
李善徳は別の方法を探すことにする。
一方、何有光は夏の暑さの中で昼寝をしていたが、楊校尉からの報告で目を覚ます。
「馬帰雲が長安へ戻っていない」
その知らせを聞いた何有光は、鄭平安に別の目的があるのではないかと疑い始める。
そこで彼は鄭平安を宴席へ招く。
宴では、何有光と趙辛民が酒を勧めながら、巧みに鄭平安の本心を探ろうとする。
「投誠書を手に入れたのに、なぜまだ岭南にいるのか」
その問いに、鄭平安は警戒しながら答える。
今回の滞在は右相の命令であり、自分も困っているだけだと。
さらに、何有光が用意した荔枝酒を飲むと、次第に酔ったふりを始める。
「兄上、兄上」
と何有光に甘えるような態度を見せ、金銭的に苦しいことを匂わせる。
何有光の懐に寄りかかるほど親密な姿を演じ、相手の警戒心を解いていく。
その演技によって、何有光は鄭平安を完全に味方につけようと考える。
そして宴の席で宣言する。
「岭南で必要な費用は、すべて私が面倒を見よう」
鄭平安は何有光の懐へ入り込むことに成功するのだった。
第10話 李善徳、荔枝運搬への最後の切り札――鄭平安との絆と阿僮への想い
趙辛民は、刺史府の権力を利用して街で金品を集め、私腹を肥やしていた。
何有光の側近として気に入られるため、彼は何としても機嫌を取ろうと考え、甥に珍しい「鶏宝(けいほう)」を探させる。鶏宝とは、何有光が愛してやまない闘鶏に関わる貴重な品であり、趙辛民はこれを献上することでさらに信頼を得ようとしていた。
そんな中、岭南ではネズミによる被害が広がり始める。趙辛民は以前残っていた公金を使って駆除しようとするが、なんとその資金は甥によって横領されていた。
困った甥は、毒入りのネズミ薬を混ぜた餌を作り、これで一気に問題を解決しようと企む。
しかし、この小さな悪事が後に大きな騒動を引き起こすことになる。
一方、何有光と鄭平安は酒を酌み交わし、互いに酔いつぶれるまで飲み続けていた。
何有光はすっかり鄭平安を気に入り、別れを惜しむほど親密な関係を築いているように見えた。
しかし実は、鄭平安は最初の一口を飲んだ時点で酒に仕掛けがあることを察していた。
長年、宴席で権力者に仕えてきた陪酒侍郎としての経験が、彼を救ったのだった。
その夜、激しい雷雨の中、酔った何有光は屋根に上って騒ぎ出す。
屋敷の者たちは落下を恐れ、必死になって彼を支えるが、本人はそんな状況も気にせず酒に酔い続けるのだった。
その頃、李善徳は袖児から届いた手作りの胡餅を鄭平安に見せる。
娘からの贈り物を大切にする李善徳の姿を見た鄭平安は、羨ましさを隠せない。
そして彼は李善徳のために食事を用意し、夜通し荔枝の輸送計画を考え続ける姿を見て、力になろうと申し出る。
しかし、必要な費用を聞いた瞬間、その金額の大きさに驚き、思わず理由をつけてその場を離れてしまう。
自分自身も危険な任務を抱える鄭平安にとって、李善徳を助けたい気持ちはあっても、簡単に資金を出せる状況ではなかった。
翌日、胡商の蘇諒が果園を訪れる。
李善徳は試験中の荔枝を蘇諒に食べてもらうが、その酸っぱさに蘇諒は顔をしかめるほどだった。
「貴妃は妊娠しているから、この酸っぱい荔枝を好むのではないか」
蘇諒は冗談を交えながら笑う。
すでに二人の間には、商人と官吏という関係を超えた友情が生まれていた。
李善徳は、荔枝を長安へ運ぶために必要な良馬や輸送経路について相談する。
しかし蘇諒は、経験豊富な商人として現実を突きつける。
良馬を揃えるだけでも莫大な費用がかかり、さらに道中の人員や設備にも金が必要になる。
李善徳が持っている資金は、以前購入した符諜の代金程度しかない。
それでも諦めない李善徳の姿を見た蘇諒は、彼に「考えている策を話してみろ」と促す。
すると阿僮は、李善徳がこれまでの役人とは違うことを語る。
過去の役人たちは果農を見下していたが、李善徳だけは彼らを家族のように扱った。
その言葉を聞いた蘇諒は、李善徳の本気を信じる。
そして、荔枝輸送への協力を決意する。
ただし条件として、李善徳に四枚の符諜を用意するよう求めるのだった。
午後、李善徳は「荔枝使」の札を掲げ、刺史府へ向かう。
しかし何有光も趙辛民も不在だったため、仕方なく向かいの茶楼で二人の帰りを待つことにする。
店主は、何も注文しない李善徳のために、外へ小さな腰掛けを用意する。
その姿は、周囲から見ても執念そのものだった。
一方、趙辛民は大量の鶏宝を手に入れ、何有光へ献上する。
何有光は大喜びし、愛する鶏たちに餌を与えようとする。
しかし、その餌こそ、朝に甥が毒鼠薬を混ぜた飯だった。
趙辛民はそれに気づき、必死になって取り戻そうとするが、時すでに遅かった。
何有光はすべての鶏宝に餌を与えてしまう。
やがて鶏たちは次々と倒れ、何有光の怒りは爆発する。
李善徳は刺史府の外から、趙辛民が使用人を叩きつける声を聞く。
鶏宝を失った怒りを、何の罪もない者へぶつけていたのだ。
李善徳は趙辛民に、荔枝輸送のため追加で四枚の符諜が必要だと訴える。
しかし趙辛民は相手にしない。
すると李善徳は刀を取り出し、
「殺されるならそれでもいい。だが、皇帝の命を果たせず首を落とされるよりはましだ」
と覚悟を示す。
その迫力に押された趙辛民は、独断では決められず、何有光へ相談する。
何有光は鶏のことで頭がいっぱいだったため、最終的な判断を趙辛民に任せる。
その結果、趙辛民は李善徳へ四枚の符諜を渡す。
さらに、罰として殴られていた奴隷も彼に譲ることになる。
李善徳はその奴隷に「阿力」という名を与え、一緒に帰ることにする。
帰り道、阿力の視線が屋台の食べ物に向いていることに気づいた李善徳は、彼を食事へ誘う。
しかし阿力は自分の身分をわきまえ、同じ席につくことを拒み、地面に座って食べようとする。
李善徳はそんな姿を見て、新しい服を買い与える。
戻ってきた時には、阿力は用意された食事をすべて食べ終えていた。
李善徳は手に入れた符諜を蘇諒へ渡す。
約束通り、蘇諒は資金援助を行い、取り決めた金額を一切減らすことなく支払う。
これで李善徳は、荔枝を長安へ届けるための大きな一歩を踏み出すことになる。
その後、李善徳は阿僮へ感謝の気持ちを伝える。
百斤もの荔枝を贈り、さらに布を二反用意する。
そして、以前何も知らずに阿僮と「同心酒」を飲んでしまったことを謝罪する。
「地方の風習を知らず、失礼なことをしてしまった」
そう語りながら、阿僮の美しさを称え、きっと素晴らしい相手に出会えると励ます李善徳。
しかし、その言葉を聞いた阿僮の胸には、複雑な想いが残るのだった。
第11話 鄭平安、阿妮塔への接近作戦――李善徳を救う新たな策が動き出す
十二年前、趙辛民は故郷の縁を頼り、岭南へやって来た。
彼が訪ねたのは、同郷の老汪という人物だった。
当時、老汪のもとには仕事や助けを求める人々が大勢集まり、皆が順番を待っていた。そんな中、趙辛民がまだ中へ入る前、一人の人物が追い返される場面に遭遇する。
周囲の者たちは老汪に贈り物を渡して取り入ろうとするが、老汪はそれを厳しく叱責する。
そんな中、趙辛民だけは賄賂ではなく、自ら書いた文章を差し出した。
その才能を認めた老汪は、彼の文章を絶賛する。
さらに、ある学生が老汪の過去の作品を探し出して持参すると、老汪は大いに喜び、趙辛民はその作品を丁寧に飾り付ける。
しかし、その直後、官府の捜索が入る。
実は清廉な人物と思われていた老汪は、裏では絵画を横流しし、利益を得ていたのだった。
老汪は官府に連行され、頼る者もいない趙辛民は、突然行き場を失ってしまう。
現在、何有光は屋敷内で発生したネズミ被害に激怒していた。
屋敷中をネズミが走り回っているにもかかわらず、誰も気づかなかったことに怒り、使用人たちを厳しく責め立てる。
さらに林邑奴を呼んで調査させようとするが、趙辛民は言葉に詰まる。
実は林邑奴は李善徳と共に荔枝の準備へ向かっていたのだ。
そこへ阿妮塔が何有光を訪ねてくる。
彼女は怒りを鎮めるよう促しながら、蘇諒がずっと李善徳の荔枝実験を手伝っていることを話す。
蘇諒は人を見る目が確かであり、彼が李善徳についているなら、何か大きな利益があるのかもしれない。
阿妮塔自身も李善徳への投資を考えていると話す。
しかし何有光は、その考えを一蹴する。
彼は絶対に荔枝を岭南から運び出させるつもりはなかった。
なぜなら、皇帝が一度でも荔枝の味を知れば、必ず岭南へ強い関心を向けるようになる。
そうなれば、何有光がこの地で築こうとしている独自の権力体制が崩れてしまうからだった。
阿妮塔はそこまで考えていなかったため、投資の話を取り下げる。
一方、空浪先生は鄭平安に新たな指示を出す。
十年前の騎鯨楼火災で、何有光は最大の利益を得た人物だった。
そして現在、その何有光と最も近しい存在が阿妮塔である。
彼女なら、父・海虎の死につながる秘密を知っている可能性が高い。
空浪先生は鄭平安に、ある噂を流すよう命じる。
「何有光こそ、阿妮塔の父を殺した仇である」
そう信じ込ませ、阿妮塔を何有光から引き離す狙いだった。
ただし、突然そんな話をすれば怪しまれる。
そこで空浪先生は、鄭平安が男女関係を利用して阿妮塔へ近づくよう提案する。
鄭平安はその役目を快く引き受ける。
鄭平安は狗児を連れて街へ出る。
彼は狗児に新しい靴を買い与え、食事をしながら阿妮塔への接近方法を考える。
頭の中では、英雄のように女性を助け、そこから恋へ発展するという筋書きを描いていた。
そんな鄭平安の妄想を見ながら、狗児はただ黙って頷くしかなかった。
その頃、何有光は阿妮塔と海辺で馬を楽しんでいた。
そこへ鄭平安が現れる。
彼は「馬を選びに来た」と装い、二人へ近づく。
そして自慢の馬術を披露し、さらにこれまで宴席で培ってきた女性を褒める言葉を惜しみなく使い、阿妮塔へ接近する。
まるで以前から知り合いだったかのように振る舞い、食事へ誘うのだった。
一方、李善徳は蘇諒と馬の調達について相談していた。
蘇諒は、阿妮塔がすでに市場の良馬を買い占めていることを伝える。
それは李善徳の荔枝輸送を妨害するためだった。
李善徳は直接阿妮塔と話すことを決意する。
蘇諒は、交渉では最初に大きな要求を出すべきだと助言する。
多少値切られても、必要な分を確保できるからだ。
こうして李善徳は阿妮塔のもとへ向かい、百頭以上の馬を求める。
阿妮塔は驚きながらも、李善徳が考えた輸送ルートを確認する。
彼が示した四つの経路を見るだけで、本当に必要な馬の数を正確に見抜く阿妮塔。
李善徳は、彼女との交渉で減らされる分まで計算していたことを正直に認める。
その誠実さに、阿妮塔は少し心を開く。
阿妮塔は、自分にも譲れない事情があることを話す。
彼女には「借金を返さない者には必ず報いを受けさせ、敵には必ず復讐する」という信念があった。
果農たちが花が散るまでに借金を返せなければ、手を切り落とすつもりだという。
それを聞いた李善徳は、長安で花を扱っていた経験を生かし、ある提案をする。
枯れかけた花を再び咲かせ、長く花を保たせることができれば、果農たちに時間を与えられる。
その言葉を聞き、阿妮塔は李善徳を見る目を変える。
義父・何有光が語っていた「狡猾な役人」とは違い、彼は真っ直ぐで誠実な人物だと感じ始める。
しかし、義父への恩もあり、完全に味方になることはできなかった。
その夜、鄭平安は李善徳が馬の問題で悩み、花をいじりながら考え込んでいる姿を見る。
事情を聞いた鄭平安は、自分の任務を明かす。
阿妮塔に近づき、数日以内に彼女から百頭の馬を出させてみせるというのだ。
しかし李善徳は、半信半疑の表情を浮かべる。
翌日、阿妮塔は鄭平安が開いた宴席へ姿を現す。
鄭平安は巧みに話題を馬へ向ける。
「自分も李善徳と同じ長安の人間だが、使命は別だ」
そう前置きした上で、阿妮塔に馬を譲るよう頼む。
さらに、李善徳が岭南の帳簿を細かく調べていることを伝える。
李善徳は算科出身であり、単なる荔枝輸送ではなく、帳簿から大きな秘密を見つける可能性がある。
「小さな問題を見落とせば、大きな災いになる」
そう警告する鄭平安。
さらに阿妮塔が宴席を好まないことを知っていた彼は、先に料理を用意し、自分は席を外すという態度を取る。
強引に迫るのではなく、あえて距離を置く「引く作戦」。
その巧みな駆け引きによって、阿妮塔の心には初めて迷いが生まれるのだった。
第11話 鄭平安、阿妮塔への接近作戦――李善徳を救う新たな策が動き出す
十二年前、趙辛民は故郷の縁を頼り、岭南へやって来た。
彼が訪ねたのは、同郷の老汪という人物だった。
当時、老汪のもとには仕事や助けを求める人々が大勢集まり、皆が順番を待っていた。そんな中、趙辛民がまだ中へ入る前、一人の人物が追い返される場面に遭遇する。
周囲の者たちは老汪に贈り物を渡して取り入ろうとするが、老汪はそれを厳しく叱責する。
そんな中、趙辛民だけは賄賂ではなく、自ら書いた文章を差し出した。
その才能を認めた老汪は、彼の文章を絶賛する。
さらに、ある学生が老汪の過去の作品を探し出して持参すると、老汪は大いに喜び、趙辛民はその作品を丁寧に飾り付ける。
しかし、その直後、官府の捜索が入る。
実は清廉な人物と思われていた老汪は、裏では絵画を横流しし、利益を得ていたのだった。
老汪は官府に連行され、頼る者もいない趙辛民は、突然行き場を失ってしまう。
現在、何有光は屋敷内で発生したネズミ被害に激怒していた。
屋敷中をネズミが走り回っているにもかかわらず、誰も気づかなかったことに怒り、使用人たちを厳しく責め立てる。
さらに林邑奴を呼んで調査させようとするが、趙辛民は言葉に詰まる。
実は林邑奴は李善徳と共に荔枝の準備へ向かっていたのだ。
そこへ阿妮塔が何有光を訪ねてくる。
彼女は怒りを鎮めるよう促しながら、蘇諒がずっと李善徳の荔枝実験を手伝っていることを話す。
蘇諒は人を見る目が確かであり、彼が李善徳についているなら、何か大きな利益があるのかもしれない。
阿妮塔自身も李善徳への投資を考えていると話す。
しかし何有光は、その考えを一蹴する。
彼は絶対に荔枝を岭南から運び出させるつもりはなかった。
なぜなら、皇帝が一度でも荔枝の味を知れば、必ず岭南へ強い関心を向けるようになる。
そうなれば、何有光がこの地で築こうとしている独自の権力体制が崩れてしまうからだった。
阿妮塔はそこまで考えていなかったため、投資の話を取り下げる。
一方、空浪先生は鄭平安に新たな指示を出す。
十年前の騎鯨楼火災で、何有光は最大の利益を得た人物だった。
そして現在、その何有光と最も近しい存在が阿妮塔である。
彼女なら、父・海虎の死につながる秘密を知っている可能性が高い。
空浪先生は鄭平安に、ある噂を流すよう命じる。
「何有光こそ、阿妮塔の父を殺した仇である」
そう信じ込ませ、阿妮塔を何有光から引き離す狙いだった。
ただし、突然そんな話をすれば怪しまれる。
そこで空浪先生は、鄭平安が男女関係を利用して阿妮塔へ近づくよう提案する。
鄭平安はその役目を快く引き受ける。
鄭平安は狗児を連れて街へ出る。
彼は狗児に新しい靴を買い与え、食事をしながら阿妮塔への接近方法を考える。
頭の中では、英雄のように女性を助け、そこから恋へ発展するという筋書きを描いていた。
そんな鄭平安の妄想を見ながら、狗児はただ黙って頷くしかなかった。
その頃、何有光は阿妮塔と海辺で馬を楽しんでいた。
そこへ鄭平安が現れる。
彼は「馬を選びに来た」と装い、二人へ近づく。
そして自慢の馬術を披露し、さらにこれまで宴席で培ってきた女性を褒める言葉を惜しみなく使い、阿妮塔へ接近する。
まるで以前から知り合いだったかのように振る舞い、食事へ誘うのだった。
一方、李善徳は蘇諒と馬の調達について相談していた。
蘇諒は、阿妮塔がすでに市場の良馬を買い占めていることを伝える。
それは李善徳の荔枝輸送を妨害するためだった。
李善徳は直接阿妮塔と話すことを決意する。
蘇諒は、交渉では最初に大きな要求を出すべきだと助言する。
多少値切られても、必要な分を確保できるからだ。
こうして李善徳は阿妮塔のもとへ向かい、百頭以上の馬を求める。
阿妮塔は驚きながらも、李善徳が考えた輸送ルートを確認する。
彼が示した四つの経路を見るだけで、本当に必要な馬の数を正確に見抜く阿妮塔。
李善徳は、彼女との交渉で減らされる分まで計算していたことを正直に認める。
その誠実さに、阿妮塔は少し心を開く。
阿妮塔は、自分にも譲れない事情があることを話す。
彼女には「借金を返さない者には必ず報いを受けさせ、敵には必ず復讐する」という信念があった。
果農たちが花が散るまでに借金を返せなければ、手を切り落とすつもりだという。
それを聞いた李善徳は、長安で花を扱っていた経験を生かし、ある提案をする。
枯れかけた花を再び咲かせ、長く花を保たせることができれば、果農たちに時間を与えられる。
その言葉を聞き、阿妮塔は李善徳を見る目を変える。
義父・何有光が語っていた「狡猾な役人」とは違い、彼は真っ直ぐで誠実な人物だと感じ始める。
しかし、義父への恩もあり、完全に味方になることはできなかった。
その夜、鄭平安は李善徳が馬の問題で悩み、花をいじりながら考え込んでいる姿を見る。
事情を聞いた鄭平安は、自分の任務を明かす。
阿妮塔に近づき、数日以内に彼女から百頭の馬を出させてみせるというのだ。
しかし李善徳は、半信半疑の表情を浮かべる。
翌日、阿妮塔は鄭平安が開いた宴席へ姿を現す。
鄭平安は巧みに話題を馬へ向ける。
「自分も李善徳と同じ長安の人間だが、使命は別だ」
そう前置きした上で、阿妮塔に馬を譲るよう頼む。
さらに、李善徳が岭南の帳簿を細かく調べていることを伝える。
李善徳は算科出身であり、単なる荔枝輸送ではなく、帳簿から大きな秘密を見つける可能性がある。
「小さな問題を見落とせば、大きな災いになる」
そう警告する鄭平安。
さらに阿妮塔が宴席を好まないことを知っていた彼は、先に料理を用意し、自分は席を外すという態度を取る。
強引に迫るのではなく、あえて距離を置く「引く作戦」。
その巧みな駆け引きによって、阿妮塔の心には初めて迷いが生まれるのだった。
承知しました。第12話を、これまでと同じ形式(約1500文字・日本語・公式サイト風・ネタバレあり)でまとめます。
第12話 李善徳、荔枝輸送への道を切り開く――逃亡兵との出会いが新たな希望に
李善徳が荔枝を長安へ届けるためには、何よりも輸送手段の確保が必要だった。しかし、阿妮塔が大量の馬を買い占めていることで、必要な数の駿馬を手に入れることができずにいた。
そんな中、阿妮塔は李善徳が密かに岭南の財政状況を計算していることを何有光へ報告する。
何有光は、李善徳に馬を渡すつもりはなかった。だが、もし彼が本当に何かを掴んでいるなら、追い詰められた李善徳が自分を道連れにする可能性もある。
「渡さないのも疑われる。しかし、渡せばこちらが怯えているように見える」
悩む何有光に対し、趙辛民は一部だけ譲ることで体裁を保つ案を提案する。
その結果、李善徳のもとへ届けられたのは、わずか二頭の荒馬だった。
「調教できれば、一頭で百頭分の働きをする」
そう言われた李善徳は、仕方なくその二頭を受け取る。
しかし果園に連れて帰ると、誰もその気性の荒さを抑えることができない。
そこへ現れたのが闫雅庄だった。
彼は迷うことなく馬へ飛び乗り、巧みな技術で暴れる馬を次第に従わせていく。どれほど荒々しかった馬も、やがて闫雅庄の指示に従うようになった。
李善徳は大喜びし、彼を正式な騎手として迎えようとする。
しかし闫雅庄は、すぐには承諾しなかった。
実は彼には、人には言えない秘密があった。
闫雅庄は過去に軍を逃げ出した「逃兵」だったのだ。
阿僮は李善徳にその事情を打ち明ける。果園を救い、果農たちを守ってくれた李善徳のことを、闫雅庄も本当は恩人だと思っている。しかし、身分が明らかになれば捕らえられる恐れがあり、岭南から離れることができないのだという。
一方、胡商たちの間でも大きな変化が起きていた。
苏谅は哈迪に対し、阿妮塔が何有光との関係を利用して商人たちの利益を独占している現状を語る。
もし今後さらに要求を強めれば、胡商たちはただ搾取され続けるだけになる。
そこで苏谅は、李善徳の荔枝輸送に協力すれば、途中の交易にも大きな商機が生まれると説得する。
その言葉に、哈迪も次第に心を動かされていく。
李善徳は輸送方法について悩み続けていた。
そんな彼に苏谅は、駿馬が足りないなら驢馬を使えないか、途中で馬を何度も交換できないかと提案する。
その一言が、李善徳に新たな発想を与える。
彼はすぐに地図を広げ、輸送経路の研究を開始する。
翌日、果園で距離を測りながら計算する李善徳。
果農たちは何をしているのか理解できなかったが、闫雅庄だけは彼の考えを理解していた。
岭南の地理に詳しい闫雅庄は、阿僮の説得もあり、李善徳と共に輸送ルート作りに協力するようになる。
二人は何日もかけて道の距離や休憩地点を計算し、荔枝を長安へ届けるための現実的な方法を探していく。
その頃、鄭平安は阿妮塔への接近を続けていた。
空浪先生から命じられた任務は、阿妮塔を味方につけ、何有光の秘密を探ること。
しかし、阿妮塔への接近を狙っていたのは鄭平安だけではなかった。
哈迪もまた彼女へ想いを寄せており、二人は酒の席で競い合うことになる。
鄭平安は巧みな話術で哈迪を誘導する。
「阿妮塔には近いうちに大きな後ろ盾ができる」
「大量の海上交易品を仕入れる準備も進んでいる」
まるで重要な情報を漏らしたかのように話す鄭平安。
それを信じた哈迪は、阿妮塔と何有光が海上交易を独占しようとしていることに危機感を抱く。
そして、自分たちの利益を守るため、苏谅へ協力する道を選ぶのだった。
李善徳は、身分の低い奴隷だった阿力にも分け隔てなく接していた。
ある日、阿力の足が傷ついていることに気づいた李善徳は、薬草を探して手当てをする。
さらに温かい酒まで渡し、体を気遣う。
これまで誰かに大切にされた経験のなかった阿力は、初めて人として扱われたことに胸を打たれる。
そして闫雅庄は、ついに自らの過去を李善徳へ語る。
かつて海上警備をしていた彼は、盗賊に襲われた船を守ろうと戦った。しかし援軍によって状況が逆転し、仲間たちは命を守るため船を離れるしかなかった。
後に戻って事情を説明しようとした仲間たちは軍法で処罰され、残された者たちは逃亡兵として身を隠すことになった。
闫雅庄は、自分たちを救ってくれるなら、命を懸けて荔枝輸送を成功させると誓う。
李善徳は彼の覚悟に胸を打たれ、深く頭を下げる。
「必ず方法を探します」
そう約束するのだった。
その夜、李善徳は闫雅庄の件を鄭平安へ相談する。
複雑な問題ではあるが、彼を得れば荔枝輸送に大きな力となる。
鄭平安は何有光の反応を見るため、まずは探りを入れることを決める。
そんな中、苏谅が興奮した様子で李善徳のもとへ駆け込んでくる。
「馬は用意できた」
残る問題は、馬を操る騎手だけ。
苏谅は、自分の力を尽くして必ず騎手を集めると約束する。
荔枝を長安へ届けるための道は、少しずつ開かれ始めていた。
長安のライチ 13話・14話・15話・16話 あらすじ



















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